六月も半ばーー水無月というだけに、晴れの日が続く。
赤金川は渇水期に入り、市営公園そばの放流区間には中洲ができあがるほど、水かさが減ってきていた。
「赤金川は、生物にとって厳しい環境よ。雨が降れば、土壌の酸性成分が流れ込んで酸性に傾き、逆に晴れが続く渇水期は、濃縮されて酸性に傾く……だから逆に、この川でカサネサクラが通年生存できれば、それはカサネサクラという品種の成功を意味するわ」
難しい顔をして、霞が言う。
「ここに来るアングラーも、四月の頃よりは、だいぶ増えたわ。身近で大物が釣れて、しかも美味しい。そういうのが広がってきた。けど、まだ足りない……あとはイメージの問題よね。ここはもう、かつて誰もが思っていた死の川じゃないーーそう思わせるような、何かが欲しい」
いつもの不真面目な霞ではない。
研究者のはしくれとして、責任ある姿をした霞だ。
「……というのを考えるのがお役所。私にはどうしようもないから、実釣調査をふまえたデータを取って、口コミからの草の根作戦だけー」
そんなかっこいい大人の姿もすぐさま終わって、少し、というかだいぶ力を抜いてダラけた姿を晴の前で見せつける。
テントサイトのそばに、アウトドアチェアを出して、深く座って缶ビールを開けた。
「カスねぇさ、もう少し取り繕おうとか思わないわけ?」
「今日は環もいないし? 少年と二人きりで、今更何を取り繕うのよー? お姉さんと少年との仲じゃなーい?」
いつ頃からか、晴のことを少年と呼ぶようになっていた。
いや、思えばあれは、環と連絡先を交換していることが判明した、あの日からかもしれない。
「今日はお姉さん、昼間っからお酒飲むんだー。少年の釣ってきた魚をさ、少年に捌いてもらってー。お姉さんムニエルがいいなー?」
「俺カサネサクラなんか捌けねぇよ?」
「キッチンバサミを使えば簡単よー? まぁぶつ切りになるけどー」
「はぁー……どうして今日に限って会っちまうかなぁ?」
今日は本当に偶然だ。
以前釣ってきたカサネサクラが母親に気に入られ、実質タダで釣れるならばと、次を待ち望まれていたのだ。最近は色々あって、みんな少し気まずいだろう。今日くらい少し、一人でのんびりしようか……と思って遠出をしたところで、キャンプをしていた霞に出会ってしまったのである。
「ちなみにさ、少年」
「なんだよ」
「環とほんとうになんでもないの?」
「俺はどういう回答を望まれてんの?」
友達だと言えば、環が可愛くないのか、と怒られる。
気になると答えれば、環はやらんぞ、と怒鳴られる。
これはそういう二択である。
「まぁいいや、一匹でいい?」
「二匹も食べらんないわよー。サクラマスの三倍体よ? アベレージ60cmよ? 何人前だと思ってるのよー?」
「俺が四月に釣ったのはまだ子供ってことかよ……」
「子供ってわけじゃないけれど、まぁ小さい方よねー。少年が買った竿だとギリギリキャッチできるかなー。3.9mだったらもう少し余裕が出たかも? あー、まだ在庫があったかなぁー?」
「営業を始めるんじゃねぇよ! くそっ!」
聞いていたら欲しくなってしまいそうなので、さっさと釣り場へ逃げるように走り出した。
今日、用意したのは#12の太軸フック。思うところがあって、大きめの毛鉤はこれに統一している。このフライフックに、軽めのタングステンビーズ。金色のきらめきが、虫の複眼をイミテートする。ハックルは白黒のグリズリー。この二色が虫の足や、羽の翅膜と翅脈に見えるはずだ。ボディは黒の絹糸。ボリュームを見せつつもテーパーを付けて細身に仕上げた。
一見して頼りなく見えるほどにシンプル、だが、これが一番釣れるーーように思えた。
「……風は、ほとんど無い」
狙いは水面直下ーードライとウェットの境界線上。
