分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第33話  追放案件

 レミさんたってのお願いで、俺が参加することになったのは、シルヴィアという冒険者が開催している魔法講習だった。

 

 講習が開かれる日、前もってそのシルヴィアさんとは顔合わせをすることなった。

 

「こんにちは。レミちゃんから話は聞いてるわ。私は『銀の盾』のシルヴィアよ。よろしくね」

 

「ツヴァイです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 先輩冒険者なので、頭を下げておく。

 

 シルヴィアさんは、二十歳を少し過ぎたくらいの綺麗なお姉さんだった。

 

 クエスト時ではないので武装をしておらず、普通の街娘が着るようなゆったりとした服装をしているが、腰のベルトに短い杖を差し、いつでも戦えるように準備をしているのが冒険者らしい。

 

 胸元にはシルバーランクの冒険者であることを示す、銀の認識票。

 

 正真正銘、俺にとっては大先輩にあたる冒険者だった。

 

「ふふっ、うちのリーダーと参謀が言ってたとおり、本当に子供とは思えない大人みたいな言動なのね」

 

 頭を下げた俺を見て、シルヴィアさんは口元に手を当てて上品に微笑む。

 

 リーダーと参謀? 誰のことだ?

 

「あら、覚えてない? 一度だけお話したと言っていたのだけれど」

 

「……あ!」

 

 冒険初日にクエストボードの前で会話をした、あの二人の冒険者か。

 

 たしかに、目の前のシルヴィアさんと同じく銀の盾を名乗っていた覚えがある。

 

「ええと、こう厳つい顔だけど面倒見がよさそうな男性と、冒険者っぽくない学者さんみたいな人の二人のことですか?」

 

「そうそう、それがうちのリーダーと参謀ね。でも……ふふっ、一回会っただけなのに、よく特徴を捉えてるわ」

 

「あー、失礼だったらごめんなさい」

 

「全然、気にしないで。二人とも本当にそんな感じだから。特にリーダー、怖い顔してるけど、本当に面倒見がいい人なの。ツヴァイくんも、なにか相談したいことがあったら声かけてみてね。きっと、色々と面倒見てくれるから。もちろん、相談相手は私でもいいけどね」

 

「えっと、そのときは是非」

 

「楽しみにしてるわね。君みたいな子供に頼られると、あの人内心で喜んでるのが丸わかりで面白いのよ」

 

 シルヴィアさんは仲間のことを嬉しそうに話してくれる。

 

 そんな感じでしばらく談笑したあと、本題に入る。

 

「それじゃあ、今日は講義のお手伝いをしてもらうわね。と言っても、ツヴァイくんには見ていてもらうだけになっちゃうかも知れないけど」

 

「手伝うことはあまりありませんか?」

 

「そうなのよ。私、今三人ほどブロンズの子の面倒を見ているのだけれど、全員ある程度文字を覚えて魔導書を読めるようになってるから。今日はたぶん、自分で読んでいて読めなかったところなんかを質問してくるくらいになると思うわ」

 

「あー、じゃあ俺は、シルヴィアさんがもし他の人に聞かれていて答えられそうになかったとき、代わりに聞くみたいな感じでどうです?」

 

「そうね、そうしてもらえると助かるかも」

 

 そんな感じのやりとりのあと、これまでどういった形で講義をしていたか教えてもらえた。

 

 最初は文字の基本を教える。普通ならそこから簡単な単語に入るのだが、この講習の場合は、代わりに持参した魔導書を読んであげて、登場する単語の意味を教えてあげる作業に入るのだそうだ。

 

 それを繰り返し、一冊分の魔導書を読めるようにする。文字の読み方をある程度覚える頃には、自分の魔導書を読めるようになっているという寸法だ。

 

「冒険者だと、あとはクエストによく出てくる単語を教えてあげれば、もうそれでいいみたいね」

 

「もう大人ですし、必要のない単語を読めるようになっても、って感じですか」

 

 この先も別の魔導書を読もうと思うなら、それこそ多くの単語を知る必要がある。しかし自分の持っている一冊だけを読めればいいのなら、覚えればいい単語も少なくて済む。

 

 極論、魔導書を持っているのなら、別の誰かに声を出して読んでもらって覚えて、内容を正しく教えてもらえれば、字が読めなくても魔法を覚えられないこともないそうだ。

 

