分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第34話  あの日見た骸

 魔法の習得はいったん諦めることにして、俺は攻撃力を上げるために武器を買うことにした。

 

 魔法はもう、長い目で見ていくしかない。

 

 読み書きの講習は今度正式にやることになったし、上手くいけばそれで休養日もお金を稼げるようになる。定期的に魔導図書館に通う費用くらいは、今後も確保できるだろう。

 

 そんなわけで、クエスト帰りに武器屋に向かうことにした。

 

「棍棒狂いのツヴァイも、ついに剣を買う日が来たのね」

 

 隣には、ニタリ顔でついてきたセリカの姿があった。

 

「ね? 棍棒でこの先もやってくんじゃなかったの? ずっと撲殺でがんばっていくって言ってなかったっけ?」

 

「うるさい。というか、うざい」

 

 剣の購入予定を昨夜うっかり漏らしてしまったあとは、ずっとこんな感じだ。

 

「冗談よ、冗談。あたしはただ、剣をオススメしてしまった人間として、ツヴァイが変な剣を買わないように助言してあげようと思っただけだから。だから本当は買うお金がないのに見栄はってるなら、今のうちに素直になっておいた方が無難よ?」

 

「大丈夫。予算はちゃんと組んである。銀貨五枚までなら出せる」

 

「えっ? あ、そう……なの。そ、それだけあれば余裕で買えちゃうわね、うん」

 

「? あと別に剣じゃなくて、短槍にするかもしれないから」

 

「あー、ツヴァイって盾を使うんだっけ? それなら、その方がいいかもね」

 

 からかう途中でなんか挙動不審になっていたセリカがいつもの態度に戻り、あれこれと教えてくれる。

 

「剣にも種類があって、主にリーチが違うのよ。長い方が威力は高いけど、その分重くて取り回しが難しいの。ツヴァイの年齢だと、よっぽど身体強化が上手くないかぎり、剣はショートソードが精一杯かしら」

 

「ショートソードだとなんか問題でもあるのか?」

 

「そんなことないけど、盾を前に出しつつ振るうには、ちょっとリーチが足らないかなと。ツヴァイはまだ、腕も短いからね」

 

「うるせっ。この先でかくなるんだよ」

 

「そういえば」

 

 セリカが一度足を止め、俺の頭の手をあて、それをそのまま自分の身体まで持っていく。

 

「たしかに、最初に会ったときより背も伸びた気がするわね」

 

「えっ? 本当?」

 

 自分では気づかなかったが、背が伸びてる?

 

 一年前とは違って、ちゃんとご飯を食べてるからな。身体だって成長してるってわけだ。

 

「これはセリカの身長を抜かす日も、そう遠くないかもな」

 

「なに言ってるのよ。ちょっと伸びたくらいで、あたしとの身長差が縮まるとは思わないことね。あたしだって、まだまだこれから伸びていくんだから」

 

 俺からすれば、セリカは見上げないといけない大きな相手なのだが、女性としては比較的小柄な方だ。

 

 俺じゃないが、もうちょっと身長が欲しいと言っていた。

 

「伸びてるのか?」

 

「……身長は変わらないわね」

 

「じゃあ身長以外の、ああ、体重?」

 

「日々戦って筋肉つけてるから、それはもうぐんぐんとよ!」

 

 からかい目的で言ったのだが、セリカはぐっと手に力をいれてこぶを作って見せた。

 

 素晴らしい筋肉だ。戦う人間の筋肉をしている。

 

 お腹だって、うっすらとだが割れている。魔力による身体強化だけじゃない。セリカは努力して身体を作っているのだった。

 

「でも胸とかお尻とかも大きくなってるのよね。戦うのには、ちょっと邪魔かも」

 

「お互い成長期だからな」

 

 身体の悩みは人それぞれだ。

 

 そんなこんな話をしていると、武器屋に到着した。

 

 ギルドから程よい距離にあるサラマンダーの武器屋は、まさに武器屋といった店構えで、中に入ってみると髭面のドワーフみたいな店主が出迎えてくれた。

 

