分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第40話  雪解けの贈り物

 セリカとパーティーを組んでの冒険は、予想していた以上に上手くいっていた。

 

 どれだけ上手くいっているかといえば、彼女とパーティーを組んで以降、一回も分身スキルを使わないといけないような事態に陥らなかったくらいだ。

 

 セリカと二人でパーティーを組んだからこそ気づけたのだが、どうやら俺は分身スキルなしでも、ある程度は動けるようになっていたらしい。

 

 ただ、だからこそ気になるところも出てきた。

 

 それはやはり攻撃面だった。

 

「セリカはさ、剣術をどこかで習ってたのか?」

 

「あたし?」

 

「ああ。俺よりもずっと剣が上手いしさ」

 

「う~ん。村に来てた冒険者の人に、何回か教えてもらったことはあるけど、正直自己流よ? あ、でも、魔導師の人に、あたしは魔力が人よりも多めって風には言われたかしら」

 

「魔力が多いと剣の腕に関係あるのか?」

 

「魔力による身体強化の効率がよくなるんだって。だからたぶん、あたしの場合は剣の腕っていうよりは、身体強化によるものだと思うんだけど」

 

「そっかぁ」

 

 魔導師のシルヴィアさん曰く、俺は魔力量が普通らしいからな。

 

「俺ももうちょい、剣の腕を上げたいんだけどな」

 

「ツヴァイはダイナス流をおさめてるんじゃなかったっけ?」

 

「全然。ほんの基礎をかじってるだけ」

 

「じゃあ、別の流派を習得してみるといいかもね。剣術流派で攻撃が上手いっていうと、やっぱりシュクラ流かしら? 達人にもなると、サイクロプスも一刀両断できるって話よ」

 

「シュクラ流か」

 

 というわけで。

 

 冒険も順調だったので、俺はコルニ村でそうしていたように、本体の俺と分身の俺とで別行動することにした。

 

 身体を鍛えるという観点から見て、剣術を習いに行くのは本体の俺。セリカと一緒に冒険するのは分身の俺ということになった。

 

 授業料は幸いにも、セリカと冒険に出る前に貯めていた分があるので問題ない。

 

 思い立ったが吉日で、街の中にあるシュクラ流の剣術道場の門をたたく。

 

 はい、最強の剣士を目指してがんばる所存です!

 

 よろしくお願いします!

 

 うぉおおおおお! 魔力を爆発させるイメージで、敵に攻撃するべし!

 

 シュクラ流、烈火の太刀!

 

 不発!

 

 魔力を爆発させるイメージがまったくわかりません!

 

 鍛錬あるのみ?

 

 うぉおおおおお!

 

 そんな感じで道場に通い続けて二週間ほど。

 

 俺を雑魚雑魚かっこわる~いとからかってくる同門のメスガキをわからせるべく、熱心に鍛え続けた俺の剣の腕は少し上がった。

 

 セリカの力もあわされば、これまで『冒険王』では倒せなかった中型のモンスターも倒せるようになった。冒険の舞台も、より危険なモンスターの出没する森の奥や平原の奥へと進めることができた。

 

 今まさに俺とセリカが戦っている敵も、そんな危険地帯で遭遇することの多いモンスターだ。

 

 数体で群を成して地中から襲い掛かってくる、巨大なミミズのようなモンスター、サンドワーム。

 

「セリカ! 攻撃!」

 

「任せて!」

 

 前衛の俺が敵の攻撃を受けたあと、下がるのに合わせてセリカが前に出る。

 

 迷いのない踏み込みと同時に、剣が鋭く閃く。

 サンドワームの太い胴体は一太刀で両断され、地面に転がる。

 

 セリカはその場で立ち止まることなく、すぐに下がり、代わりに俺が前に出て残りの敵からの盾になる。

 

 衝撃。サンドワームの体当たりを、わずかに下がるだけで堪え、構えた盾で押しつぶすように前に体重をかける。

 

 名前を呼ぶ前に、セリカが動いていた。

 

 俺の横から前に出たセリカが、残っていたもう一体のサンドワームに躍りかかり、その首を断ち切ると、返す刃で俺が抑え込んでいたサンドワームの身体を両断する。

 

 素早く、そして的確な動きだった。

 

 残心しつつ、周囲の警戒も忘れない。

 

「うん、大丈夫そうね」

 

「これで今日は十体だな」

 

 二人でサンドワームの死体を抱え、森の入り口に運ぶ。討伐証明部位の体内にある結晶をわざわざ抉り出さなくても、半分になったサンドワームはそれほど重くないので問題ない。

 

 帰り道、他のモンスターに襲われることなく森の入り口まで戻ってこられた。

 

 ギルド職員に死体を提出し、クエスト用紙にサインをもらう。

 

「どうする? ツヴァイ。もう少し狩る?」

 

「そうだな」

 

 残った体力、武器の消耗なども考える。

 

「いや、ここで切り上げよう」

 

「了解。じゃあ、行きましょ」

 

 セリカと二人、並んでゼルクトの街を目指す。

 