 シルヴィアさんも没落してしまったがいいところの家の出だったらしく、寝物語でよく魔導書を読んで聞かせられたらしい。あとになって振り返れば、自分が覚えた魔法のひとつはあのときのだったかも、と。

 

「もちろん、この講義で魔導書を読めるようになったからって、絶対その魔法を覚えられるわけじゃないけれどね」

 

「そのあたりは運ですか」

 

「そうね。でも案外、みんな覚えてるわ。私は前も別の生徒を教えていたけれど、半分以上は魔法を習得してるから。持参してきた魔導書が、自分が冒険をする中で巡り合った魔導書だったからかしらね」

 

「あとは一個目だからでしょうか。一個目の魔法は覚えやすいんですよね?」

 

「そうなのよ。だからちょっと歯がゆい気持ちもあって。それ覚えるの? みたいな。私みたいな魔導師からすると、難しめの魔法を覚えられる好機なんだから、もっと運命と遊んでもらった方がいいと思うのだけれど」

 

 専門的に魔法を扱う魔導師ならではの感性で、シルヴィアさんは話をしてくれる。

 

 その眼は俺を見つつも、時折俺の周囲をふらふらと行ったり来たりしていた。

 

 気になって尋ねてみたら、

 

「あら、ごめんなさい。ついつい魔力の流れを目で追っちゃって」

 

「魔力。俺にはわかりませんけど、魔導師の人は見えるんですよね?」

 

「最初は私も見えなかったわ。でもいくつかの魔法を覚える過程で自然とね。ああでも、安心して。人の魔力が見えるからって、その人の思考が読めるわけじゃないから。わかるのは魔力の量と、あ、この人魔法を覚えてるんだな、この人も魔力が見えてるってことは魔導師なのかしら、ってくらいね」

 

「へー。ところで俺の魔力量ってどうです?」

 

「普通ね。戦士としてやっていく分には十分だけれど、魔導師としては少し心もとないかしら」

 

 しょぼーん。

 

「大丈夫よ。魔法を覚えるごとに魔力って増えるものだから。魔法を覚えても、それを魔力不足で使えないなんてことはないから」

 

 知らない情報がすごく出てくる。これ、俺は講師役じゃなくて、生徒役で参加した方がいいんじゃないか?

 

 そう思いつつも講義が始まる。

 

 シルヴィアさんがあらかじめ言っていたように、本当にそのままの感じで講義が進んでいく。

 

 魔導書持参でやってきた冒険者三人からの質問に、シルヴィアさんが答えていく。

 

 中には魔法ってどういう風に使うのか、どんなタイミングだと効果的なのか、みたいな話もあって、横で聞いている分には面白い。

 

 俺も数回、文字の読み方を聞かれ、それを教えるということもあったけど、手伝いという手伝いをすることなく講義は終わってしまった。

 

「それじゃあ、今日の授業はこれでお終い。三人とも、この調子ならもう私の授業は必要ないかしらね」

 

 シルヴィアさんの締めの言葉に、三人のうち一人は頷いて、二人は首を横に振る。

 

「いやいや、シルヴィアさんにはまだ教えてもらいたいことがあります!」

 

「そうです! まだ魔法も覚えられてないですし!」

 

「だけど、二人ともあとは暗記するまで魔導書を読み込んで、瞑想とかする段階よ?   実際に習得したら反復練習とかには付き合えるけれど、しばらくは私、あまりお役に立てないと思うのだけれど。魔導師の私と違って、二人は別に魔導師を目指すわけじゃないんでしょう?」

 

「そ、それはそうなんですけど」

 

「でもちょっと心配というか」

 

「う~ん。困ったわね。私も頻繁に講義を開いてあげられる余裕はないし。あ、よければこちらのツヴァイくんに講師を引き継ぎましょうか?」

 

「えっ?」

 

 ちょっ、聞いてない!?

 なし崩し的に俺を講師に据えようとするのはやめて?!

 

 はっ!? レミさんだな? レミさんの仕業だなこれ!

 

「いや俺ら、講師は誰でもいいわけじゃなくて」

 

「姫じゃなくてシルヴィアさんがいいっていうか」

 

 慌てる俺を他所に、顔を見合わせる冒険者二人。助かったけど、なんかちょっと釈然としない。あとさらっと変な呼び方しなかった?

