分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第1話  異世界分身生活の始まり

 前世で社畜をしていた俺は、死んで転生した今世でも社畜をしていた。

 

 社畜というか奴隷である。農奴って奴だな。

 

 ご主人様である村長の命令で朝から晩まで畑仕事。

 飯は塩だけで味つけられた薄い麦粥みたいなものを少し。

 かろうじて屋根だけはある掘っ立て小屋で寝起きしているため、夏は虫が隣人で、冬は凍死と隣り合わせだ。

 

 そんな環境に耐えながら作った作物は、すべて村のものになってしまう。

 

 当たり前だが賃金も出ない。

 

 なら他でお金を稼ごうにも、農奴には自由時間というやつがほとんどない。

 

 逃げようにも農奴同士による相互監視社会が作られていて、村の敷地内から出ることすら難しい。

 

 一度農奴に堕ちたら死ぬまで農奴。

 救済策の設けられていないタイプの奴隷制だった。

 

 つまり生まれながらに農奴な俺は、死ぬまでこのままというわけだ。

 

 ……いやマジで解決策が思いつかない。

 

 転生したのは嬉しい。

 

 なんで死んだかは覚えてないが、おそらくは過労死だろうから、転生できたのは本当に嬉しいよ。

 

 しかも村に定期的にやってくる領主の徴税官と鎧姿の兵士が、村人のケガをよくわからない光で治していたのを見るかぎり、ここは剣と魔法のファンタジー世界のようだった。

 

 初めてその事実に気づいたときには、思わず涙を流して喜んだものさ。

 

 けど転生先の環境が最悪だ。農奴って。

 貴族に転生させろとまでは言わないが、せめて一般庶民で許してくれよ。

 

 しかも農奴の中でも、俺の状況は輪をかけてよろしくない。

 

 母親は俺を生んですぐ病気かなにかで死んでしまった。

 

 父親にいたっては、そもそも誰かわからない。

 

 村長によって農奴の結婚相手は同じ農奴と決められているから、おそらく村にいる農奴の誰かなのだろうが、母は未婚で俺を生んだらしいので、誰の種かはわかっていない。

 

 うっすらと記憶にある母はかなりの美人さんだったので、下手したら農奴以外の村人に手を出された可能性もある。村長のエロ息子あたりが一番怪しい。

 

 どちらにせよ、俺に両親がいないという事実は変わらない。

 

 他の農奴たちに乳を与えられて育てられたが、扱いは雑も雑。俺が転生者でなければ、普通に死んでいただろう。

 

 同じ子供でも、やはり自分の腹を痛めて生んだ子供の方が可愛いのは理解できるが、乳幼児をたびたび地面の上に一時間以上も放置するとか勘弁してほしかった。

 

 雑な扱いは今も続いていて、同い年の子供には簡単な仕事が割り当てられているのに、俺といえば大人に混じって体力仕事だ。

 

 知ってるか? 畑仕事って、かなりの重労働なんだぜ?

 

 俺、御年八歳です。前世なら小学校に通っている年齢だ。

 

 それなのに毎日毎日働かされている。

 仕事中はほとんど休憩もなく、休日ももちろんない。

 

 前世のブラック企業が楽園に思えるくらい、普通に死ねる労働環境だ。

 

 それでも死んでいないのは、この世界の人間が、前世よりもいくらか丈夫だからだろう。

 

 スーパーマンとまでは言わないが、明らかに前世よりも肉体のスペックが高い。

 

 八歳の俺だが、前世でいうところの十二歳前後、小学校高学年くらいの身体能力と体力があったりする。

 

 魔力の仕業かな。魔力の仕業でしょうね。

 

 他の誰に聞いてもそれが普通だろみたいな反応をされるので正直なところわからないが、俺は異世界の不思議パワーによるものだと思っている。

 

 ……それでも、限界は近い。

 

 いくら身体能力が高いといっても、しょせんは八歳の子供だ。こんな過酷な労働に長期間耐えられるはずもない。

 

 今日はついに畑仕事の途中で力尽き、倒れてしまった。

 

 目を覚ましたのは陽が沈んだあとで、畑の横に放置されておりました。

 医者を呼んでもらえるとは思ってないが、まさか誰も看病してくれないなんて。

 

 薄々わかってたけど、これ俺、死んでもいいと思われてるよなぁ。

 

 親がいない。友達と呼べる相手もいない。なんなら、前世の記憶があったからか、子供らしくない子供とじゃっかん気味悪がられている俺である。

 

 周りからの視線と扱いをかんがみれば、俺の死が望まれているのはわかりきっていた。村長の農奴の扱いはどんぶり勘定で、一人いなくなればその分他の農奴がたくさんご飯を食べられるような環境なのだ。 

 

 死。

 

 死ぬのか、俺。

 

 どれだけ頭をひねっても、この状況から抜け出す術はなさそうだ。

 

 となれば、やれることはもうひとつしかない。

 出そうになる涙をこらえながら、手を組んで月を見上げる。

 

 この世界が異世界だと気づかされた理由でもある、いつでもどんなときでも寄り添う二つの月。

 

 願わくば、来世がまたありますように。

 願わくば、来世では幸せになれますように

 

 なんて、神様仏様お月様に向かって祈りを捧げたのがよかったのか。

 

 唐突に、なんの前触れもなく。

 

 俺は固有能力(スキル)を授けられたのだった。

 

 

 

 

 

 スキルとは、一定の法則で動くらしい魔法とは違って、ルール無視で発動できる特殊な能力のことだ。

 

 指先に小さな火を灯す程度の些細なものから、手のひらから山をも消し飛ばす光を放つやばいものだったり、あるいは明日の天気が百発百中でわかるといった風変りなものまで十人十色の力があると、前に農奴の一人から聞いたことがある。

 

 かなり特別な能力だ。

 

 持っている人は少なく、ものによっては農奴から解放して取り立ててもらえる可能性もあるらしい。

 

 スキル自体は生まれながらに持っていることがほとんどだが、極まれに生まれたあとに突然授かることもある。

 

 周りの大人たちはことあるごとにスキルが欲しい、スキルさえあればなぁ、とぼやいていた。前世でいうところの、宝くじ当たらないかなぁ、だな。

 

 そんなスキルに俺、当選してしまったようです。

 

 マジかよ。

 

 俺には与えられた力がどんな能力で、どんな風に使うのかも自然とわかっていた。

 

 俺のスキル――それは『分身』だ。

 

 前世のフィクション作品に出てくる忍者がよく使っていた、あの分身の術である。

 

 使い方もまんまそのまま。左手の人差し指を立て、それを右の手で握りこみつつ人差し指を天に向ける。

 

「分身の術」

 

 目の前に忽然と一人の子供が現れる。

 

 灰色の髪に紫色の眼をした、ぼろをまとった痩せた小さな男の子。

 

 今世の俺の姿だ。初めて見た。眼、紫色なんだな。ていうか痩せすぎだろ。顔色も悪すぎ。今にも死にそうだ。

 

 でも結構美形じゃね?

 

 そんな感想が頭を過ぎる中、分身の俺は本体である俺をまっすぐ見て口を開いた。

 

「諦めんな。ここからだぞ、本体。俺たちはこの世界で幸せになるんだ」

 

 さすがは俺だな。いいこと言うぜ。

 

「当たり前だ。俺は絶対、この分身スキルを使って成りあがってやる!」

 

 二重の意味で自分自身にそう誓い――そうして、本当の意味で俺の第二の人生が幕を上げる。

 

 異世界分身生活の始まりだった。

 

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