大講堂を退出した直後。
アルティシアは壁際に静かに立ち、新入生たちを観察していた。
(この世界はゲームをもとにした世界ということは、必ず『主人公』がいるはず。この学園は平民クラスと貴族クラスに分かれている、大体こう言うのは平民クラスにいそうな気がする⋯
目立っている子を探して、近くで観察すれば友達作りの参考になるわ。さあ、誰かしら……?)
そこへ、赤みがかった栗色の髪が優雅に波打ち、鮮やかな赤い瞳が強い印象を与える、美しい令嬢が取り巻き二人を連れて近づいてきた。
「まあ、アルティシア・ロゼリア様。
入学式の挨拶、本当に興味深い内容でしたわ」
(セレナね。
幼い頃からよく声をかけてくる子。
いつも積極的に絡んでくるということは、私に一定の関心を持ってくれているのだろう。
もしかすると、友達になりたいと思ってくれているのかもしれない……。
ふむ、悪い話ではないわ。)
アルティシアは優雅に微笑み、穏やかに応じた。
「……セレナ様、ご機嫌よう。
私の挨拶をお聞きいただき。光栄ですわ」
セレナは扇子を広げ、挑発的に言った。
「新入生全員を弱いと切り捨てるような挨拶……本当に相変わらず尊大ですこと。
あなたのような方が学園を引っかき回さないか心配ですわ」
(心配してくれている……。
素直に『仲良くしたい』と言えない性格なのね。
ツンとした態度を取りながらも、私のことを気にかけている……なかなか可愛らしいところがある。)
アルティシアは柔らかく、しかし上品に答えた。
「ご心配をおかけして申し訳ありません、セレナ様。
でも、どうか安心なさってください。
あなたが傷つくようなことは、私がしっかりと防ぎますわ。
……これからも、こうしてお話ししていただけると嬉しいです。
私も、セレナ様とはもっと親しくお付き合いしたいと思っておりますの」
セレナの頰が赤く染まる。
「は……? 親しく、ですって……?」
アルティシアはさらに落ち着いた微笑みを浮かべて続けた。
「ええ。セレナ様はまだ少し未熟な部分もおありですが……大丈夫ですわ。
私がそばにいれば、支えて差し上げられます。
特別に、あなただけは私の隣を許します。
お茶の時間でも、実戦演習でも、いつでもお声がけくださいませ。
待っていますわ」
セレナは扇子を強く握りしめ、声を震わせた。
「……っ! 厚かましいにも程がありますわ!
誰があなたに支えてもらうなんて……!」
(照れているのね……。
『厚かましい』と言いながらも、ちゃんと反応してくれている。
これは良好な反応だわ。
セレナとは、ゆっくりと親交を深めていけそう……。
入学初日から、まず一人、友達の候補ができたようだ。)
セレナは「覚えていなさい!」と吐き捨てるように言い、取り巻きを引き連れて早足で去っていった。
(『覚えていなさい』……これからも構ってくれるという意味ね。
よし、上出来だわ。
やはり私の挨拶は間違っていなかった。
これから少しずつ、輪を広げていきましょう。)
周囲の生徒たちは遠巻きにこのやり取りを見て青ざめていたが、アルティシア本人は静かに上機嫌で、「原作主人公候補」を探し始めた。