分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第38話  あの日欲しかった言葉

 セリカはそれでも走り続けた。

 

 朝早く起きて、クエストに向かう。

 もう後がない。そう自分に発破をかけて、恐怖を噛み殺してモンスターと戦う。

 

 その成果はあった。

 

 クエストに失敗する日は前よりも減った。

 モンスターを一体だけだが、倒せる日も増えてきた。

 

 けれど、それで手に入れられるお金は大銅貨三枚。

 

 宿泊費に使えばそれで終わり。どんなに安いパンを買ったとしても、その時点で一日の利益は赤になる。

 

 セリカは諦めなかった。

 

 毛皮を売ったお金が残っているうちに、なんとしてもとがんばって、毎日毎日クエストに挑み続けた。

 

 寒い日が続く。

 

 俺は二枚目の毛皮を買った。

 

 言葉を選びつつ使ってくれないかと言えば、セリカは少し怒った様子で言った。

 

「あたし、ツヴァイに毛皮を貸したりなんてしなかったわ」

 

 そうかもな。でもあのときはまだ気温も暖かかったし、なにより俺たち知り合いとすら言えなかったじゃないか。でも今は違うだろ。

 

 俺たちは友達じゃないか。

 

「そう思ってくれてたんだ。それはありがとう。けど残り湯を使わせてもらってるし、これくらい平気だから」

 

 断られる。

 

 彼女が受け取ってくれたのは、俺が使ったあとの残り湯だけだった。

 

 だから俺は店主さんに内緒でお願いし、できるかぎり用意してもらうお湯を熱いものにしてもらった。燃料代を追加で取られたが、沸騰寸前のお湯は俺が使ってなお温かさを保っていた。

 

 俺もできるかぎり手早く湯浴みを済ませる。ばっと全裸になり、ざっと拭いて、ささっと着替える。

 

 セリカは温度の変化に気づいているのかいないのか、残り湯だけは受け取った。

 

 俺がそうだったから。あるいは彼女の頭には、腕を失った祖父の顔がちらついていたのかもしれない。

 

 腕一本。今もし動かなくなったら、セリカは終わりだ。

 

 セリカはお湯を使ったあと、湯冷めしないうちに早く眠るようになった。

 

 いや、肌を布でこすっているうちから、すでに寝ぼけ眼になっていることが多くなっていた。

 

 休養日をはさむことなく、毎日毎日、許されるかぎりの時間まで戦っているのだ。疲労が蓄積しているのだろう。

 

 それでも休むことはできない。

 

 今のセリカは一日でも休めば心が折れるといわんばかりに、自分の身体を酷使し続けている。

 

 毎日毎日、朝から夕方まで必死になって戦って。

 服も装備も買い替えることができないので、モンスターの攻撃でどんどんとボロボロになっていく。

 

 かろうじて宿代だけは払い続けているが、それでも湯浴み姿を見るたび、身体の傷も増え続けていた。

 

 そんな環境に耐えながら稼いだお金は、大銅貨三枚を超えることはなく。

 

 身も心も、鑢にかけられているようにすり減っていくのが、隣で見ていた俺にはわかった。

 

 限界が近い。けれど、俺の言葉は相変わらず彼女には届かなかった。

 いや、俺がなにかしようとすればするほど、彼女の中でなにかがひび割れていくのがわかった。

 

 宿を変えるべきだと考えたこともある。

 

 けれどそうなったとき、新しい同居人が親切な人間とはかぎらない。同じ女性だって保証すらどこにもないのだ。

 

 俺はあまりにも無力だった。いざというときのための回復ポーションだけが、どんどんと増えていった。

 

 

 

 

 

 そんな日々が続いたある日、ついにセリカが限界を迎えた。

 

 クエストを終え、宿に辿り着いた瞬間、セリカの身体が崩れ落ちたのだ。

 

「セリカ!」

 

