分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第30話  学ぶべきこと

 冒険者として街で生活を始めてから二週間が経過した。

 

 連日、モンスターの討伐クエストを受け続けたことで、森でのモンスター退治にも慣れてきた。今では一日で五体は最低でもモンスターを狩ることができている。

 

 偶に明らかに今の俺では手に負えないモンスターに遭遇し、慌てて逃げ帰ることもあったので、多少の討伐数の前後はあるが、平均すればこれくらいだ。

 

 給金はクエスト報酬も含め、銀貨一枚と大銅貨一枚。

 

 加えて、モンスター退治の合間に薬草を採取することで、小粒数枚から半貨一枚ほどの追加報酬を得ている。

 

 ここから毎日の宿泊代大銅貨三枚と、食事代で小粒三枚が出費として出ていくので、利益としては一日に大銅貨七枚と少しになる。

 

 ナイフや袋、血で汚れた服の代わりなど、この二週間で購入した物も数多く、それがそのまま残っているわけではないが、それでも今俺の手元には、銀貨にして六枚が残っていた。

 

 当初の所持金を、二倍に増やすことができたわけである。

 それはこのゼルクトの街で冒険者として生きていけると確信を持つには、十分な成果であった。

 

 油断はしないけどな。ギルドでの怪我の回復が、最低銀貨四枚はするらしいし。

 

 曖昧なのは、怪我の度合いによってというのもあるが、治療方法によっても変動するからだ。

 

 ギルドが契約している治癒術師(プリースト)が詰めているときは銀貨四枚だが、いないときはポーションを使用するので高くなるそうだ。

 

 街に来て知ったのだが、プリーストは貴重らしい。

 

 需要に対して数が少なく、ギルドに待機しているのも週に二日程度とのこと。だから大怪我一回で、銀貨は四枚以上覚悟しないといけないわけだ。

 

 本体の俺としては怪我らしい怪我もなく過ごせているが、初日に続いて三回くらい分身の俺が大怪我を負った。

 

 これが本来、治癒魔法かポーションを必要としたと考えれば、俺が上手く稼げているのは分身スキルのお陰であって、駆け出し冒険者としてはお世辞にも優秀とは言えない。

 

 それでもスキルの存在を知らない周りからは、最初の関門を突破した冒険者として認められることになった。

 

「おめでとうございます、ツヴァイさん。ホワイトランクからアイアンランクに昇格が認められました」

 

「ありがとうございます!」

 

 レミさんから、新しく鉄製となった認識票を受け取る。

 

 アイアンランク。早い昇格だった。おおよそ、最速といってもいいだろう。

 

 ただ、しっかりと準備を整えて冒険者となった者としては、これが当たり前のスピードらしい。失敗することなく毎日真面目にクエストをこなしていれば、これくらいの期間で昇格するようだ。

 

 昇格にあたり、条件を満たしたこと以外、審査らしい審査もなかった。

 

 結局はアイアンランクもまだまだ半人前、見習いという位置づけなのだ。

 

 本当の意味で冒険者と呼べるのはもうひとつ上のブロンズランクからであり、このランクになるとゼルクトの街の市民権も得られるという。なのでしっかりとした審査もあり、このランクに昇格する道のりはなかなかに遠そうだ。

 

 少なくとも、俺がこの前戦うことなく逃げ帰ってきたモンスター。

 

 人間の子供くらいの大きさ――つまり今の俺と同じくらいの背丈で、人間のように二本足で立ち、武器を使うモンスター。

 

 群れて敵を襲い、喰らう、小さな悪鬼。

 

 ゴブリン。

 

 あれを軽く倒せるようにならなければいけないようだった。

 

 

 

 

 

 夜。

 

 結局、常用することになったノームの宿屋の一室で、セリカが満面の笑みで鉄の認識票を見せてきた。

 

「見なさい、ツヴァイ。あたし、アイアンランクに昇格したわ!」

 

「だろうな」

 

 セリカはセリカで、初日の討伐数はまぐれではなかった。

 俺と同じように日々モンスターの討伐クエストを受けては、しっかりと生きて帰ってきている。

 

 モンスターの平均討伐数は、二体から三体。

 

 俺と同じくソロで冒険を続けていることを鑑みれば、冒険者としての実力は間違いなく俺以上だろう。

 

「ツヴァイは?」

 

 俺も鉄製に変わった認識票を見せる。

 

「やっぱり。あなたも昇格してたのね。さすがはあたしのライバルといったところかしら!」

 

「いつライバルになったんだよ」

 

「同じ日に冒険者になって、同じ日にランクを昇格した。これはもう、運命のライバルとしか言えないでしょ?」

 

