分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第28話  討伐クエスト

 結局、セリカはソロでの討伐依頼を受理してもらっていた。

 

 一応忠告めいたものはされたみたいだが、俺よりもすんなりとクエストを許可してもらっていたように見える。

 

 いや。

 

 冷静に考えれば、レミさん視点、彼女よりも俺の方が危なかっしいか。

 

 年齢も下。体格も下。装備も下。

 もしかしたら最終的に、俺が帰ってこないものと諦めた可能性すらある。

 

 かくなる上は、結果で証明するしかないだろう。

 

 そう思うとちょっと緊張するな。

 

「初めての冒険楽しみね!」

 

 そして隣を歩くセリカは欠片の緊張もないようだった。

 

 同じ場所で同じクエストを受けるため、セリカとは一緒に森まで行くことになった。

 

 討伐は平原という選択肢もあるのだが、やはりソロだときつい。見通しがよいのでモンスターを見つけやすいが、それは相手にも言えること。自分に手に負えないモンスターで足の速度も上回られた場合、初手で逃げきれなかったら高確率で人生終了という罠が潜んでいる。

 

 俺の場合は、他の冒険者から丸見えというのも理由としては大きい。分身スキルを隠そうと思うなら、ログレスの森一択だ。

 

 森は森で奇襲の危険が大きいが、慣れれば逆に奇襲も仕掛けられる。木に登ればやり過ごせるモンスターもいるし、村育ちには森の方がやりやすいという人も多いだろう。

 

 セリカも似たような理由なのか、平原ではなく森を選んでいた。

 

「ねえ、何体モンスターを倒せるか競争しない? あたしは最低、三体は倒してみせるわ!」

 

 道中、彼女はしゃべりっぱなしだ。よく疲れないな。あと競争はしません。

 

 森の入り口まで来て、ギルドの人に説明を受けたところでようやく別れる。

 

「それじゃあ、ツヴァイ! また夜にね!」

 

 手を上げ、そう言い残してセリカが先に森へ入っていく。

 

 彼女はどうやら今日も同じ宿に泊まるらしい。あらかじめ二日分の宿泊費を支払い、荷物の大部分もお金を払って預かってもらっていると言っていた。

 

 あの大荷物を背負いながら戦うわけにもいかないからな。妥当な判断だ。あれで案外、考えて動いているのだろうか。

 

 自分よりも年も装備も上の少女を心配してもしょうがない。

 

「行くか」

 

 気を引き締め直し、俺もセリカとは別の方角に向けて森に踏み入る。

 

 森自体は慣れたものだが、故郷の名もなき森とは違い、ログレスの森には何本か道が作られていた。

 

 ここを起点に森に分け入り、モンスターを退治してくれということか。冒険者の街であるゼルクトの街らしい配慮だ。

 

 それでも手が入っているのは道とその周辺だけで、一度奥に足を踏み入れれば、先の見通しづらい恐ろしい森が姿を現す。

 

 コルニ村から近い街の森だけあって、木々の種類は同じようだ。

 うっそうと茂った枝が太陽の光を遮り、あたりを薄暗くしている。

 

 この中でモンスターを見つけ、倒す。

 

 言うは容易いが、これはなかなかに恐ろしい。

 

 故郷とは違い、この森には段違いの数のモンスターが潜んでいる。

 

 そしてモンスターは人間と遭遇した場合、ほぼ確実に敵意をむき出しにして襲い掛かってくる。そこが野良の動物との明確な差と言っていい。

 

 人類に敵対的な生き物。それがモンスターなのだ。

 

 さらにいえば、この先に遭遇するモンスターが一体ずつともかぎらない。

 

 となれば。

 

「分身の術」

 

 分身の出番だ。

 

 俺と同じ姿と装備をした分身が現れる。

 

「木の陰にモンスターが潜んでる可能性を考えたら、俺が前に行くべきかな」

 

 と、分身の俺が言う。

 

「いや、背後からの奇襲の方が怖い。後ろを頼む」

 

「たしかにな。頭を狙われたら一撃だし」

 

 武器は用意したが、防具までは用意できなかった。

 

 怖いのはやはり頭部への攻撃だ。一撃でお陀仏の可能性もある上、かすめただけでもダメージが大きい。

 

