分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第29話  打ち上げ

 クエスト成功報酬の一枚と、三体分のモンスターの討伐報酬が六枚。

 

 しめて大銅貨七枚。これが俺の冒険者としての初仕事の成果だった。

 

 う~ん、どうなんだこれ? 

 

 宿泊費二日分と食事代くらいだ。ちゃんと稼げたと考えるべきか、足らないと考えるべきか。

 

 いや足らないだろ。装備を揃えていくのも考えると、銀貨一枚は欲しい。

 

 森で遭遇したモンスターは食肉タイプも多かったし、やっぱり解体方法を学んで肉にした方が討伐報酬より高くなりそうだ。ギルドの講習にもあったし、けどそれを受けるのにも金がいる。値段によっては保留にするが、ナイフと袋も買ってこないといけないし。

 

 まだ判断材料が足らないが、やっぱり一日に討伐を狙うモンスターの数は五体以上になりそうだ。

 

「ねえねえ、ツヴァイ。あなたは何体モンスターを倒したの?」

 

 今後の予定をギルドで考えていると、報酬を受け取ったセリカがにんまり顔で近づいてきた。

 

「あたしはさっきも言ったけど、三体よ三体! 受付の人に聞いたんだけど、初クエストでこれはすごいんだって!」

 

 知ってるよ。俺もレミさんに驚かれたから。

 

 そのまま俺も同じと伝えるべきか。いやでも、絶対面倒なことになりそう。

 

「俺は一体だけだ。セリカはすごいんだな」

 

「やっぱりそう思う? 思っちゃう?」

 

「悪い訂正。俺も三体倒した」

 

 これ以上調子に乗らせる方がまずそうだったので訂正したが、セリカは生暖かい目で見てくるばかりだった。

 

「小さくても男の子ね。見栄をはっちゃって。でも気にしなくていいのよ。あたしの方が年齢も剣の腕も上なんだから。一体でもモンスターを倒せただけすごいわ」

 

 上から目線やめろ。

 

「よし! それじゃあ、お互い無事に初クエストを成功でおさめたお祝いをしましょう! ノームの宿屋のすぐ近くに、美味しそうなお店があったのよ」

 

「遠慮する。金がもったいない」

 

「わかってるわ。今日の宿代がなくなっちゃうものね」

 

「一体だけ倒した前提で話を続けるな! 三体倒したって言ってるだろ!」

 

「はいはい。大丈夫よ。今日はあたしが奢ってあげるから!」

 

「……奢り?」

 

「奢り!」

 

「本当に?」

 

「このセリカ様に二言はないわ。冒険者たるもの、よく働き、よく食べ、よく遊ぶ。かの冒険王もそう残しているわ!」

 

 無料というなら話が変わってくる。一食浮くのは大きい。保存食も残り少なかったところだし。

 

 買い物は、あとでこっそり分身を出して買ってきてもらおう。

 

「わかった。そういうことなら、一緒に行かせてくれ」

 

「そう来なくっちゃ!」

 

 セリカに連れられ、お店に向かう。

 

 件のお店は、彼女の言っていたとおりノームの宿屋の近くにあった。

 

 食堂というよりは酒場だ。まだ日も高く夕食時でもないので、お客さんの数こそ少ないものの、結構な人気店のようですでにお酒をあおっている人が何人かいる。中には冒険者の姿もあった。

 

「ここよ。いい感じのところじゃない?」

 

「たしかに。でも結構いい値段しそうだぞ」

 

 いくつか木版にメニュー名とその値段が書かれているが、一品あたり半貨は超えている。

 

「大丈夫よ。なにせ大銅貨七枚あるもの」

 

「宿泊費は、ああ、先にもう払ってるって言ってたか」

 

「そうね。だからこれ全部使っても問題ないわ。一応、少しだけど蓄えもあるし」

 

「なら遠慮せず」

 

 店員に案内され、席につく。

 小さなテーブル席。メニュー表みたいなものは見当たらない。

 

「やっぱり、冒険者たるものお酒は欲しいわよね」

 

 この世界、飲酒可能年齢に関しての法律は存在しない。

 

 コルニ村でも収穫祭などでは子供だってお酒を飲んでいたし、真水が手に入りづらいところでは、水の代わりにお酒を飲むという話も聞く。

 

 でもこの街みたいに水が豊富に手に入るところでは、酒は嗜好品の扱いで普通に高い。

 

「俺は水でいいや。料理を何品か頼めば、無料でもらえるって書いてあるし」

 

「本当に遠慮しなくてもいいのよ?」

 

「エール一杯半貨一枚。ワインは大銅貨一枚。食事もある程度頼んだら、もうそれだけで今日の報酬の半分は飛ぶぞ」

 

「うっ」

 

 字の読めないセリカに代わって教えてあげれば、彼女は少し怖気づく。

 

「だ、大丈夫よ! 冒険の打ち上げで、お金のことを気にして楽しめないんじゃ意味ないもの!」

 

「そういうことなら、お酒はいらないけど、飯は遠慮せず頼ませてもらうよ」

 

「あたしはエールに挑戦してみるわ。村だと、お母さんが厳しくて飲ませてくれなかったのよね」

 

 店員を呼んで、水とエール、あといくつかの料理を注文する。

 

「他にご注文はよろしいですか? 本日はプルルン鳥の串焼きがオススメですが」

 

「プルルン鳥?」

 

「えっ!? プルルン鳥の串焼き!? あたし、それ食べたい!」

 

 知ってるのかプルルン鳥。やっぱりぷるんぷるんなのだろうか?

