分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第9話  恵みに感謝

 というわけで、野草を食べたいと思います。

 

 今日も今日とてフィーネに会いに行ったところ、そういうことになった。

 

 あれから結構な回数フィーネと過ごし、いろいろとお話をしたが、同時に野草や木の実を一緒に採ることも多かった。

 

 彼女は森の植生についてかなり詳しく、その知識を俺に教えてあげられることをとても喜んだ。

 

 じゃあせっかくだから食べてみようとなるのは自然な流れで、いよいよ俺は森の恵みにありつけることになったわけだ。

 

 フィーネと一緒に薪を運んだり、彼女が家から持ってきてくれた鍋に小川の水を汲んできたりする。

 

 その間、フィーネはやはり家から持ってきた火種を使い、地面の上で簡単な焚火をおこす。実に手慣れたもので、すぐに火が燃え始める。

 

 あとは拾ってきた石を積み上げ、いい感じにかまどのようなものを作り、その上に鍋を置く。

 

 水が沸騰したらあらかじめ水に浸しておいた野草とキノコを入れ、茹でてしまえばそれで完成だ。

 

 調味料は塩だけと寂しいが、それもフィーネが用意してくれたのだから文句は言えない。

 

「本当は川でお魚がとれたらよかったんだけど、上手くいかなかったの。ごめんね」

 

「全然。いろいろと用意してくれてありがとな」

 

 俺ひとりでは魚どころか、火をおこすのさえ難しかっただろう。

 

 実際に森の中で火をつけようと試みたことがあったのだが、これがまあ難しかった。よくある木と木をこすり合わせるあれをやってみたのだが、半日かけて小さな火種を作るのが精一杯だった。

 

 その火種も燃え移ることなくすぐに消えてしまったし、着火装置がない環境での火起こしがどれだけ大変か、身に染みてよくわかった。

 

 フィーネが家から持ってきてくれた火種も、朝食を作る際に父親が使用していたものということだ。

 

 消えないよう保管されていたそれを、こっそり持ってきたというのが真相らしい。

 

「そういえば、ここで料理なんかして、フィーネのお父さんにばれないのか?」

 

「大丈夫。今日はお父さん、村の方に行ってるから」

 

「村に?」

 

「村長さんとお話があるんだって。だから大丈夫。ばれないよ」

 

「なら逆に森の中ですれ違う可能性はあるわけか。帰るときは気を付けないとな」

 

「それも大丈夫だよ。お父さん、森を迂回していつも村に行ってるから」

 

 そこで思い出したように、フィーネは不安そうな顔をする。

 

「会いに来てくれるのはすごく嬉しいけど、森の奥にはモンスターが出るらしいから。アインも気を付けてね」

 

「モンスターか。今のところ、それらしい気配は感じたことないんだよな」

 

「一応、ここで暮らすときにお父さんが森の中を見回って退治してたけど、この森はアインの村がある方とは別の方向にすごく広がっててね。全部退治するのは無理って言ってた。見かけたら絶対に近づかないでね。いい? 絶対だよ?」

 

 フィーネが心配そうに顔を近づけて約束を迫ってくる。

 

 やや鬼気迫る様子だ。引っ込み思案な彼女にしては珍しい。

 

「もちろん、俺に戦う力なんてないし、すぐ逃げるけど……実はフィーネって、モンスターに会ったことがあったりする?」

 

「うん、この森じゃないけど……すごく怖いよ」

 

 そのときのことを思い出したのか、かすかに肩を震わせる。

 

 長旅をしたって言ってたからな。もしかしたら、道中で遭遇したのかもしれない。

 

「あ、もう食べ頃だよ」

 

 詳しく聞きたい気持ちはあったが、ちょうどスープも煮えてきたので、深くは聞かないことにした。

 

 フィーネが用意してあったお椀にスープをよそって渡してくれる。

 

「う~ん、いい匂いだ」

 

 やっぱりキノコはいい。食べる前から美味しいとわかってしまう匂いだ。

 

「じゃあ、いただきます」

 

「うん、召し上がれ」

 

 フィーネ特製の草とキノコのスープは、やはり美味しかった。

 

 野草は苦みとある種のえぐみがあったが、キノコの旨味がいい感じに打ち消してくれている。うん、キノコがすごい。口に出したりはしないが、なんならキノコと塩だけが良かったかもしれない。

 

 栄養的には野草があった方がいいんだろうけど、俺は分身なので意味ないし。

 

「美味しい?」

 

「滅茶苦茶美味い。フィーネは料理が得意なんだな」

 

「そんなことないよ。お母さんが小さい頃に病気で亡くなっちゃったから、慣れてるってだけ」

 

「お母さんが?」

 

「うん。あ、でも気にしないでね。もう昔の話だし、お父さんもいるから」

 

「ああいや、気にするとかどうかじゃなくて、俺と同じだなと思っただけ」

 

「アインも?」

 

「俺の母さんも俺が生まれてすぐ死んじゃったから」

 

「そう、なんだ」

 

 もしかしたら、この話題でそう返されたのは初めてなのかもしれない。逆にフィーネの方が戸惑っているようだった。

 

