分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第39話  仲間

 もう一日、セリカをゆっくりと休ませて回復させる。

 その間、俺は彼女の装備を預かって修繕に向かう。他に必要になりそうなものも取り揃えておく。

 

 そして翌日――俺とセリカは、ギルドのカウンター前にいた。

 

 手にはいつもどおり、モンスターの討伐クエスト。

 

 それを受け取ったレミさんは、ちょっとだけ泣きそうな顔で、確認してくる。

 

「こちらのクエスト、お二人ご一緒ということでよろしいですか?」

 

 その問いに、俺をセリカは一度顔を見合わせて。

 

「「はい、お願いします」」

 

「承りました」

 

 レミさんはとても綺麗な笑顔を浮かべると、

 

「お二人を同じパーティーメンバーとして登録いたします。パーティー名はどうされますか?」

 

「それももう決まってるわ」

 

 セリカの言葉を継いで、俺は答える。

 

 他の駆け出し冒険者たちを笑えないな――そう心の中で思いつつも、セリカがいつかそうしたように、腰に手を当て、胸を大きく張って、堂々と。

 

「パーティー名は『冒険王』でお願いします!」

 

 

 

 

 

 というわけで、俺とセリカは冒険王というパーティーを組んで、モンスターの討伐クエストにやってきた。

 

 森までの道中、周囲に誰もいない場所で相談を始める。色々な意味で外に声がもれてそうな宿よりも、この場所の方が大事な相談には向いている。

 

「パーティーに誘った手前、セリカにはあらかじめ言っておかないといけないことがある」

 

「うん。なんでも言ってちょうだい」

 

 セリカは真剣な顔つきで、俺の話を聞く姿勢になる。

 

「あたし、なんでもやるわ。やってみせるから」

 

「その心意気は嬉しいが、セリカがどうこうって話じゃないよ」

 

 俺が誰かとパーティーを組む上で、絶対に話しておかなければならないこと。それはひとつしかない。

 

「俺のスキルの話だ」

 

 セリカが息をのみ、あわてて周囲に誰かいないか確認する。

 

「大丈夫だ。周りに誰もいないのは確認してるから」

 

「だ、だからって。……スキルって、本当なの?」

 

「ああ、本当だ。俺はスキルを持っている」

 

 改めて伝えてれば、セリカは驚きと納得、半々といった顔で頷く。

 

「やっぱりセリカも、俺がこの歳で冒険者をやってられるのは、薄々おかしいとは思ってたみたいだな」

 

「まあ、ね。……なんか隠している奥の手はあるんだろうなとは思ってた。あたしはてっきり、魔法を使えるものだとばかり思ってたわ」

 

「そっちか」

 

「実際、ツヴァイが魔法を使えるって思ってるのは、あたし以外にも結構いるわよ。偶々すごい魔法を覚えている没落貴族の生き残りっていう線が、オッズの上では一番人気だったわ」

 

「俺賭けの対象になってんの?」

 

 クエストの成否を確認されているのは知っていたから、薄々怪しまれてるなぁとは思っていたが、そこまでだったとは。

 

「安心しなさい。そんな馬鹿なことをしていた奴らは、あたしとレミさんが協力してやっつけておいたから」

 

「そいつはありがとう。知らないところで色々と助けてくれてたんだな」

 

「お互い様でしょ。ううん、ツヴァイに比べればあたしがしたことなんて……」

 

 また卑屈になりかけていたセリカは、慌ててパチリと頬を叩き、気持ちを切り替える。

 

「ツヴァイはスキルを持ってる。わかったわ。もちろん、誰にも言わないから。なんだったら、書面に残して契約してもいい。もし破ったら、あたしを奴隷にでもなんでもしてくれて構わないわ」

 

「いいよそんなの。セリカを信じてなきゃ、こんなこと教えない。言っておくけど、俺が直接スキルのことを誰かにばらしたのは、セリカが初めてなんだからな?」

 

「そ、そうなの?」

 

「ああ。結果的にばれた相手はいるんだけど、直接はセリカが初めてだ」

 

「ふ、ふ~ん。そうなんだ。あたしが初めて。あたしが、ツヴァイの初めての相手なんだ」

 

 嬉しそうに顔をニヤニヤさせるセリカ。

 

「話の続きだ。俺はスキルを持っていて、ぶっちゃけこのスキルの力で冒険者をやれてる。スキルがなければ、俺の力は駆け出し冒険者のそれでしかないよ」

 

「スキルの詳細は、その、教えてくれるの?」

 

「そこなんだが、ちょっと悩んでる」

 