 尾行していた俺は慌てて駆け寄る。

 セリカは意識を失っていた。額に手を当てれば、異常なほど熱を持っている。

 

「っ!? 店主さん! 病院ってどこ!?」

 

「部屋で寝かせて待っていろ! 今医者を呼んできてやる!」

 

 店主さんはそう言って慌てて宿を飛び出した。

 

 俺はセリカを抱きかかえ、部屋に連れていく。

 ベッドに寝かせ、冷やさないように俺の毛皮を二重にかぶせる。綺麗な布に水さしの水をしみこませ、絞って額にのせる。

 

 息が荒い。とても苦しそうだ。

 

 ややあって、店主さんが医者と共にやってくる。

 

 診断は過労とそれに伴う風邪だった。

 

 薬を処方したあと、帰ろうとする医者に代金を支払う。保険というものがない世界の医療費は、治癒魔法ほどではないが高かった。とてもではないが、今のセリカに払えるとは思えない額だ。

 

「あとは回復ポーションがあれば飲ませてあげるといいでしょう。疲労が原因なので、下手な薬よりもよほど効きます」

 

「わかりました」

 

 セリカのことを思えば、ポーションで代用が利くなら医者は呼ばない方がよかったか。いや、そんなの俺は知らなかったし、呼ぶしかなかった。あとでセリカに責められたら、代金は要らないと言っておこう。

 

 それでセリカが納得してくれれば、だが。

 

 どちらにせよ、まずは回復してからだ。

 

 長丁場になることを覚悟し、俺は燭台にろうそくを立て、火を灯した。

 

 

 

 

 

 セリカが目を覚ましたのは、深夜になろうという頃だった。

 

「こ、こは……」

 

「目を覚ましたか? ああ、起きなくていい」

 

 弱々しくもなんとか起き上がろうとしたセリカをベッドに戻し、俺は用意しておいた食事を手に取った。

 

 果物を磨り潰したものをスプーンを使ってすくい、セリカの口元に寄せる。

 

「ほら、食べな」

 

「あ、む」

 

 まだ熱で意識が朦朧としているのか、セリカは素直に口を開いて食べてくれた。

 

 用意しておいた分の半分くらいをなんとか食べ終えたところで、薬を飲ませる。

 

 さらに医者の助言どおり、回復ポーションも飲ませる。即効性が高いだけあり、それだけでセリカの息がだいぶ落ち着いた。

 

 あとは安静にしておけば大丈夫のはずだ。

 

「ほら、セリカ。もう一回寝な」

 

「う、ん。ありがとう、お母さん」

 

 夢の中で、セリカは幼い頃に戻っていたのだろう。俺のことをそう呼んで、手をそっと差し出してきた。

 

 優しく握ってやれば、淡く微笑んで握り返してきた。

 

 そのまますぐにまた眠り始める。

 

 握ったまま離そうとしないセリカと手をつないだまま、時折額の布を変え、そのまま夜を過ごす。

 

 朝を迎えたときには、セリカの寝息は普通のものに戻っていた。

 

 どうやら熱も下がったらしい。

 額にこつりと自分の額を合わせてみて、問題ないことを確かめる。

 

 もう大丈夫だな。

 

 俺もさすがに限界だった。九歳の身体に、徹夜はさすがにこたえる。緩んでいた手をなんとかほどき、俺も自分のベッドに入る。

 

 毛皮は……いいか。

 

 一日くらいなんとかなるだろう。

 

 目を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきた。気絶するように、俺は眠った。

 

 

 

 

 

 ギシリとベッドが軋む音がした。

 

 目を覚ますと、目の前にセリカの顔があった。

 俺の身体の上に腰をおろし、真剣な目でこちらを見ている。

 

「……セリカ? 身体は治ったのか?」

 

「お陰様でね」

 

 熱にうなされていたときのことを、ちゃんと覚えていたらしい。

 

 事情説明を省けてよかったが、だとしてもこの体勢はなんなのか?

