分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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《別視点》


番外編  後方腕組みカプ厨

 カップリング。

 

 それは二人いるからこそ描くことができる、新たな魅力の演出方法。

 一人では見ることのできない一面を、相手がいるからこそ知ることができる。

 

 私はそれが好きだった。

 

 いつからそうだったのかはわからない。

 家が宿屋であり、昔から多くの人々の交流を見守って来たからだろうか。いつの間にかこうなっていた。

 

 あるいは血筋か。

 

 父も、祖父も、私と同じ考えを持っていた。だからこそノームの宿屋は相部屋専門の宿屋をやっているのだが、そう考えると、私のこの関係性オタクぶりも血のなせる業と言えるのかもしれない。

 

 そんな私の最近の推しは、ツヴァイという少年とセリカという少女のカップリングだった。

 

 元々は他人でしかなかった二人だったが、同じタイミングで冒険者になったということもあり、ゆっくりと、しかし着実に距離が縮んでいく様子が見ていて楽しかった。

 

 その関係性が富んでいるのもよかった。

 

 最初は姉と弟のような関係。次はライバル。次は逆に兄と妹のような。そして今は同じパーティーの仲間として苦楽を共にしている。

 

 いつどのタイミングでどう変わっていったか、その一部始終を見届けた者としては推さざるを得ない。

 

 最近は、仲間という関係性からもさらに発展していっている気もするし。

 

 見ていて飽きないのはこのことだ。

 

 ぐふふふふ。おっとよだれが。

 

 いけないいけない。

 

 私は壁。後方に位置する、ただのしゃべる壁である。

 

 推しは遠くから見守るものとそう教わってきたし、私自身もそう思っている。推しに察知されるなど素人のすること。私はただ、後方腕組みカプ厨プロとして、二人を温かく見守っていくだけなのだ。

 

 

 

 

 

 そう思っていたのだが、なんだかんだ二人とは親しくなってしまった。

 

 特にセリカさん。

 

「あたしはセリカ! ナリン村からやってきた未来の大英雄よ!」

 

 という自己紹介のときの第一声からしてあらあらという感じだったのだが、どうにも危なっかしい部分があり、なにかと放っておけず話に付き合ったのがよかったのか、妙に懐かれてしまった。

 

 年下の娘さんなので、妹のような感じで接してくる。

 推しにあまり近づきすぎるのもどうかと思ったが、悪い気はしない。

 

「ねえねえ、ツヴァイのことなんだけど」

 

 そんな彼女の最近の話題は、相方のツヴァイさん一色だ。

 

 ツヴァイがああ言っていた。ああしてくれた。嬉しい。好き。いっぱいしゅき。

 

 のろけ混じりの話をされる。表面上は取り繕いつつも、私はいつだってうんうんと内心では頷いていた。

 

 供給、ありがとうございます。その恋が上手くいくことを遠くから祈っています。なに、安心してください。二人に近づく魔の手があったら、そのときはこちらで排除しておきますので。

 

「それで……ちょっと相談があるんですけど」

 

 相談?

 

「ツヴァイに喜んでもらう方法とか、教えて欲しいんですけど」

 

 乙女!

 

 頬を染めて恥じらいつつ聞かれたら、こちらも応えねばファン失格というもの。

 

 やはりここは手料理などがよいのでは?

 幸いにして料理は得意なので、教えるくらいは私でもできる。

 

「あ、いや、そういうことじゃなくて。こう、興奮して押し倒してもらうにはどうすればいいかっていう相談なんですけど」

 

 お、乙女?

 

 なるほど理解した。私が思っていたよりも、二人の仲が進んでいたということなのだろう。

 

 でも私にそんなこと相談していいの?

 

 他に相談できる相手がいない?

 

 ……じゃあしょうがないのか。

 

 でも聞かれても答えるのが難しいというか。やはり、その、煽情的な格好で挑発するとか?

 

「たとえば?」

 

 たとえば!?

 

 ええと、下着姿とか?

 

「それはもうやりました」

 

 !?

 

「あと裸でも迫ってみたんですけど、ツヴァイは全然興奮してくれなくて」

 

 !?

 

「どうすればいいんでしょうか?」

 

 き、期待の眼差し! 推しからの期待には是非とも答えたい!

 

 ……いや、冷静になって考えてみると、ツヴァイさんはあの年齢なので、そういうことはさすがに無理なのでは?

 

「えっ? でもうちの村だと、ツヴァイより三歳くらい年上で結婚して子づくりする夫婦もいましたよ?」

 

 そうなんだ!?

