分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね? 作:sasarax
自爆魔法の予期せぬ習得を、果たしてセリカに言うべきか言わないでおくべきか。
言うしかなかった。
セリカのおじいさんが生涯隠し続けた理由はわかるが、俺の場合はそうはいかない。なにせセリカがずっと大事にしていた魔導書だ。なんの魔法かなんて知りたいに決まっているし、魔導書が手元にある以上隠し通すのは不可能に近い。
加えて言うなら、文字を覚え始めたセリカが間違って読んで習得しないように、真実を伝えて注意しておく必要もある。
覚えても使わなければいい、というのは素人の意見だ。
実際に覚えてしまった身として言えるが、自爆魔法というものは不思議な魅力を持っている。
自分を犠牲にすれば、遥か格上の敵でも倒せる可能性がある。
どんな障害をも打破して仲間を守り、なおかつその仲間に絶対に忘れられない傷を作ることができる。後者は俺の性癖でしかないが、悪魔を倒した王のように、わずか一瞬で誰かの英雄になれるのだ。
使いたい。そう思ってしまうだけの不思議な魅力が、自爆魔法にはある。
実際、今日もそう思った瞬間があった。
「ドラちゃんよわよわ~。ほとんど年の変わらない女の子に、手も足も出ずに負けちゃうなんて、生きてて恥ずかしくないの?」
「こ、このクソガキ!」
シュクラ流の道場。地面に倒れ伏す俺の上に座って、クスクス嗤ってくる先輩。
本体の俺だったからなんとか耐えられたが、もしここにいたのが分身の俺だったら自爆魔法を使っていたかも知れない。
恐ろしい。自爆魔法の引力は、かくも恐ろしいのだ。
そんなわけで夜。
俺はセリカに思い切って、この魔導書が自爆魔法の魔導書であることを伝えることにした。
「セリカ。この魔導書なんだけど」
「うん。なんの魔導書かわかった?」
「自爆魔法の魔導書だった」
わくわくとした顔をしているセリカに心苦しくもそう教えてれば、彼女はきょとんとした顔をしたあと、困ったように笑った。
「なるほどね。だからお母さん、燃やそうとしてたのか。……そうよね、ただの農家の家に、そんなすごい魔導書なんてあるわけないわよね」
「いや、破壊力という意味ではすごいって話だぞ?」
「自分の命を犠牲にしてたら意味ないわよ。慰めてくれなくても大丈夫。ちょっと残念だけど、別に傷ついたりなんてしてないから。むしろごめんなさい、そんな魔導書を渡しちゃって。時間を無駄にさせちゃったわね」
「いや、無駄じゃなかったから。内容として面白くはあったし。ああ、冒険王ベイスンなんて名前じゃなかったけど、セリカが憧れてもおかしくない、すごい王様はちゃんといたぞ」
「そうなの? それならよかったのかしら?」
セリカは当たり前だが、俺が自爆魔法を覚えたことは察していないようだった。
魔導書が一回読んだくらいで魔法を覚えられないのは周知の事実だ。彼女からしたら、お礼といって変な魔導書を渡してしまって心苦しいくらいの反応だろう。
「でもそれじゃあ、お礼にはならなかったわね。ここはやっぱりあたしの身体で」
「あ、そういうのいいです」
昨日の夜で満足したんじゃないのか?
やっぱり、自爆魔法を習得したことは言わなくてもいいか。変に罪悪感を抱かれて、これ以上積極的になられても困るし。
「で、自爆魔法覚えちゃったの?」
「うん。……あ」
さらりと言われ、思わず肯定してしまった。
セリカの顔を見れば、彼女はいつの間にか真剣なものに変えて俺を見ていた。
「なにか言いづらそうにしてたから、まさかとは思ったけど」
「ああいや、なんか相性が良かったみたいで。……なんかごめん」
「謝らないで。むしろあたしの方こそ」
セリカは目尻に涙を浮かべ、それを隠すように手で顔を覆う。
「ごめん。ごめんなさい。変な魔導書を見せたりなんかして。また、ツヴァイの足を引っ張ったりして。大事な一個目の魔法なのに、あたしの所為で……」
「そんな、セリカが悪いわけじゃない」
それに分身スキルのある俺なら。
「自爆魔法だって、使いどころがあるかもだし」
「あったらダメなのよ!」
セリカは手をどけて、涙目で俺をにらみつけた。
「自爆魔法なんて、使いどころがあったらダメなの! 死んじゃダメなんだから!」
セリカはそのまま俺に縋り付いてきて、わんわんと泣き始める。
仲間になったあと、セリカが偶に見せるネガティブモードだ。こうなると、落ち着くまで時間がかかる。
その背中をぽんぽんとあやしながら、
「大丈夫だって。俺は自分の命を犠牲にして自爆魔法なんて使わないから。俺は絶対、死んだりなんてしないから」
「本当に? 約束してくれる?」
「ああ、約束するよ」
「あたしが死にそうな目にあってても?」
「いやそれはどうだろう?」
「馬鹿! そこは頷くところなの! でもありがとう!」
ぽかぽかと胸元を叩かれる。痛い。痛いよ。
でもそう言われても、ねぇ?