 今日も怪我らしい怪我もなくクエストを終えられた。帰り道では、今日戦ったモンスターのことや、あのときはこうした方がよかったなど、簡単な反省会を行い、明日への糧にする。

 

 冒険は順調だった。日々を必死に過ごしているうちに、月日はあっという間に流れていく。

 

 気が付けば、冬では見かけなくなっていた小動物型のモンスターも森に現れるようになっていた。

 

 セリカはよく晴れた空を見て、穏やかな顔で言った。

 

「もうすぐ、冬が終わるわね」

 

 そして春がやってくる。

 

 

 

 

 

 この二カ月ほど、もちろん冒険だけをしていたわけじゃない。

 

 夜の宿では、セリカがベッドに座ってうんうんと頭を悩ませてた。

 

「この文字がこれで、これと組み合わせるとこうなって」

 

「そうそう。で、これが」

 

 木の板に枠をくっつけ、砂を敷き詰めたものを使い、俺はセリカに文字の読み方を教えていた。

 

 ろうそくの明かりを頼りに、毎日少しずつ勉強を進めていく。

 

「む、難しい。頭がおかしくなりそう」

 

「ほら、がんばれ。がんばれ。魔導書を読めるようになるんだろ?」

 

「わ、わかってるわよ! せっかくツヴァイが教えてくれてるんだから、あたし、がんばるわ!」

 

 セリカは眠たい目をこすりながら、必死になって励んでいる。

 

 俺のときに勝るとも劣らない熱心さだ。これならきっと、そう遠くないうちに文字を読めるようになるだろう。

 

 そうなると。

 

 俺はセリカが大事にしている魔導書に視線をやる。

 

「そういえば、セリカ。毛皮は売ったのに、魔導書は売らなかったんだな」

 

「え? そうね。正直なところ、何度も売ろうと思ったんだけど」

 

 削った枝を使って砂に書かれた文字をにらんでいたセリカは、魔導書を手に取って膝の上にのせる。

 

「売ってもどうせ大したお金にならないと思ったし、なんていうか、あたしが冒険者になろうと思ったきっかけの魔導書だから売れなくてね」

 

「おじいさんの形見だったか?」

 

「そんな感じね。おじいちゃんはあたしが小さい頃に亡くなっちゃったし、生前これをそんなに大事にしてたわけでもないんだけど、話してくれた『冒険王』ベイスンの物語が印象的でね。あたしはずっと冒険者に憧れてたの」

 

 セリカは昔話を簡単に語ってくれた。

 

 セリカの故郷は、このゼルクトの街から三日ほどの場所にあるナリン村という村だという。

 

 コルニ村と同じような小さな村で、大きな泉が近くにある以外は、これといった特徴もないらしい。

 

 ただコルニ村のように奴隷はいなかったため、収穫の時期になると、ゼルクトの街のギルドにクエストを出して、収穫の手伝いなどをお願いしていたという。それでセリカは村にやってきた冒険者に、冒険のお話や剣の振り方などを教わりながら大きくなったそうだ。

 

「まあでも、村ではずっと剣を振り回してるわけにもいかなくてね。特にあたしみたいな女の子は、早くに結婚相手を探して子供を産みなさいみたいな風潮があって」

 

 セリカはしゃらりとワインレッドの髪をかきあげ、腰に手を当てて胸をそらした。

 

「あたしってほら、可愛いじゃない? 村で一番とかのレベルじゃなくて、街でも通用するくらいの美少女じゃない?」

 

「そりゃまあ、否定はしませんが」

 

「可愛い?」

 

「可愛い可愛い」

 

「……もう」

 

 自分で言わせておいて、本気で照れるのはやめてくれませんかね。

 

「でも自他ともに認める可愛いあたしは、村社会だと結構面倒な立場でね。なんか勝手にあたしの結婚相手、村の村長の息子に決まってたのよ」

 

「あんまりいい相手じゃなかったのか?」

 

「ツヴァイに比べれば全然。とてもじゃないけど、このあたしの結婚相手は務まらなかったわ。でも親はそうしなさいって言ってくるし、断ったら断ったで、別の役目をさせられそうになるし」

 

「別の役目?」

 

「あれよ、貴族とかが村にやってきたとき、村一番の美人を寝床に向かわせるみたいな歓待の風習があったのよ。貴族とかは血筋でスキル持ちが生まれやすいみたいだし、子供ができてスキル持ってたらラッキーみたいな」

 

「あー」

 

 コルニ村でもありました。

 

 で、俺が生まれたってわけ。

 

「その役目をやってたお姉さんにちょうど子供ができてね、あたし気づいちゃったのよ。あ、これ次はあたしの番だな、って。しかもちょうど村は収穫の時期。終わったら領主様のところの役人が村に来るし、下手な相手が来たらそこがあたしの初体験になっちゃうなって」

 

 結婚するか、歓待役になるか。セリカはどっちも嫌で。

 

「これはもう、村から出て冒険者になるしかないって思ったわけよ! ああきっと、それがあたしの運命なんだって!」

 