「いらっしゃい。ここはサラマンダーの武器屋だよ」

 

「どうも。武器を探しに来ました」

 

「あたしは付き添いです!」

 

「おう、護身用の武器ってことか。いいセンスだ」

 

 店主は俺とセリカを見て、うんうんと腕組みをして頷く。

 

 店内を見回すと、店の壁には何本もの剣や槍が飾られていた。

 

「この中で、俺でも扱えそうな剣や槍ってどれですか? あ、護身用じゃなくて、モンスターも狩れる奴です」

 

「モンスター? 冒険者志望か?」

 

「いや、すでに」

 

 俺はアイアンの認識票を店主に見せる。

 

「ほぅ、その年でアイアンランクか。前途有望だな。是非、うちをひいきにしていってくれ」

 

 店主の目つきが変わる。ちゃんと客を相手にする顔つきになった。

 

「戦闘スタイルはなんだ?」

 

「今までは棍棒を振り回してました。けどやっぱり威力が不足していて、殺傷力の高い武器が欲しくて来た感じです」

 

「棍棒か。なら、槍よりは剣だな。盾は使うか? 剣術流派はあるか?」

 

「一応、ダイナス流剣術をかじってますが、ほぼ独学です」

 

「ダイナス流か。モンスター相手より、人間相手の剣術だな。冒険者としてやるなら前衛の壁役(タンク)向けになるか。となると、普通のショートソードより少し長めだな」

 

 店主が店の奥から一振りの剣を持ってくる。飾り気のない、実用重視の剣だ。

 

「持てるか?」

 

 受け取り、鞘から抜いてみる。

 

 ずっしりと来る重み。片手で持って、軽く構えてみる。

 

「問題ないです。行けます」

 

「初歩の身体強化もできてるみたいだな」

 

 店主があごひげをしごきつつ、俺の身体を矯めつ眇めつ見る。

 

 魔力による身体強化。自覚はないのだが、俺もできるようになってたか。たしかに、普通の子供なら運べないようなモンスターも、持ち上げて運べてるしな。

 

 そのあとも何本か別の剣を見せてもらったが、最初の剣が俺的にはしっくり来る。

 

「俺は最初に見せてもらった剣にしようと思うんだけど、セリカはどう思う?」

 

「そうねぇ」

 

 セリカは自分の剣を抜くと、俺が選んだ剣の横に並べて置く。

 

 長さ的には、俺の剣の方が指先一本分くらい短い。

 

「まあ、これくらいの長さでも、大型じゃなければモンスターの首は落とせそうね。うん、いいんじゃない?」

 

「じゃあ店主さん、これを下さい」

 

「はいよ、銀貨三枚に大銅貨七枚ね」

 

 思ったより安い。そう思った俺は財布を取り出し、支払おうとして。

 

「店主さん、ちょっとそれは高いんじゃない?」

 

 横からぐいっとセリカが身体を乗り出してそう言った。

 

「ほう?」

 

 店主さんの目が光る。

 

「なら銀貨三枚に大銅貨六枚でどうだ」

 

「店主さん、このツヴァイはあたしの好敵手よ。この先、ブロンズ、シルバーとランクが上がっていく。ここで剣を上手く売り込めればどうなるか……わかるかしら?」

 

「将来性を買えってか。いいぜ。なら銀貨三、銅貨四だ」

 

「もう一声! ここで格好いいところを見せてくれたら、このあたしももしかしたら装備を買い替えるときには利用するかもしれないわね!」

 

「よし来た! ならメンテナンス用の道具もつけて銀貨三、銅貨三でどうよ!」

 

「買ったわ!」

 

 セリカはにんまりと笑い、俺にお金を出させる。

 

 支払ったお金を店主が店の奥に持っていくのを見ながら、セリカが軽く俺の頭を小突いた。

 

「こら、ツヴァイ。ちゃんと値切りなさい。こういうところの最初の金額は、それ込みで高く見積もられてるんだから」

 

「……そういうものなのか」

 