 

 生まれも育ちもこのゼルクトの街なので、そのあたりの村の事情というものを知らなかった。

 

 ツヴァイさんより三歳くらい年上ってことは、十二歳か十三歳くらい。えっ? 嘘でしょう?

 

「本当ですよ。うちの親も今のあたしと同い年で結婚して。で、翌年にはあたしが生まれたってわけです」

 

 なるほど。じゃあ、今のツヴァイさんでも無理……ではないのか?

 

 知らない。さすがに推しでもそこまでの事情はわからない。

 

 というか、私は今推しからなにを聞かれているのだろうか?

 

 ……素直にわからないと謝ろう。

 

「そうですか。いえ、自分で考えてやってみます! あ、それはそれとして、また今度、料理を教えてください!」

 

 それくらいならいつでも大歓迎です。

 

 そんな感じで、おおむねセリカさんとの関係は良好と言えた。

 

 一方で、ツヴァイさん。

 

 なんやかんやと仲良くはなったのだが、ちょっと難敵だ。

 

 セリカさんよりも年下なのに、時折年上に見えてしまう。性格もしっかりしていて、こっそりとセリカさんと二人きりで過ごしているところを覗いていると、気付かれてしまいそうになることも多々あった。

 

 けれど、嫌われてはいないと思う。

 

 この前も、ちょっとした頼みごとをされたくらいだし。

 

「あの、ちょっとした発明品を作ってみたんですけど、よかったらそちらで試してもらえませんか?」

 

 受付カウンターで待機していた私に、そう持ち掛けてきたツヴァイさん。

 

 そういえば、前にセリカさんに聞いたことがあった。

 

 ツヴァイさんは発明が趣味で、よく木材やモンスターの角などを削って自作しているらしい。詳しい内容までは聞いていなかったが、その一環だろう。

 

 まあ、それくらいなら。

 

 自分の面の良さをわかっているのかいないのか、下から覗き込むような上目遣いで懇願されては断れない。

 

「本当に? よかった。これなんですけど」

 

 笑顔でツヴァイさんが差し出してきたもの。

 

 それは変わった形の布だった。

 

 形としては胸当てが近いだろうか。しかしなぜか女性の乳房の形にあわせて膨らんでいる。飾りのレースが編みこまれており、かなり気合の入った一品だということはわかった。

 

 これは一体?

 

「矯正下着です」

 

 下着!?

 

 いや、たしかにそう言われれば、そう見えなくもないけれど。

 

 でも下着を私に渡してくるとか、一体なにを考えてるいるのか。

 

 こういうのはセリカさんに渡しなさい。私は受け取れません。

 

「いや、そのセリカと一緒に作ったんですよ。で、他の誰かにも試してもらいたいなぁと」

 

 えっ? 推しの二人の合作?

 

 話が変わった来たな。

 

 ふむふむ。なるほどなるほど。私自身がつける必要はなく、知り合いに頼んでもらいたかったということですか。

 

 そういうことなら引き受けましょう。

 

「よろしくお願いします! あ、感想はセリカに伝えておいてください!」

 

 矯正下着とやらを渡して、帰っていくツヴァイさん。うきうきとスキップなんてして、よほど自信があるのだろう。感想はしっかり伝えておいた方がよさそうだ。

 

 その後ろ姿はちょっと子供っぽかった。いや子供なんだけれど。

 

 また推しの意外な一面を見てしまった。心の日記帳につけておこう。

 

 しかし矯正下着か。普通の下着となにが違うのだろうか?

 

 貴族やお金持ちがつけるような、飾りがふんだんにあしらわれた下着ではある。おそらく、このあたりの飾りはセリカさんが担当したのだろう。村では縫物をよくやっていたと言っていたから。

 

 ツヴァイさんの担当は、ああ、この胸の下部分についている硬い骨みたいなものか。布の下に隠れてはいるが、手触り的にはおそらくモンスターの角が素材だ。これを削って仕込んだのか。

 

 でもなんでわざわざモンスターの角なんかを?

 

 いや、下部分のこの位置にあるということは、もしかして下から胸を支える構造なのかもしれない。

 

 胸が大きいと肩がこるし、垂れてくる胸を支えることでそれを和らげる意図があるのかも。

 

 ……待てよ。

 

 もしかしてこれ、乳を垂れることを防げるのでは?

