分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第21話  再びの死を超えて

 生きながらに死を経験することはできない。

 

 少なくとも前世ではそうだったが、分身スキルがあればその正論も間違いになる。俺は分身を通し、生きながらに死を経験することができるのだ。

 

 分身の消失と共に流れ込んでくる記憶。

 

 今までも衝撃を伴った知識と経験の共有は、今度ばかりはさらなる衝撃をもってもたらされた。

 

 死。

 

 恐怖、絶望、不安、あらゆる負の感情に似ていて、そのどれとも似ていない、■■で■■な■■の塊。

 

 全身を包み込む言語化不可能なおぞましさは、しかし俺にとっては二度目のもの。

 

 いやだって、こちとら転生者である

 

 一度は死んで生まれ変わった身。死のさらにその先を見たというわけでもないのだし、今更死の恐怖に屈するほどやわではないのだ。

 

 …………ごめんなさい。時間をください。なんとか落ち着くので。

 

 息と心臓の鼓動が落ち着いたところで、俺が最初に気にしたのはフィーネの安否だった。

 

 途切れる分身の俺の最後の記憶。

 

 そこではサイクロプスが光によって消し飛ばされ、その光によって俺の身体も消し飛ばされた光景だった。

 

 それと時を同じくして、本体の俺は森の方角からすさまじい光と衝撃とを感じ取っていた。天すら貫かんばかりの白い輝きは、遠く離れたコルニ村からでも余裕で観測できたのである。

 

 なのでサイクロプスが消滅したのは間違いないだろう。フィーネの命が脅かされる心配はないはずだ。

 

 そこは安心すべきところだが、問題はそれで終わらない。

 

 モンスターは突然現れた脅威なだけで、そもそもの問題は六聖教会の方だ。

 

 あの光だ。間違いなく、フィーネの居場所は教会の連中にばれたはず。アロガンドさんの説得は上手くいったようだが、実際の結果までは確認できていない。もしかしたら今頃、フィーネがさらわれてしまっている可能性は否定できない。

 

 こうしてはいられない。フィーネの許へ急がないと。

 

「問題は、俺が今閉じ込められているということだな」

 

 現在、俺がいるのは村長宅の一室だった。

 

 地下に作られたこの場所は、四方に木の格子がはめられ、出られないようになっている。

 

 木でできた牢屋。村では罰を受ける罪人が入れられる部屋だ。

 

 なぜこんなことになっているかといえば、分身の俺が慌てていたため、みんなの目の前で森に逃げ込んでしまったことに起因する。

 

 そう、大捜索の始まりだね。

 

 森の中に潜んでいた本体の俺は、そのままあっけなく村人に見つかってしまったわけである。

 

 あのときはまだ分身の記憶が共有されていなかったため、六聖教会の存在を知らず、純粋にばれてしまったと慌てたのだが、村の人間からしてもそれは同じ。

 

 なんでいきなり森に入ったんだと詰問され、話の流れがよくわからずしどろもどろな返答しかできず、その最中に白い光が森の一部を消し飛ばす騒ぎがおき、俺はとりあえず牢に入っていろと叩き込まれたわけである。

 

 分身が消えるまで、あの日見た拷問を俺もされるのかとやきもきしつつここに閉じ込められていたわけだが、記憶の共有が終わったことでやらないといけないことははっきりした。

 

 さあ、脱出しよう。

 

 忍者のポーズを組む。

 

 牢といっても、入口を複数の閂でふさがれているだけの簡単な作りだ。そして俺は分身を作り出すとき、視界内であれば距離が離れた場所に分身体を出現させることができる。

 

 牢の外に分身を作り出してしまえば、脱出は簡単だった。

 

 もちろん、この牢を出てしまえば、俺はさらなる罪に問われるだろう。今までどおり、この村で過ごすことはできなくなる。

 

 知ったことか。今はフィーネのことが最優先だ。

 

 ここで動かないと一生後悔する。

 

「分身の術」

 

 分身を作り出し、閂を外す。

 