 前に本体の俺、後ろに分身の俺という隊列で森の中を進む。

 

 他の冒険者にもし会ったら双子で通せばいい。今はスキルの秘匿よりも、身の安全が優先だ。

 

「当初の予定どおり、三人でこの街に来てたら、本体は留守番のまま分身だけで動く安全策も取れたんだけどな」

 

「いや、それでも一緒にモンスター退治に来てたと思うけどな」

 

「お金を稼がないといけないからか」

 

「せめて今日も二体は倒したい。一体だけだど、宿代で全部吹っ飛ぶ」

 

「冷静に考えて、命をBETにして一体二千円は安すぎるよな。物価の差を考えても五千円は行かないだろ」

 

「言うな。頭数で稼ぐしかない」

 

 周囲を警戒しつつも、分身と話ながら進んでいく。

 

「待て」

 

 しばらく進んだところで、俺は前方に影を見つけた。

 

 小さい。

 

 冒険者じゃないようだ。

 

 向こうもこちらに気づいた。俺よりも一回り小さいサイズのウサギだ。ただし、額からは尖った一本の角が生えている。

 

「ホーンラビットだ」

 

「来るぞ!」

 

 ホーンラビットが角を閃かせ、こちらに突っ込んでくる。

 

 分身が俺の前に出て、棍棒を構える。

 

「せいりゃっ!」

 

 タイミングを合わせ、ホーンラビットを横殴りにする。

 大型犬くらいのサイズのモンスターだが、なんとか殴り飛ばすことに成功する。

 

「いてて。角がかすった」

 

 代わりに、分身は腕に傷を負っていた。五センチくらいの裂傷ができ、血がしたたり落ちる。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、これくらいなら戻さないでいい」

 

 警戒しつつ、殴り飛ばしたホーンラビットを確認する。

 

 顔が半分くらい陥没していたが、よろよろと起き上がろうとしていた。

 

「全力でやったんだが、な!」

 

 分身がその頭めがけ、再び棍棒を振り下ろす。できるかぎり、角には当たらないように。

 

 五回ほど叩いたところで、ホーンラビットは完全に動かなくなった。

 

「はぁ、はぁ、やっと倒せた」

 

「お疲れ」

 

「おう。あとは討伐証明部位の角を回収して、死体を入口まで持っていくだけだな」

 

「最初が予習してたモンスターでよかった」

 

 分身と一緒にホーンラビットから角をとろうと試みる。

 

 頭蓋骨と一体化しているため、なかなか折れない。

 

「ナイフもないし、根本を叩き折るしかないか」

 

「俺がやる。本体は周囲を警戒しておいてくれ」

 

「了解」

 

 あらかじめ相談せずとも、俺と分身の役割分担ははっきりしていた。

 

 本体の俺はできるかぎり体力を残し、武器の消耗も抑える。分身の棍棒は、たった一回の戦闘で早くも欠けた部分がある。服に返り血も軽くついて、あれは洗濯しても落ちないだろう。

 

 そのあと、分身は肩で息をしつつ、なんとか角をへし折るのに成功する。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、疲れた」

 

「一回出し直すな」

 

「頼んだ」

 

 分身を消し、もう一度出し直す。

 そうすれば返り血も消え、武器も体力も消耗前の状態に戻った。

 

「これ、死体を森の入り口まで運ばないといけないってのがしんどいな」

 

「仕方ない。放置したらアンデットになるっていうんだから」

 

「上のランクになれば、討伐証明部位を持ってくだけで報酬になるみたいだけどな」

 

「それ、アンデッド化しない処理をちゃんとすること前提らしいし」

 

「信用度か。それも稼いでいかないといけないんだな」

 

「もしくは、討伐報酬は諦めて死体を肉にして自分で売るか」

 

「ホーンラビットは食えるモンスターだろ? どうする?」

 

「その場合は血抜きとかもしないといけないっぽいし、解体の仕方も知らないからなぁ」

 

「門のところに解体屋があったよな。このまま持って行って、それでいくらくらいだと思う?」

 

「たぶん、銅貨二枚はいかないと思う」

 

「じゃあ、素直に入口まで運ぶか」

 

 角だけ本体の俺が回収し、死体を分身が運びだす。

 

 この世界のモンスターは、倒したからといって光になって消えたりはしない。もちろん、お金を落としたりもだ。

 