「そういうものよ。案外あなた、物を知らないわねぇ。村にいたとき、行商人とか相手に買い物したことないの?」

 

 ないんだよなぁ。奴隷だったから。

 

「知らなかったよ。ありがとう、セリカ」

 

「ふふん、お礼ならこのあとご飯を奢ってちょうだい」

 

「それくらいいいぞ。けど、値切った分全部出させるまで食べないでくれよ」

 

「さてどうかしらねぇ。お互いに育ちざかりだし」

 

「待たせたな」

 

 店主がメンテナンス用の油などを手に戻ってきて、改めて剣と一緒に渡してくれる。

 

 思わずほくほく顔になってしまう。全財産の三分の一くらいを持ってかれる高い買い物だったが、いい買い物ができた。

 

「じゃあ、店主さん。またなにがあったら来ますね」

 

「ああ、待ってるよ。そっちのお嬢ちゃんも」

 

 店主はセリカが抜いた剣を戻しているのを見て、少し眉根を寄せる。

 

「その剣、だいぶくたびれてるようだし、新調するときは是非うちに来てくれな」

 

「あら失礼ね。あたし、ちゃんと大事に手入れしてるわよ」

 

「そりゃ見ればわかるが。いかんせん、古い代物だろう?」

 

「冒険者だったおじいちゃんの遺した剣だから、かなり古いとは思うけど……」

 

「まあ、無理にとはいわんがね。新調しなくても、調整にだけでも出してくれれば違うだろうしな」

 

「……機会があれば、そうさせてもらうわ」

 

 チン、と音をさせてセリカが剣を鞘に納める。

 

 それがフラグになったわけではないのだろうが。

 

 武器屋の店主の心配どおりセリカの剣が折れたのは、この数日あとのことだった。

 

 

 

 

 

 セリカの剣が折れた。しかも戦闘中に。

 

 その時点ですぐに逃げ出せばよかったのだが、セリカは咄嗟に決断することができなかった。剣で一撃を与えていたこともあり、瀕死のモンスターを前に迷ってしまったのだ。

 

 結果、最後の力を振り絞って反撃に出たモンスターによって、まともに攻撃を受けてしまった。腕を盾にして致命的な場所は避けたが、深々と腕をえぐられてしまったのだ。

 

 なんとかギルドまで逃げ帰ることができ、不幸中の幸いで待機していたプリーストの手によって治癒魔法を受けることができたが、それでも手痛いダメージを負ってしまったことには変わりない。

 

 クエストは失敗扱いで報酬はなし。治療費が銀貨四枚。

 

 加えて、次のクエストを受けるには剣を買い直す必要がある。安いものでも、銀貨三枚は必要になる。

 

 ギルドの治療室にあるベッドに腰かけたセリカの表情は、多くの血を失ったのとは異なる理由で青ざめていた。

 

 レミさんからセリカのことを教えてもらい、見舞いに来た俺は、彼女になんて声をかけていいかわからなかった。

 

「あはは、ちょっと失敗しちゃったわね」

 

 セリカの笑い声は、空元気のそれだった。

 

「でも大丈夫よ! あたしはこれくらいのことでへこたれないわ! 何度敗れても、その度に不屈の精神で立ち上がった冒険王ベイスンのように、あたしもより強くなって復活してみせるから!」

 

 それでも俺を心配させまいと、そう大声でセリカは言ってのけた。

 

 ああやっぱり、セリカはこうじゃないとな。

 

「わかった。じゃあ俺も、右腕のベルフェゴ、だったか? その人みたいに、なにかあったらセリカを支えるから」

 

「えっ!? な、なによ急に……!」

 

 俺の言葉に、セリカがあからさまにうろたえ、頬を赤らめる。

 

「い、いきなり告白されても、あ、あたし的にはツヴァイは弟みたいな存在というか。でも結構格好いいところもあるし、将来的にはなしではないというか!」

 

「告白なんてしてないよ?」

 

 ベイスンとベルフェゴってそういう関係なんです? 名前の響きとしては男同士っぽいんだけど。

 