「そういうものか」

 

「そういうものよ。よし! それじゃあ、昇格祝いの打ち上げに行きましょうか!」

 

「奢りか?」

 

「も、もちろんよ!」

 

 少し言いよどんだな。

 

 毎夜顔を合わせているので、彼女の大体の稼ぎと出費は把握できている。

 

 毎日三体はモンスターを討伐しているといっても、出費もまた俺と同じくそれなりにあるはずだ。

 

 特に服。彼女は俺よりも何倍かの頻度で買い替えている。

 

 つい五日前くらいに、頼んだお湯の残り湯で服についたモンスターの返り血を手揉で洗濯していたが、取りきれないと嘆いていた。

 

 我慢してそのまま着るかと思ったら、次の日には新しい服を用意していた。といっても、さすがに中古品みたいだが、それでも服はそれなりの値段がする。

 

 加えて、剣の整備や手入れにもお金を使っているようだった。

 

 弓と矢もモンスターの討伐には用いているようで、矢がなんでこんな高いのよ、と前に愚痴を聞いている。

 

 それを踏まえれば、出費は間違いなく俺以上に違いない。

 

「冗談だよ。自分の分は自分で払う」

 

「そ、そう? ライバルだものね。施しはしない方がいいかしらね、うん」

 

 セリカからは初日以降も何度か食事に誘われていたが、すべて断っていた。

 

 保存食がなくなったあと、日々の食事はパンや豆のスープなど、安い金額で食べられるもので済ませていたためだ。身体の成長を鑑みれば、もっとちゃんと食べるべきだとは思うのだが、今はそれよりも装備の購入にお金を使いたかった。

 

 具体的には兜が欲しい。頭を守りたい。

 

 頭部への奇襲が怖すぎるんだ。木の上から強襲をしかけてきたゴブリンに、頭をかち割られそうになったのは記憶に新しい。

 

 とはいえ、必死に節約していたのもあって、兜を買える目途はたった。昇格祝いくらいは付き合ってもいいだろう。

 

 この前と同じ酒場に行き、セリカと乾杯する。

 

 肉、美味い。最高!

 

 そのあとほろ酔いのセリカを介抱しつつ、宿に戻る。

 

 これだけは絶対に欠かさない湯浴みをするセリカから残り湯を分けてもらい、身体を拭き、衣服を洗濯する。

 

 ついでにセリカから洗濯を頼まれる。

 

 お湯を使わせてもらってるんだ。それくらいはしよう。

 

 せめて下着くらいは自分で洗えと言いたいが。

 

 うーん、しかしセリカじゃないけど、なかなか汚れが落ちない。石鹸ってどうやって作るんだっけ?

 

 油と灰をどうにかこうにか混ぜ混ぜするはずだったと思うけど、詳細は記憶していない。あれば絶対売れるよなぁ、と思いつつ、この前木材の切れ端で作った洗濯板で服をこするのだった。

 

 

 

 

 

 翌日、俺はセリカと一緒にギルドへ来ていた。

 

「さあ、記念すべきアイアンランク最初のクエストね。ツヴァイ、このあたしにふさわしいクエストはあるかしら?」

 

「さあ」

 

「さあって、あなたはどのクエスト受けるのよ?」

 

「いや、俺今日はクエスト受けないつもり。お休みだ」

 

「休みってお金は……まあでも、あなたの体格だとしょうがないのかしら」

 

 俺だけじゃなくて、冒険者は定期的に休養日を設けているものだ。

 

 昔の俺じゃないが、毎日毎日休みなく重労働なんてしていたら、疲労がたまって身体を壊す。セリカはまだ若さとしっかりとした食事、充実した睡眠と人一倍の回復力でなんとかなってるが、やはりそのうち休みを設けざるを得ないだろう。

 

 かといって、休みだからなにもしないというわけじゃない。

 

 お金を稼げない日だからこそ、やるべきことをやらないと生き残れないのだ。

 

「実は初心者向けの講習を受けようと思って」

 

「ああ、あれね。意味あるのあれ?」

 

「わからないけど、気になってた奴があるからそれだけ受けてみるつもりだ」

 

「ふ~ん。ま、ツヴァイがいいならいいけど。これであたしと差が開いてしまっても、あとで後悔しないことね!」

 

 別に競ってないから気にしないぜ。

 

「アイアンランクでも、ホワイトランクと同じ無差別モンスター討伐クエストがあるし、それにしておけば?」

 

「えー、代わり映えしないじゃない。……もうちょっと探してみるわ」

 

