分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第31話  パワー不足

 装備を整えたことで、俺の冒険は格段に安定した。

 

「やっぱり盾があるといいな。俺の肉体でお前の攻撃を受けるぜ、をしなくていいだけでかなり楽だ」

 

「実際、分身を出し入れする回数も減ってるしな」

 

 前から予定していた兜に加え、俺は盾を購入していた。アロガンドさんが使っていたような立派な盾ではなく、木の盾に鉄板を貼り付けたような簡素なものだが、それでも十二分に活躍してくれている。

 

 元々、俺が教えてもらっていたダイナス流剣術が盾ありきの剣術だったこともあり、防御力はかなり上がったといって差し支えない。

 

 といっても、俺が教わったのは基礎も基礎だけであり、盾の取り回しは素人に毛が生えた程度でしかない。重ね重ね、村を出るのが半年早まった影響は大きい。

 

 でもなぁ、教えてくれたアロガンドさんには悪いのだが、実際ダイナス流剣術は俺とは相性がよくない。

 

 本体である俺はスキル発動のための手印を組む必要があるので、棍棒に加えて盾を持つことができないのだ。

 

 実際に今も盾を使っているのは分身体だった。

 

 可能なら、盾を使わない片手剣の剣術を学びたいところだ。

 この街にも色々な剣術道場があるから、お金がある程度貯蓄できたら通ってみてもいいかもしれない。

 

 その前に、剣をまず買わないといけないんだけど。

 

 防具を優先したというのもあるのだが、俺は棍棒に慣れ過ぎてしまった。

 

 手荒に扱っても刃こぼれすることはないし、日々のメンテナンスも必要ない。毎日がんばって手入れしているセリカを見ていると、よりそう思う。

 

 しばらくは棍棒が相棒でいいかも。もし壊れても、材木処理場で角材が安く買えるし。 

 

 あと棍棒の利点として、返り血を浴びづらいというのもある。剣はしっかり考えて振らないと、切り口から噴き出した返り血を浴びてしまうものなのだ。

 

 やはりセリカが必死になって服を洗濯しているのを見ると、よりそう思う。

 

「う~、なんで落ちないのよ。この前買ったばかりなのに」

 

 血を落とそうとがんばるセリカ。

 

 お前も棍棒を使わないか?

 

 そうか。

 

 使わないのか。

 

 

 

 

 

 セリカが剣にこだわるのは、憧れと語っていた冒険王ベイスンなる人物が剣を使っていたというのもあるみたいだが、それよりも棍棒では一撃でモンスターを仕留めきれないのが大きいらしい。

 

 たしかに棍棒で思い切り殴っても、一撃で倒れるモンスターの方が少ない。

 

 セリカは女だが、そこは異世界の魔力による身体強化の恩恵である。普通に腕力も俺以上にあって、他の身体能力も高い。

 

 それでもモンスターを倒せているのは、剣の力が大きいようだ。

 

 ソロのセリカにとって、一体のモンスターに何度も攻撃を入れないといけないのは、討伐する上で厳しいらしい。

 

 彼女は弓も扱えるが、狩人としての腕はイマイチのようだった。

 

 狙った的に当てることはできるが、獲物の居場所を探り当て、身の潜め、気付かれる前に当てる、ということはできないらしい。

 

 よしんば先制攻撃で当てられたとしても、ヘッドショットを一発で決められるほどの腕はないので、結局は剣でトドメを刺す必要がある。だからどちらにせよ、セリカには討伐を続ける上で剣が必須なのだった。

 

「剣はいいわよ! ツヴァイ、あなたも剣を買いなさい!」

 

 俺が棍棒をすすめれば、セリカはそれ以上の熱意で剣をすすめてきた。

 

「たしかに殺傷能力の向上は、ブロンズに上がるためには必要なんだよな」

 

 攻撃力と言い換えてもいい。

 

 防御は装備のお陰でなんとかなったが、俺にはモンスターを倒す上での攻撃力が足りていない。

 

 ホーンラビットやソードウルフ程度の小型モンスターならなんとかなるが、それ以上の大きさのモンスターを狩れないのは、そういった面が大きかった。

 

 ……剣か。

 

 剣を使え派閥のセリカに一晩中口説かれ、俺の心は揺らぎ始める。

 

 でもなぁ。きちんとした剣術を学んでないのに、剣を持ったところでなぁ。棍棒以上に上手く扱える自信はないんだよな。

 

 それなら剣より安い、短槍で十分だろという気持ちもある。

 

 それに攻撃力を上げる手段は、なにも武器をグレードアップさせることだけじゃないのだ。むしろ体格に左右される武器よりも、よほど俺にあった選択肢がある。

 

 そう。

 

 魔法を覚えるという手段もあるのだ。

 

