分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第11話  幸福を含む

「君だろ? うちのフィーネと仲がいい子供ってのは」

 

 俺を手招きして呼び寄せたフィーネの親父さんは、開口一番そう言った。

 

 ばれないように大人しくしておくとか、そういう段階の話じゃなかった。全部ばれてる。

 

 なんでだ?

 

 俺は顔を青ざめさせ、腕を組んで見下ろしてくる偉丈夫を見上げることしかできなかった。

 

「内緒でフィーネと会ってたみたいだが、さすがに気付くさ」

 

「い、いつから?」

 

「ひと月くらい前だな。フィーネが家から調味料やら本やらを頻繁に持ち出してたから、気になってこっそりと後をつけてみたら、君と一緒に遊んでるのを見つけてな」

 

 フィーネの油断が原因だったが、馬鹿なのは俺である。

 

 会うたびにパンやらスープやらをご馳走になっていたら、そりゃ気づかれるというものだ。

 

 でも待てよ。一カ月前?

 

 ということは、逆にそれだけの期間見逃してもらえてたってことになる。

 

 ……もしかして、怒ってない?

 

 改めてアロガンドさんの表情をうかがうと、目つきは鋭いが、別に俺をにらんでるわけではなさそうだった。元々、こういう顔つきなだけのようだ。

 

 つまりあれか。こうして呼び出されたのは、娘と仲がいい子供がどんな相手なのか気になったからというだけなのか。

 

 そういうことなら。

 

「あいさつが遅くなってすみません。娘さんと仲良くさせてもらっている、アインって言います」

 

「ああ、オレはアロガンドだ。フィーネより小さいのに、しっかりとあいさつできて偉いな」

 

 アロガンドさんが俺の頭に向かって手を伸ばす。

 

 思わずびくりと肩を震わせてしまったが、彼の大きな手は俺の頭に置かれ、そのままグリグリと撫でられる。

 

 無骨な手ながら、優しい手つきだった。

 

「ありがとな、うちの娘と仲良くしてくれて。一度感謝を伝えたいと思っていたんだ」

 

「こ、こちらこそ、フィーネさんと仲良くさせてもらえて嬉しく思ってます」

 

「本当に礼儀正しい子供だな。びっくりだ」

 

 俺の頭をひとしきり撫でたあと、アロガンドさんはしゃがみ込んで目線を合わせてくれる。

 

 これだけで、なんとなく彼の性格がわかった気がした。

 

 よくよく思い返してみれば、フィーネからも親父さんが怖いという話は聞いたことがなかった。

 

 ただ村とは距離を置くようにフィーネが言われていたから、勝手にばれるとまずいと勘違いしていただけで、話を聞くかぎりはむしろとても優しい人だ。

 

「あの、フィーネさんと勝手に会っててごめんなさい。フィーネさんから聞きました。あんまり村人と会わないように言われてたって」

 

「ああ、それか」

 

「フィーネさんは怒らないであげてください。俺がしつこく会いに行ったのが悪いんです。別にフィーネさんが約束を破ったとかじゃないですから!」

 

「いやいや! そんな謝らないでくれ!」

 

 頭を下げる俺に、アロガンドさんの方が慌て始める。

 

「そもそも、別に村の人と会うなって話じゃなかったんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「もしかしたら聞いたかもしれないが、フィーネは前に暮らしていたところで色々あってな。人に対して、特に同い年くらいの子供に不信感……ああいや、なんというかな。怖くなってたんだ」

 

「実際に聞いてはいませんが、なにかがあったんだって言うのは察してます」

 

「そうか。……そういう風に聞かないでいてくれる君の距離感が、あの子にはありがたかったんだろうな」

 

 そう言って、もう一度アロガンドさんは頭を撫でてくれる。

 

「オレは村の人とは無理に会わなくてもいいぞ、って意味でフィーネに言ったつもりなんだが、どうやらフィーネは勘違いしちゃったみたいだな。これはオレの言い方が悪かっただけだから、君は気にしないでいい。フィーネにも後でちゃんと勘違いを正しておくよ」

