分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね? 作:sasarax
非常に唐突ではあるのだが、俺は子供を作れる身体になりました。
いやぁ、やっちゃったんだZE!
ついにセリカに手を出したわけじゃないよ?
彼女の腕の中でその瞬間を迎えたという意味では同じなんだけど。
う~ん、だいぶ早かったんじゃないか?
それとも、魔力があるこの世界ではこれが普通くらい?
わからないが仕方がない。それくらいの快楽体験だったのだ。
ゴブリンシャーマンの初撃による傷が思ったよりも深く、瀕死の状態で分身スキルからの自爆コンボを決め続けたわけだが、ついに俺は限界を迎えてしまった。
そこでなぜか治癒魔法を使えるようになったセリカによって回復され、無限に自爆特攻を仕掛けられたのだ。的となるモンスターもたくさんいて、それが次々に粉砕されていく姿は、もう快感としか言えなかった。
自爆魔法を使い続けるうちに、なんとなく魔力を感じ見ることができるようにもなり、より魔法の威力を出せるようになったのも相まって、モンスターごと視界に映るすべてを平らに消し飛ばしていく過程は、まさに夢のような経験だった。
興奮のあまりね、あと抱きしめてくれるセリカの身体があれでね、あはははは、という感じでございました。
今はなにしてるんだ俺と反省するばかりです。
ふう。
不思議と気持ちが落ち着いたので、俺は改めて今の状況を確認してみた。
無限とも思えたモンスターの出現は止まっていた。どうやら俺は、ゲートから現れたすべてのモンスターを殺しつくしてしまったらしい。余波を受けた周囲は焼野原となり、爆撃に一昼夜晒されたかのような惨状だった。
しかし、それでも開かれた門が閉じることはなかった。
ただあまりの惨劇に、向こう側からモンスターが来なくなっただけ。まだゲートの向こうにモンスターの息遣いを俺は感じ取っていた。
「セリカ。まだ行けるか?」
俺を後ろから抱きしめてくれていたセリカに振り返って聞く。
彼女は顔を真っ赤にして、息も荒かった。
どうしてセリカが治癒魔法を使えるようになっているかはわからないが、いきなり俺の身体を万全にするために二度三度と使わせてしまったのだ。おそらく、相当きつい状態だろう。
それでもセリカは笑みを浮かべ、
「うん。ツヴァイと一緒なら、いつまでだっていけるわ!」
ああ、なんて頼もしい言葉なのだろう。
二人で一緒に、門の奥の暗がりをにらむ。
どこにつながっているのかわからない、その不明の闇。
黒よりなお暗い闇の向こうに、そのときぼうっと輝くふたつの眼が現れた。
憎悪に濁り切った、悪意しかない物の怪の瞳。
それは俺とセリカを一瞥すると、男とも、女とも、若者とも老人ともつかない声で呪いを吐く。
「ああ、忌々しい。忌々しい」
それにあわせ、さらに空間の亀裂が広がっていく。
「なんだ貴様ら? なんでこんな有様になっている? なぜモンスター共は、怯えてヘルズゲートを潜らないのだ?」
怒りと憎悪。モンスターが人間に向ける不変の感情。
だがその桁が違う。今までのモンスターとは、文字通り存在としての桁が違う。
誰でもわかる。この声の主こそ、人類にとっての怨敵。
モンスターたちを束ねる存在である、と。
「死ね。死ね。死ね」
死を願う、それは詠唱。
その存在の言葉すべてが人間への憎悪であり、彼にとっての呪文であった。
大きく広がり、空をも飲み込まんとする巨大なゲート。
それに比べればあまりにも小さな顔が、そのとき闇より姿を現す。
人間の顔。若く美しい、男とも、女とも、若者とも老人とも見える、そんな貌。
だが病的なまでに青白い肌と、縦に裂けた獣の眼。なによりも空間を埋め尽くすほどの魔力の迸りが、それが人外の存在であることを如実に知らしめている。
顔に続き、それの右手が現れる。
手首から先。だがそれ以上はゲートから出てくることなく、口の端を歪めた。
「ああ、忌々しい。忌々しい。【不滅の鎧】め。ここまでゲートを広げてなお、未だにこの程度の干渉しか許さんか」
