分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第26話  自称少女

「それにしても、相部屋っていうからどんな相手と一晩過ごすのかと思ったら、あなたみたいな子でよかったわ」

 

 セリカと名乗った少女は、持っていた荷物を床に置くと、俺が使っていたのとは別のベッドに腰かけた。

 

「硬い寝台ね。ま、いいわ。毛皮を敷けば大丈夫でしょ」

 

 自分の荷物から大きな毛皮を取り出し、セリカはベッドにマット代わりに敷く。

 

 動物かモンスターかはわからないが、一体を丸ごと毛皮にした立派な代物だ。整った装備といい、本当に凄腕の冒険者なのかもしれない。

 

 というか、女の子と一緒なのか。

 

 ううん、気を使うな。

 

「ね、あなた。名前はなんていうの?」

 

 一通りベッドメイキングを済ませたあと、セリカがまた話しかけてきた。

 

「俺はツヴァイ。よろしく」

 

「俺? ツヴァイ? ……あなた、もしかして男?」

 

 目を丸くしたあと、疑わし気に見てくる。

 

「もしかして、女だと思われてた?」

 

「そりゃそうでしょ。普通、同じ部屋を使うのは同性同士だし」

 

 そうとは限らないのが、相部屋の怖いところか。

 

 きっと、女性のお客さんが他にいないのだ。それで俺があてがわれた。年齢を考えれば、消去法で俺が一番という結論も納得はいく。

 

「本当に男? 背だって小さいし、体つきもなんか男っぽくない」

 

 顔を近づけられ、性別を疑われる。

 

 そんなに俺は女顔だろうか。自分でいうのもなんだが、今世の俺はかなり顔が整っているので、見ようによってはそう見えなくもない。

 

 あと体格は仕方ないだろ。これでも肉がついてきた方なんだ。

 

 最近までずっと栄養不足だったので、身長も体格も、同年代の子供に比べてまだまだ小さくて細いのは自覚している。

 

 男らしさとは無縁の年齢ということもあり、性別を勘違いされるのもわからない話でもない、か?

 

 ……少しショックだった。お金に余裕ができたらもっと肉食べよ。

 

「これでもれっきとした男だ。残念だったな」

 

「ま、どっちでもいいか。年下の子供だし。今七歳くらい?」

 

「九歳」

 

「嘘!? あたしの八歳の弟よりも、どう見ても小さいじゃない!」

 

「うるさいな。そういうあんたこそ、何歳なんだよ?」

 

「あたし? あたしは十四歳。あなたよりずっとお姉さんね」

 

 頭を無造作に撫でられる。

 

 圧倒的子供扱い。これで相手がアロガンドさんくらい大人ならともかく、相手もまだまだ子供だ。なんかむかつく。

 

「ツヴァイ、だっけ? あなた一人で宿に泊まってるの? お父さんとお母さんは?」

 

「……一人だよ。両親は、そもそもいない」

 

「えっ? あ、それは、えっと……変なこと聞いて悪いわね」

 

 視線をそらされ、セリカは決まり悪気に頬をかく。

 

 相部屋とはいえ、初対面だ。普通、こんなにズケズケと人の事情を聞くもんじゃないと思うんだが。

 

 こういう性格の女の子なのだろう。

 

 部屋に広がる微妙な空気。それを破るように、部屋の戸がノックされる。

 

「嬢ちゃん。頼まれてたお湯持ってきたぞ」

 

「あ、はい!」

 

 セリカはこれ幸いにと、立ち上がって扉を開ける。

 

 訪ねてきたのは店主さんだった。

 大きなたらいを持っており、部屋の中に入ってきて床に置く。

 

 たらいの中には湯気を立てるお湯がなみなみと入っていた。

 

「これ手ぬぐいな。明日の朝、たらいと一緒に回収するから、わかるように置いといとくれ。できれば、あんまり汚さないでもらえると助かる」

 

「わかったわ」

 

 セリカに手ぬぐいを渡したあと、店主はさっさと部屋を後にする。

 

「よし、それじゃあ冷めないうちに」

 

 セリカはおもむろに自分の服に手をかけると脱ぎ始めた。

 

 おいおい。俺がここにいるんですが。

 

 セリカは気にすることなく下着も取り払い、真っ裸になった。

 

 健康的に焼けた身体は、未だ成熟には至らないものの、女性らしい凹凸がしっかりできている。

 

 彼女はちゃぽんとたらいの中に足を入れてしゃがみこみ、その体勢で手ぬぐいをお湯につけては身体を拭き始める。

 

「はぁ、さっぱりする。旅してた三日間、身体を綺麗にできなかったから、すごく気持ちいい」

 

 周囲にお湯が飛び散るのも気にせず、豪快に頭も洗い始めるセリカ。

 

 本来は視線を逸らすべきなのだろうが、あまりにも恥じらいなくされるものだから、ついつい入浴を見続けてしまう。

 

「あ、しまった。乾かすようの布」

 

 セリカがそう言って顔を上げる。

 

 俺とばっちり視線が合った。

 

「ねえ、ツヴァイ。あたしの荷物の中に綺麗な布があるから、それ取ってもらえない?」

 

 もしかしたら悲鳴でも上げられるかと思ったが、セリカは俺が見ていたことに気付いてもまったく気にしていなかった。

 

 男扱いをこれっぽっちもされていない。

 

 いいけどね。良くも悪くも、俺も彼女の裸を見てもまったく反応しなかったし。

 

 ……俺の性欲、長い奴隷生活でどっか行っちゃったのかな?