「了解。それじゃあ、また夜に」

 

「ええ! あたしの活躍を今夜も聞かせてあげるわ!」

 

 アイアンランク向けのクエストを適当にはがして、受付に持っていくセリカ。受付嬢さんに内容を読んでもらうのだろう。

 

 彼女を尻目に、ギルドの奥にある大部屋へ向かう。

 

 会議などで使われているここが、俺が昨日予約しておいたモンスターの知識講習の会場だった。いくつかのテーブルと椅子が並んでいる。

 

 講習は予約制で、ある程度の参加人数がそろったところで開催される形だ。昨日の段階でこちらは締め切られており、講習費用の大銅貨三枚もすでに昨日支払い済みだった。

 

 俺が参加を希望したモンスターの知識講習はなかなかの人気ぶりのようで、会場にはすでに十人近い冒険者の姿があった。

 

 会場に足を踏み入れると、あちこちから視線が飛んでくる。

 

 ギルド内ですれ違ったことくらいはあるかな、という相手ばかりだ。知り合いはいない。

 

 適当に空いている椅子に座り、あらかじめ指示されていたので、テーブルに認識票を置いておく。

 

 周囲を軽く見回してみれば、ここにいる冒険者のほとんどがアイアンだった。

 

 年齢は上は二十歳くらいで、大体が十五歳から十八歳くらい。それ以下は俺くらいのものだった。そもそも数が少ない上、講習に出るような子供はさらに少ないに違いない。

 

「なあ、君」

 

 周りを観察していると、隣に座っていた冒険者の少年に話しかけられた。

 

 俺以外では一番若そうな冒険者で、近くの二人と話をしていたから三人組のパーティーだろう。

 

「突然話しかけて悪いな。ちょっと気になってさ」

 

「いや、別に大丈夫だけど」

 

「そうか。あ、自己紹介が遅れたな。オレはパーティー『伝説英雄組』のロランだ。こっちは同じパーティーの――」

 

 でんせつえいゆうぐみ?

 

 え? それがパーティー名なの? 

 

 あまりにも衝撃的かつださすぎる名前で、そのあとの仲間の自己紹介が全然頭に入って来なかったんだけど。

 

「お、俺はツヴァイ。パーティーは組んでないから一人だ」

 

「あれ? いつも一緒にいる女の子はパーティーメンバーじゃないのか?」

 

「セリカは違うよ。知り合いってだけ」

 

「そうなんだ。だってさ、お前ら」

 

 仲間たちに水を向けるロラン。伝説英雄組が俺を気にしていたのは、セリカが理由のようだった。

 

「可愛いよな、セリカちゃん。おいらもお近づきになりたい。あんな可愛い子、うちの村にはいなかったよ」

 

「ば~か。お前なんか相手にされないだろ」

 

「ははっ、この二人。どうも彼女にお熱みたいでね。ま、話しかけられなんてしないんだけど」

 

 セリカはギルドの見習い冒険者たちに人気のようだった。

 あのビジュアルであの快活とした性格だ。目立っているし、無理もない。

 

 実際は下着を男に洗濯させるような、女らしさの欠片もない少女なのだが。

 

「オレはむしろ君に興味があるけどな。セリカさんと一緒で、アイアンランクへ最速昇格したソロの子供。それって君のことだろ?」

 

「そうだけど、それって噂になってるのか?」

 

「この前までホワイトランクだったオレたちみたいな新人には、って感じだけどな。やっぱり自分たちと同じくらいのランク帯にどんな冒険者がいるのかってのは気になるよ」

 

「それはたしかに」

 

「そういう意味でも、こういう講習会には出るべきだとオレは思ってる。大体これに出てくるの、同じくらいの奴らばかりだろ?」

 

 それは俺も考えていた。横のつながりを持ちたいとは思いつつも、上のランクにいる冒険者には話しかけづらいものがある。

 

「考えることは同じか」

 

「そう言ってくれたのは君が初めてだ。他の二人は無駄だって言うからな」

 

「いやだって、一日クエスト受けないだけで、お金がやばいしさ」

 

「そうそう。宿代が払えなくなったら実際終わりだろ」

 

「数日雑魚寝すればいいだけだ。これは絶対に出るべき講習なんだよ」

 

「って、先輩冒険者の人が言ってたのを聞いただけだろ? 騙されてたらどうするんだよ?」

 

「雑魚寝は嫌だ。他の人のいびきがうるさ過ぎて寝れないよ」

 

 とても仲がよろしいらしい。

 伝説英雄組の三人は、そのあとも色々なことを話してくれた。

 

 そうこうしているうちに講義が始まる。

 