 

 上半身を起こそうとすれば、それを押しとどめるように、セリカが俺の胸元をぽんと軽く押した。それだけで、俺は起き上がることができず再び倒れこんでしまう。

 

「セリカ? どうしたんだ?」

 

 セリカはマウントポジションを維持したまま、無言で俺を見つめてくる。

 

 その瞳に込められた覚悟のほどを見て取って、俺は嫌な予感を覚えた。

 

 なんとか起き上がろうとするが、腰の上にお尻を乗せられ、太ももと両ひざでしっかりと身体を押さえ込まれてしまっている。両足を動かしたところで、力も体格も上のセリカを押しのけることはできなかった。

 

「あたし、治療費が払えないわ」

 

 圧倒的な優位な体勢のまま、セリカは俺を見下ろしつつ告げる。

 

「うっすらと覚えてる。薬を飲ませてくれたわよね? それにたぶん回復ポーションも。銀貨で何枚かは知らないけれど、あたしにそれを払うお金はない。そもそも、今日の宿代すら払えるか怪しいのに、治療費なんて払えるわけがないわ」

 

「そうか」

 

 看病した甲斐があったらしい。セリカもようやく素直になってくれたようだ。

 

「わかった。宿代は俺が貸すよ。治療費も俺が立て替えておいたから、クエストをこなしてお金が出来たときにでも払ってくれればいい。もちろん、利子なんて取らないから安心してくれ」

 

「無理」

 

 俺の助け船を、しかしセリカは真っ向から否定する。

 

 治療費は払わないと言うつもりだろうか。たしかに医者を勝手に呼んだのは俺だからいいけど。むしろ、その図々しさがちょっと嬉しいくらいだった。

 

 けれどセリカの言いたいのは、そういうことじゃなかったらしい。

 

「無理。無理よ。無理なのよ。治療費を払えるくらい、クエストを達成するのは無理なの。絶対に無理。あたしにはそんなの、絶対に無理なんだから」

 

「セリカ?」

 

「だから」

 

 セリカはおもむろに、自分の服の裾をつかんで持ち上げていく。そこで初めて、俺は彼女の下半身が下着一枚であったことに気が付いた。

 

「だから、身体で払う。ツヴァイだって男でしょ? ならあたし、身体で払うから」

 

「ちょちょちょ、ちょっと待てって!」

 

 いきなりなにを言い出すんだ!?

 

「落ち着け! いったん落ち着こう!」

 

「落ち着いてるわ。今までにないくらい、あたしは落ち着いてる」

 

 セリカは下半身だけで俺の動きを封じ込めると、そのまま服をめくりあげていく。

 

 うっすら腹筋の割れたお腹が露になり、続いて小さな下着に覆われた胸が目に飛び込んでくる。柔らかそうな下乳。下から見上げているためか、正面から見たときよりも胸全体が大きく見えた。

 

「大丈夫。初めてだけど、やり方くらいはあたしも知ってる。ツヴァイはそのまま、じっとしていてくれればいいから」

 

「いやいやいや、ダメだって!」

 

 押しとどめようとするも、やはりマウントを取られた状態の俺の力では回復したセリカの身体はどかせなかったし、服を脱ぐ手も止められなかった。またたく間に上着を取り払い、下着姿になってしまう。

 

 しかもそこでセリカは手を止めることなく、今度は胸をおおう下着の紐に手をかけた。

 

「やめろ! やめるんだ!」

 

 そう叫びつつ、反射的にぎゅっと目をつむる。

 セリカの裸なんて見慣れているはずなのに、今だけは見てはいけないような気がしてならなかった。

 

 そんな俺の頬に――そのとき、なにか熱いものが落ちてきた。

 

 目を開ければ、そこには涙を浮かべるセリカの姿があった。

 