 

「気にしないでいいぜ。あいつら、これを口実にシルヴィアさんと会いたいってだけだから」

 

 一人片付けを進めていたもう一人の受講者が、こっそりと俺に教えてくれる。

 

 ああなるほど、そういうことね。

 

 シルヴィアさん、大人の女性っていう感じで綺麗だからなぁ。

 

 それに気づいているのかいないのか、シルヴィアさんは二人の冒険者の熱意におされ、次の開催がいつになるかわからないけど、という条件で引き続き講義を続けることを決定した。

 

「どう? ツヴァイくん。講師はやれそう? 私は全然、今日の調子ならやっていけると思うけど」

 

 去っていく三人を見送ったあと、シルヴィアさんに尋ねられる。

 

 そうだなぁ。

 

「やれそうです。三人相手はちょっと厳しそうなので、やるとしたら二人相手になりそうですが」

 

 一人だと稼ぎが微妙なので、やるとしたらそうなるだろう。

 

「それはよかった。レミちゃんにはいい報告ができそうね」

 

「……シルヴィアさん、レミさんになにか言われてますよね?」

 

「さてどうでしょう。ふふふっ」

 

 上品に笑って誤魔化そうとするが、誤魔化せていませんよ。

 

「でもシルヴィアさんもよかったんですか? 講義を続けることになって」

 

「そうねぇ、私も忙しくはあるんだけれど」

 

 シルヴィアさんは頬に手を当て、困ったように微笑む。

 

「でも、私もいい出会いを求めているから」

 

「意外です」

 

 生徒側の冒険者たちと同じく、シルヴィアさんにもその気があったなんて。

 

 たしかに年齢的には、街の女性としてはやや行き遅れという年齢に差し掛かっているかも知れないが、美人だし、高位の冒険者でさらには稀少な魔導師だ。引く手数多だと思われるが。

 

「私、こういう出会いを大切にしているのよ。先生と生徒という立場で巡り合う。ロマンチックじゃない」

 

「そういうものですか」

 

「そういうものなの。実際にね、生徒として出会って、最後まで行っちゃった相手もいるんだから」

 

 そう言って、妖艶な笑みを浮かべるシルヴィアさん。

 

 ひょええ、えっちなお姉さんだ! えっちなお姉さんがここにいるよ!

 

「私の五つ目の魔法、最初の出会いは生徒が持ちこんだレアな魔導書だったの。それを音読してあげる過程でこっそり、ね」

 

「そっちの話ですか」

 

 全然えっちな話じゃなかった。魔法の習得的な話だった。

 

「魔導師の人は、いつだって魔導書との運命的な出会いを探してるんですね」

 

「それはそうよ。魔法って、運命を紐解く学問だもの」

 

 シルヴィアさんは講義で使った自分の魔導書の表紙を指でつーと撫でながら、そう教えてくれた。

 

「ツヴァイくんも、もし本格的に魔法を学びたかったら、王都にある魔法学院に入学するといいわ。きっと、刺激的な経験をたくさん味わえるから。魔法だって、在学中に二つは覚えられるわよ」

 

「俺の場合、まず最初の魔法を習得するところからですけどね」

 

 せっかくなので、そのあたりのことを相談してみる。

 

「魔導図書館に行ってみたんですが、どれを選べば習得まで行けるかわからなくて」

 

「そうねぇ、魔導図書館で自分にあった魔導書を探すのは、かなり大変よ」

 

 シルヴィアさんの話では、王都の魔法学院の近くには大魔導図書館があり、王国でも最大の蔵書数を誇っているらしい。

 

「ロマンティックデストルネードの儀式ってものがあってね」

 

「ああそれ、知ってます」

 

「知ってたの。それなら話は早いわね。次に魔導図書館に行ったとき、自分でやってみるといいわ。実際に効果があるんだから」

 

 かくいうシルヴィアさんも、最初の魔法はそれで会得したらしい。

 

 やっぱり効果あるんだ。

 

 ……やってみるしかないか。

 

 ロマンティックデストルネードの儀式を。

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 半日分のお金を支払い、セルフで目を回したあと、最初に手に取った魔導書のタイトルを見てみる。

 

清掃(クリンクリア)』――家の頑固な汚れを取り除くだけの光を放つ魔法。

 

 俺が名門出身だったら、きっと即追放だったろうな。

 

「うん、剣を買おう」

 

 俺はそっと、運命の魔導書を棚に戻すのだった。

 

 

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