「【不滅の鎧】?」
「あたし、聞いたことがあるわ。六聖のひとつ【不滅の鎧】――それは人類領域と絶滅領域を切り分け、一定以上の力を持つモンスターの侵入を阻む、不可視の絶対守護境界を作る力だって」
つまり目の前にいるのは、まぎれもなくモンスター。
人の姿をした、人ならざる怪物なのだ。
「お前は、何者だ?」
俺の問いかけに、モンスターが視線を向けてくる。それだけで、心臓がまるで鷲掴みにされたかのような悪寒を感じた。
「俺を知らない? 俺を知らないような奴が、俺の企みを阻んだというのか?」
「モンスタースタンピードのことを言ってるなら、生憎と俺とセリカがやってやったよ。悔しかったら、せめてあの五倍はモンスターを用意しておくんだったな」
「……集めた数は優に千を超えていた。どうやってやった? スキルしかありえないが、一人の人間の力でどうこうなるような物量ではなかったはずだ」
「さあな」
俺が自爆特攻する様は見てないのか。なら詳細を教えてやる義理はないな。
「……貴様が、それほどの手練れには見えないが」
モンスターが手を俺に向けた。
その手のひらから、灼熱の業火がなんの前触れもなく放たれる。
避けることも防御することもできなかった。炎は俺とセリカを飲み込んで、さらに背後の木々をいくつも黒炭に変えてしまった。あれだけのモンスターが相手でも突破されなかった一線を、いとも容易く踏み越えられる。
「ほう?」
しかし俺とセリカは無傷だった。
理由はわからない。確実に死んだかと思った。
ただ、俺が鎧の下に身に着けていた槍のタリスマンが、砂のように粉々になっていくのを見ると、もしかしたらこのお守りが俺たちを守ってくれたのかもしれない。
よくわらないが、カインズさんありがとう! でもこのタリスマンが物理的に守ってくれるマジックアイテムなら、最初からそう言っておいて欲しかった!
「言うだけのことはあるようだな。俺の攻撃より先に、障壁を用意しておくとは」
感心する言葉とは裏腹に、瞳により憎悪を込め始めるモンスター。
まずいぞ。こいつの力量は桁外れだ。
今のは恐らく魔法なのだろうが、魔力の起こりもなければ、詠唱すらなかった。
無詠唱魔法。インチキだろ。
こうなったら、次を放たれる前に、再び分身で自爆特攻を仕掛けるしかない。
俺は素早い動きで手を再び組もうとして、
「う、動かない?」
身体がまったく動かないことに気づく。
「『
「くそっ!」
「エル」
足元から石化していく俺の身体を見て、セリカが慌てて治癒魔法を唱えようとする。
「サ――」
「遅い」
だがモンスターが指をついと動かすと、セリカは途中で声を出せなくなった。それは俺も同じで、声がまったく出なくなる。
「『
モンスターが再び手に業火を灯す。先ほどよりも強く、より巨大な炎。
どうすればいい?
俺の分身スキルも自爆魔法も封じられた。
石化はすでに太ももまで進行しており、逃げることすら敵わない。
セリカが俺を守るように、より強く抱きしめてくる。
「では、死ね」
死の宣告。俺は最後の最後まで、モンスターのことをにらむことしかできず。
「あ?」
再び、モンスターの放った魔法の炎は、障壁によって防がれた。
「――もう大丈夫ですよ。よくがんばりましたね」
気が付けば、俺の目の前に一人の女性が立っていた。
白を基調とした布をふんだんに使った、華奢な背中。
爆発する魔法の炎の影響でめくりあげられた布の裏から、金糸の髪と長い耳の、魔性めいた美貌があらわになる。
アルフィリアさん!?
心の中で俺は叫ぶ。
エルフの聖女、アルフィリアさんは俺たちを一度振り返り、安心させるように笑みを浮かべると、鋭い目つきでモンスターをにらみ据えた。
「愉快な格好ですね。まるで鎖につながれた囚人のようですよ」
「ゲートに干渉して転移してくるとは……呪われた娘、アルフィリアよ。まだ生きていたのか」
「それはこちらの台詞ですよ、ベルフェゴル。さっさとのたれ死んでいてくれればよかったのに」
ベルフェゴル! やはり、目の前のこいつがモンスターたちの首魁!