「結構重い。これ、一体倒すのに怪我しなくても体力をかなり持っていかれるな。分身スキルがなかったら、さっきみたいに上手く倒せたとしても、三体も倒す頃には体力の限界を迎えるかも」

 

「警戒し続けるのも正直疲れるしな」

 

 加えていうなら、俺の警戒は杜撰も杜撰だ。狩人などの本職のようには行かない。

 

「ギシャア!!」

 

「うおっ!」

 

 突然の唸り声と共に、後ろを歩いていた分身が悲鳴をあげる。

 

 振り返れば、大きな口をあけた犬のようなモンスターが、分身の足に嚙みついていた。

 

 ソードウルフ。

 

 特徴はあまりにも大きい二本の牙。

 サーベルタイガーのような大きな牙が、深々と分身の足を貫いている。

 

 棍棒を手に持ったまま、俺はすぐさま分身を解除する。

 

 消える分身と共に、ガチンと音を立てて勢いよくソードウルフの口がしまる。

 

 いきなり獲物が消えたことで、ソードウルフは困惑もあらわに地面に着地し、首をきょろきょろと左右に振る。

 

「分身の術!」

 

 その隙を見逃さず、俺はソードウルフの背後に分身を出した。

 

 ポーズは棍棒を振り下ろす直前の姿で。

 

 後ろからの突然の攻撃によろめくソードウルフに駆け寄り、すぐさまその頭に向かって棍棒を振り下ろす。

 

 ぐしゃり、と骨が砕ける感触。

 犬のような悲鳴をあげ、ソードウルフがやたらめったらと暴れ出す。

 

「ええい、二人がかりで叩いてこれか。本体、俺が抑えておくから、とどめを頼む!」

 

「任せろ!」

 

 分身が牙に引っかかれつつもなんとか押さえ込んでいるうちに、何度も何度も棍棒を振り下ろす。

 

 やがて動かなくなったところで、ふぅ、と息を吐く。

 

「本体後ろ!」

 

「っ!」

 

 だがゆっくりしている暇はなかった。分身の声に振り返ると、別の個体のソードウルフが牙をむき出しにして飛び掛かってくるところだった。

 

 それをギリギリのところで避ける。

 

 すかさず分身が棍棒を投げつけるが、素早い動きに避けられてしまう。

 

「こなくそ! こっち来い!」

 

 分身が両手を広げ、ソードウルフの前に立ちふさがった。

 ソードウルフはこれ幸いに飛び掛かり、その太ももに牙を突き立てる。

 

「いっだぁ!」

 

 牙を食い込ませたまま、その頭を振るソードウルフ。食いちぎろうとしている。

 

 俺はもう一度手印を組んで分身を解除しようとする。

 

「ちょい待った!」

 

 それを分身に止められた。

 

「モンスターでもここは弱点だよな!」

 

 分身は痛みに脂汗を流しながら、ソードウルフの瞳に向かってこぶしを数回叩きつけた。

 

 サイクロプスほどじゃないが、ソードウルフの眼も大きかった。そこを攻撃され、ソードウルフはひるむ。

 

 しかしそれでも獲物は離さない。

 

 だから消えれば、隙ができる。

 

 分身を解除し、すぐさま出し直す。

 怪我ひとつない分身体が、うろたえるソードウルフの背後に現れ、棍棒を振り下ろす。

 

 何度も何度も。

 

 俺は周囲を警戒。三体目がいないともかぎらないからだ。

 

 幸いにも、ソードウルフは二体だけのようだった。

 

 分身の攻撃で頭を潰されたソードウルフが、物言わぬ屍に変わる。

 

「いったいなぁ」

 

 ソードウルフを仕留めたあと、分身は自分の太ももをさすった。

 

 気持ちはわかる。怪我こそなくなったものの、幻痛のように食いちぎられかけた痛みは残っている。もちろん、俺も同じ痛みとその残滓を感じていた。

 

「危ないところだったな。本体が食いつかれてたらやばかった」

 

「そうだな。警戒はもっとちゃんとしないと」

 

 戦いになったとき、周囲への警戒が疎かになってしまった。そこを狙われた。モンスターにもそれくらいの知能はある。

 

