分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第10話  避けられない問題

 早いもので、分身スキルを手に入れてから三か月が経過した。

 

 その間、分身スキルについて、いくつかの考察も兼ねた実験を試みていた。

 

 まずは射程距離。

 

 どれくらい遠くに分身を出せるのか確認したところ、こちらは俺の視界内ということがわかった。

 

 ただし遠くに山っぽいのが見えるからといって、山の中に出すことはできない。あくまでもくっきり見える範囲内まで。

 

 代わりにその範疇であれば、そこが地面の上ではなくても問題はない。

 

 空中であっても、問題なく分身を出現させることが可能だ。

 

 なら逆に視界が塞がっていたら分身を出せないのかと考え実験したみたところ、喚び出すことができた。

 

 その際は、なんとなく現れて欲しいところに現れる。

 

 前、隣、後ろ、基本的には本体の近くで、遠いところをイメージしても近くに現れるあたり、少しだけ制限がかかっているようだ。

 

 制限といえば、分身を出す際の新しい制限も発見した。

 

 分身を出す場所には、俺一人分の肉体的なスペースが必要となる。

 

 物理的に俺が存在できない狭い場所には、分身を出すことができない。分身の術と唱えても、なにも起こらなかった。

 

 目をあけてはっきりとそこに出したい、と思って狭い場所に出そうとすれば失敗するが、目を閉じて同じ狭い場所に出そうとした際は、分身は俺の近くの出てこられる場所に出てきた。

 

 だからなんだという話だが、もしかしたら将来なにかしら役に立つかもしれないので、一応この結果は覚えておくことにする。

 

 有効な分身の出し方という意味では、分身を出した際のポーズについては意義が大きかった。

 

 特に意識していない場合、仁王立ちで分身は現れる。

 

 ただし、明確に意識して使った場合、そのイメージしたポーズで現れることがわかった。

 

 逆立ちだったり、アイドル風のあざといポーズだったり、本体の俺が取れるようなポーズだったら問題なかった。

 

 これは敵を攻撃する際に役に立つはずだ。

 

 武器を振り下ろす直前のポーズで分身を出せば、そのままスムーズに攻撃に移ることができるだろう。

 

 分身を出す際に本体による発声以外、音みたいなものもしないので、不意打ち適性はかなり高そうだ。

 

 一番上手く使えそうだなと考えた方法が、敵のすぐ背後に分身を喚び出し、相手の口をおさえて持っているナイフで喉をひと突きだったあたり、俺は暗殺者になったら大成するかもしれない。

 

 いや、暗殺者というよりは忍者か。

 

 分身を使ってやっていることも、今のところほとんど情報収集だし。

 

 俺は、もしかしたら本当に忍者だったのかもしれない。

 

 他にわかったことといえば、持続性か。

 

 分身をどれだけ繰り返し出し続けても、体力の消費や他のなにかが削れていくということはなかった。百を超えたあたりで喉の方が痛くなってきたのでやめてしまったが、おそらく本当に無条件で使うことができるのだろう。

 

 分身体自体も、消さないかぎり時間制限はないようだった。

 

 さすがに諸々やらないといけないことがあるため、出し続けられた期間は二日程度だったが、問題なく残り続けた。

 

 水を飲み、ご飯を食べ、しっかりと眠り、出すものを出しさせすれば、こちらも無制限に出し続けられるようだ。

 

 そうかなとは思っていたけど、実際にやってみて確信できた。

 

 これで次のステップに移ることができる。

 

 即ち――分身だけでの街への遠征だ。

 

 現状では他の準備が整っていないので無理だが、然るべき準備を整えさえすれば出発できる。

 

 その場合、上手くいきすぎて分身が街に居付き、本体のところに戻ってこない可能性が出てきてしまうのだが。

 

 ないな。

 

 これだけは実験しなくてもわかる。

 

 分身(おれ)本体(おれ)を裏切らない。

 

 たとえどれだけの期間独立して過ごそうと、他の誰かの影響を受けようと、分身だけはそうしないという確信があった。

 

 俺という人間が自分だけは裏切りたくないと思っているからか、あるいはスキル自体に組み込まれたセーフティーなのか、それはよくわからないが、そうだという確信がある。

 

 もし分身が裏切るときが来るとすれば、俺自身がそれを心の底から望んだとき。

 

 俺が、俺自身を終わらせたいと、そう本気で望んだときだけだろう。

 

 それこそないけどな。

 

 今の俺は未来への希望に満ち満ちている。

 

 あれだけ苦だった畑仕事だって、自分の身体を鍛えていると思えば、楽しく感じるくらいだ。

 

 いや、ごめん。嘘を吐いた。

 

 畑仕事はいつまで経ってもきつい。

 

 最近、暑くなり始めたから特にな。

 

 

 

 

 

 季節が春から夏へと移り変わっても、俺とフィーネの関係は変わらなかった。

 