 

 それとも、肉体年齢的にこれが普通だっけ?

 

 いやいや、セリカに色気がないだけで、もっと年上の綺麗なお姉さんが相手なら、きっと今の俺でも反応するはず。するよね? してくれないと困るんだけど。

 

 ちょっと心配になりつつも、立ち上がってセリカの荷物の中からそれらしい手ぬぐいを探す。

 

 開けた瞬間、小さな布と紐で出来た下着がこんにちはしていたが、無視して手ぬぐいを取り出し、セリカに手渡す。

 

「ありがと。助かったわ」

 

「俺はあんたの小間使いじゃないんだけどな」

 

「これくらいのことでそんな言わないでよ。なんだったら、このお湯をツヴァイも使っていいから。ね?」

 

 それは……ちょっと助かるな。

 

 セリカの入浴を見ていて、俺もお湯を頼めばよかったと後悔していたところだ。

 

 幸いにもセリカの使ったお湯は、あまり汚くなっていない。

 

「いいのか?」

 

「いいわよこれくらい。ふふん、やっぱりあたしと相部屋になれてよかったわね」

 

 立ち上がり、腰に手をあてて胸をはるセリカ。

 

「未来の大英雄の残り湯よ。きっと将来、いろんな人に自慢できるわ!」

 

 残り湯って。いやそうなんだけど。不思議とそう聞くとなんか汚く見える。

 

 セリカは俺の渡した手ぬぐいで身体を拭き、新しい下着を身に着け、夜着に着替える。

 

 それを尻目に俺も上着を脱ぎ、たらいに残った少し冷めたお湯で身体を拭く。

 

 セリカじゃないが、たしかに気持ちがいい。

 

 フィーネに会いに行っていたときに、毎回川の水で洗っていたので、昔は汚れ放題だった俺もかつてのように汚れを気にするようになってしまった。いや、戻ってしまったので、身体を綺麗にできるのはとても嬉しい。

 

 とはいえ、さすがに初対面の女の子の前で全裸にはなれない。俺には羞恥心があるんだ。上半身と、あとは足だけをたらいに突っ込ませてもらい、綺麗にする。

 

 さっぱりした。

 

「お湯を使わせてくれてありがとな」

 

「お礼なんていいわよ。それよりもあなた、もしかして冒険者だったりする?」

 

 俺の荷物の上に置かれた白地の冒険者証を見たようだった。

 

 もうばれてるし、それくらいは話してもいいだろう。

 

「今日、登録したばかりでまだ一個もクエストを受けてないけどな」

 

「やっぱり! あたしと同じね! あたしも今日この街にやってきて、冒険者登録したのよ!」

 

 自分の荷物から、俺と同じ木製の認識票を取り出すセリカ。

 

 凄腕冒険者じゃなかったのかよ。

 

「あたしも今日、クエスト受けられなかったのよね。到着したときにはもう日も暮れ始めてたから」

 

「なるほど。自称・未来の大英雄で、自称・凄腕冒険者なのか」

 

「今はね。でも見てなさい。すぐにゴールドランクになって、冒険者といえばナリン村出身のセリカ様って言わせてみせるから!」

 

 どこからそんな自信が湧いてくるんだ。

 もしかして、フィーネみたく戦闘に使えるスキルでも持っているのか?

 

「明日はそのための第一歩! 一体、どんな冒険が待っているのかしら!」

 

 目をキラキラと輝かせ、セリカはベッドに寝転がった。

 

 もう一枚、敷布団にした毛皮より一回り大きい毛皮を取り出して被る。

 

「明日は早いし、あたしはもう寝るわ。おやすみなさい!」

 

「……おやすみ」

 

 目を閉じてすぐ、あっという間にセリカは寝息を立て始める。

 

 俺たち初対面のはずなのに、警戒心はないのだろうか。

 

 まあ、いいや。逆にこちらも警戒心を削がれてしまった。この少女なら、寝込みを襲ったりはしないだろう。これが全部俺をだますための演技だったっていうなら、俺はもうフィーネとアロガンドさん以外の誰も信じられなくなるよ。

 

 念のため、部屋の入り口の扉につっかえ棒だけしてから、俺もさっさとベッドに入るのだった。

 

 

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