 

「ツヴァイも欲しいわよね? 二人前頼みましょ!」

 

「値段を聞かずに頼もうとするなよ」

 

「いいのいいの! それじゃあ店員さん、プルルン鳥の串焼きをふたつお願いね!」

 

「かしこまりました」

 

 勢いでセリカが頼んでしまう。あとで後悔しても知らないからな。

 

 やがておつまみにも最適な、塩で炒った豆と飲み物が先に届く。

 

「じゃあ、ありがたく」

 

「ちょっとちょっと、ここは乾杯でしょ?」

 

 エールの入ったコップを手に取って、セリカは掲げてみせる。

 

「俺たちの出会いに?」

 

「あたしたちの冒険の始まりによ!」

 

 それはなんとも冒険者らしいことで。

 

 俺も水の入ったカップを掲げ、二人で打ち合わせる。

 

「「乾杯!」」

 

 楽しい打ち上げの始まりだった。

 

 

 

 

 

「もーダメ無理。これ以上は飲めない」

 

 セリカは早々に酔いつぶれた。

 

 初めての飲酒なのに一気に飲み干したり、ちゃんぽんしたりするからだ。

 なんとか意識を保っていたので、食事代は支払ってもらい、そのままノームの宿屋に向かう。

 

 ちなみにプルルン鳥は二本一皿で大銅貨一枚でした。やべえだろ。

 

 食肉として主に出回っているモンスターの肉ではなく、肉にするためだけに育てられた動物の肉だからだそうだ。この世界、モンスターがはびこっている所為で、前の世界ほど野生動物がいないのだ。その中でなんとか繁殖させ、飼育された鳥の肉なのだから、そりゃ高くなる。

 

 いや滅茶苦茶美味しかったけどね。

 

 そんなこんなで、セリカの今日の報酬はすべて、一回の食事代で綺麗に吹っ飛んだのだった。

 

 さすがにそんな物を奢ってもらったので、宿までセリカに肩を貸して連れて行ってあげた。そのままなし崩し的に、俺の今日の宿もノームの宿屋に決まる。

 

「ふっ、これだから相部屋はやめられないんだ」

 

 今日も泊まると言ったら、店主がよくわからないことを言い出した。

 俺と酔っぱらったセリカを交互に見やり、すっと昨日と同じ部屋を親指で指さす。

 

「また一組、運命の出会いを決めちまったようだな」

 

 異世界版後方腕組みカプ厨の方ですか?

 

 気持ち悪くなった店主を無視し、宿泊費を支払ってセリカを部屋に連れていく。

 ベッドに下せば、セリカは酒臭い息を吐いて、幸せそうに頬を緩ませた。

 

「これよ。これなのよ。あたしがやりたかった冒険者生活っていうのは」

 

「はいはい。それはよかったな」

 

「ふふっ、やっぱり村を出てよかったわ。変なお見合いをさせようとする村長もいないし、威張ってばかりのアホ息子もいない。冒険者最高!」

 

「まだ一日目だろ」

 

 呆れた視線を向けてしまうが、セリカは気持ちよさそうに独り言をつぶやくばかり。完全に出来上がっている。明日は二日酔いだろうな。

 

 そのまま眠ってしまうかと思われたが、部屋の扉が叩かれ、店主さんが昨日と同じようにたらいにお湯を入れて持ってきた。

 

 動かないセリカの代わりに俺が受け取っておく。

 

「おーい、セリカ。お湯だぞ。すぐ使わないと冷めるぞ」

 

「む~、入るわ」

 

 セリカは億劫そうにしながらも立ち上がり、服を脱ぎ始める。

 

「今日は拭くものを忘れるなよ」

 

「わかってるわよ。あ、でも、もう新しいやつないんだった」

 

「店主さんが用意した方で水気を拭いて、昨日使った方で身体を拭けばいいんじゃないか?」

 

「ツヴァイ、頭がいい! 褒めてあげるわ!」

 

 裸で頭を撫でてくるな。

 

「少しくらいは恥じらいを持てよ。……ん?」

 

 至近距離で見て気づく。

 セリカは身体に、いくつかの擦り傷や青あざを作っていた。

 

 昨日はなかったものだ。となると、モンスターとの戦闘によるものか。

 

「青あざがあるけど大丈夫か?」

 

「あ、これ? 大丈夫よ。モンスターの攻撃を受けたところもあるけど、大体は攻撃を避けるときにぶつけちゃっただけで、傷にはなってないし」

 

 俺は幸い無傷で終えたが、皮の防具をつけていたセリカでも、やはり少しミスすると一回の冒険でこうなるのか。

 

 いや、これで済んでよかったというべきか。

 

 セリカはたらいまで行って、昨日のように身体を洗い始める。

 