魚は、沈んでくるものに反応がいい。だから、水の抵抗を受けるハックルと、適度な重さを稼ぐタングステンビーズ。ほどよく釣り合って、ゆっくりとシモるように仕上げた。
「渇水期だから、川の中心が近くなってる……」
手前に、というほど近い訳ではないが、それでも四月の頃よりはかなり近い。四月に釣ったカサネサクラよりも、より巨大な魚影が見える。
竿につなぐメインラインは去年と同じ、テーパーの4.5m。ハリスは擦れと伸びに強いナイロンの1.2号を、1.5m程度。3.6mの竿の長さを合わせれば、届く距離。
「……まぁ、釣れるだろ」
不思議と自信があった。
そもそもカサネサクラはサクラマスの三倍体、性格は獰猛で、エサと認識すれば食いつきやすい。釣り人も多くなって、人に慣れてきたから、警戒心が薄れてきているというのもある。野生なら、この距離でも逃げ出す魚がいるほどだ。
軽くフォルス・キャストを繰り返して、
狙ったポイントは、そこから見えるカサネサクラの中でも一番デカいやつの鼻先より、ほんの一メートル程度上流。タングステンビーズの重さで、ゆっくりとシモリながら鼻先へ近づいていく。
ーーカサネサクラが一瞬毛鉤を見て、そっぽを向いた。
「いや、遠かっただけだ」
大きい魚は、経験上、のっそりと捕食することが多い。自分の縄張りを確保しているのだから、我先にと食いに行く若魚と違い行動に余裕ができるのだろう。
バック・キャストで毛鉤をピックアップ。上流へ角度を変えて、シュート。着水後、少しだけ竿を倒してハリスのテンションを抜いてやり、より深く沈める。
ーー今度は、少し近づいて……戻る。
「反応は悪くない」
ならば、とばかりにピックアップ。そしてさらに深く沈めるため、今度はほとんど水平になるまで、竿を倒す。
『……キャストするたび、私のこと、考えて?』
今でも思い出す。
栞のキャストする姿は、いつも綺麗だった。
ーーそういえば、キャストしたあとはいつも、竿を倒していた。
ーーいや、違う。それだけじゃない。
狙いの鼻先でピックアップすると、一瞬捕食スイッチが入ったのか、一気に毛鉤を追いかけ、そして捉えられないと察して、再び潜っていく。
「確か」
やや上流に一歩。そこから上流にキャスト。
ポイントは、やや奥側。扇状に流すようにして。狙いのカサネサクラを、やや横切り加減に鼻先をスライドさせてやる。
ーーたかだが横にスライドさせただけだと言うのに、まるでスイッチが入ったかのように、大きな口を開き、獰猛に迫る怪物の姿が見えた。
毛鉤に食いついた、と思うより早く、まるで体をねじくってひったくり、水中に沈めるかのような動きを見せる。
三倍体が故に生殖能力を失い、卵や精巣に回るはずだった有り余る栄養が婚姻色のごとく表皮に現れるーー人工的に作られたがゆえに獲得したカサネサクラの桜色が、まるで稲妻のごとく閃いた。
「!」
ばしっ、と竿を立てる。
今までにない重みが竿にかかり、テーパーラインはギリギリと伸び、ハリスは、キュキュキュ、と鳴り響く。
「キたぜ……っ!」
潜り暴れるそいつとのファイトは二ヶ月ぶりか。以前よりも確実に巨大なカサネサクラの暴走をいなすため、竿の柔らかさを最大限まで活かす。
折れるか、折れないか……そのギリギリを見極める。満月に曲がる竿の悲鳴を手のひらで聞いて、竿の角度を調整する。カサネサクラが走り出せば、ときには晴も、一歩、二歩と移動する。
しかし、一進一退の攻防ではない。思うように走れず、むやみに暴れてスタミナを消費する。そうして一歩一歩、確実に追い込んでいくさまは、まさしく狩猟だ。
「寄ってこい、寄ってこい……!」
空気を吸い込んでは、力が弱る。弱ったところを更に寄せ、頭を出させてさらに弱らせる。一度きりの釣果だったはずなのに、もはや何度も釣っているかのような安定感。