 だからセリカは季節外れのあの時期に、街にやってきて冒険者になったのだった。

 

「おじいちゃんの剣もあったし、村長の息子とかそれ以外からも贈られたお金になりそうなものも結構あったし、これは冒険王ベイスンみたいな冒険者になるしかない! あたしってば未来の大英雄? そう思っちゃうのも無理はないと思わない?」

 

「で、初対面のあれね」

 

「いやぁ、今思うと恥ずかしいかぎりよ。あたしは結局、冒険王ベイスンにはなれなかったし、一人で街で生きていくこともできなかった」

 

 セリカは過去の自分の言動を照れくさそうに笑うと、

 

「でもね、街に来て冒険者になったことは後悔してないわ。村に戻るつもりも今はまったくない。馬鹿で情けないあたしだけど、それでも」

 

 俺の顔を見て、彼女らしくはっきりと言った。

 

「ツヴァイと出会えたことが、あたしにとっては運命なんだって思ってる」

 

 もはや下手な告白よりも恥ずかしい台詞だった。

 

 セリカも羞恥で顔を真っ赤にしているのに、それでも腰に手をあて、堂々と誇らしげに胸をはっていた。

 

 この気持ちに恥ずべきことはなにもない。そう言わんばかりの、セリカらしい態度だった。

 

「ね? ツヴァイはどう?」

 

「そりゃあれだ。……俺も、セリカと会えてよかったと思ってるよ」

 

「っ!」

 

 対して俺は照れくさくて小声でぽつりと言えば、セリカはきゃあと小さく悲鳴をあげ、ベッドの上を転げまわる。

 

 ひとしきり、そうやってなにかの衝動を発散させたセリカは、立ち上がって俺の隣に座った。

 

 そして肩を軽く俺の肩にぶつけてくると、

 

「どうしよ? ツヴァイ。あたしなんか今、猛烈にムラムラしてるわ」

 

「セリカそういうところだよ?」

 

「安心して。お役目してたお姉さんから、色々と教わってはいるから。ね? この前のリベンジをさせてちょうだい! 今日こそは立ち上がらせてみせるから!」

 

「やめ、やめろぉ――!」

 

 押し倒そうとするな! だからって押し倒されそうとするな!

 

「お礼、これはお礼だから!」

 

「お礼じゃねえよ一〇〇パーセントの劣情だよ! 言っておくけど、相手が俺じゃなかったらただの事案ですからね!?」

 

「ツヴァイ以外にこんなことしないわよ、もう」

 

 俺があまりにも全力で抵抗するので、セリカは不満そうにしながらも矛を収めてくれた。

 

 危ない危ない。夜の湯浴みをしているときの雰囲気で恥じらいつつ迫られていたら、俺も我慢できないところだった。

 

 いやわかるよ? 冒険で命のやりとりをしてるから、色々と溜まるものがあるのは俺も理解できる。

 

 未婚の冒険者の娼館利用率は九割以上らしいし、なんなら既婚の冒険者の利用率も高いらしい。数少ない女性冒険者に向けた娼館もあると聞くし、それだけ冒険者というのは性欲が溜まりやすい職業なのだ。

 

 でもやめてください。一度でもそういうことをしちゃうと、俺もタガが外れちゃうから。

 

 俺のツヴァイくんがドライフィアーフュンフゼクスしちゃうから!

 

「でもあたし、ツヴァイにお礼がしたいって気持ちは本当だから。仲間に誘ってくれて、危険な前衛を引き受けてくれて、こうして文字も教えてくれて、他にも色々とあたしのためにしてくれて……ずっと、なにかお礼をしたいって思ってた」

 

 俺よりも早く悶々とした気持ちを打ち消したセリカが、横にくっついたまま潤んだ瞳を向けてくる。

 

「そういうこと以外でも、あたしにできることがあったら言って。あたし、なんでもするから。ううん、違うの。あたしがツヴァイにしてあげたい」

 

 劣情とは別の、なにかの熱に浮かされた瞳。

 その気持ちは嬉しいが、だからといって、セリカにして欲しいことなんて。

 

「なんてね」

 

 悩む俺の表情を見たのか、セリカがぱっと俺から離れる。

 

「これ以上は困らせるだけね。あたしに身体以外で支払えるものなんて、今はなにもないもの」

 

「……そんなことないだろ」

 

「ありがとう。その期待に応えられるように、あたし、がんばるわね」

 

 セリカは立ち上がり自分のベッドに戻ると、書きかけだった砂板と、ベッドの上に放り投げられた魔導書を拾いあげる。

 

 そこで。

 

「あ、そうだ」

 

 不意に、いいことを思いついたといわんばかりのリアクションで、セリカは俺の方を振り向いた。

 

 その手の運命の魔導書を一度、ぎゅっと大事そうに抱きしめてから、

 

「――この魔導書をツヴァイにあげるわ!」

 

 とびきりの笑顔で、俺に差し出したのだった。

 

 

 

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