 

「それならよかったです」

 

「本当にな、君には感謝してるんだ。お陰であの子は、前みたいに笑ってくれるようになった。いい出会いがあったんだって、オレみたいな奴が、それこそ簡単に気づいてしまうくらいに」

 

 俺を見るアロガンドさんの眼には、たしかな感謝の色があった。

 

 本当に、ただこの人はお礼を言いに来てくれただけなのだろう。

 

「いつか君になら、フィーネも自分から秘密を告白できるかもしれない。そのときは、笑顔で受け止めてあげて欲しい」

 

「はい」

 

「いい子だ」

 

 最後にポンと俺の頭を軽く撫で、アロガンドさんは立ち上がった。

 

「今度はオレがいるときに家に来なさい。きちんと歓迎させてくれ」

 

「是非とも。……でも、あの」

 

 俺は口ごもる。

 

 俺がフィーネの友達とわかったのなら、前から俺の姿を村で何度か確認していたということだ。

 

 他と比較できないフィーネは気づかなかったが、俺の格好が他の村の子供よりも貧相ということを、アロガンドさんは察しているはずだ。

 

 つまり俺の立場も。

 

「俺は、その」

 

「君はフィーネの友達のアインくんだ。そうだろ?」

 

 俺の言おうとした言葉を切り捨てるように、アロガンドさんはそう言い切った。

 

「それに君を森の奥にある家に誘ったのはオレだ。もし他の誰かになにか言われるようなことがあったら、オレの名前を出せばいい。誰が相手だろうと、そいつとはオレがきっちり話をつけるよ」

 

 さらにウインクをひとつ。

 強面なのに、そうするとなんとも愛嬌のある顔になる。

 

「他にもなにか困ったことがあったら相談してくれ。できるかぎり力になるから」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「うしっ! それじゃあ、アインくん。また会おうな!」

 

 アロガンドさんが手をあげて去っていく。

 大きな背中が見えなくなるまで、その場で見送りながら俺は思った。

 

 おいおい、なんだよ。あの格好いいおじさまは?

 

 あんなことされたら、警戒心の強い俺みたいな子供だって、一発で好きになってしまうんだからな!

 

 

 

 

 

「というわけで、親父さんには俺たちのことがばれてたっぽい」

 

 翌日。いつもの森の秘密スペースでフィーネと会ったとき、俺は昨日の出来事を話して聞かせた。

 

「うん、わたしも昨日お父さんから聞いた。別にばれたからってわたしたちの仲を引き裂くようなことはしないって。だから家に連れてきなさいって」

 

 引き裂くとは。

 

「でも良かったな。親父さんに怒られたりしなくて」

 

「それはよかったけど」

 

 フィーネは頬をふくらませて、どこかふてくされた様子でつぶやく。

 

「……二人だけの秘密の約束だったのに」

 

 あらあら。フィーネさんは友達同士の約束自体が大切だったらしい。

 

「あ、でも、安心してね。ちゃんとお父さんには、アインがここに来てることは村の人には黙っているように言っておいたから! もしばらしたら、お父さんのこと大嫌いになるって言っておいたから大丈夫だよ!」

 

「それは助かる。俺の方はばれたら本当に終わりだからな」

 

 あの様子なら、アロガンドさんも口を噤んでくれるだろう。

 仮にばれたとしても、庇ってくれるとまで遠まわしに告げられた。

 

 渋くて格好いい人だ。さすがはフィーネの父親。この世界に来て初めて、尊敬できそうな大人に会ったかもしれない。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて家に上がらせてもらおうかな」

 

「うん、付いてきて」

 

 フィーネの先導に従って、彼女の家までついていく。

 

「お、来たな」

 

 庭でアロガンドさんが、畑をいじりながら待っていてくれていた。

 

「歓迎するぞ、アインくん。もう少し畑を触ったらオレも家に戻る。そしたらご馳走を用意してやるからな」

 