 フィーネと同じく俺も母親のことはもう気にしていないというか、気にする余裕がなかったというか、言われてそういや死んでるよな、と再確認するレベルの話でしかない。というか、母親どころか父親もいないし。

 

 スープに口をつけず火をしばらく眺めていたフィーネは、戸惑いを自分の中で消化できたのか、俺の方を見て苦笑をこぼす。

 

「ふふっ、そっか。一緒なんだね、わたしたち」

 

「ああ、お互いたくましく生きていこうな」

 

「たくましく。たくましく、か。……そうだね。あ、お代わりよそってあげるね」

 

 あっという間にスープを飲み干した俺に気づき、嬉々としてフィーネはお代わりをよそってくれる。

 

「はい、どうぞ。たくさん食べてね」

 

「ありがとう」

 

 お礼を言って受け取る。

 

 再びスープに口をつけるが、横のフィーネから視線を感じて少し食べづらい。

 

 なんだろう? フィーネから向けられる視線がなんか変わった気がする。熱量を帯びたというか、しっとりしているというか。

 

 心なしか、物理的な距離も近づいている気がする。

 

 ……順調に仲良くなれている。そう思うことにしよう。

 

 そのあと二回ほどお代わりをしたところで、鍋の中身は空っぽになった。

 

「ふぅ、美味しかった」

 

 お腹がかなり膨れたところで、俺は気になっていたことをフィーネに尋ねることにした。

 

「しかし、フィーネは森で食べられるものに詳しいよな」

 

「えへへ、実は本を読んで覚えたんだ」

 

「本を?」

 

「うん。アインと会うまであんまりやることがなかったから、家でお父さんに買ってもらった本をよく読んでたんだ。あ、よかったら貸そうか? けっこう面白いよ」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいが……俺、文字が読めないんだよ」

 

「そうなの?」

 

 フィーネは驚いてみせるが、むしろ驚くべきは俺の方である。

 

 村で文字の読み書きができるのは村長一家くらいで、農奴たちはもちろん村人だって文字なんて書けない。せいぜい、自分の名前なら読めるかどうかというくらいの識字率だ。

 

 日本語とはまったく異なる異世界言語である。当然、俺も文字の読み書きなんてできない。

 

 いつかは覚えないといけないのは分かっているが、その手段さえ思いつかない段階だった。

 

「わたしでよければ、文字の読み書きを教えてあげようか?」

 

 なので、フィーネからの申し出は非常にありがたいものだった。

 

「ありがたいけど、いいのか?」

 

「もちろん。だって、アインは、その……」

 

 フィーネは初対面の時みたいにもじもじとした態度で、

 

「友達、だもん」

 

 そうだよね、と少し不安そうに上目遣いで訴えかけてくる。

 

 そんなもの即答だ。

 

「当たり前だろ。俺たちは友達だ」

 

「そ、そうだよね! 友達だよね!」

 

「ああ。ちなみに、俺にとってはフィーネが初めての友達だよ」

 

「そうなんだ。あ、でもわたし、クリスタの街にいた頃はお友達がいたから、アインが初めての友達ってわけじゃなくて。でもここまで仲良くなれたのはアインが初めてだから、友達になれてすごく嬉しいよ!」

 

 なので、できるかぎり色々なことを共有したいらしい。

 

 前々から感じていたが、フィーネは年下の俺に対してお姉さん風を吹かせたいようだった。

 

 フィーネは現在十歳とのことで、俺よりも二歳年上だ。

 

 体格差的にもう少し上だと思っていたから驚いたけど、これたぶんフィーネが年不相応に大きいんじゃなくて、俺が年不相応に小さいんだな。村の子供に比べても育っているように見えるから、本当に食べ物の影響は大きいんだなと思う。

 

 加えて言うなら、知識面も圧倒的だ。

 

 俺を含めた村の子供よりも、フィーネの方がはるかに物を知っている。下手をしたら、村の大人よりも知識が豊富かもしれない。

 

 街で暮らしていたときに、きちんと親から、あるいは教師から教育を受けていたのだろう。

 

 実に助かる。外の世界のことはもちろん、役に立つことを教えてもらえて本当に助かっている。

 

「俺も、フィーネと友達になれてすごく嬉しいよ」

 

 俺がそう言えば、フィーネは満面の笑顔になった。

 

 その顔を見て、ちくりと胸が痛んだ。

 

 別に俺は嘘を吐いているわけじゃない。

 

 それでも素直に友情だけを感じて接しているわけでもない。

 村から出た際に必要な知識を蓄えるために利用しているという、利己的な気持ちが大きいのだ。

 

 フィーネは俺が農奴と知ったらどう思うだろうか?

 あるいは他の子供のように、俺のことを蔑んだ目で見てくるのだろうか?

 

 ……それは嫌だな。

 

 そう思ってしまう程度には、知識を手に入れる機会を失うのとは異なる部分で、俺も彼女との時間を大切に思うようになっていた。

 

 友達。

 

 そう、間違いなく、フィーネは俺にとって初めての友達だった。

 

「アイン。わたしがいっぱい、いろんなことを教えてあげるからね」

 

 ……ただの友達だよな?

 

 

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