 二日に一回、森の中で秘密の逢瀬を重ねていく。

 

 大樹の下で語らったり、一緒に木の実を採って甘い酸っぱいと笑ったり、時には避暑のために川遊びをしたり。もちろん、多くの時間を割いて読み書きも教えてもらっている。

 

 友情を深めていく中で、彼女について多くのことがわかった。

 

 フィーネ・アルトゥール。現在十歳。

 家族構成は父と娘の二人だけで兄弟姉妹はなし。

 

 フォン・クリスタ伯爵領クリスタの街で暮らしていて、そこでは他の子供たちと一緒に学校へ通っていた。

 

 学校といっても、貴族が通うような学校や学者を志す者が通う学校ではなく、仕事を引退した文化人が開いた私塾のようなものだったらしい。

 

 そこで文字の読み書きや簡単な計算、国の歴史などを学んでいたという。

 

 彼女自身、すでに文字の読み書きはほとんどマスターしていて、教師役として不足はなかった。

 

 半面、計算は苦手で、こちらは逆に前世の知識がある俺の方が上だった。

 

 読み書きを教えてくれるお礼もかねて、この先で役に立ちそうな計算の仕方を逆に教えてあげれば、すごいすごいと手を叩いて、アインは将来商人でもやっていけるねと褒めてくれる。

 

 商人か。

 

 安定してお金を稼げるのなら、将来の選択肢には入るんだけどな。

 

 前世の便利な道具や玩具なども知ってるわけだし、それを売りだせば大金を稼げるかもしれない。

 

 けど俺は社会というものを知らないから、そのときは街や社会情勢に詳しい人のサポートが必須だろう。

 

 それってつまり、とフィーネが口元をもにょもにょさせるのを温かい目で見守る。

 

 女の子の方が成長が早いとはよく言ったものだ。

 

 村の同い年くらいの男の子たちは未だに棒きれを振って遊んでいるが、女の子たちは一足早く卒業し、大人に混じって色恋に花を咲かせている。彼女たちと一緒で、フィーネも思春期に突入しているようだった。

 

 いや、よくよく考えてみれば、村では十四、五歳くらいで普通に結婚して子供も産んでいるから、それを考えればおかしな話じゃないか。

 

 どちらにせよ、俺が街に出るときフィーネがついてきてくれるなら助かるけど、どう考えても無理筋なので、ここで無責任に誘ったりはしない。

 

 彼女からの熱っぽい視線には気が付かないふりをして、地面に木の枝で文字を書く練習を続ける。

 

 文字の習得度合いはそれなりだ。

 

 フィーネが持っていた幼子向けの絵本くらいはなんとか読めるようになり、自分の名前くらいは書けるようになった。

 

 子供の柔らかい脳みそによるものか、割とスラスラと覚えることができたのは幸いだった。

 

 純粋に、前世とは学習に向ける必死さが違うのも大きいかもしれない。

 

 他にも、夏になって採れるようになった野草や果物などの森で食べられるものや、薬草になるものなどをフィーネから習う。

 

 村のものとは違う保存食の作り方。

 薬草を何種類か調合して作る傷薬の作り方。

 

 本を参考にしているので間違った知識もあるだろうが、そこは俺の方で繰り返し試してみて調整すればいい。

 

 街へ行く準備は少しずつではあるが、順調に進んでいる。

 

 これもすべてフィーネのおかげだ。

 遠征に成功したあかつきには、お礼になにかお土産でも買ってきてあげよう。

 

 そんな彼女が、この田舎の森に引っ越してきた理由。

 

 これだけはまだわからなかった。

 

 フィーネはこの話だけは明確に避けている。

 

 クリスタの街でなにかがあって、それが原因で引っ越しするしかなくなった。そしてそれは父親ではなく、フィーネ自身が原因である。

 

 わかっているのはそれくらいのものだ。

 

 街から引っ越ししないといけなくなるような事案とはなんだろうか?

 

 すぐ考え付くのは犯罪行為だが、フィーネがそんなことするとは考えにくい。

 

 逆に、犯罪に巻き込まれたとか?