 間違いなくセリカは俺のスキルのことを誰にも話したりはしないだろう。

 

 ただ、この世界には相手のスキルを知るスキルなんてものもある。なら相手の記憶などを読んで、情報を抜き取るスキルなんてものも存在するだろう。スキルの存在を知る人が増えれば増えるほど、ばれるリスクは大きくなる。

 

 さすがに六聖であるフィーネのようにはならないと思うが、ばれたときのリスクも大きい上、セリカを巻き込んでしまう恐れもある。

 

 さて、どうするべきか。

 

 俺には選択肢がある。

 

 スキルのことをばらした上で、詳細を伝えておくパターンと伝えないパターンだ。

 

 伝えるメリットは、当たり前だがセリカの目の前で分身スキルを使えること。ただこれは大きいようで、案外小さい。

 

 そもそも、だ。

 

 分身スキルは根本的に、パーティープレイに向いていないのである。

 

 分身スキルを実践で使い続けてわかったのだが、もう一人の自分を出して戦うというのは、つまりはお互いに指示を出さなくても連携できてしまうということにほからなかった。

 

 俺は俺の考えを理解しているし、分身の俺も俺の考えを理解している。だからいつ出しても、いつ消しても、そこに空白は生まれない。あたかも二人で一個の生物のように、完璧以上の連携を行える。

 

 だから強い。

 

 しかしパーティープレイとなると、逆に声で指示を出さないやり方は足かせになってしまう。

 

 俺と分身の俺がやりたいことを、セリカは理解できないし、とっさに連携を組むこともできない。

 

 なら声に出して指示を出そうとすると、じゃあそもそもどっちが指示を出すという話から始めないといけないし、よしんば本体の俺がそうするべきだとしても、今までとは違うやり方でガタガタになるのは目に見えている。

 

 ならいっそのこそ、分身は捨てて、新しく俺とセリカだけで連携を一から構築した方がやりやすいまである。

 

 もちろん、頭数が増えるという意味では分身の存在は意味がないわけではないのだが。

 

 使うにしても、咄嗟の飛び道具として使うことになるだろう。

 

「ちょっと待って。ツヴァイ、悩んでるってことは、あたしにスキルの詳細がばれるとまずいことがあるのよね?」

 

「……まあ、なくはない、程度だけど」

 

「なら言わないでいいわ。ううん、言わないで欲しい」

 

 それは意外な言葉だった。

 

「それは……でもいいのか?」

 

「うん。ツヴァイのスキルがどういうものかはわからないけど、知らない方が助かることがあるなら、あたしとしてもそちらの方が嬉しい。少しでも足は引っ張りたくないもの。そもそも、スキルって持っていることすら仲間に言わないのが普通よ?」

 

「そうなのか?」

 

「そうよ。だって、スキルは詳細がわからないことが一番恐ろしいんじゃない」

 

 一定の法則で動く魔法は、当然だがその対抗策も用意されている。

 

 けれど、スキルには対抗策が用意できない。一人一人能力が異なるからだ。

 

 初見殺し。スキルの力は、究極のところそれに尽きる。

 

 もちろん、六聖のスキルのように知られてなお対策の取り様がないものもあったりするが、基本的にはスキルは秘匿すればするほど威力を発揮するものだ。

 

「ツヴァイは言おうかどうか悩んでたかもしれないけど、教えないのが普通だから。世の中にはね、相手のスキルの詳細を知ることが発動の条件になる『強奪』ってやばいスキルだってあるんだから」

 

「強奪スキルって、つまり?」

 

「相手のスキルをそのまま奪えるスキル。帝国で捕まった、有名なある犯罪者が持ってたスキルよ」

 

「……そんなのもあるのか」

 

 ならやっぱり、スキルの詳細は言わないでいた方がいいのかな。

 

「わかった。そういうことなら、詳細は話さないでおく。パーティーで冒険していく中で必要と思ったら、そのときまた教えるよ」

 

「うん、わかった。もしスキルを使うとき不都合があったら、あたしに目をつむってろとか、耳をふさいでろとか、そういう風に命令して」

 

「命令? 俺がセリカに?」

 

「そうよ。ていうか、スキルのこと以外でも、最初にはっきりとさせておきたいんだけど」

 

 セリカは俺と自分を交互に指さし、

 

「立場としてはツヴァイが上、あたしが下。それがこのパーティーの上下関係よ」

 

「えー? そういうの、苦手なんだけどな」

 

「でしょうね。けど、パーティー間では上下関係をはっきりさせておかないといけないの。そうでなければ、いざというときに動けなくなる」

 

 セリカは、俺の目をまっすぐ見て言った。

 