 あとセリカ的に、俺って割と脈あるんだ。意外。

 

「とにかく、お金のこととか、なにか相談事があったら言ってくれ。力になるから」

 

「馬鹿ね。年下の子供が、人のお金のことまで心配するんじゃないわよ」

 

 そう言いつつも、セリカは困ったような、でも嬉しそうな表情を見せる。

 

「ツヴァイも剣を買ったばかりでお金がないことくらい、あたしにだってわかってるんだから」

 

「ん? いや、大丈夫だよ。それは装備用で別で積み立ててた奴だから」

 

 今日も銀貨一枚と銅貨三枚の報酬があったし。

 

「あと金貨一枚くらいの貯金はある」

 

「金貨って……またまた、見栄張っちゃって。もしかして、好きな女の子の前で格好つけたいあれ? ツヴァイって本当にあたしのこと好きなの?」

 

「好きか嫌いかでいえば、そりゃ好きだけど」

 

 嘘じゃないんだけどな。常にいざというときの治療代と、数日分の生活費はとっておいてあるから。

 

「と、とにかく、あたしのお金の心配はしないで大丈夫だから! 剣を買う蓄えくらいはあるんだから!」

 

「それならよかったけど、いざというときは遠慮するなよ?」

 

「それはこっちの台詞よ。それより今日はあたし、ここに泊まっていいんだって。だからごめんだけど、宿の店主さんにそう伝えておいてもらっていい? あ、荷物は部屋でそのまま預かっておいて欲しいんだけど、いいかしら?」

 

「わかった。俺が責任をもって預かっておくから、安心してくれ」

 

「ありがと」

 

 そこまで話したところで、セリカは疲れたようにベッドに横たわり、寝返りを打って俺に背中を向けた。

 

「明日の夜はまたノームの宿屋に泊まるから。今日だけは寂しいと思うけど、一人で過ごして。あれだったら、あたしの毛皮とか使っていいから」

 

「ああ、お大事にな」

 

 俺はそれだけ言い残し、部屋を後にする。

 

「ん?」

 

 そこですぐ近くに、白を基調としたローブをまとい、大きな白い帽子をかぶったプリーストの女性が立っているのに気づく。

 

 彼女はしーと口元に手を当てると、ちょいちょいと俺を手招きする。

 

「どうも。なにか御用でした?」

 

「はい、どうもです。いえ、ちょっと部屋の中の会話が聞こえてきてしまって。あの患者さんのことなのですが」

 

 二十代後半くらいの、隈のあるどこか疲れた顔をしたそのプリーストは、セリカのことで話があるようだった。

 

「もしかして、セリカ。なにか怪我の後遺症でも? それとも、もしかして実は治療費を払えてないとか?」

 

「いえいえ、どちらも大丈夫ですよ。怪我はきちんと全部治しましたし、治療費も全額ちゃんと受け取ってますから。あ、でも、怪我以外に疲労がかなり溜まっていたので、交際相手ならそこはもっと注意してあげて欲しいかもですねぇ」

 

「いや、俺とセリカはそういう関係ってわけでは」

 

「愛の形はそれぞれです。隠す必要はありませんよ?」

 

「……ご理解ありがとうございます」

 

 優しい微笑みを向けられる。

 説明するのも面倒なので、そこはもう突っ込まないことにした。

 

「それじゃあ、セリカのことでお話って?」

 

「ああはい、そうなんです。肉体的には間違いなく快癒しているのですが、どうも精神に錯乱が見られるようで」

 

「錯乱? そうは思えなかったですけど。ただ、ちょっと落ち込んでるだけでは?」

 

「落ち込むだけで、あんな風にベイスングみたいになるとか普通言い出しませんよ。あなたも、話を合わせてあげただけだと思いますが、ベルフェゴルみたいになるとか冗談でも言わないでくださいね? 聞いてたのがもっと教会寄りのプリーストでしたら、ぶっ飛ばされてても文句言えませんよ?」

 

 ぶっ飛ばされる? ベイスンとベルフェゴのことで?

