分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第43話  不穏なクエスト

 何度目かの自爆魔法の試みのあと、その跡地に向かう。

 

 安全を考慮したとはいえ、ちょっと実験場所が街から遠すぎたかな。

 そう思いつつも目印の廃墟まで来ると、そこには先程まではいなかった先客の姿があった。

 

「あれ? ドミニクさんたち、ここでなにをしてるんですか?」

 

「ん? ツヴァイじゃねえか」

 

 自爆魔法のあとを見分していたのは、ドミニク率いる銀の盾の五人だった。

 

「お前も爆発音を聞いて、様子を見に来た口か?」

 

「……フッ、わかりますか?」

 

 ドミニクさんたちはどうやら、俺の実験の音を聞いて駆けつけたようだ。

 

 最初は威力を絞る方向で実験していたが、それもひと段落したし、つい先ほどは全力を出すとどれくらい威力が出るかを実験したからな。

 

 威力は、廃村の横にクレーターを作るほどだった。

 

 近くでクエストをやってたら、そりゃ見に来るよな、これ。

 

「見ろよ、ツヴァイ。この破壊のあとを」

 

 ドミニクさんに近づくと、くいっとクレーターをあごで指し示される。

 

 クレーターの中には、エルクさんとシルヴィアさんの姿があった。穴を挟んで反対側には、カーマインさんとナックルさんが周囲の警戒をしている姿も見られる。

 

「やべぇ威力だ。誰がやったかはわからないが、こりゃちとまずいな」

 

「ま、まずいと言うと?」

 

「シルヴィアが魔力の波動を感じたと言ってたから、おそらくは魔法によるものだと思うが……魔法ってのは、普通こんな破壊力は出ないもんだ」

 

「たしかに、前に見た魔法は人ひとりを焼くのにも苦労してましたからね」

 

「ああ。魔法はものによっては村一個を焼き払い、戦術単位なら覆せる威力を出せるもんもある。魔法を五つ六つと覚えた高位魔導師が、一日に一発しか撃てない切り札レベルの魔法だな。しかしこれはそのレベルじゃない。ここまで来ると街を破壊できる。戦争で使えば、戦略すら覆せる威力だ」

 

 戦慄もあらわに、ドミニクさんは破壊のあとをにらむ。

 

「ギルドに要報告だな。これを使ったのが人間だろうと、あるいは突然変異したネームドモンスターだろうと、放置はできない」

 

「そうなんですか? 人間が使ったなら、危険はないんじゃあ?」

 

「考えてもみろ。こんな魔法を使わないといけない相手がここにいたってことだぞ。どちらにせよ、モンスターに異変が起きてるのは間違いない」

 

 熟練のシルバーランクの冒険者は、その認識票にふさわしい貫禄と顔で、空を見上げた。

 

「……とてつもない嵐が来そうだな」

 

 たぶん来ないと思います。

 

 

 

 

 

 そんな感じで、まるでオネショのあとを見られた子供みたいな羞恥心に襲われていた俺だったのだが。

 

 ことは俺の恥で終わらなかった。

 

「ギルドより、緊急クエストを発令します」

 

 ギルド長より、集められたゼルクトの冒険者たちに向かって宣言がなされる。

 

「ログレスの森の奥深く、絶滅領域に踏み込んだ地点で、ネームドと思われるモンスターと、集団化したモンスターが確認されました。これを受けて、領主であるフォン・ゼルクト伯は緊急事態宣言を発令されました。これよりゼルクトの街は、モンスターのスタンピードに備えて動くことになります」

 

 先日の俺による魔法爆発騒ぎを知り、ギルドは何組かのシルバーランク冒険者をこっそりと森の奥の調査に向かわせた。

 

 すみませんすみませんなにもないですすみません、と俺は内心で謝り倒していたのだが、その調査によってモンスターの異変が確認されたのである。あくまで偶然でしかないのだが、本当に異変が森の奥で起こっていたというわけだ。

 

「幸い、今回はかなり初期状態で発見することができました。まだスタンピードが起こる段階まで、モンスターの終結は完了していないとの見立てです」

 

 スタンピードとは、大量のモンスターが集団化して一地点に襲い掛かってくる現象である。

 