「このパーティーのリーダーはあなたよ、ツヴァイ。あたしの命、あなたに預けるから。あたしにできることは遠慮せず、なんでも命令してくれて構わないわ」

 

「ああ。改めて、任せられた。二人で色々と試行錯誤しつつ、これから『冒険王』ってパーティーを作っていこう」

 

「うん! すごく楽しみね!」

 

 任せられた重みを理解し、俺は改めてこのパーティーでやっていくことを誓う。

 

 セリカは満足そうに、にんまりとしたあの笑顔で頷きを返してくれるのだった。

 

 

 

 

 

 ログレスの森に辿り着いたところで、俺は兜をかぶり、剣を抜いて盾を構えた。

 

「それじゃあ、実際にモンスターと戦うぞ。俺が前衛をやってモンスターの気を引くから、セリカは隙を狙って攻撃してくれ」

 

「わ、わかったわ」

 

 同じように剣を抜いたセリカは、緊張した様子を隠せない。

 

「やっぱり、まだモンスターと戦うのは怖いか?」

 

「……正直ね。これでも、かなりマシになってきた方なんだけど」

 

 剣を持っていない方の手を見せてくるセリカ。その指先はかすかに震えてしまっている。

 

「あのときの痛みを思い出すと怖いのよ。またあれを味わうってなると、情けないことに震えちゃうの」

 

 ドミニクさんの言うことは当たっていたか。やはりセリカの不調は、あのたった一度の失敗に起因している。あの日の痛みが、彼女を縛っている。

 

「ましてや今日は、あたしが失敗したらツヴァイが怪我をしちゃうかもと思うとね」

 

「ふ~ん」

 

「ふ~んって、あたしは真剣に」

 

「セリカはあれだな、ずっとソロだったから。相手の攻撃を避けて、攻撃することだけ考えてきたんだろ?」

 

「それはそうだけど」

 

「で、そうしている間に偶に攻撃をもらうから、痛くて泣いちゃうわけだ」

 

「な、泣いてはないわよ!」

 

「ふっ、そんなセリカに教えてやろう。金属鎧を身にまとい、盾を構えた前衛の考え方を」

 

 盾と金属鎧をぶつけて鳴らし、俺も最近になって理解したことを教えてあげる。

 

「モンスターの攻撃は受けるもの! 痛くて泣きそうなのを我慢して格好つける! これだけだ!」

 

 

 

 

 

「うぉおおい! ソードウルフの牙がなんぼのもんじゃない!」

 

 突進してきたソードウルフの攻撃を、盾を使って受け流すように弾く。

 

 ずん、と身体にまで伝わってくる衝撃。痛い。痛いが、ダメージはない。硬い木に鉄を重ねて作られた盾は、ソードウルフの鋭い牙でも傷ぐらいしかつかないのだ。

 

「そして弾いたところでこう!」

 

 剣を振るい、防御した直後で動きが止まったソードウルフの身体に突き刺す。

 

 盾の裏からの攻撃なので、首を一刀両断とはいかない。それでも深々と剣は肉をえぐり、ソードウルフは血まみれになって動きを鈍らせる。

 

「はい、ここでセリカの出番! とどめを刺してくれ!」

 

「うん! うりゃぁあああ――ッ!」

 

 出血で瀕死のソードウルフに肉薄し、セリカはその首めがけて剣を振るう。

 

 スパンとその首が断たれ、血を噴き出しながらソードウルフが絶命した。

 

 セリカは返り血を避けるように後退し、俺の後ろまで戻ってくる。

 

 俺は振り返り、ニッと笑った。

 

「な? 別に怖くもなんともないだろ?」

 

「それはそうだけど。……ツヴァイは大丈夫なの?」

 

「は? 当たり前だし? 痛くもなんともないんだが?」

 

 もちろん、盾を持っている手は今もしびれている。ソードウルフくらいならなんとかなるが、もっと大きなモンスターだと、攻撃を受け止めきれずに吹き飛ばされることもある。分身の俺ではあったが、一撃で盾も鎧も砕かれたことだってある。

 

 でもそんなこと言わない。モンスターの攻撃なんて大したことないという顔も崩さない。

 

 俺は、それが前衛の役割だと思っているからだ。

 

「俺が攻撃を受け止めて、セリカがとどめを刺す。これならやれるだろ?」

 

「……うん、そうね。やれるわ」

 

「じゃあこの調子で討伐を続けよう。その前に、討伐証明部位を取って、死体をわかる場所に置いておかないとだけどな」

 

「死体は入口まで運ばないの? あたしは証明部位を取らないで、一回ごとに入り口まで戻ってギルドの人に渡してたけど」

 

