聖晶アカデミアの大講堂は、今年も新入生で埋め尽くされていた。
水晶の柱が光を屈折させ、荘厳な雰囲気を演出している。魔物との実戦演習を控えた緊張感が、華やかな制服姿の生徒たちの間に漂っていた。
「次に、新入生代表による挨拶です。
エレヴェンシア公爵家ご令嬢、アルティシア・ロゼリア・フォン・エレヴェンシア様」
司会の声が響くと同時に、会場が静まり返った。銀髪を完璧に整え、純白と蒼の貴族制服を纏ったアルティシアが、優雅に壇上に上がる。
その姿はまさに絵画から抜け出たようだったが、碧眼の冷たい輝きに何人かの生徒が息を呑んだ。
(ここが勝負所よ!
入学式の代表挨拶で好印象を植え付ければ、一気に友達の輪が広がるはず!
完璧に優しく、みんなを励ます言葉を……前夜に何度も練習したものね。
笑顔も少し練習したし、きっと大丈夫!)
アルティシアはゆっくりと息を吸い、壇上で微笑んだ(つもり)。
実際は「冷笑」にしか見えていなかった。
「……新入生の皆様、ご機嫌よう。
私はアルティシア・ロゼリア・フォン・エレヴェンシアと申します」
声はよく通る美声だった。しかしその響きは、どこか氷のように冷たい。
「この聖晶アカデミアは、魔物が溢れる過酷な世界において、人類の希望を育てる場であります。
我々はここで、弱さを克服し、強さを身につけなければなりません」
(よし、いい感じ! みんなを鼓舞できているはず!)
彼女はさらに声を張った。
「しかしながら、皆様の中には未熟な者も多いでしょう。
実戦演習では死者も出ると聞きます。
そんな中、無駄に群れ、互いの足を引っ張り合うような真似は、命取りになります。
……ですから、どうかご安心ください。
私が一人で最前線に立ち、すべての脅威を排除いたします。
あなた方弱者は、私が完璧に補います。
どうか、私の後ろで安全に学んでいただければ結構です」
会場が凍りついた。
(私の優しさ溢れる言葉に皆感動してるみたいね)
少し間を置いて、彼女は締めの言葉を述べた。
「どうか私に、皆さんの期待を一身に背負わせてください。
私はそれに耐えうる完璧な人間です。
……以上です」
一瞬の沈黙の後、拍手が起こった。
しかしそれは、畏怖と遠慮が入り混じった、控えめで遠い拍手だった。
壇上を降りるアルティシアの背中を見つめながら、新入生たちがひそひそと囁く。
「やっぱり……アルティシア様は孤高の人なんだ……」
「近づいたら怒られそう……」
「一言で新入生を『弱い』って言ったよね……怖い……」
「とにかく関わらない方がいいかも」
周りの反応にアルティシアは困惑している
(不思議……本当に不思議だわ。
親しみやすい笑顔も入れたはずなのに……
誰も私の周りにいないのかしら?
もしかして、みんな魔物との実戦が怖くて震えてるのかしら、
かわいそうに……。
でも大丈夫。私が皆を守ってあげればいいもの。
……それにしても、なぜ友達ができないのか、本当にさっぱりわからない……)
アルティシアは優雅に自分の席に戻りながら、内心で小さくため息をついた。
入学式初日から、彼女の周囲には自然と「聖域」のような空間が生まれていた。