「なんで? なんで断るのよ? 断られたら、あたしに返せるものなんてなにもないじゃない。あたしの身体に金貨一枚の価値なんてないのはわかってる。けど、でも、だって、それならあたしは、一体どうやって借りを返せばいいの?」

 

「借りだなんて。さっきはああ言ったけど、本当はお金なんていいんだ。返さなくていい。俺はセリカが元気でいてくれさえすれば――」

 

「それがダメだって言ってるのよ! あたしを馬鹿にするのもいい加減にして!」

 

「馬鹿になんて……」

 

「してるわ! だってあたし、実際に馬鹿だもの! ツヴァイに比べれば、全然馬鹿だもの! でも、それでも、それくらいのことはわかるんだから!」

 

 馬鹿になんてしていない。本当にしていないんだ。

 

 けれどセリカはそう思い込んで、大粒の涙をこぼしていた。 

 

「身体でもなんでもいい! あたしはツヴァイに借りを返すの! そうじゃなければダメなのよ! だって、だって、そうじゃない。一方的に施しをしてもらうなんて、そんなの絶対ダメに決まってる! ツヴァイにそんなことされたら、あたし、あたしは……!」

 

 セリカは悲しい顔を一切見せず、ただひたすら真剣な顔で、涙だけをあふれさせていた。

 

 本当につらいときの、そんな泣き方だった。

 

「知ってる。全部知ってるの。ツヴァイがあたしの何倍もモンスターを倒せてるのも。それでも気を使ってくれてるのも。嘘吐きなあたしを、それでも陰ながら助けてくれてるのも、全部、知ってるんだから!」

 

 涙を流したまま、セリカは俺の顔の横に両手をつく。

 

「なんで? なんであなたは、そんなに軽々と冒険者をやれてるの? 怪我もせずにお金を稼げてるの? あたしよりも年下なのに、こんな小さい身体なのに、なんであなたは!? なんであなただけ!?」

 

 血を吐くような叫び。

 

 俺の存在が彼女を追い詰めていたのは知っていた。

 けれど、こんなになるまで追い詰められているとは知らなかった。

 

 見下ろす瞳には俺への疑問があった。怒りがあった。憎悪すらあった。

 

 だがそれ以上に、自分への悲しみと、怒りと、無力感であふれていた。

 

「なんで、あたし、どうしてなにも。こんな、こんなに、ダメ、なのかしら……!」

 

「セリカ……」

 

 セリカは泣き顔を隠すように俺の首筋に顔を埋め、小さな体を丸めて震えだす。

 

 そう、小さい身体だ。

 

 俺よりもたしかに大きい。それでも目の前で泣き声を俺に聞かせまいと、必死になって噛み殺しているのは、まだ大人にはなっていないのに、一人でがんばって生きようと足掻いている子供だった。

 

 ……今更になって気づく。

 

 どうしてこんなにも彼女のことを気にかけてしまうのか。それは心配する心や友情だけが理由ではなかった。

 

 目の前にいるのは、一年前の俺だった。

 

 疲れながらも働くしかなく、苦しみながらも藻掻くことしかできず、出口のない迷路をさまよいながら世界となにも変えることのできない自分を呪っていた、あの頃の俺だったのだ。

 

 俺は分身スキルを手にして変わることができた。

 自分で自分を救う力を手に入れることができて救われた。

 

 そのあとフィーネに出会い、すり減っていた心も救ってもらえた。

 

 けれど……

 

 あの日あの時、あの絶望の中で。

 誰かに救ってほしいと、そう思っていたことは覚えている。

 

 誰でもいいから、この手を握って光の下へ連れ出してくれと。

 

 ああ、俺はそう願っていたんだよ。

 

「――セリカ。俺とパーティーを組もう」

 

 その言葉は、自然と口から出ていた。

 

「……ぇ?」

 

 セリカが顔をあげる。涙でぐしゃぐしゃになった、傷つき疲れ果てた顔。

 

「セリカがソロでがんばりたいのは知ってる。けど、それは諦めてくれ。人は、一人で生きていくのは無理だよ」

 