 当然、普通では起こりえない異常現象であり、昔は原因不明とされていたが、近年ではその原因がはっきりとわかっている。

 

 モンスターを統率、集団化させられる能力をもったモンスターが現れたことが理由だ。そしてその異常個体が生まれる理由もはっきりしている。

 

 モンスターにスキルが授けられたがために起こった進化だ。

 

 そう、スキルはなにも人間だけが使えるわけではない。

 

 非常に特殊な例にはなるのだが、モンスターにもスキルを使える個体が現れる。そうしたモンスターは他のモンスターとは一線を画す存在となり、ネームドとして扱われる。

 

 有名なところでいえば、古の魔王の右腕として働き、ある意味ではその魔王よりも恐れられているモンスター。

 

『人化』スキルを持ち、モンスターでありながら人間と同等、あるいはそれ以上の知能を得たモンスターたちの将。勇者が取り戻した人類領域の半分を奪いとっていった魔王の後継者。

 

 忌々しきベルフェゴル。

 

 六聖教会がその死を願ってやまない、人類にとって不倶戴天の怨敵だ。

 

 そこまで凶悪なモンスターに進化するのは稀であるが、それでもスキルを得たネームドモンスターの脅威は、ひとつの街を滅ぼすに足る脅威となる。

 

 実際に、ゼルクトの街はこれまでに二回それが原因で壊滅的な打撃を受け、後退を余儀なくされている。

 

 一度は純粋に強大なネームドのモンスターによる強襲だったが、一度は今回と同じくモンスターの大量発生によるスタンピードが原因であった。

 

「ゼルクト伯は王都に援軍を求めるとともに、兵を率いて街の防備を固めています。同時に、一部の精鋭を集めて敵の拠点にこちら側から仕掛けることも計画されています」

 

「ネームドモンスターの一点狙いか。たしかに、そいつを潰せれば、他のモンスターは散り散りになるだろうからな」

 

 隣で話を聞いていた銀の盾のドミニクさんが、獰猛な笑みを浮かべながらそう言った。

 

「ならオレたち冒険者の役割も同じだな」

 

「そのとおり! ゼルクト伯は、我々ゼルクトの冒険者にも敵拠点への襲撃に参加して欲しいと言われました!」

 

 ギルド長のその言葉に、冒険者たちの間にすさまじい熱量が走り抜ける。

 

「領主様からの援軍要請です! 冒険者にとってはまさに晴れ舞台! まさか尻尾を巻いて逃げるような腰抜けはいないだろうなァ!」

 

「当たり前だ!」

 

「おう、英雄になる最高のチャンスじゃねえか!」

 

 丁寧な口調から一転、冒険者ギルドの長らしい言葉で発破をかけてくるギルド長に、あちこちから力強い返答が飛ぶ。

 

 そう、ここにいるのは冒険者。危険を恐れぬ荒くれものたちなのだ。

 

 危険の大きい戦いだとしても、怖気づくような奴は誰もいない。

 

 というか、そんなことを言おうものならそいつが周りから袋叩きにあいそうな雰囲気だった。

 

 怖ぇ。やっぱり冒険者って、基本は野蛮人の集まりなんだな。

 

 ていうか、強制参加っぽいし。

 

 俺、栄誉のために死ねと言われてもよくわからないのが本音なんだけど。

 

「敵ネームドへの襲撃には、シルバーランク以上の条件を設け、その中から精鋭を選んで向かわせる形になる! 言っておくが、ゴールドの二組は強制参加だから準備しておけよ!」

 

 ギルド長の後付けの条件に、冒険者たちからブーイングが飛ぶ。

 

「ええい、悔しかったら常日頃からもっとランクを上げておけ! あとブロンズの一部にもやってもらわないといけない仕事があるからな! 選ばれたときは覚悟しておけよ!」

 

 さらにブーイング。しかしギルド長は気にすることなく、詳細はクエストボードに後日貼り出すと宣言して忙しそうに去っていった。

 

 突然の緊急発令だったが、猶予はまだあり、今すぐにどうこうというわけじゃないようだった。

 

 それでもギルド内は熱気に包まれ、いつも以上にやかましい。

 