 ソロだとそうなるよな。何体もモンスターの死体を担いでいたら、いざ帰り道でモンスターに遭遇したときに動けないから。

 

「一回ごとにやってたら面倒だ。道に続いてる場所に置いておいて、三体くらい倒したらに一気に回収しよう。ソロじゃなくて二人なんだから、一人が死体を担いでも、もう一人が周囲を警戒していざというときは動けるからな」

 

「たしかにそうね」

 

 これだけでも討伐の効率はあがる。パーティープレイの面目躍如だ。

 

 そのあとも、遭遇したモンスターを狩っていく。

 

 俺が盾をもって前に出て、モンスターをひるませたところでセリカが動く。

 

 攻撃をもらうのは俺。攻撃するのはセリカ。

 はっきりとした役割分担に、セリカの動きもじょじょに上がっていく。

 

「あ、ツヴァイ。この先、やばいモンスターがいるかも」

 

 森を進んでいると、セリカがそう言い始めた。

 俺にはわからなかった気配を、彼女は感じ取ったようだ。

 

「たぶん大型。木の枝の一部が折れてるから。足跡も……うん、奥に続いてるのがあるわね」

 

 セリカは警戒が俺以上に上手かった。

 周囲の異変にいち早く気づき、厄介なモンスターに遭遇する前に教えてくれる。

 

「じゃあ、こっちに行こう。こっちは大丈夫そうか?」

 

「そうね。変な痕跡はない。大丈夫そうよ」

 

「よし」

 

 セリカの予想どおりに進めば、手に負えない大型モンスターと遭遇することはなかった。

 

 なんだかんだで、ソロでここまで生き残ってみせた片鱗を感じられる。モンスターの警戒も、振るう剣の鋭さも、俺よりもはっきりと上だった。モンスターへの恐怖心も、俺がいるお陰でだいぶマシになっているようだ。

 

 最終的に、お互いに怪我をすることもなく狩りを終えることができた。

 

 セリカ主体で倒したモンスターを入口まで運べば、結果は七体の討伐に成功。

 

 報酬は一人頭大銅貨一枚の成功報酬とあわせ、銀貨一枚と大銅貨六枚になった。

 

「報酬の振り分けはどうするの?」

 

「均等に振り分けでいいんじゃないか?」

 

「心苦しいけど、そうするのが一番かもね。あとはパーティー用に一部を分けて保管しておくってやり方もあるわよ。消耗した装備は、そこから捻出するって感じで」

 

 なるほどな。たしかに前衛と後衛とでは、装備の消耗速度も異なるか。

 

「大銅貨五枚あれば、生活はできるよな。ならそれ以外、今回だと大銅貨六枚はパーティー用の共同財産ってことにしようか」

 

「大銅貨四枚あれば、あたしは生活できるわよ?」

 

「いや、五枚だ。買いそろえたいものもやっぱり出てくるだろうからな」

 

「……ありがと」

 

 セリカがなににお礼を言ったのかは、深く突っ込まないでおく。

 

 パーティーの共同財産の管理は、当たり前のように俺が任せられることになった。

 

 残りの大銅貨五枚ずつを、それぞれの財布にしまう。

 

 やっぱりソロのときよりも報酬はだいぶ減ってしまった。けれど、思ったよりは稼げたし、連携もやりやすかった。お互いの戦闘をしっかり見るのはこれが初めてだが、一緒に生活していただけだって、呼吸を合わせるのはそう難しくなかった。

 

「あたし、攻撃を一回も受けることなくクエスト終えられたの、これが初めてよ」

 

 セリカも同じことを思ったのか、報酬の入った財布を撫でつつ、俺に笑顔を見せてくれた。

 

「パーティーでの戦闘、想像していたよりもずっとやりやすかったわ」

 

「俺もだよ。いつもより、精神的にかなり楽だった」

 

「そう言ってくれると嬉しいんだけど」

 

 セリカは少しだけ迷ったのち、

 

「……ツヴァイ。正直に教えて。一人だったら、どれくらい稼げてた?」

 

「それを聞いてどうするつもりなんだ? 言っておくけど、自分だけでがんばるってのはダメだからな?」

 

「それはわかってるわよ。あたしは黙ってツヴァイについていけばいいんでしょ?」

 

「いや、あの言い方は勢いで。ちょっとあれな言い方だったのは悪かったよ」

 

「ううん、そんなことない。今だからわかるけど、あのときのあたしにはあれくらい強引に誘ってくれた方がよかったと思う」

 

 そんなものか?