仲間がピンチになってて、自爆魔法を使えば助けられるっていうなら、そりゃ普通に使いますよ。
命を捨てるわけじゃない。
俺なら、そういう使い方もできるってだけの話だ。
「いい? 約束よ?」
セリカはキスするんじゃないってくらい、自分の顔を俺の顔に近づけて、約束を迫ってくる。
「自爆魔法なんて、絶対に使わないで!」
「ああ!」
俺はとってもいい笑顔で頷かなかった。
数日後の休養日。
いつもならセリカや他の冒険者に文字の読み書きなどを教えて過ごしている俺だが、今日は用事があると言って講義はお休みにさせてもらった。
ついてきたそうにしていたセリカに謝って、俺は一人、街から離れたログレス平原にいた。
平原の奥へ奥へと進んでいくと、やがて打ち捨てられた農村が見えてくる。
絶滅領域に飲み込まれ、廃棄を余儀なくされた村の跡地だ。モンスターによって荒らしに荒らされ、人が生活していた痕跡はほとんど残っていない。
偶にモンスターが集団で潜んでいることもある危険地帯だが、今はなんの気配もない。
このあたりでいいか。
廃棄された村を越えたあたりで、俺は集中を始める。
身体に流れる魔力を俺は知覚することはできない。身体強化も無意識下で行われていることだ。
それでも、すでに詠唱はこの身に刻まれている。
そこに意識を向け、頭に浮かんでくるその詠唱を唱えれば、おのずと魔法は発動されるはずだ。
うん、魔法です。
自爆魔法の実験のためにここまで来ました。
え? 覚えた魔法は使うよ? 当たり前でしょ?
いや、セリカとの約束は破ってないし。俺、一言も自爆魔法を使わないなんて約束してないから。
命を犠牲にして使うなんて真似はしないと約束しただけだ。
なので、ここまで分身の俺でやってきました。
危険地帯。周りには誰もいない。巻き込む心配はなにもない。
「エル サルハ グラム ケルセルフ」
詠唱を唱えれば、俺の身体を魔法の光が包み込む。
同時に脳内でタイマーをスタートさせる。
詠唱すれば即時に爆発するわけじゃないようだ。けれど、たしかに今俺の身体は爆発物に変わっている。
魔力の消費は激しいらしく、全身が重たくなって頭がくらくらする。
十秒経過。まだ爆発しない。
これはあれだな。自分で爆発させるタイミングを選べる感じだな。
でもさすがに時間制限はあると思うから、それが最大どれくらいまで行けるかは確かめておかないと。
ん? そろそろか? もうちょい、あともうちょい――
「あっ、爆発し」
光の華が咲き、俺は散った。
「大体、三分が限界か」
魔導図書館の椅子に座り、魔導書を読んでいる真っ最中、死んだ分身の俺の記憶が統合される。
以前、フィーネの槍によって消し飛ばされたときと同じように、その死に衝撃は感じつつも、痛みも苦しみも伴わなかった。なんか慣れちゃったな。
「分身の術」
他人の視線のない死角でスキルを使い、分身を出してもう一度平原に向かわせる。
これで威力の確認をしてからになるが、今の一撃だけでも確信できた。
「自爆魔法、めっちゃ使えそう」
たしかに自爆魔法自体はゴミ魔法だ。
威力は高いが、使うのに自分の命を使用するなんて、産廃にもほどがある。
けれど俺の分身スキルと組み合わせることで、その破壊力だけを享受することができるのなら、十二分に使える魔法となる。
自爆によるダメージみたいなものが本体の俺まで波及する可能性はあったが、一応図書館の司書さんに自爆魔法のことを聞いたかぎりでは大丈夫そうだった。
曰く、
『自爆魔法ですか? うちにも魔導書はありますよ。使えないで有名ですけどね。使用例? 一応あります。かなり昔にはなりますが、教会の信者の中で、すごく熱心な方がモンスターを巻き添えに爆発した記録が残ってます。ええ、使った瞬間使用者は木っ端みじんです。肉片ひとつ残らなかったそうです。
でも威力はすごいですよ。人間同士の争いでは使用を条約で禁止されてる、スキル必須の大規模殲滅魔法に準じる威力がありますね』
とのことだった。
砕けるのは使用者の肉体だけ。絶対に安全という確信はなかったが、この条件下で使わないなんて選択肢はなかった。