お互いを憎悪をもって睨み据え、アルフィリアさんとベルフェゴルは動く。
その手から放たれるなにかの魔法。それが炎なのか、風なのか、はたまた雷なのか、俺にはさっぱり正体がわからなかった。
なぜなら魔法が無詠唱で発動した瞬間には、相手の無詠唱魔法によって打ち消されているからだ。二人の間に、いくつもの火花めいた魔力の衝突だけが起こり、なんの影響も残さず消えていく。
「すごい……」
セリカが目の前で繰り広げられる魔法戦闘を見て、感嘆の声をあげた。
そこで俺も声を出せるようになっていたことに気づく。石化も消えていた。
「……片手間に治してくれてたってのか」
「そうみたいね。けどあの人は何者なのよ? 相手があのベルフェゴルってことならその力もわかるけど、味方をしてくれてるあの人も本当に人間なの?」
セリカもまた、すでに魔力を視認できているようだった。
だからわかるのだ。あの二人がまとっている魔力のすさまじさに。
俺も見えるようになったからこそわかる、前に会ったときにはわからなかったアルフィリアさんの保有魔力。それはもはや計測するのも馬鹿らしいほどに強大だった。同じだけの魔力量を誇るベルフェゴルと共に、さながらひとつの宇宙を描くかのように空と大地を覆いつくしている。
「人間だよ。よくよく考えれば、魔法を覚えるたびに魔力量が上がるっていうんなら、人間の寿命を超えて永遠に魔法を覚えられるアルフィリアさんは、最強の魔導師 だっていう話だよな」
魔導師は基本的に、年齢が上がれば上がるほど強くなる。それだけ多くの魔法を覚えられるし、それに伴って魔力量も上がるからだ。
もちろん、無制限というわけではなく、肉体の衰えとともに魔法習得も困難になっていき、四十歳ほどで頭打ちとなるが、それでも一般的に年齢を重ねた魔導師ほど強くなる。
ならばもし全盛期の肉体を保ったまま、永遠に生きられる人間がいるとすれば。
それはこの世界において、最強の魔導師適正を持っているといっても過言ではないだろう。
エルフ。人間を超える、長寿の種族。
永い時を生きてきたであろうアルフィリアさんは、この世界において最強の魔導師なのだ。
そしてそれは、ベルフェゴルも同じ。
スキルによって人化してはいるものの、本質はモンスターであるベルフェゴル。彼もまた老化とも寿命とも無縁であり、重ねた年月の分、魔導師としての腕はけた違いになっている。
だからこその無詠唱。そして目の前で繰り広げられている、人知を超越した魔法合戦だった。
俺たちでは援護すらできない戦いは、しかしあっけなく終わりを迎える。
「ちっ」
舌打ちしたベルフェゴルが、その頬に軽く傷を負った。
「……さすがにこの程度では無理か」
「察するのが遅いのですね」
俺たちの状態異常を治しつつも、悠々と迎え撃ったアルフィリアさんと、頭と片腕だけという状態のベルフェゴルでは、同じ最高峰の資質を持ちながらも、前者に軍配は上がったようだ。
アルフィリアさんが手を動かすと、あれだけ強固だった闇のゲートが、ゆっくりと閉じていく。
「どうやら、わたくしの知らぬところでまた悪辣な計画を立てていたようですが、残念ながら今回はこれでおしまいです」
「計画、か。……たしかに、すでに目的は果たしている」
「負け惜しみを。その門とモンスターの気配から察するに、スタンピードでも起こそうとしたのでしょう? そしてそれは食い止められた」
「それがどうした。元より今回のスタンピードは食い止められることがわかっていた。結局は早いか遅いかの違いだ」
ベルフェゴルが俺を見て、ニタリといやらしく嗤う。
「俺の今回の目的は、行方知らずだった六聖の在処を突き止めることのみ。それが分かれば、次からはその前提で動けばいいだけの話だからな。そしてアルフィリア、貴様がここに来たことで確信をもった。そこのガキがそうなんだろう?」
「っ!?」
アルフィリアさんが初めて驚きと焦燥の表情を見せる。
「そう、よくよく考えてみれば、単身でこんなことができるのはあのスキルを除いて他に存在しない」
ベルフェゴルはすべてを理解した顔で、アルフィリアさんに告げた。
「六聖教会は、【輝ける槍】を手にしたようだな」
うん。
いやマジでなにをどうやってそれがわかったんです?
やべぇ。やべぇよ、ベルフェゴル。
人間を超えた知能ってこういうことなのか。言っている意味がまったく理解できない。フィーネ逃げて! あとついでに向こうの俺も逃げて!
でも俺がそうだってどういうことだ?