自分が確実に成長していることを、実感するファイトだ。
「来い、来い……来たっ!」
護岸にズリ上げるように接近させ、完全に諦めたところでラインを掴む。
そのまま引き寄せ、ランディングネットに頭から取り込んでーー
「っし」
その怪物を釣り上げる技術が完成した。
「あ、晴くん」
「あれ、環?」
ランディングネットにカサネサクラを確保したまま霞のキャンプサイトに戻れば、そこにはショートパンツスタイルの、いかにも釣りに来ましたといった出で立ちの環がいた。
「なんでここに……って聞く意味ないか」
「はは、そうだね」
笑いながら、ランディングネットに入ったカサネサクラを見る。
「ちょうど釣れたんだ?」
「カスねえに頼まれてなー。いやかーちゃんにも頼まれてるんだけど……」
「捌ける?」
「俺が? 捌けると思う?」
「はは」
じゃあちょっと手伝うよ、とばかりに手招き。
「ーーそういやカスねえは?」
「寝てるよ。アルコール入ったもん。すぐ、ベロベロになるんだ」
指差せば、イスの上で顔を真っ赤にしながら、だらしなく緩んだ表情で、大口を開いて寝ている霞がいる。ダメ人間、というタイトルをつければ、そのままニューヨーク近代美術館で人気の展示物になりそうだった。
「だらしねえなぁ?」
「だよね? でも、そういうところが可愛いんだ。もちろん、真面目にしているときは、格好いいけど」
「……ときどきキチゲ解放してるって知ってる?」
「もちろん。ボクの自慢の姉さんだもの、ぜんぶ知ってるよ」
思わず、憐れみの目で見てしまう。一生懸命、隠しているつもりだろうが……どうやら、自慢の妹にはすべて筒抜けだったらしい。
「かわいそうだけど、黙っててやるか……」
「うん、ショック受けちゃうだろうしね」
起こさないように、と。静かにその場から離れ、炊事場エリアへと移動することにした。
「そういえばシメた?」
「いや、どうやってシメるのかもわかんなくてさ。前回やったの、カスねえじゃん」
「えっと、まずは気絶させるんだけど」
こないだ背負っていたボディバッグタイプのフィッシングバッグから、折りたたみのナイフを取り出す。
ランディングネットの隙間からそいつの頭を押さえ、暴れ始めるそいつの頭目掛けて、ナイフの柄をぐっと握りしめてーーがつん! とカサネサクラの頭をぶん殴った。
「!?」
「で、動かなくなったら……眉間のところに小脳があるから、ここにナイフを刺して」
手慣れた様子で片手で刃を弾き出して、気絶するカサネサクラの、目とエラの上端を結んだラインのだいたい真ん中あたりに、ざっくりとナイフを突き刺しーーぐりっとひねる。
「!?!?!?」
びちびちびち! と、口を開いてヒレを立て、暴れたと思った瞬間、動かなくなった。
「あとは、心臓が動いているうちに、血抜きとかするんだけど、それは向こうで、いいよね?」
「こっわ」
「あはは……ボクが、サイコパス呼ばわりされた話、する?」
「環、友達、いるのか?」
「いるよ、さすがに」
「本当か?」
「本当さ」
なんとなくだが、休みごとに声をかけてくる理由が、分かった気がした。
「エラを切って、バケツで振ってやると、放血できるよ。今回は大きいから、エラを切って、尻尾を落として……ホースを、切ったエラのところに当ててやるんだ。そうすると、エラの太い血管から水が入っていって、放血できる」
先程のフィッシングナイフで、エラを切り、尻尾を切り落とした。
「今回はホースが無いから、ほんとうは良くないけど、蛇口に直接あてて……」
切ったエラのところにしっかりと蛇口を当てて、水を出す。すると尻尾から、ドバドバと血が溢れ出して、流し台を真っ赤に染めていく。