 部屋を脱出し、地上へと続く階段をゆっくりと上がっていく。

 

 顔だけ出して周囲を見回す。村長の家に人の姿はなかった。皆、あの光のことでてんやわんやなのだろう。

 

 好都合だ。

 

 一度分身を消し、村長の家を後にする。

 

 村はやはり大騒ぎだった。

 なにが起こったのかわからず、みんな慌てふためいている。

 

 村長の姿は村中央の小さな広場にあった。何人かの村人と相談している。

 

「あの光がなんだったのか、森に見に行った方がいいんじゃないか?」

 

「けど危ないんじゃ」

 

「六聖教会の方々が森にいるんだろ? やはりあの方々がなにかしたのでは?」

 

「なにかってなんだよ」

 

「魔法とか?」

 

「馬鹿いえ。魔法だからって、あんなことできるものか」

 

「なら聖女様の力だろ」

 

「スキルの力か。そういや、山を消し飛ばすスキルもあるって話だし」

 

「どちらにせよ、やっぱり見に行くべきじゃなんじゃあ」

 

「ならお前行けよ」

 

「嫌だよ、怖いじゃん」

 

 そんなことを話している。

 

 村長は難しい顔で考え込んでいるが、すぐには動かない様子だった。俺は彼らに見つからないよう、森に忍び込む。

 

 森に入った段階でもう一度分身を出し、一緒になって周囲を警戒することで安全を確かめつつ、できるかぎり急いで森を駆け抜けていく。サイクロプスの他にも、モンスターが森の奥から出てきているかもしれないからだ。

 

 ややあって、サイクロプスと遭遇した場所までやってくる。

 

 そこには森の出口まで一直線に刻まれた破壊のあとがあった。木々はもちろん、草や地面までが抉られ、消し飛んでいる。

 

 そこには例の六聖教会の兵士たちもいた。

 あのマント姿の男性と五人の兵士が、破壊のあとを見分している。

 

 どうするか。

 

 森が完全にこの場所で大きく切り拓かれてしまっているので、彼らに見つからないように遠回りするとなると、相当遠回りしなければならなくなる。

 

 そうこうしているうちに、フィーネが連れていかれてしまうかもしれない。

 

 かくなる上は危険を承知で飛ぶこむべきか。

 

 様子見で分身だけを行かせるという手もあるが、正直、まどろっこしいし時間も惜しい。戦闘に発展した場合は分身単身で向かわせても意味がない戦力差だし、ここは分身をいざというときのための奥の手として取っておくべきだろう。

 

 一度分身を消してから、木の陰に身を潜めつつ状況の推移を観察していると、男たちの相談する声が聞こえてきた。

 

「しかし、ザリオ隊長。すさまじい破壊の痕ですね」

 

「そうですね。これが十歳の子供の手によるものだと、一体誰が信じましょうか」

 

 ……やはりあの光は、フィーネが放ったものらしい。

 

 結果的にフィーネによってサイクロプスごと俺はとどめを刺されたわけだが、もちろん恨んでなんていないし、俺のことが嫌いだったから俺ごとサイクロプスを狙ったとも思っていない。

 

 フィーネがそんなこと考えるわけないだろ。

 

 おそらくはスキルの暴発だろう。

 彼女自身、自分のスキルがどれだけの破壊をもたらすか理解していなかったのだ。

 

 彼女の境遇からして、俺みたいに毎日毎日スキルなんて使っていなかっただろうし、把握も十分ではなかったはずだ。

 

 あれは事故だ。それにそもそも、フィーネがとどめを刺さなくても、俺はあのまま死んでいた。俺を助けようとがんばってくれたのだと思えば、ありがとうという気持ちの方が先に来る。

 

 気にしないさ。

 

 むしろフィーネの方が心配だ。

 結果的に俺を殺したと勘違いしていないだろうか。

 

 やはり彼女に会わないといけない。

 

 アロガンドさんの説得が実を結んだことを信じよう。姿を晒したとて、いきなり殺されたりはしないはずだ。

 

 勇気出して、木の陰から進み出る。

 