 

 フィーネは可愛らしい。俺はとてもそういう目では見れないが、変態に襲われそうになって逃げてきたという可能性は否定できない。

 

 でもそれでわざわざ隣の街とかではなく、こんな田舎まで来るかといえば首をかしげざるをえない。

 

 わからない。

 

 こればかりは、考えてもわかりそうになかった。

 

 ……まあ、もっと仲良くなったら教えてくれるかもしれないし。

 

 隠し事をされているからといって、友達じゃないだなんて言うつもりはない。

 それを言ったら俺だって、農奴だってことや、スキルのことなど、多くのことを隠している。

 

 フィーネの過去になにがあったとしても、俺の接し方は変わらない。

 

 そういう意味では、彼女が引っ越してきた理由よりも大事なことがある。

 

 問題、と言い換えてもいい。

 

 そう。

 

 彼女の父親のことだ。

 

 

 

 

 

 フィーネの父親を初めて見たのは、コルニ村の中でのことだった。

 

 森を切り拓いて開拓している場所から、邪魔な石を運び出す仕事をしていたとき、村長と見知らぬ男性が話しているのを偶々見かけた。

 

 年齢はまだ若い。三十歳前後だろう。短く刈り上げられた髪に鋭い目つき。服の上からでも鍛えられているのがわかる隆々とした肉体に、腰には鞘に入った剣を下げている。

 

 見るからに戦士といった風貌の偉丈夫だ。

 

 しばらく村長と話をしたあと、その人は大きな袋を受け取って帰っていった。

 

 彼こそがフィーネの父親だと知ったのは、その夜のことだった。

 

「灰色。この前森には誰も住んでないと言ったが、あれは間違いだった」

 

 珍しく世話役が話しかけてきたと思えば、軽く謝るように教えてくれた。

 

「今日初めて知ったんだが、森には今日来ていたアロガンドの旦那が娘さんと暮らしているらしい。結構前に引っ越してきたんだと」

 

「アロガンドさん」

 

 あの人がフィーネの父親か。

 

 気付かなかったな。顔がまったく似ていない。きっとフィーネはお母さん似なのだろう。

 

「剣を持ってたけど、もしかして冒険者の人?」

 

 俺はフィーネのことは知らないふりをして、世話役に質問してみる。

 

「いや、冒険者じゃないようだ。前はどこかの街の兵士さんだったんだと」

 

 世話役は俺の近くの地面に腰を下ろすと、周囲を見回してから、声量を落として続ける。

 

「お前だから教えてやるがな、あの人は村長が雇った用心棒だよ」

 

「用心棒?」

 

「前に教えただろ? 今は犯罪奴隷が多いって。村長はなんの対策もしてないわけじゃなかったらしい。いざというときは制圧できるように、こっそり用心棒を雇っていたわけだ」

 

「ああ、なるほど」

 

 あの村長がやりそうな話だ。

 

 この世界の奴隷は、魔法で絶対服従というわけではない。

 となれば、反乱がおきる可能性も当然あるというわけだ。

 

 幸いにも今はそういう兆候はないようだが、奴隷の扱い方が扱い方だ。そういう未来もなくはないだろう。

 

 それに備えて雇われたのが、フィーネの親父さんという話だった。

 

 奴隷が逆らってきたとき、鎮圧してもらうための武力というわけだ。

 

 一人だけでどこまでやれるかは不明だが、別に農奴以外の村の大人たちも戦えないというわけじゃないし、戦闘経験のある人がいるのといないのでは違うということなのだろう。

 

 フィーネの話では森でモンスターを狩ったりもしているらしいし、少なくとも村の誰よりも強いのは間違いない。

 

 あるいは、いざというときの避難先として用意しているのか。

 

 こっちの可能性の方が高そうだな。

 

 フィーネの事情もあるのだろうが、村とは別の場所に家を構えているのは、そういう理由もあるのかもしれない。

 

「儂らに黙ってたのもそれが理由らしい。儂だけは信用されてるから教えてもらったがな」

 

「反抗心を抑えるためなら、逆に教えておいた方がいい気もするけど」

 

 反抗という選択肢自体に気づかせたくないのかな?

 

 まあ、そのあたりは村長の感覚だ。

 

「そんなわけで、これから先も何度か村で見かけることがあると思うが、あんまり近づかないようにな」

 

 他の奴には内緒だぞ、と世話役は念押しして去っていく。

 

 あれだな。他の農奴には隠している中、自分だけは教えてもらえたのが嬉しかったので、俺に自慢しに来たのだろう。

 

 前はあんなに愚痴ってたのに、少し好意的に接してもらえただけでああなるんだから、人の優しさに飢えた奴隷って奴はちょろくて困るぜ。

 

 でもいい話を聞かせてもらった。

 

 あの人がフィーネの父親なら、世話役の言う通り近づかない方がいい。

 

 フィーネから話を聞いている俺にはわかる。あの人はかなりの親馬鹿だ。

 

 娘をとても大事にしているようだから、自分が知らない間に子供とはいえ、男と仲良くなったと知ったらいい気はしないだろう。

 

 娘はやらんと言って、あの剣で真っ二つ、なんてことになりかねない。

 

 これまで以上に慎重に行動するとしよう。

 

 ……と思っていたのだが。

 

 数日後。

 

 やはり畑の石を運ぶ仕事をしていた俺を、手招きする男の姿があった。

 

「お~い。少年。ちょっとこっちに来てくれないか」

 

 アロガンド・アルトゥール。

 

 フィーネの親父さんその人だった。

 

 

 

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