 

 

 

 

 ゼルクトの街には『魔導図書館』という施設があった。

 

 これは大きな街なら大抵はある施設であり、建物の中には多くの魔導書が陳列されている。

 

 入場料を支払えば、既定の時間までならいくらでも読んでいい。

 ただし貸出は不可で、館内での写本も禁止。あくまでも金を払って魔導書を読むだけの施設だ。

 

 利用料は、朝の鐘から昼の鐘までの間、もしくは昼の鐘から夕方の鐘までの間で、それぞれ大銅貨三枚。一日ずっと館内から出ずに過ごすのであれば、割引が入って大銅貨五枚で利用できる。

 

 それで蔵書にある魔導書をいくらでも読めるというのだから、安い利用料と思うかもしれない。

 

 しかし実際のところ、コストパフォーマンスの観点からすると非常に高い。

 

 なぜならこの世界の魔法は、魔導書を一回読んだ程度で覚えられるものではないからだ。

 

 一個の魔法を覚えるのに、かかる時間は平均すれば四、五年と長い。

 

 魔法の習得方法自体、覚えたい魔法の魔導書を暗記するまで読み込み、その内容を頭の中で反芻させながら瞑想するという地味なものだ。そうすることで、魔法の詠唱が肉体、あるいは魂に刻まれて使えるようになる。

 

 ただし、瞑想を続けたからといって絶対に習得できるわけじゃない。

 

 相性が悪ければ、普通に時間を無駄にして終わり、ということも多々あるという。

 

 だからこそ世の魔導師たちは、最初の段階で多くの魔導書を読みふけり、ピンときた自分と相性のよさそうな魔導書を取捨選択し、平行して複数の魔法の習得に臨むのだ。暗記した十数冊の魔導書の中から、何年も瞑想を続けて魔法を一個習得できればよし。二個習得できれば万々歳というやり方を実践している。

 

 だから四、五年というのは、そういった失敗や試行も含めた平均年数であり、本当に運が良ければ一、二年で習得できることもあるという。

 

 あるいは運命的に巡り合った魔導書を、これが自分の運命だと信じて習得にかかるやり方もある。

 

 プラシーボ効果か、あるいは本当に運命を司る魔導神でもいるのか、こちらの方法の方が習得率が高いというのだから侮れない。

 

 どちらにしても、最終的に習得できるかは運だというのだから、この世界の魔法がいかに習得困難かがわかるというものだ。

 

 魔法という異世界の神秘に憧れ、半日分のお金を払って魔導図書館に来た俺も、そうそうにその難しさに気づいていた。

 

 何冊かすでに魔導書を読み終わっているのだが、自分と相性がいいのかどうかさっぱりわからない。習得できそうかと問われたら、無理っぽいかなぁとしか答えられなかった。

 

 そもそもピンと来るってなんなんだ?

 

 相性とはなにを指す?

 

 一応、魔法はそれぞれ火、水、地、風みたいな属性分けがされているのだが、水晶に手をかざして、あなたは火属性のようですね、みたいな診断方法があるわけじゃない。

 

 うちの家は代々火属性の魔法を覚えられる人間が多かったから、たぶん火属性の魔法と相性がいいんだろう、くらいのふわっとしたものでしかない。

 

「一応、水晶は大図書館の中にもあるんだけどな」

 

 ちらりと館内にある一部のスペースを見やる。

 

 大きな水晶玉を前に、紫のローブをまとった老婆が椅子に腰かけている。

 

 机には『あなたの魔法を占います 一回銀貨一枚』という立札が置かれている。論理的な相性診断ですらなく、個人の占いだった。

 

 かなり高額にもかかわらず、さっきから何人もの人間が占い師のところへ向かっては、その結果を見て図書館内から自分に合う魔導書を探している。

 

 習得魔法が運命によって定まっているのなら、なるほどスピリチュアルな手段に打って出るのもひとつの手かも知れない。こちらもやはりプラシーボ効果でしかないとしても、それで実際に魔法を習得できるのなら関係ないだろう。

 

 さすがに初回で占いに頼ることはしないが、占いにすがってしまう気持ちはわからないでもない。

 

 それくらい、ずっと魔導書を読み続けていた俺は疲れていた。

 

 魔導書の内容自体がそもそも難解なのだ。

 

 ある魔導書は自然界における火の扱い、歴史などを解いているかと思えば、別の魔導書は明らかに書いた人間の歴史を追いかけた自伝だったし、ポエム集みたいな魔導書もあった。

 

 本当にこれで魔法を覚えられるのか甚だ疑問であり、実際に覚えられるとはとても思えなかった。

 

 一応、今日読んだ魔導書の中で一番覚えられるかもしれないと感じたのは、『炎弾(ファイヤーボール)』という魔法だった。

 

 以前、とある男が使っていたのを見たことがあり、というか喰らって焼かれたことがあるため、イメージがしやすかったのだ。

 

 魔法としても火属性の初歩にあたる魔法で、習得難易度も低いとあった。これを暗記して何年か瞑想し続ければ、習得できなくもない気はしたのだが……。

 

 そこまで苦労して覚える魔法なのかねこれ?

