分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第3話  やるべきことを考える

 どうやら分身体が消えるとき、その記憶は本体の俺に引き継がれるらしい。

 

 一日働いて、疲労困憊の中で消えていく分身を見送った途端、頭に流れ込んでくる分身の今日の記憶。

 

 畑を耕す。

 

 鍬なんて子供の俺には扱わせてくれない。太めの木の棒や、素手で土を掘り返す。

 

 爪に土が入りこむ。偶に当たる小石が痛い。混ぜ込んだ肥料がとても臭い。

 

 さっさとやれと大人に怒鳴られる。

 

 うるさい、さぼってないでお前がやれと心で中で怒鳴り返しつつ、表面上は従順にうなずく。

 

 何度か襲ってくるめまい。それに必死に耐える。

 

 ここで倒れたら、死ぬ。

 

 死んだら身体が消える。分身スキルのことがばれる。

 

 それはまずい。必死にこらえて、また作業に戻る。

 

 そんな記憶だ。

 

 これは間違いなく分身体の記憶であり、俺の記憶だった。

 

 他人の記憶を見せつけられているのとは違う。本当に自分自身が経験したものが、正しく自分のものになった感じ。

 

 なんとも不思議な感覚で、こればかりは他人に上手く説明できそうもない。

 

「……そうか。記憶は、引き継がれるのか」

 

 思わず口から驚きが声になってもれてしまう。

 

 これまで分身体を何回か出したり消したりしていたが、それはごく短時間でのことで、そもそも俺と分身体は同じ場所で同じような経験をしていただけだった。

 

 だから記憶が引き継がれるのに気づけなかった。

 

 一日別々に動いた結果、こうして気づくことができた。

 

 そうだ。この事実を、俺は知らなかった。

 

 スキルを授けられたとき、自然と使うことができるようになっていた分身スキル。

 けれど使うことができただけで、本当の意味でスキルを使いこなせるようになったわけではないらしい。

 

 実際に使用したことで、ようやく気付けた分身スキルの特徴と呼べるもの。

 

 それは分身の記憶が本体に引き継がれることだけではないだろう。

 

 唯一の武器である分身スキル。

 

 俺はこれを、もっとよく知らなければならない。

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 今日も今日とて分身体に仕事を任せ、森の中で分身スキルについて考えをまとめていく。

 

 まずは授けられた時点で与えられたスキルの情報。

 

 条件と制限。

 

 ① 分身スキルを使うには特定の手印を組み、「分身の術」という発声が必要。

 

 ② 分身の解除にも、分身体を前にしての手印が必要(発声は不要)。もしくは、分身体の死が必要となる。

 

 ③ 一度に分身できる数は一体のみ。ただし、この数は年齢とともに増えていく。

 

 ④ 分身体はスキルを使用したときの本体の状態を参照して作成される。

 

 ⑤ 分身体が分身スキルを使用することはできない。

 

 ⑥ 本体が死んだとき、すべての分身体も消滅する。

 

 これが最初に与えらえた分身スキルの情報だ。

 

 加えて、

 

 ⑦ 分身体の記憶は消滅時、本体に引き継がれる。

 

 ということが昨日わかった。

 

 こうして条件を並べてみると、弱点と呼ぶべきものは明白だ。

 

 まず分身を同時に一体しか作ることができない。

 

 これは一年に一体ずつ増えていくのだが、分身スキルでできることが大きく制限されている最大の要因となっている。

 

 分身体は分身スキルを使えないので、数の力でどうこうみたいなのはしばらくできそうにない。

 

 加えて、分身体の出し入れは、本体自身の手で執り行う必要がある。

 

 分身側はいざとなったら自ら死んで消える、みたいなことはできなくもないが、本体側は分身体が離れているときに自分の意思で自由に出したり消したりができない。

 

 これが結構つらかったりする。

 

 たとえば、森にいる今の状況。モンスターが突然現れたとする。

 

 もちろん逃げるしかないのだが、とっさに分身体を出して囮に、みたいな使い方はできないということだ。

 

 それをしたければ、常に分身体を出さずにストックしておくしかない。

 

 将来的に分身を出す数が増えればその選択肢も残せるだろうが、現状ではそうした使い方は無理だ。

 

 分身体の作成が本体の状態を参照するのも、考えてみると良し悪しだ。

 

 飯が一人分で事足りる、というのは明確な利点。

 

 逆に欠点は、たとえば俺がケガを負って動けなくなったとして、運んでもらうために分身スキルを使っても、分身体も同じケガを負っているみたいなことが起きる点だろうか。

 

 使い時によっては、分身体は分身体で状態を保存できる方が望ましい場合もあるだろう。

 

 このあたりは、スキルの成長に期待かな。

 

 スキルというのは成長することもあるらしいから、いつかは自由自在に、俺の考えた最強の分身体を作ることも可能かもしれない。

 

 いやまあ、分身の術なのだから、自分自身とあまりにもかけ離れた分身体は作れる気はしないが。

 

 それでも髪色とか、目の色とか、多少の変化くらいはできるようになりそうな予感はある。

 

 ちょうど、前世の格闘ゲームの2Pカラーみたいな感じだな。

 

 もしくはこの先、まだ気づいていない分身スキルの裏技みたいなのも思いつくかもしれない。

 

 これはまだ実験していないのでわからないが、分身体が死を迎えた場合の話。

 

 俺の予想では、死んだときは俺自身が消したときみたいに消えてしまうと思われるが、もしもその死体をある程度の時間であっても残すことができるとしたら。

 

 俺は、俺の死を偽装できるということになる。

 

 これは分身スキルを手に入れたとき、最初に考え付いたことでもある。死の偽装が可能であれば、自分自身を死んだことにして、村から脱出することができる。

 

 ただ逃げただけなら追手もかかるだろうが、明確に死んだと思われたあとならそれもないだろう。

 

 まあ、この死を偽装しての脱出は、最終手段として今使ってもいいと思っている。

 

 死んですぐ消えてしまえば不審がられるだろうが、脱出の時間を稼ぐことはできるだろう。現時点でも、やろうと思えば村から脱出できる自信はあった。

 

 けれど今はダメだ。

 

 それをやると、今度は村に戻れなくなるというデメリットがある。

 

 最悪の環境だ。それは認める。

 けれど、曲がりなりにも生きていくことができる最低限の環境ではあるのだ。

 

 それを捨てて村の外に脱出したとして、俺は村の外のことをなにも知らない。

 

 情報もなければ、お金もない。

 

 モンスターだっているのだ。

 

 稼ぐ術も戦う術もない今の俺が無計画で飛び出しても、生き残れるとは思えない。それができる自信があるなら、俺は近くの森に隠れるのではなくさっさと村を後にして街に向かっている。

 

 せめてあともう一人。

 

 もう一人分身体を作れるようにならないかぎり、この選択は取れないだろう。

 

「やっぱり準備を整えてからじゃないとダメだな」

 

 分身スキルのことをもっとよく知ること。

 村の外で生きていくための術を身に着けること。

 

 それがまず俺のするべきことだ。

 

 それはそれとして、目標は定めておくべきだろう。

 

 一年後かな。

 

 一年後、俺はもう一体追加で分身体を出すことができるようになる。そうなったら、この村を出て外の世界で生きていこう。

 

 一年以内ですべての準備を整える。

 

 難しいだろう。

 

 けれど、無理とも思わなかった。

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