……あ、もしかして勘違いしてるだけか?
確かに俺が作ったこの惨状は、フィーネが三回くらいスキルを使ったらできあがる光景と似ているかもしれない。モンスタースタンピードであろうと、フィーネなら適当に武器を投げてるだけで終わらせられるだろうし。
つまりベルフェゴルは、俺が槍の持ち主だと勘違いしているんだ。
そうだよな。さすがにこの惨状から、分身スキルと自爆魔法にはたどり着かないよな。
「さすが、とだけ言っておきましょうか」
フィーネのために訂正した方がいいのか考えていると、アルフィリアさんはそう悔しそうな顔で認める発言をした。
肯定しちゃうんだ。
「ですがわかったからと言って、あなたに出来ることはありませんよ。ねえ? そうでしょう?」
アルフィリアさんが俺を見て目配せする。
なるほどわかった。話を合わせろってことね。
実際、ここまで確信を持たれたら仕方ないので、フィーネの背格好だけは隠しておきたいってことかな。
俺を囮にするような采配だが、そういうことなら協力しましょう。
「そうだ。怯えて震えていろよ、ベルフェゴル。この俺の槍がお前たちを貫く日も、そう遠くないかもだぜ」
「今の戦いを見てそう言えるとはな。ならば名乗りくらいあげたらどうだ?」
「俺の名か」
教えるわけないだろ。
だがまあ、この流れで名乗らないわけにもいかないので、適当に名乗っておこう。
順番的にはドライなのだが、それはもうある場所限定で使っちゃってるし。
今の俺に相応しいのは、もっと別のものだ。
そう、今の俺がドライフィアーフュンフゼクスしたあとの俺であるならば。
「――『賢者』ズィーベン。それが俺の名前だ」
「ズィーベン。いいだろう。その名を覚えておこう」
「いや忘れてもいいよ」
我ながら最悪のネーミングセンスだと思うからな。
「ふざけた奴だ。だが俺を相手に賢者とまで名乗った不敵さに免じて、いいことを教えてやろう」
決していいことを教えてくれる声音ではない声で、ベルフェゴルが告げる。
「【不滅の鎧】を今持っている六聖教会の教皇もまた、そいつと同じ化け物の類だ。加えて、偽りの聖女でもある」
「黙りなさい!」
明らかに悪意をもった言葉に、アルフィリアさんが魔法を放つが、ベルフェゴルはそれを捌きつつなおも毒を吐き続ける。
「そいつのスキルが問題なんだ。なにせ鎧の教皇は、やろうと思えば『強奪』スキルのように他人のスキルを奪うことができるからな。【不滅の鎧】も、そうやって他人から奪い取ったものに過ぎない。――ここまで言えば理解できただろう?」
「いいえ」
「……そいつらが欲しているのは、貴様のスキルだけということだ。お前自身には興味がない。時が来れば用済みとして捨てられる羽目になるぞ?」
本当にぃ? ちょっと信じられないんだけど。
その割には俺を見るアルフィリアさんの視線がねっとりしていたというか、絶対に逃がさないという熱烈な眼光をしていた気がするんだけど。
「そうだ。結局は六聖のスキルとはいえ、【輝ける槍】は奪い去られる結末を迎える。そいつは俺以上に狂っているんだ。だからそうなる。必ず、そいつはそうする。俺がそうであるように、そいつもまた諦めきれないんだ。ズィーベン」
閉じていく門にあわせ、ベルフェゴルが手、頭と、ゆっくりと暗闇に消えていく。
「そいつが本当に欲しているのは、【永遠の騎士団】だけだ」
「……騎士団、か」
なるほどな。
さっぱりわからん!
実際に槍を持っているのはフィーネなので、あまり意味のないアドバイスの名を借りた囁き声と思われるが、それにしてもさっぱり意味がわからない。
もっと具体的に言え。もうちょっと伝える努力をがんばれよ。
「ククク、その女を信じるなよ。ズィーベン。必ずいつか、裏切られる羽目になる」
しかしベルフェゴルは最後まで勘違いしたまま、意味深なことだけを言い残し、闇へと消えていく。
そして門が閉じる最後の最後に、決め台詞のようにそう言った。
「だからその前に死ね。死んで捧げろ。――すべては偉大なる、魔王ベイスング様のために」
その言葉だけはどこまでも真摯に。
世界を滅ぼすほどの、憎悪と愛が込められていた。