「それ、は……でもツヴァイだって」

 

「俺は一人じゃないから」

 

 分身がいるから。そういう物理的な話ではない。

 

 俺にはフィーネがいる。アロガンドさんがいる。アルフィリアさんも一応、そこに含めてもいい。

 

 いざというとき、頼ることのできる相手。今は遠く離れているが、助けを求めれば、彼女たちは俺を助けてくれるだろう。そう信じられる相手がいることが、今も俺の心を支えてくれている。

 

 それになによりも。

 

「俺には、セリカがいたから」

 

 すぐ隣にも、俺を支えてくれた人がいた。

 

 一人で街にやってきて、危険な冒険者をやっていく中で、この少女の存在がどれだけ俺の助けになっていたか。ああきっと、彼女は知る由もないのだろう。

 

「セリカには、もしかしたら俺は敵に見えてるのかも知れない。越えなければならない障害に見えてるのかも知れない。けど、忘れないでくれ。それでも俺はセリカの同居人で、すぐ隣にいて、セリカのことを心から助けてやりたいって、そう思ってるんだってことを」

 

「ツヴァイ……」

 

「だから、だからさ、セリカ。もういいんだ」

 

 あの日あのとき、俺が欲しかった言葉。

 それを今、俺自身の口から、目の前の少女に告げる。

 

 

 

 

 

「もう一人で、がんばらなくてもいいんだよ」

 

 

 

 

 

 それはたった一言の、赦しの言葉。

 

 頼ってもいいのだと。

 頼れる人がここにはいるのだと。

 

 そう教えてあげる、たった一言の赦しの言葉だった。

 

 セリカは目を見開いて、俺を見た。

 そのあと自分の手を見て、それからまた俺の顔を見て。

 

「う――ぁ」

 

 声にならない声をあげ、子供みたいにくしゃりと顔を歪めた。

 

「あた、し……あたし、は……」

 

「いいんだ。もういいんだよ」

 

 彼女の頭を、子供をあやすように優しくぽんぽんと叩く。

 

「我慢しなくていい。泣いていい。泣いていいんだ。それは恥ずかしいことじゃない。だってこれまでずっと、セリカが一人でがんばってきた証なんだから」

 

「あた、し……」

 

 それ以上はもう、声にならなかった。

 セリカはしゃくりをあげ、俺の胸元にすがりつき、声を上げて泣き始める。

 

 俺はその頭や背中を優しく抱きしめ、そっと撫で続けた。

 

 彼女が泣き止むまで。

 彼女ががんばった分だけ。

 

 ずっと、優しく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、どれだけの時間が経っただろうか?

 

 いつしか泣き声はやみ、セリカはただじっと黙って、自分を撫でる俺の手だけを享受していた。

 

 もう彼女のうちの、我慢していたものは吐き出せただろうか?

 俺の気持ちは、わかってもらえたのだろうか?

 

「……ねえ、ツヴァイ」

 

 やがてセリカの方から口を開いた。

 

 子供が怒っている親に話しかけるように、恐る恐るという風に尋ねて来る。

 

「さっき、パーティーを組もうって言ってたけど、それは本当?」

 

「もちろん、本当だ」

 

 ソロでなくなれば、俺は分身スキルを使えなくなる。今までみたいに稼ぐこともできなくなるだろう。

 

 それでも俺は、セリカと仲間になりたいと思った。

 

「改めて言うよ。セリカ、俺の仲間になってくれ」

 

「……迷惑かけるわよ」

 

「わかってる。それでも仲間になってくれ」

 

「……お金だって、きっと今みたいに稼げなくなる」

 

「大丈夫だ。セリカが仲間になってくれるなら、俺が稼ぐ方法を見つけ出すから」

 

「……あたし、あたしは……冒険者として、なんの価値もなくて……」

 

「はぁ? 誰だよそんなこと言ったやつは?」

 

 セリカが無価値なわけないだろ?