 

 俺的には、亭主関白みたいな発言で、思い返すとちょっとベッドの上を転げまわりたくなるんだけど。

 

 しかし、ソロのときの稼ぎか。

 

 ……大体察しているだろうし、今更か。

 

「ここ最近は、平均するとだいたい銀貨二枚だったよ」

 

「……そっか」

 

 セリカは驚くことなく、俺の言葉を受け止めて。

 

「じゃあ、差額は一日銀貨一枚に大銅貨五枚ね。」

 

「個人の取り分としてはそうなるけど。それが?」

 

「借金みたいなものよ。あたしがあなたに、いつか返さないといけない金額。ま、実際のお金だと受け取ってくれないだろうから、精神的な借金みたいなものだけど」

 

「俺は気にしてないぞ?」

 

「あたしが気にするの。言ったでしょ? パーティーメンバーだからって、借りっぱなしは嫌だって。治療費とか、装備の修繕代とか、そういうのも全部ひっくるめて、ちゃんといつか恩返しするから。ああ、もちろん」

 

 セリカは俺の耳元に顔を近づけると、いたずらな顔で囁く。

 

「身体で返して欲しいって思ったら、いつでも言ってね」

 

「……顔、真っ赤だぞ」

 

「う、うるさいわね!」

 

 セリカは自分でも似合わない台詞だと思ったのか、顔を赤くして背けてしまった。

 

 それを見て安心する。セリカはそんなからかいの言葉を口にできるくらい、元気になってくれたのだから。

 

 ……からかったんだよな?

 

 この間のあれは、気の迷いってことでいいんだよね? もう急に襲ってきたりとかしないよね? 

 

 信じてるからな、セリカ!

 

 

 

 

 

 その夜のこと。

 

 いつものように残り湯で入浴するセリカの身体を、俺は観察していた。

 

 怪我は増えてない。昨日一昨日と二日休んだし、ポーションを飲ませたこともあって、これまでの傷や青あざもほとんど目立たなくなっている。治癒魔法のときはしっかりと消えてたんだけど、そこは効果の差か。

 

 よかったよかった。セリカのことだから、怪我を隠すなんてことも考えられたからな。

 

 今後のためにも、よくよく傷の位置を覚えておかないと。

 

 今日は俺に対し、完全に背中を向けて入浴している。前の方はどうなんだろう? もしかして傷を隠してる? ちょっと移動して確認しないといけないか。

 

 そう考えつつセリカの入浴をじっと見ていると、不意に彼女は身をよじらせた。

 

「……あの、ツヴァイ」

 

 セリカは手ぬぐいを持った方とは別の手を背中側に回し、お尻の割れ目あたりを手の甲で隠す。

 

「そ、そんなにマジマジと見られると、ちょっと恥ずかしいんだけど」

 

 そう小声でつぶやくセリカの耳や首元は、後ろからでもわかるくらい真っ赤になっていた。

 

 ……えっと。

 

 お湯が温かいから、じゃないことくらいは俺にもわかりますよ。

 

 でもちょっと待ってね。あまりにも予想していなかった台詞で、脳が今混乱してるから。

 

 けどセリカは待ってくれなかった。

 

「う、ううん。ツヴァイが見たいっていうなら、その、全然あたしの身体なんて見ててもらってもいいんだけど」

 

 セリカは背中を向けた体勢のまま、顔だけこちらに振り返ると、お尻を隠していた手をどけ、羞恥で潤んだ瞳で見つめてきた。

 

「……前も、見せた方がいい?」

 

「ご、ごめん!」

 

 俺は慌てて謝ると、セリカに背中を向ける。

 

 バクバクと心臓が震えていた。

 

 えっ? えっ!? エッッッッッ!?

 

 なにその態度? いきなりなんですのんその態度!?

 

 この間までは、全然俺の視線なんて気にしてなかったじゃないか! い、いきなりその反応は卑怯だろ!

 

「どうぞごゆっくり! 俺のことは気にしないでくれ!」

 

「う、うん。……いつでも、振り向いていいから、ね」

 

 セリカは恥ずかしそうにそう言って、身体を拭く作業に戻る。

 

 背中越しに肌をこする音や、ぴちゃりぴちゃりと水滴が落ちる音がする。見えないからこそ想像を掻き立てられ、どうにも艶めかしく聞こえた。

 

 襲わないでとは思ったけど、これもなんか違う。いやむしろ、あのときよりもこっちの方がまずい。

 

 ……どうやら訂正するしかないようだ。

 

 俺は別に性欲を失ってはいなかったし。

 恥じらいを覚えたセリカは、十分にえっちだった。

 

 

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