「おや、あなたは?」

 

 俺に最初に気づいたのはザリオと呼ばれた隊長の男だった。

 

「……コルニ村にいた子供ですね。あなたも気になって見に来たのですか?」

 

「そうです。村からでも、あの光は見えてましたから」

 

「でしょうね。誰か、村に事情を説明に向かってください。混乱させるのは本意ではありません」

 

「はっ!」

 

 ザリオの指示で、兵士の一人が村の方へ向かおうとする。これで良くも悪くも村の混乱も落ち着くだろう。俺の脱走にも気付かれるな。

 

「ああ、待ちなさい」

 

 そこで一度呼び止めるザリオ。

 

「もう二人……そうですね。あなたとあなたも一緒に行きなさい」

 

「三人もですか?」

 

 過剰ではないかと反応する兵士に、ザリオは破壊のあとを指さして、

 

「忘れたのですか? この森にはサイクロプスが出たのですよ? あなた方なら大丈夫でしょうが、警戒するに越したことはありません」

 

「たしかに。では三人でコルニ村へ向かいます」

 

「ええ、村人を安心させてあげなさい」

 

 兵士たち三人が胸に手を当てる敬礼をし、村の方へ走る。

 

「さて」

 

 兵士たちが見えなくなったあと、ザリオが近づいてくる。

 

 近くで改めて見た彼は、鎧姿ながら威圧感のない不思議な立ち姿をしていた。口元に笑みを絶やさず、物腰も柔らかい。

 

 しかし俺を見下ろす瞳には、他の村人たちのような嘲りが込められていた。

 

「もしかして、君はフィーネ・アルトゥール殿と仲がよかったりしませんか? お友達だったり?」

 

「あ、はい。俺はフィーネの友達です」

 

「ふ~む、やはり」

 

 ザリオはよくよく俺の姿を見る。

 

「フィーネ殿はお友達を殺してしまったと塞ぎこんで、聖女様と御父上に慰められています。その御父上であるアロガンド殿のお話では、殺してしまったのは灰色の髪をしたアインくんとおっしゃられるそうですが、もしや君では? あの村に他に灰色の髪をした子供はいませんでしたよね?」

 

「はい。俺がアインです」

 

「生きてますよね?」

 

「生きてます」

 

「怪我もしてないですよね?」

 

「してないですね」

 

「……聞いていた話と違うのですが」

 

「ザリオ隊長。フィーネ殿はこの場でモンスターと遭遇し、これをスキルをもって撃退したとのお話です。その際、友人をスキルの破壊に巻き込んでしまったと。ですが状況が状況です。そのように勘違いしてしまっただけでは?」

 

「そうでしょうね」

 

 部下の言葉に、ザリオも同意を示す。

 

 フィーネからしたら殺してしまったと思っただろうが、こうして生きて目の前に俺がいるわけだ。話を聞いたこの人たちからすれば、そう思うのも無理はない。

 

 どちらにせよ、やはりフィーネは落ち込んでいるようだった。

 

「あの、フィーネのところに行ってもいいですか? 俺が死んだって勘違いしてるなら、無事な姿を見せてやらないと」

 

「ええ、それはダメです」

 

「じゃあ失礼し……え?」

 

 集団を避けてフィーネの家に向かおうとしたが、ザリオに行く手を遮られる。

 

 まさか断られるとは思っていなかった俺は、不思議そうな顔で見返してしまった。

 

「聞こえませんでしたか? フィーネ殿の許へ行くのは許可できないと言いました。二度言わせないでください」

 

 ザリオの雰囲気が変わる。

 

 丁寧な言動こそ変わらないものの、口元から笑みが消え、傲慢さを隠し切れない様子で肩をすくめて見せた。

 

「しかしまさか、勘違いであそこまで塞ぎこんでいようとは。我らが六聖勇者様がなんとまあ情けないこと。好都合だと喜んだ私が馬鹿みたいではないですか」

 

「……どういうことですか?」

 

「わからないのですか? 君が顔を見せれば、フィーネ殿は自分の勘違いに気づいてすぐ立ち直ってしまうでしょう?」

 

「それのなにが悪いっていうんですか?」

 

「悪いでしょう。この先私の手駒にするには、精神的に不安定な方がやりやすいんですから」

 

「は?」

 

 こいつは、なにを、言ってるんだ?