「セリカ。どうやら今回の事件はブロンズ以上にしか関係ないみたいだぞ」

 

「そうみたいね。ちょっと残念かしら」

 

 一緒に聞いていたセリカも熱にあてられたのか、そう口にするが、条件が定められているならしょうがない。

 

「いや、お前たちにも十分関係があるぞ」

 

 と思ったのだが、ドミニクさんがそう忠告してきた。

 

「どういうことですか?」

 

「簡単な話だ。シルバー以上が緊急クエストに持っていかれるんだ。当然、誰かがその代わりにいつものクエストをこなさないといけない。つまり、今ブロンズにいる奴らがシルバーのクエストに駆り出される」

 

「そしてアイアンの俺たちは、ブロンズのクエストに駆り出されるってことですか?」

 

「半ば強制的にな。……前にも似たようなことがあったが、そのときは結構な数の冒険者が死んだ」

 

 純粋に難易度が上がるクエストを受けないといけないわけだ。それはたしかに、危険度も跳ね上がる。

 

「街から出るのもひとつの手だがな。その場合、この街ではもう二度と冒険者はやれないと思った方がいい」

 

「そう、なりますよね」

 

 俺の不安そうな顔を見てドミニクさんは選択肢を増やしてくれたが、なかなか取れる手段ではない。

 

 もちろん、本当にいざというときはそうするべきなのだろうが。

 

 セリカと顔を見合わせ、頷く。

 

「やってやりますよ。せっかくセリカと二人でここまでやって来たんですから」

 

「はい! あたしもツヴァイと同じ気持ちです!」

 

「そうか。まあ、お前ら二人はそもそも、もうすぐブロンズランクに上がれそうだったしな。なんとかなるだろ」

 

 ドミニクさんは拳を掲げると、軽く俺の胸にぶつけた。

 

「今回のことはチャンスと思えばいい。やり遂げれば、間違いなくブロンズに上がれる。そうなったら、一緒にクエスト行こうぜ」

 

「いいですね」

 

「そのときは是非」

 

「フッ、本当なら仲間になって欲しいところだがな」

 

 以前はあまり俺の仲間入りに前向きではなかったドミニクさんは、俺とセリカを見てそう評価してくれた。

 

 去っていく先輩冒険者を見送り、俺とセリカは帰路につく。

 

「でもこれ、ある程度落ち着くまで、森でのクエストが受けられないってことよね?」

 

「そうなるだろうな」

 

 封鎖とまではいかないが、ログレスの森の奥でモンスターが集結しているのなら、しばらく森への出入りは厳重となるだろう。

 

 そもそも、ギルド側も今回の件を受けて忙しく動いており、通常クエストは一時的に止まっている状態だ。おそらく、あと二、三日はこんな感じと思われる。

 

 その間に準備を進めておけ、ということでもあるのだろうが。

 

「セリカ。どうする? さっきはああは言ったけど、本当にこの街が危険なら、二人で一緒に逃げてもいいぞ」

 

「二人で愛の逃避行ってこと? えー、そういわれるとちょっと迷っちゃうじゃない」

 

「茶化すなよ。俺は真剣に言ってるだから」

 

「ごめんごめん。でも、あたしはツヴァイの方針に従うだけだから。ツヴァイのしたいことに、ただついていくだけよ」

 

 思考放棄と叱るべきなのかもしれないが、セリカの俺を見る目にはただ信頼だけがあった。

 

 むず痒いが心地いい。

 

 その期待に、俺も応えないといけないだろう。

 

「とりあえず、俺たちに出されるクエストを確認してから決めよう」

 

「なにが来るのかしらね? モンスターの討伐だとは思うんだけど」

 

「……そうだな。なんとなく、だけど」

 

 俺はあの、小さくも醜悪な嗤い声を思い出す。

 

「ゴブリンじゃないかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 二日後。

 

 ギルドより俺たちに振られたクエストは、ある村の近くに巣くったゴブリンの集団を討滅せよというクエストだった。

 

 依頼主がいる、本来はブロンズ以上が受けるようなクエスト。

 

 クエスト先は、ナリン村。

 

 セリカの生まれ育った村の名前がそこにはあった。

 

 

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