 セリカの憧れた物語の登場人物が、なんの関係があるんだ?

 

「あの、すみません。いまいち話がよくわからないんですが」

 

「あれ? ベイスングの名って、市井にはあまり周知されてないんでしたっけ? 救護魔導院に通っていたのがもうだいぶ前なので、今ひとつ私も自信ないんですけど。ああでも、忌々しきベルフェゴルのことは有名だからさすがに知ってますよね?」

 

「……知りません」

 

「そうなんです? えっ? 私の常識って、世の非常識でしたか?」

 

「いやたぶん、俺とセリカがものを知らないだけだと。この街じゃなくて、田舎の小さい村出身なので」

 

 忌々しきベルフェゴル? それって魔導師ベルフェゴのことだよな?

 

 で、ベイスングというのが冒険王ベイスンのことか?

 

 そういえば、セリカは実在の人物の名前だと言っていた。それは彼女の勘違いでもおじいさんの作り話でもなく、本当のことだったのか。

 

 ベイスンとベルフェゴというのは、本名を少しアレンジしたものなのだろう。

 けれどそれはつまり、そのままの名前では冒険譚の登場人物として使えなかったということで。

 

「あの、さっき口にしていたベイスングって何者なんですか?」

 

「ああはい、ベイスングというのはですね――……」

 

 

 

 

 

「なるほど。亡くなったおじいさんが語ってくれた作り話の登場人物だったと。そういう事情なら仕方ないですね。わかりました。セリカさんの憧れた冒険王については聞かなかったことにしておきます。でもこれからは、人前では言わせないようにしてくださいね?」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 俺はプリーストさんにお礼を告げて、ギルドを後にした。

 

「……今のセリカには言えないよなぁ」

 

 どうやらセリカが憧れた冒険王は、本当に存在していなかったらしい。

 

 あるいはそのほとんどがセリカの祖父の自慢話で、冒険王とはセリカのおじいちゃんのことだったのかも知れない。そうであってくれた方が、真実を知ったときにセリカが傷つかないで済むのだが。

 

 どこまでが作り話で、どこまでが事実なのか。セリカの持っていた、あの魔導書の内容が気になるところだ。

 

 そして今夜だったら、それを盗み見ることも可能なのだが。

 

「……さすがに勝手に読むわけにもいかないよな」

 

 それは信じて荷物を預けてくれたセリカを裏切る行為だ。

 

 プリーストさんには軽く事情を説明し、そこには触れないであげて欲しいと頼んでおいたから、セリカがさっきの話を知ることはないだろう。いずれ折を見て、彼女には真実を話し、魔導書の中身を確認しないといけないのだろうが。

 

 ……今はセリカに、これ以上の負担はかけたくない。

 

 セリカの剣が折れたのは、純粋に寿命だったらしい。

 

 日々、大事に手入れをしていたが、それでもいずれ限界はやってくる。

 

 それが偶々今日であり、戦闘中だったというだけの話だ。

 

 装備の点検を自分だけで済ませ、専門家に見せなかった、という意味では失敗と言えるのかもしれない。

 

 そしてセリカはその一回の失敗で、大きなダメージを負ってしまった。

 

 銀貨にして七枚分の出費。

 新人冒険者にとっては、身を切られるような金額だ。

 

 ふと、俺に冒険者のことを教えてくれた、あの死んでしまった農奴の男のことを思い出す。

 

 冒険者は夢のある仕事だ。幼い俺が今こうしていられるように、お金も稼げるし、貯めることもできている。

 

 けれど。

 

 一度大きな失敗をしてしまい、そこから立て直せなかったら。

 

 その先に待っているのは、冬空の下で誰に顧みられることもなく冷たくなっていた、あの物言わぬ骸なのだ。

 

 ぶるりと俺は背筋を震わせてしまう。

 

 恐怖だけが理由ではない。

 俺が冒険者になってから二カ月以上が経っている。

 

 季節はもう間もなく、冬になろうとしていた。

 

 

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