特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第99話:ある勇者の話

「――ああ、そういえば、全然枠の違う話思い出したんですけど。」

 

「んー?」

 

 それ以外のいくつかの議題について語り終えた後、ふと思いついたようにゆかりが告げました。

 

「いつだか、灯たちに罵倒してきた男覚えています?」

 

「……あーあれか、魔物保護の……」

 

「あーいたなぁ。」

 

「ロンリーウルフでしたっけ?ローンウルフでしたっけ?まあ、どっちかだった彼でしょう?」

 

「ですです、その御仁、いま勇者になっていますよ。」

 

「――ほう?」

 

 ゆかりの指がキーボードを叩くと、空中に展開されたホログラムモニターに、見覚えのある男の顔が映し出されました。

 

 間違いない。かつて公園で灯たちに突撃し、七星と天塚の雑技団まがいの曲芸で追い払われた迷惑系配信者です。

 

 だが、画面の中の彼は、以前のような薄汚れたジャージ姿ではありません。どこぞの高級ブランドで誂えたような純白のスーツに身を包み、自信に満ちた――いや、傲慢なほどの笑みを浮かべて、カメラに向かって熱弁を振るっていました。

 

「今日付のヒーロー管理委員会のデータベースに、新規の『勇者』として正式登録されています。二つ名は『真理』の勇者。加護の詳細は非公開ですが……昨晩、都内で発生したオークの群れを単独で殲滅する動画が拡散されまして。現在、SNSのトレンドを独占中ですよ」

 

 ゆかりの言葉に、扇と七星が訝しげに顔を見合わせます。

 

「……おかしいな。あいつ、ただの一般人だっただろ。いくら勇者選定の基準がガバガバでも、あんな迷惑系配信者にいきなり加護が降りるか?」

 

「ええ。それに、タイミングが良すぎます。H.A.Dの存在を公表し、世間が怪人の恐怖に怯えているこの時期に、魔物擁護論者だった彼が『新たな勇者』として華々しくデビューする。……出来すぎたシナリオです」

 

 天塚が眼鏡を押し上げ、冷たい声で推論を述べます。

 

「異世界に拉致られた時期は?」

 

「んー動画投稿の頻度的に――多分、私達と出くわした後ですね、それも多分一両日中。」

 

「一両日中? バカ言え」

 

 七星がパイプ椅子をギシッと鳴らし、呆れたように声を上げました。

 

「向こうの世界に呼ばれて、魔王か何かを倒して帰ってくるまで、いくらなんでも速すぎるだろ。カップ麺の待ち時間じゃねぇんだぞ」

 

「ええ。異世界との時間経過にズレがあるケースも過去にはありましたが、それにしても異例の速さです。それに加えて、帰還直後の『勇者登録』のプロセスも迅速すぎる」

 

 天塚が眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、冷たい声で推論を深めます。

 

「灯たちと同じタイプってことねぇの?」

 

「ちがうっぽいんですよねぇ、AI君に動画の要約作らせたら、異世界から帰還したって言ってるっぽくて。」

 

「ふむ……何言ってるの?」

 

「あー……まあ、よくある奴ですよ。」

 

 扇の問いに、ゆかりが動画の音声をオンにしました。

 

『――既存の勇者たちは腐敗している! 奴らは特権階級にふんぞり返り、我々を見下してきた! だが、私は違う! 私こそが真の勇者であり、魔物との共存という新しい秩序をもたらす救世主だ!』

 

『あまたの勇者達によって虐殺され、私の背後で眠るこのような簒奪者たちによって住処を奪われた者たちを守る、私こそが救世主だ!』

 

 自信に満ち溢れた、というよりは、肥大化した自己顕示欲をそのまま垂れ流しているような演説でした。

 

「あー、よく勇者が配信者になるとやる奴ー」

 

「見てて胸焼けがするぐらい見たことある奴ー」

 

「よくありすぎて動画サイトに一時期えぐい量の投稿あったやつ―」

 

 特撮班の3人の、あまりにも見事なコーラスに、ゆかりは呆れたように肩をすくめました。

 

「まあ、典型的な『ネットで真実を知った俺スゲー』系ですよね。問題は、こいつが『魔物との共存』を声高に謳っておきながら、デビュー動画ではオークの群れを1人残らず皆殺しにしているという矛盾です」

 

「そこなんだよな。共存とか言いながらやってることただの捕殺……それともあれか、『話し合いが通じない生物はゴミだから殺してもよし』的な」

 

「あー……ダブスタの人。」

 

「『自分にひれ伏す都合のいい魔物とは共存する』が、『逆らう魔物は害獣なので狩る』。彼の中では完璧な論理(ロジック)が成立しているんでしょうねぇ。実に人間らしい身勝手さで微笑ましいですよ」

 

 天塚が眼鏡のブリッジを押し上げ、どこか楽しげに、それでいて底冷えのする声で切り捨てました。

 

「お前はどこ目線の人なんだよ。」

 

「超人!」

 

「慎みよ、否定はしねぇけども。」

 

「そのうち『俺を批判する人間も害獣だから狩る』とか言い出しそうだな、この手の輩。」

 

「……案外マジでやったかもしれんな。」

 

 まじまじと動画を見ていた扇が告げる――その視線の先には、穴の開いたオークの死体が転がっています。

 

「……こいつ、戦ってるところの動画は?」

 

「あると思いますけど……探します?」

 

「頼んだ。」

 

「はいはい、有能なオペレーターにお任せを……ありましたよ。信者が切り抜いた戦闘シーンのまとめ動画ですね」

 

 ゆかりが軽快にキーボードを弾くと、メインモニターの映像が切り替わりました。

 

 純白のスーツを着たローンウルフが、迫り来るオークの群れに対して大げさなポーズをとっています。

 

『見よ! これが真なる勇者の力だ!』

 

 彼が腕を振り抜き、大きく口を開いた瞬間――動画の音声にはうまくノイズとしてしか乗っていないようでしたが――先頭を走っていたオークたちの胸や頭部が、次々と『円形に』弾け飛んだ。

 

 おびただしい血飛沫が舞う中、男は歓喜の声を上げて高笑いをしている。

 

 見たことのある、円形の傷跡を残してオークはもう二度と動きかなかった。

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