「いたた、結構しみるわね」

 

 時折、傷が響くのが、小さく悲鳴を零していた。

 

「傷薬はないのか?」

 

「ポーション? あんな高いのはさすがにまだ買えないわよ」

 

 実はこの世界、魔法じみた回復をもたらす飲み薬が存在する。

 

 回復ポーションと呼ばれる代物だが、非常に高級品だ。効き目の弱いものでも、ひとつ銀貨五枚くらいする。

 

 しかし効果は絶大で、金貨何枚かで買えるような最高級品にもなると、ちぎれた腕をつなぎ、折れた骨すら瞬時に治してしまうらしい。

 

「そうじゃなくて、普通の塗り薬。こういうの」

 

 俺は袋から傷薬を取り出す。

 

 フィーネに教えてもらい、薬草を磨り潰して作った自家製の塗り薬。効果は自己回復力を高める程度だが、けっこう効くとフィーネは言っていた。

 

「そういえば、村ではそういうのあったわね。でも用意してきてない。と、いてて」

 

 ……仕方ないなぁ。

 

「奢ってもらったし、これ使えよ」

 

「ほんと? ありがとう!」

 

 セリカは姿勢を変え、俺に背中を向ける。

 

 はいはい、俺に塗れってことね。

 

 傷薬を手に彼女に近づく。

 

 程よく肉の付いた背中には、前からでは見えなかった傷があった。腰のあたりに擦り傷。で、尻に大きい青あざ。これは避けた際の傷ではなく、間違いなく後ろから攻撃を喰らった傷だな。

 

「塗るぞ」

 

「どうぞ――って、わひゃ! つめたっ!」

 

 薬を患部に塗ると、セリカは冷たかったのか、くすぐったそうに身をよじる。日焼け止めよろしく、手のひらで温めてから塗ればよかったか。

 

「あ、でもひんやりして気持ちいいかも」

 

「さすがに前は自分で塗ってくれよ」

 

 けっこうな量があった傷薬の六分の一くらいを使い、背中と尻を塗り終わると、残りをセリカに渡す。

 

「別に前も塗ってくれてもいいわよ。あたし、気にしないし」

 

「俺が気にする」

 

「ませてるわねぇ」

 

 カラカラと笑って、セリカは前の傷に塗っていく。

 

 結局、傷薬は五分の一くらいがなくなってしまった。

 

「ありがと。お礼と言ってはあれだけど、今日も残り湯を使っていいわよ」

 

「どうも」

 

 入浴を終えたセリカがあがり、その残り湯を昨日のように使わせてもらう。

 

 半貨一枚分が浮いて、今日の俺の純利益は大銅貨四枚で確定した。

 逆にセリカはお湯の代金分、さらにマイナスになってしまったわけだが。

 

 まだお酒が残っており、ふわふわとしているセリカは、下着だけ身に着けたところでベッドに横たわる。実に湯冷めしそうな格好だ。

 

 この世界の女性の下着事情だが、ある程度お金に余裕があればドロワーズ。なければ、少ない布と紐を組み合わせたマイクロビキニみたいな下着になる。さらにその下の奴隷とかだと、そもそも下着をつけている方が少ない。

 

 お金持ちはコルセットとドロワーズの合わせ技らしく、補正下着を開発すれば、なんか売れそうな気もしている。

 

 まあ、そのあたりの金策は貯金と時間に余裕ができたらまた考えるとして。そういった事情から、下着の形と生地を見れば大体の育ちを察せられるのだが……。

 

 セリカこれ、家が裕福だったわけでもなさそうだな。

 

 あと俺はなんで、この歳で女性の下着事情に詳しくなってるんだろうか?

 

 ち、知識欲に溺れて、目について気になったものはなんでも質問していた過去の俺と、聞けばなんでも教えてくれたフィーネ先生が悪い。

 

 男の下着?

 

 ゴムの代わりに紐がはいったボクサーパンツみたいなやつから、布を巻き付けるだけのほぼふんどしみたいな奴っすね。

 

「ちゃんと服着ないと風邪ひくぞ」

 

「大丈夫よ。あと今服を着たら、薬の匂いが移っちゃうし」

 

「あー、結構匂いするからな」

 

 ハーブとか混ぜると香りもよくなるらしいが、自分で使うことしか想定していなかったので、そこまでは調合していない。

 

 セリカは毛布がわりの毛皮をかぶり、こちらをとろんとした目で見た。

 

「ツヴァイ。明日は一緒にギルド行きましょうね」

 

「はいはい、起こしてあげますよ」

 

「ありがと、ツヴァ、イ……」

 

 瞼が落ちたかと思うと、そのままセリカは眠ってしまう。

 

 なんとも豪快で、刹那的な少女だ。冒険者らしいといえば、冒険者らしいのかもしれないけど。

 

 本当に大丈夫なのかね?

 

 蓄えもそんなになさそうなのに報酬を使い切るし、怪我も案外負っているし。

 

 心配しても仕方ないのだが、どうにも心配せずにいられなかった。あの店主じゃないが、こうして知り合ってしまったんだからしょうがないのである。

 

 

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