「ほら、たくさん出てきた」
「やっぱサイコパスって言われてたりするの?」
「してないよ」
真剣な顔で晴の顔を見つめ返す。
「してないんだ」
「うん」
「分かってくれて、嬉しいよ。ボクは、きみと仲良くしたいからね」
「うん」
しばらく血を抜いている間、妙な沈黙が流れる……。
「ところで」
「はい」
「ボクはさ、どちらかと言うと……雑に扱われる方が、好みなんだ」
「え、なに? 急に? 性癖の開示?」
「性癖じゃないよ。こう、気のおけない、友達というか……マンガとかだと、そういう感じじゃないか」
「マンガ読むんだ」
「読むよ、当たり前じゃないか」
ボクをなんだと思っているんだ、と唇を尖らせる。
「雑に扱われて、でも大切に思われているのって、すごい素敵だよ……ちなみにボクは監禁するより、されたい派でね?」
「ねぇ、女子の間で、なんか、妙なマンガ、流行ってんの?」
「きみは何を言っているの?」
栞も「監禁するより、したい」などとほざいていたことを思い出す。
「とにかくさ……初めて会ったとき、男の子みたいに、扱われてさ。実はちょっと、嬉しかったんだ」
「あのときはマジでごめん」
「いいよ。楽しかったし。憧れの、気のおけない友人関係ってやつ、楽しかったなぁ……」
本当は友達がいないんじゃないか? そんな疑惑がいよいよ大きくなる。
「さ、血も抜けてきたみたいだし、捌こうか」
「お、おう」
「姉さんも言っていたけど、しっかりぬめりを取って」
流水に当てながら、タワシでガシガシと擦る。簡単に剥がれ落ちていく鱗が、水に流されて排水口へと流れていった。
「肛門から刃先を差し込んで、一気に開いて……」
手慣れた様子でナイフを手に取り、ざぁっ、と刃を走らせる。
腹を割くと、脂の乗った桜色の肉が顔を出した。
「ワタを取って……これは捨てる。でもここに捨てる場所はないから、水分を拭き取って、密閉して持ち帰る。たぶん姉さんなら重曹を持ってきてるから、それをまぶすと、腐敗臭を中和してくれる」
「へぇー」
「そのへんに捨てたり、川に流すと、野生動物が来るからね。とくに、熊とか」
「ああ、ダメだわそりゃ」
「こういうのは、キャンプ場では、持ち帰りがベターだ」
言っている間にも、魚はどんどん捌かれていく。
刃渡りがそんなにないフィッシングナイフを使っているわりに、大型のカサネサクラがあっという間に開かれていく。簡単そうに見えるのは、こうやって釣り場で何匹も何匹も捌いてきた経験からだろう。
「環って、やっぱ釣った魚とか、食うの?」
「そうだね。あくまで、食べ切れる量だけ、だけど」
「捌くの上手いなぁ、って」
「そ、そう?」
「料理上手なんだな」
「えへへ……」
「やっぱりサイコパスって」
「呼ばれてないよ?」
上げて、落として。
環をからかっているうちに、見慣れた切り身へと、変わっていた。
「姉さんは、何が食べたい、って言ってた?」
「ムニエルだってさ」
「なるほど。いいね。ボクは、カリカリに焼けた衣が、好きだな」
「あー……分かる」
「ーーはっ!?」
バターが焦げるいい匂いがして、霞は目を覚ます。
「やっと起きたか、カスねえ」
「あ、少年……」
「おはよう、姉さん。よく眠れた?」
「……えっ、環?」
目をゴシゴシとこすって、二人を交互に見る。
「あれ、ふたりって結婚したんだっけ……?」
「なんでそうなるんだよ?」
「そうだよ、先月にね」
「なんでそうなるんだよ!」
「冗談さ」
くすくす笑って、姉を手招きする。
「ご希望の、カサネサクラのムニエルでございます……なんてね?」
うやうやしく演技がかった仕草で一礼。