 

 この世界の人間はみんな魔力をもっているので、同じ温度の炎だとしても、自然のものと魔法によって作られたものでは、威力という意味では自然の方に軍配が上がる。魔力によって魔法が弾かれる、抵抗される、という現象が起こるのだ。

 

 なので本当の意味で魔導師として立つなら、まず初歩であるファイヤーボールを習得したあと、同じ属性の魔法をステップアップさせていくイメージで、それよりもさらに威力の高い火属性の魔法を覚えていく、という手段を取らないといけない。

 

 戦闘で切り札として運用できる高威力の魔法は、三個目、あるいは四個目の魔法となり、こちらを習得できるのは、首尾よくいったとしても十年後。気の遠くなるような話だ。

 

 まあ、俺もまだ九歳なので、十九歳で魔導師として戦えるようになると思えばいいのかもしれないが。

 

 そんなに毎日魔導図書館に通っていたら破産してしまう。

 

 同じ魔導書を繰り返し読み続け、完璧に暗記すれば、家で写本なりして途中で図書館通いはやめられるのかも知れない。だとしても、それまでの間の料金だって馬鹿にならない。

 

 ならいっそ割り切って、本当に覚えたい魔法に挑んでみるべきか。

 

 俺がなにより覚えたい魔法。

 

 これ、実は治癒魔法だったりする。

 

 分身スキルの弱点は本体の俺が怪我を負うことだ。

 そこで本体を回復できる治癒魔法があれば、生存能力は飛躍的に上昇する。

 

 本体の回復手段としてはポーションはあるが、その効果は基本的に治癒魔法よりも低いらしい。

 

 治癒魔法も自分自身には使えないという欠点はあるのだが、それは自分の肉体を対象に取ることが魔法的に難しいからという理由であり、俺の場合は分身に使わせれば問題ないはずだ。

 

 アルフィリアさんに治癒魔法――厳密にはスキルの力だったけど――をかけられたこともあるし、イメージもし易い。案外覚えられるかもな。

 

 そう思い立って治癒魔法の魔導書を探したのだが、見当たらなかった。

 

 そこで司書の人に聞いてみたところ、意外な答えが返ってきた。

 

「ああ、うちには治癒魔法の魔導書はありませんよ」

 

「え? ないんですか? 一番需要がありそうなのに」

 

「そうなんですけどね。治癒魔法の魔導書は非常に貴重で、六聖教会が厳重に管理しているのです。プリーストになりたいのなら、国と教会が共同で運営している『救護魔導院』という専門の学舎に通う必要がありますよ」

 

 とのことだった。

 

「ま、治癒魔法は才能も必要ですけどね。救護魔導院に入学しても、治癒魔法を習得できるのは三十人に一人くらいとのことです」

 

「狭き門だなぁ」

 

 道理でプリーストの数が少ないはずだ。

 

「ちなみに、習得できなかった生徒はどうなるんです?」

 

「医学や薬学を学んで、医師や薬剤師になるそうです。治癒魔法は病気には効きませんので、案外住み分けはできてるそうです。ポーションを作ってるのも主にそういった方々ですよ」

 

「へー」

 

 ためになる話をありがとうございます。

 

 しかし六聖教会か。

 

 治癒魔法といえばたしかに教会だろうけど、俺が思っていたより教会は人々の生活にがっつり食い込んでいた。教会の人間が村に来てくれたとき村長があれだけ嬉しがるはずだし、そりゃ権力も強いはずである。

 

 そんな感じで、一番欲しい治癒魔法は覚えられそうになかった。

 

 似たような考えで、もしかしたら教会に行った(アイン)がフィーネのために向こうで覚えようとしているかもだし、俺は別の魔法に挑むべきだろう。

 

 じゃあそれはなんなんだと言われれば、覚えられそうな魔法になるわけで。

 

 振り出しに戻ってきてしまった。

 

 覚えたい魔法ではなく、あくまでも覚えられそうな魔法を探す、徒労にも近いこの作業。

 

 ……はっきり言って、魔法を習得して攻撃力を上げようとした俺の考えは、見積りが甘かったと言わざるを得なかった。

 

「そりゃ名門魔導師の家が、ロマンティックデストルネードの儀式に打って出るわけだよ」

 

 魔導師の執念、恐るべし。

 

 初回の感想は、まさにこれに尽きたのだった。

 

 

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