 いくら分身スキルがあるといっても、油断は大敵だ。本体を攻撃されたら分身もダメージを共有するのだから、一気に危機に陥ってしまう。

 

 警戒をより密にしながら、分身と二人で二体のソードウルフの討伐証明部位である牙を圧し折る作業に入る。

 

 これに十五分近くかかってしまった。

 

「やっぱり、小さくても刃物は要るな」

 

「あとは入れる袋だな」

 

 苦労しながら入手したソードウルフの牙を、ホーンラビットの角と一緒に抱える。

 

 一応、小さな袋は村から持参してきたが、中には保存食や薬草を磨り潰した塗り薬などが入っている。一個くらいなら無理やりねじりこめなくもないが、全部は入りきらない。

 

 回収用の大きめの袋は別に必要だろう。

 

「どうするよ? 死体が三体になった」

 

「順番に運ぶしかないだろ」

 

「だよなぁ」

 

 森の入り口近くまで分身に運んでもらい、そこから入口の職員のところまでは本体の俺が運ぶ。

 

 あわせて討伐証明部位を見せれば、俺がちゃんと討伐したことが認められる。これがないと死体を持ってきてもダメということだった。だから俺も森の中に死体を残しているが、他に横取りされる心配はあまりない。

 

 少し驚かれたが、ちゃんと討伐を認められ、クエスト用紙にその旨を記入してもらえた。

 

 これをあと二回繰り返さないといけない。

 

 や、やばい。ホーンラビットはともかく、さらに一回り大きいソードウルフを運ぶのがしんどすぎる。引きずりながら運んだのだが、それでもかなり体力を持っていかれた。

 

 倒すモンスターは選ぶ必要があるな。もっと大きなモンスターを倒せたとしても、これ俺だけじゃ運べないぞ。

 

 入口近くまでは分身と二人がかりで運べたが、そこからは本体の俺一人だ。

 全部運んだところで、俺はもう疲れ切ってしまっていた。なんだかんだで、森に入ってから三時間近く経過しているし。

 

 ずっと警戒していたのもあり、精神的にも疲れてしまった。

 

 一応、森の入り口には簡素な見張り小屋があり、その周囲は比較的安全な地帯となっていて、ここで休めないことはない。

 

 屋台もいくつか出ており、水や酒、お肉の串焼きなどを売っていた。

 街中よりもいくらか高いが、それでも買って休憩している冒険者の姿もある。

 

 他には、森からモンスターの死体を運ぶことだけを生業にしている者の姿や、食肉に向かないモンスターの死体を、血まみれになりながら聖なる炎まで運ぶ奴隷らしき人間の姿もある。

 

 ここからでも見える巨大なシンボルの炎も相まって、さながらキャンプ地のような様相だ。

 

 もう一度森に入って軽く周辺を捜索するが、一度気を抜いてしまったところに美味しそうな肉の匂いをかがされ、俺はこれ以上奥まで進んで捜索を続ける気力を削がれてしまった。

 

「もう今日は帰るか」

 

「そうしよう。明日からはもっと考えて動かないとな」

 

「しっかし、まだ俺は分身のお陰で多少は楽をさせてもらってるけど、普通の冒険者はこれを何時間とやらないといけないんだから、そりゃ体力仕事だし、一人じゃきつい。レミさんも仲間を作れっていうはずだな」

 

「仲間といえば、一人で森に入ったセリカは大丈夫だと思うか?」

 

「気にしてもしょうがないだろ」

 

 彼女は一人でやると言った。

 それで死んだとしても、それはもう自己責任だ。

 

 ほんの少し、指先の爪の先くらいはその死を悼んでしまうかもしれないが、冒険者とはそういう職業だ。

 

 自分の心配以上に、他人の心配なんてしていられるはずもない。

 

 

 

 

 

「見なさいツヴァイ! あたし、三体もモンスターを倒したわよ!」

 

 ギルドに戻ってクエスト用紙を提出しようとしたところ、そこには同じくクエスト用紙をかかげ、得意気に笑っている赤毛の少女がいた。

 

 返り血で服こそ赤く染まっていたものの、セリカに怪我らしい怪我はない。

 

 おいおい。

 

 あの調子で、俺と分身二人がかりの成果と同じなのか。

 

 しっかり強いじゃないか。心配して損したぜ。

 

 

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