テーブルには、出来立ての湯気が立つ、バターの香ばしい匂いのムニエルがのっている。見た目と味のアクセントにレモンの輪切りを乗せて、香草を添えているあたりが環らしい感性を感じさせた。
「わぁ……ほんとに作ってくれるとか、思ってなかったわ……」
「作ったのは環だけどな」
「スープもあるよ。晴くんが作ってくれたんだ」
「材料ぶち込んで煮ただけだけどな」
ざっくりと大きく切られたにんじんや、前回と同じくねぎとろのつみれが入ったスープが、晴の手でよそわれる。
「思ったより上手だったな。そうやって女の子も、料理してたりするのかな?」
「それ言い出したら環のほうだろ、食い散らかしてるんじゃねーの?」
「ボクはきれいに食べるほうでね……冗談だよ?」
肘で小突いたり、くすくす笑ったり。
「……あなたたち、随分仲良くなったのね?」
「べつに?」
「前から、仲がよかったと思うけど?」
なにかあったわけではないのだが、なんでもないことの積み重ねが嬉しくて。
ふたりは顔を見合わせて笑う。
「そういやさ、カスねえ」
「なぁに?」
望んだ料理が出され、腹も膨れ、ついでにビールをもう一本。
上機嫌な状態で、鼻歌交じりに返事を返す。
「ちょっと気になったんだけどさ……外来種、って、いるじゃん」
「いるわね」
「そういうのって、仲良くできたりするもんなの?」
「仲良くぅ?」
「いや、こう、在来種とかさ、食い尽くしたりしないで、共存できないのかな、って」
ふと、思い出したのだ。
『僕だって昔は、
あの日、胸を締め付けた怜の言葉を。
「できるわけないじゃない。って言うのは簡単なのよね。種の生存競争は、そうやって他の種を根絶やしにしてきたわけだし……」
アルコールが入っているとは言え、比較的真面目な表情で、霞は答える。
「水質とか、温度とか、条件が重なって外来種がそれ以上増えなかったり、縄張りが被らなかったり……その場所に帰化して、定着して、新しい生態系が生まれる。という例はいくつかあるわ。いくつか、しか無いとも言えるけれど……」
うーん、と腕を組んで頭を悩ませる。
「実際、琵琶湖だってブラックバスやブルーギル、あとはアメリカンキャットフィッシュが問題になってる。たしか県内でも、コクチバスのせいでアユの漁獲量が減ったじゃない? でも、捕れなくなったわけじゃない。根絶やしまではいってない。それは漁協だったり、釣り人だったりの努力が実を結んでいるの。あとは種の生存本能として、危険にさらされるとより多くの子孫を残すことがあるから、食われた数より、生まれた数のほうが多くなったパターンもあるし……」
「無理じゃないってこと?」
「環境によるわ」
「なんだよ」
「外来種問題って、難しいのよぉ……私達の都合で増やしたらいけないのは、分かってるけどぉ……もぉ無理なのよねぇ……食料問題とかぁ……」
うとうと、と。
頭を悩ませながら少しずつ船を漕ぎ始める。
「おねえさんも……けっきょく……がいらいしゅるる……すぴー……」
「寝ちゃったよ」
「お酒が入るとね、すぐ寝ちゃうんだ」
苦笑して、片付けを始める。
「姉さんがさ、大学に進んで、一人暮らしを初めたとき……みんな、ほんとうに心配したんだよ」
「へぇ」
「男に食われる、って」
「そっちかよ」
「まぁ、今は逆にね、男の影もないから、心配されているんだよね。そんなに酒癖が悪かったのか、って」
「酒癖かなぁ……?」
普段の言動じゃないのかと、訝しむ。
「でも、こうやって頑張ってる姿を見ると、応援したくなるよね」
「否定はしねえけど……」
普段の言動がなぁ、と首を捻る。
「でも……きみが心配するようなことは、ないと思う」
「なんで?」
「きみが
だからきみが好きなんだ、と。はにかんだように笑う。
「…………いや、心配なのは怜のほうだぞ?」
「はいはい、そうだね」
「こいつぅ……!」