 

「俺は知ってる。セリカがどれだけがんばってたか、必死に努力してたか、ちゃんと見てたし知ってるんだ。冒険者としての価値? んなもんあるに決まってるだろ! 将来は凄腕冒険者で大英雄なんだよ当たり前だろ!」

 

「…………」

 

「俺がセリカと仲間になりたいって思ったんだ! 他でもない、冒険者としてセリカが欲しいと思ったんだ! この気持ちは慰めの言葉でも嘘でもない!」

 

「で、でも、あたしは……」

 

「ああもう、それ以上うだうだ言うな!」

 

 なおもうつむいて否定の言葉を並べようとするセリカの顔を、俺は無理やり顎をつかんで持ち上げる。

 

 ずっと泣いていたから、さっきよりもぐちゃぐちゃになった酷い顔。

 

 だけど俺にはわかる。そこに俺を拒絶する色は、もうどこにも見当たらない。

 

 俺の言葉に頷きたい。けれど、今のセリカにはそれができないのだ。

 

 ただ一度、頷くこと。

 

 それすらも、自信がなくてできない。これまでの日々の中で、セリカはすっかり自信というものを失ってしまっていた。

 

 だからもう、返答は期待しないことにした。

 

「セリカ。他の誰かの評価なんて、この先気にする必要はない。セリカ自身の評価だって関係ない。お前はただ、お前を信じる俺のことだけ見てればいいんだ」

 

 セリカの顔をまっすぐ見て、想いをぶつける。

 

 その手を強引に握りしめ、無理やり引っ張っていくとそう決めた。

 

 だから――

 

「セリカは今から俺の仲間だ。だから黙って、俺を信じてついてこい!」

 

 俺の身勝手で強引な救いの手に、彼女は困ったような、怒ったような、どちらともつかない曖昧な表情で。

 

「…………はい。よろしく、お願いします」

 

 それでも握った俺の手に頬を寄せて。

 どこか救われたような顔で、そっと微笑んでくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ところで。

 

「あの、いつまでこの体勢なんです?」

 

 押し倒された状態のまま俺が聞くと、セリカは涙をぬぐい、おもむろに上の下着を取り去った。

 

「え? あの、セリカさん?」

 

「それとこれとは話が別だから。パーティーメンバーになるあなたに、これ以上借りを作っておくわけにはいかないもの」

 

「いやいやいや、ちょっと待て。こういうのはお互いの合意の元でやるべきことで、一方的な罪悪感でやるものじゃないから!」

 

「いいからいいから。あたしに任せておきなさい」

 

「真っ赤な顔で言われても任せられないけど!?」

 

「うるさい! こ、ここまでやっておいて今更引き下がれるわけないでしょ! 女に恥をかかせないで!」

 

「これまで散々女を捨てた言動してたのに!?」

 

 ていうか、待って。本当に待って。

 だって俺、まだ子供が作れる身体じゃないし。

 

 それに、そうだよ。そもそも俺は――

 

 

「セリカじゃ勃たないから!」

 

 

「や、やってやろうじゃないのよぉおおおお――!!」

 

 火に油を注いだだけだった。

 

 パンツ一枚で襲い掛かってくるセリカ。お前そういうところだからな!?

 

 このあとめちゃくちゃ抵抗した。

 

 ふぅ……セリカが病み上がりじゃなければ危なかったぜ。

 

 不貞腐れる彼女をベッドに放り込み、撫でてあやして無理やり寝かしつけたあと、俺は一階に下りていく。すべてはああなってしまうまで助けられなかった俺の所為なのかも知れないが、さすがに疲れた。

 

 カウンターにいた宿の店主が、げっそりと疲れ果てた俺の姿を見つけ、恍惚とした表情で口を開いた。

 

「昨夜はお楽しみで――」

 

「言わせねえよ!?」

 

 

 

 

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