 講師は現役のシルバーランクの冒険者だった。

 

 ふむふむ。

 

 なるほどなるほど。

 

 へぇ、あのモンスターにそんな習性が。

 

 いやそれ罠だろ。知っておかないと初見殺し過ぎる。

 

 講義は非常にためになった。

 

 それよりも、他の同期といっていい冒険者とつながりを持てたのが大きいかもしれないが。

 

 講義のあと、せっかくだからと伝説英雄組の三人と、同じ講義を聞いていた『不死鳥の双剣』の二人組と食事をすることになった。

 

 ……やっぱり、新人パーティーの名前って仰々しくなるもんなんだな。

 

 セリカもそうだと言えばそうだし。

 

 なお、不死鳥の双剣の二人も、俺への第一声はセリカとの関係性だった。本当に人気だな、あいつ。

 

「いや実際人気あるよ、セリカちゃん。『黒鉄の鞭』の人たちからパーティーに誘われてたから」

 

「すげぇな。黒鉄の鞭ってブロンズランクのパーティーじゃん」

 

「でもあんまいい噂は聞かないよ。女冒険者にばかり声をかけてるらしいし」

 

「けどうらやましいぜ。今後のことを考えれば、上のパーティーに合流させてもらうのが一番いいからな」

 

「今のままでも生活はできるけど、どこかで怪我をしたり、武器が壊れたりしたらもうそこで終わりだからな。村から持ってきた蓄えなんて、とっくの昔に尽きてるし」

 

 安い豆のスープと黒パンを手に、情報交換を行う。

 

 やはり彼らもまた、このまま冒険者を続けることに不安を感じているらしい。

 

 なぜならば。

 

「俺らと一緒のタイミングで冒険者になった奴ら、俺らを残して全滅だよ。四人がクエストから帰らなくて、二人は故郷の村に帰っちまった」

 

「こっちは一組まだ残ってるな。死んだのは五人くらいだったかな?」

 

「いや、六人だよ。『漆黒にして黒き疾風』のダン、治療が間に合わなくて死んだらしいから」

 

 彼らはそれだけの死を知ってしまっているからだ。

 

「やっぱり一個くらいはポーションが欲しいよなぁ」

 

「生き残る可能性はぐんと跳ね上がるだろうな。高いけど」

 

「ああ、高い。あれを買うくらいなら、金属製の防具を全身揃えたい」

 

「前衛はそうだよな。奇襲はもう、全員で気を付けるしかないとしてもさ」

 

「僕らはやっぱり仲間がもう一人欲しいな。二人だと周囲しか警戒できなくて、上からいきなり襲われることがあってさ」

 

「ツヴァイは一人なんだろ? 小さいのに、よくそれでやっていけるな。なんだったらうちに来てくれよ」

 

 不死鳥の双剣からの誘いに断りを入れる。申し出はありがたいが、仲間に入る気はない。分身が気軽に使えなくなるからな。

 

「不死鳥の双剣って三人になったら名前どうするんだ? 双剣じゃなくなるだろ?」

 

「いや、そもそも俺らの武器槍だから。剣は関係ない」

 

「それに不死鳥にだって、真ん中に三本目の剣があるはずだろ?」

 

「えっ? 不死鳥ってあるの?」

 

「そもそも、不死鳥自体が伝説だから誰も知らないって」

 

 そんな感じで時折脇道に逸れつつも、新人同士の交流会は陽が落ち、店の人にいい加減邪魔だと怒られるまで続いた。

 

 またなにか役立つ情報があったら共有しよう、と約束を交わして別れる。

 

 有意義な時間だった。

 

 ノームの宿屋に戻れば、すでにセリカは帰ってきていた。お湯の入ったたらいの前で、ちょうど靴を脱いでいるところだ。

 

「おかえりツヴァイ。講習はどうだった?」

 

「ただいま。講習はためになったよ。明日からのクエストに活かせそうだ」

 

「そうなんだ。今度あたしも受けてみようかしら。でも、あたしくらいになると勉強なんてしなくても、普通にモンスターを倒せてしまうからお金の無駄かしらね」

 

「というからには、今日もモンスターを倒せたのか?」

 

「当たり前でしょ。……ちょっと手こずって二体しか倒せなかったけど、ま、明日は今日の分も含めて四体は討伐してみせるわ!」

 

 服を脱ぎ、セリカは湯浴みを始める。

 

「いたた……うぅ、しみるぅ……」

 

 その身体には、治りきらない傷や青あざがいくつもあった。

 

 俺の持っていた傷薬も、もう空っぽになっていた。

 

 

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