「お父さん。アインのご飯はわたしが作りたい!」

 

「そうかそうか。じゃあ一緒に作るか」

 

「それなら俺も手伝いますよ。なんなら、代わりに畑仕事をしてもいいですけど」

 

「それは助かるな。本を参考にしてはいるんだが、どうも上手く芽が出なくてな」

 

「どれどれ」

 

「ちょっ、お父さん。アインも。わ、わたしも畑手伝うから!」

 

 三人で畑の方へ行く。

 

 アロガンドさんもフィーネも作業する手は楽し気だ。ふんふんふ~んと鼻歌が両隣から聞こえてくる。やっぱり親子なんだな。

 

 しばらく作業をしたあと、家に招かれご馳走を振舞われる。

 

 パンとスープ、それに川魚を野草やハーブと一緒に焼いたもの。

 さらには森で狩ったのか、動物の肉がローストされて塊で置かれていた。

 

「こ、こんなご馳走、本当に俺が食べてもいいんですか?」

 

「遠慮しないで食ってくれ。君のために用意したものだからな」

 

 半分ほど水を注いだコップに、赤色のフルーツを絞り入れたものを、アロガンドさんは俺とフィーネの前に置いた。

 

 自分の前に置いたカップにはワインを注ぎ入れ、片手で持ち上げる。

 

「それじゃあ、二人の出会いに乾杯!」

 

「かんぱ~い!」

 

「か、乾杯!」

 

 いきなりのことに反応できなかった俺は、慌ててコップを持ち上げてフィーネとアロガンドさんと乾杯する。

 

 礼儀として、一口飲んでみる。

 

 柑橘系の甘さと香りが喉を通り抜けていく。オレンジに近い果物だろうか。とても美味しい。

 

 それよりも俺の目は肉の塊に釘付けだった。

 

 湯気を立て、こんがりと焼けたお肉は輝いて見えた。実際に脂と振りかけられた粗い塩の粒が光に反射し、キラキラとした輝きを放っている。

 

 夢にまで見たお肉だ。見ているだけで涎が出てくる。

 

「アイン。お肉取り分けてあげるね」

 

 俺の視線に気づいたのか、添えられていたナイフを手に取って、フィーネが肉を切り分けてくれる。

 

「フィーネ。お父さんも欲しいな」

 

「アインの後でね」

 

 娘の言葉にアロガンドさんは苦笑して肩をすくめると、ワインのコップを傾けた。

 

「はい、どうぞ」

 

 フィーネが食べやすい大きさに切り分けた肉を、俺の目の前に置いてくれる。

 

「ありがとう」

 

 お礼を口にしつつも、視線はお肉から離せない。

 

 切り分けられてなお、大きなお肉が二切れもある。

 震える手でつかんだフォークで刺し、大きく口を開け、ぱくりと一口で頬張る。

 

 途端、あふれ出る肉汁。迸る肉の旨味。

 

 美味い! 美味すぎる!

 

 噛む度に舌の上に広がる暴力的なまでの味わい。塩とハーブによる味付けは、完璧と言わざるを得ない。

 

 …………あれ? 不思議だな? な、涙が出てくる。

 

 それくらい美味しい。今日までがんばって生きてきてよかった。

 

 ……ああ、そうだ。

 

 そう、だよ。

 

 俺は本当に、今日まで、がんばって生きてきたんだよ……。

 

 もう一口、肉を頬張る。

 涙は止まらなかったが、噛む度に自然と笑みが浮かんでくる。

 

「美味しい。美味しいです。これ、最高に美味しいですよ」

 

 にじむ視界の隅で、フィーネとアロガンドさんが顔を見合わせ、そろって微笑んだ。

 

「アイン。お代わりよそってあげるね」

 

「ああ、たくさん食べてくれ」

 

 それは間違いなく、この世界に生まれてから一番楽しくて、素敵な、幸福を味わう時間だった。

 

 

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