 

 胸の形を綺麗に保つ。形を矯正する。だから、矯正下着。

 

 ごくり。

 

 わ、私はもしかしたら、とんでもない発明品を預かってしまったのかもしれない。

 

 誰かに頼んで試してもらうのはいいが、その人が下手に周りに言いふらすと、まずい事態になるかもしれない。いやなるだろう。なるに違いない。

 

 ……し、仕方ないか。

 

 いそいそ。ごそごそ。

 

 ジャストフィットだった。

 

 これは素晴らしいものだ。

 

 

 

 

 

 そんな感じで推しに頼りにされつつ、推し二人の活動を見守る日々が続いた。

 

 その最中、色々な困難があった。

 

 モンスタースタンピードが街で起こりかけたり。

 セリカさんが治癒魔法を習得し、救護魔導院に通わなければならなくなったり。

 

 そんな風に推しのパーティーが解散しかかるような危機もあったけれど、二人は協力して乗り越えていった。

 

 その度に絆を深め、より強固な関係性へと発展していった。

 

 今や二人は冒険者ギルドでも知らぬ者のいないパーティーとなった。幼くも未だにクエストノーミス記録を続けているツヴァイさんと、プリースト見習いとして治癒魔法を使える唯一の冒険者のセリカさん。

 

 装備も初めてギルドを訪ねてきたときとは雲泥の差だ。

 

 ツヴァイさんは全身を金属鎧で固め、立派な盾を背負っている。背も少しのびて、誰が見ても冒険者だと思うに違いない。

 

 セリカさんは救護魔導院の白い制服を見にまとい、プリーストの証である白い帽子をかぶっている。

 

 春に新しくやってきた駆け出し冒険者にとっては、最も身近にいる成功者ということもあり、二人は羨望の眼差しを送られていた。

 

 特に男性冒険者からは熱い眼差しを向けられている。

 

 人気としてはやはりセリカさんの方が上か。週に一度だけだが、休養日にギルドに詰めて治癒魔法を施す仕事を引き受けてくれているのもあり、汚れなき白衣のプリーストとして急激にファンを増やしている。

 

 初めて冒険者ギルドを訪れたときの第一声からは想像もできない姿だ。実際に、そのときのことを口にするとセリカさんは頬を赤くして黙ってしまう。今のセリカさんしか知らない駆け出し冒険者としても、あの頃のセリカさんを見たらびっくりするに違いない。

 

 だが本質は変わっていない。

 

 清楚なプリースト?

 

 否、違う。彼女は冒険者だ。

 

 勇猛で、獰猛な、一人の男を手にいれんと燃える夢追い人なのである。

 

 セリカさんはツヴァイさんへの愛を誰にはばかることなく表に出していたし、ツヴァイさんはそんなセリカさんに困ったようにしながらも、内心では嬉しく思っているのがわかる。

 

 他の誰かでは見過ごししまうかもしれないが、ずっと二人を見続けてきた私にはわかるのだ。

 

「それでは、お二人のお帰りをお待ちしております。お気を付けて」

 

「はい、行ってきます!」

 

「行ってきます」

 

 今日も今日とて、仲良くクエストに向かっていく二人を受付カウンターでお辞儀をして見送る。

 

 そして二人の姿が見えなくなったあと、私はたまらず腕を組んで頷いた。

 

 

「――冒険王の二人は私が育てた」

 

 

 それを横で聞いていた同僚の受付嬢が、またかという顔を向けて来る。

 

「またレミが変なこと言ってるよ」

 

「これさえなければ、クールビューティーな美人さんなのにね」

 

「いや、ツヴァイくんやセリカちゃんに手を出そうとした冒険者に、解釈違い、ってブチギレながら殴りかかっていった時点でクールビューティーは無理あるわよ」

 

 は? 推しのカップルの間に割り込んでくる間男は殺すのが正解なんだが?

 

 冒険者というカップリングの宝庫を見守れる受付嬢という立場にいながら、みんなわかってなさすぎる。

 

 やれやれ。

 

「これだから素人は」

 

「よくわからないけど、なんかむかつく」

 

「また食堂を手伝わせましょう」

 

「講師役もぶち込んでおきましょうね」

 

 酷い。あんまりだ。休日は休日で推し活をしないといけないのに。

 

 お陰で実家のノームの宿屋に戻り、お父さんとカップル論争することもなかなかできていない。宿の客だけでは満足できず、冒険者ギルドに就職したけれど、あちらはあちらで一夜を共にする関係性がとても良いのに。

 

 ああ、もっともっと色々な人の、色々な関係性を見たい。

 誰に邪魔されることもなく、後ろで後方理解者面をしていたい。

 

 そう思いながら、今日も私は意地悪な先輩にいじめられつつも、推しの笑顔を心の支えにして、新しい冒険者を出迎えるのだった。 

 

「ようこそ冒険者ギルドへ」

 

 

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