なぜなら、俺は確実にいざというときは自爆魔法を選択肢にのせるからだ。他に手段がなければ、そうするに決まっている。
なら前段階で、自爆魔法の威力や規模、消費する魔力、または本体への影響は実際に使って調べておくしかない。仲間を助けるために使ったけど、仲間も巻き込んでしまったでは意味がないのだ。
あ、可愛いフィーネさんのことをディスったわけじゃないです。
セリカには悪いが、俺は押してもなにも起きませんと言われたボタンが目の前にあったら、押しちゃダメだと言われても確実に押してしまうタイプである。
なら開き直って、実験するに決まってるじゃないか。
よし。
まずはどれだけ威力を絞れるかの方向性でやってみよう。
分身の俺が戻ってくるのをわくわくしながら待ちつつ、俺は手元の魔導書に目を通す。
この魔導図書館にあった自爆魔法の魔導書だ。
セリカの目の前でもう一度あの魔導書を読もうとしたら、彼女に危ないでしょと没収されてしまったので、俺は仕方なく魔導図書館にやってきたのだった。
二回読んだところで魔法は進化するわけではないのだが、どういうところが俺と相性がよく、一発で取得できたかは探らないといけない。
自爆魔法は安易に人前で使える魔法ではないので、他の魔法の習得は続けるつもりだ。そこに今回の経験を活かせるなら越したことはない。
そんなわけで魔導書をもう一度読んでみる。
一行目には、この魔導書が自爆魔法の魔導書である旨が記載されていた。
あれ?
この時点でおかしかったが、読み進めればさらにおかしいことに気づく。
俺が読んだセリカの魔導書とは、内容がまったく異なるのである。
セリカの魔導書は王の物語だった。
対してこの自爆魔法の魔導書は、火と死について作者なりの論理が展開されている学術書に近い。
しかし自爆魔法を使える俺にはわかる。これは間違いなく自爆魔法の魔導書だ。
読み進めていくうちに頭に浮かんでくる詠唱も同じ。
エル サルハ グラム ケルセルフ
……今まで気づかなかったが、もしかして魔導書って、同じ魔法でも一個一個内容が違うのか?
コピー機で印刷しているわけじゃなくて、一冊一冊手書きだからな。そりゃまあ、違ってもおかしくはないか。
う~ん。こっちの自爆魔法の魔導書を読んでも、なんかピンとは来ないな。
もう使えるから理解はできるが、先に読んだのがこちらの魔導書だったら、俺は自爆魔法を習得していなかった気がする。
参考にならないな。
俺は本を閉じ、もっと別の魔導書を探すことにした。
なお、分身の俺による自爆魔法の実験の方は、いい感じに進んでいた。
自爆魔法の威力は相当なもので、通常威力で使った場合でも、廃村の横に小さな焼け野原を作ってしまうくらいだった。
逆に最小での威力で使用した場合。
こちらは地面に焦げ跡を少し作るくらい。本当に、俺の身体があった足元が焼けたくらいの威力だった。
それでいて、分身の俺は痛みも苦しみもなく戻って来た。
うん、これ自決用に使い勝手がすごくいい。
今までは本体の俺と離れていると、分身は死んで情報を共有するという手段をなかなか取れなかった。分身の俺にとって、本体の俺に死んで戻ることは死であって死ではないのだが、そこに自傷行為が伴うと踏み切れない部分があった。
さすがの俺も、自分の喉を剣で掻っ切る真似はしたくない。痛いし、絶対苦しいからな。
けどこの自爆魔法があれば、痛みもなく速やかな自決をはかれる。
いいね。これがあれば、拘束も怖くない。する予定は今のところないが、敵陣地に忍び込んでの情報収集も可能だ。
よりいっそう忍者らしくなってきたな。
「思いがけない習得だったけど、セリカには感謝しないといけないな」
今は分身スキルのことを伝えていないので、直接言うことはできないけれど。
いつかそのときが来たら、全力で感謝を伝えるとしよう。
いやむしろ今こそ分身スキルの存在と共に伝えるべきなのだろうか?
う~ん。悩みどころだ。
でも今はとりあえず、魔法の実験だな。
よーし、次は最大威力だとどれだけ威力が出るか試してみよう、っと。