 

「偶然ではありますが、今のフィーネ殿は大変都合がよろしい。ああいう娘は、自分に向けている怒りや憎しみを、別の方向に向けてやればいいんです。しかも元々はモンスターが現れたことが発端とか。完璧ではないですか。少し背中を押すだけで、モンスターに復讐を誓う殺戮人形ができあがる」

 

 ぺらぺらぺらぺらと、ザリオは聞いてもいないことを口にする。

 

「それを私が上手く制御できれば、私の評価も上層部の中で上がるというもの。いや、槍の担い手を持ち駒にできるなら、私自身がそのまま上層部に行くことも可能かもしれません。聖女様の目を盗むのは大変そうですが、ふっふっふ、これから楽しくなりそうです」

 

「……あんた、なにを言ってるんだ?」

 

「わかりませんか? 私の輝かしい未来のお話です。そしてその未来のために、君は邪魔だというお話ですよ。奴隷のアインくん」

 

 ザリオがパチリと指を鳴らすと、残った二人の兵士たちがお互いに目配せし、剣に手をかけながらゆっくりと俺を取り囲むように動き出す。

 

 こいつら本気なのか?

 

 そんな理由で、俺をこの場で亡き者にするつもりなのか?

 

 フィーネが立ち直ると都合が悪いからと、ただそれだけの理由で?

 

「あんたになんの権利があって、こんなことをするんだ!?」

 

「権利ならあります。なぜなら、あの槍を最初に見つけたのは私だ。一年以上も探し回り、この場所を突き止めたのも私だ。方々に下げたくもない頭を下げ、兵を用意したのも私なのだ! そう、私には【輝ける槍】を手にする権利がある!」

 

「じゃあお前が、フィーネの平穏を壊した張本人だっていうのか!?」

 

「平穏? 勇者様は、この場所でそんなに楽しそうに過ごしてたのですか? 目の前で友人を見殺しにしているのに?」

 

 ザリオは二人の兵士と顔を見合わせると、ぷっと噴き出して嗤い始める。

 

「なんだ! そんなすぐに忘れるなんて、やっぱり友達だなんて思ってなかったんじゃないですか! 可哀そうな、あー、名前なんでしたっけ?」

 

「知りません」

 

「隊長。そもそも俺ら、あのガキどもの名前なんて聞いてないですぜ」

 

「そうでしたね。最初はいつもの遊びのつもりでしたし。ふっふっふ、まさかあれが【輝ける槍】につながるとは、さすがの私も予想していなかった。そういう意味では、あの子らは十分以上に我らの役に立ってくれたわけですね。おお、あの子らの魂に始祖ハルルカンの加護のあらんことを」

 

 目の前で繰り広げられている会話の意味は、半分もわからなかった。

 

 しかし、こいつらが外道であり、フィーネの敵であることだけははっきりと理解できた。

 

 俺の敵であることは。

 

「ま、最後の最後で、聖女様がどこからか嗅ぎつけて同行してきたのだけが想定外でしたが……私ならなんとかできるはず。未来は明るいというものです」

 

 ひとしきり自分に酔いしれたザリオは、俺に向かって持っていた杖を突きつける。

 

「フル ヴェルド エムラ」

 

「っ!? 魔法か!?」

 

「ええ、炎の魔法です。安心して焼かれてください。あなたの望みどおり、死体になったらちゃんとフィーネ殿に会わせてあげますからね」

 

 ザリオは杖の先に魔法の焔を灯すと、酷薄に嗤った。

 

 内面の醜さがにじみ出た、醜悪な笑み。

 

「その方がフィーネ殿も、自分が殺したことがより実感できるでしょう?」

 

 同時に、容赦なく魔法の火は放たれたのだった。

 

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