分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね? 作:sasarax
どうやら俺に平穏な未来は訪れないらしい。
アインからの情報により、そう確信をもった俺は、改めて現状の確認とこれからやるべきことを考えることにした。
まずは現状。
現在の季節は夏。モンスタースタンピードからはすでに三か月が経過しており、俺は変わらずゼルクトの街で冒険者として過ごしている。
ランクはブロンズランク。
仲間のセリカが救護魔導院に通うことなったため、週に二回ほどしか彼女とは一緒にクエストへ行くことができず、基本はソロだったり他のパーティーに混じったりして冒険をしている。
一日の稼ぎは平均、銀貨二枚から三枚ほど。
街で暮らしていくには十分過ぎる金額であり、貯蓄もかなりできている。
そして俺の切り札である分身スキル。
現在、出せる分身数は変わらず二人。
うち一人はアインとして聖都でフィーネと一緒にいるので、実質分身として運用できるのは一人だけだ。
あと三か月ほどで十歳の誕生日を迎えるため、そうすればもう一体追加で分身体を出すことができるようになる。
戦闘力は街に来た当初に比べれば格段に上がった。
装備が整ったというのもあるのだが、どちらかというと習得した魔法の存在が大きい。分身の俺のとき限定ではあるが、自爆魔法を使うことができるようになった。小柄な子供である俺にとって、なくてはならない高威力の必殺技なのだが、アルフィリアさん曰く、あまり使い過ぎない方がいいとのことだった。
少なくとも、スタンピードのときのように短時間のうちに何回も死ぬような行為は慎んだ方がよさそうだ。あんなこと滅多に起こるとも思えないし、やはり自爆魔法自体が分身スキル同様に切り札としての運用になるだろう。
そんな俺が直面している問題が、分身スキルの真相だった。
真相というか異名だ。
分身スキルにはスキルとしての名前とは別に、【永遠の騎士団】という異名が与えられているという。
異名は強力かつ歴史的に見て有能なスキルに与えられる処置である。
基本的にスキル自体は内外問わず隠すことが求められるのだが、中には有能過ぎて有名になりすぎてしまったスキルも存在する。
そういったスキルは本来の名前ではなく、他者から見たときの印象が異名としてつけられる。分身スキルの【永遠の騎士団】呼びもそれであり、かつての使い手が騎士団のように分身たちを運用していたことから付けられたらしい。
かつての使い手の名を、ハルルカンという。
千年前に活躍した人類の始祖、勇者ハルルカンその人である。
勇者ハルルカンは六つのスキルを持っていた。それらのスキルは六聖と呼ばれ、すべてが異名をもって語り継がれている。
【魔を断つ剣】
【輝ける槍】
【不滅の鎧】
【時駆ける騎馬】
【絶対なる秘薬】
【永遠の騎士団】
いずれも単独で戦局を左右するほど強力無比なスキルであり、そのスキルを受け継ぐように発現した所有者は、勇者の後継として、国あるいは組織内で重要な存在として祭り上げられることになる。
つまり俺も分身スキルの存在がばれれば、そうなってしまうということだ。
そして件の勇者ハルルカンを崇める六聖教会という強大な組織の大幹部であるアルフィリアさんに、俺はこのスキルの存在がばれてしまっていた。
やけに彼女から執着されていると思ったが、これが理由だったようだ。
さらにアルフィリアさんは分身スキルを用いて、なにか策略を企てている。
それが正しきか悪しきかは不明だが、ここに来てある意味一番頼りになっていた相手と、敵対とまではいわないが、いずれ衝突する可能性が出てきてしまった。
その未来が来るまでの間に、俺はアルフィリアさんに対抗できるだけの力を手にいれなければならない。
無論、アルフィリアさんがどんな計画を企てているかは定かではないし、本人も悪人というわけではない。もしかしたら俺にとっても、喜ばしいことを考えている可能性もなくはない。
ただ、似たような立場にいるフィーネの存在もあるし、いざというときになにもできませんでした、という事態は避けたかった。
まあ、こういうのは考え方である。
お世話になりっぱなしのアルフィリアさんがいつか困ったとき、助けてあげられるように彼女と比類する力を得ておこう。そういう風に考えておけばいいのだ。
アルフィリアさんは六聖教会の六人の枢機卿でありパラディン。トップである教皇を除けば、限りなく最上位に近い立場だ。
彼女に対抗しようとなると、教会内で同じ地位に就くか、あるいは教会と真向から対抗できるような立場を築くしかないだろう。
六聖教会は世界中に根を張る巨大な組織だ。相対するには、それこそ国を持ち出さないといけない。国家において重要人物レベルの地位を築きあげれば、いくらアルフィリアさんでも自由にどうこうはできなくなるはずだ。
成り上がるしかない。
結論はそれで、じゃあそのためにはどうするかという話である。
まず冒険者だけをしているわけにはいかない。
冒険者としての生活は想像よりも遥かに上手くいっていたが、それでも冒険者というのは社会的地位の高くない職業なのだ。
稀に英雄こそ生まれるものの、多くは飲んだくれの荒くれものたちであり、社会の秩序に上手く馴染めなかったものたちの集まりだ。それは上位のゴールドランクになってもさほど変わらない。
金はあっても権威はない。
むしろ、権力からは最も遠い位置にあることを選んだ人間たち。
それが冒険者であった。
冒険者は冒険者で俺の性格にはあっていたのだが、成り上がっていくという意味では難しい。
冒険者からの成り上がりは、ランクを上げることで都市の兵にスカウトされ、そこから騎士に取り立てられるというのが王道のルートだ。
王国において騎士は準貴族と呼べる存在であり、何代にもわたって騎士を輩出し、功績を立てることで正式な貴族として名乗ることが許されるという。
つまり一代では、よほどの功績を立てないことには騎士止まりであり、それ以上の出世は望めない。
騎士として誰かに仕える生活は、かつてアロガンドさんが言ったようにしがらみの多い世界でもあり、それならば商人になって大金を稼いだ方がいいというアドバイスは今も俺の胸に残っている。
残っていたので、俺はひとまず大金を稼げる商人を目指すことにした。
世の中、金だ。金なのである。
お金さえあれば、権威はあとでついてくる。
金で爵位は買えないが、金で爵位のある貴族の関心は買えてしまうのである。
現に王国の今の宰相は、商人上がりの元平民という話だ。金の力で貴族の家に婿入りし、そこから出世を重ねていったという。
幸いにも、商人として登録するのに必要な市民権は、ブロンズランクの冒険者に上がったことで手にいれることができた。ツヴァイという冒険者が責任を負える範囲で、俺は自由に動けるのだ。
というわけで。
やってきました商業ギルド。ゼルクトの地で商売を始めるには、加入が義務付けられている組合だ。
「どうも。商業ギルドに登録をお願いします」
「かしこまりました」
いつかの焼きまわしのように、商業ギルドの受付嬢さんに登録を申し込む。
「はい。資格は問題ございませんね。隣の方が身元保証人でよろしかったでしょうか?」
いくつかの書類に記入する俺の横には、甲冑に身を包んだ冒険者の姿がある。受付嬢さんの言葉に頷くと、その冒険者は兜を外して銅の認識票を取り出した。
「あら?」
受付嬢さんはその冒険者と俺の顔を見て、口元に手を当てて驚いた。
「双子さんですか?」
「ええ」
俺は頷く。兜を外したその姿は、鏡に映ったかのように俺とそっくりだった。
分身だから当たり前なのだが、そんなことは言えないので双子という設定で行くことにした。現状すでに本体の俺と分身の俺とで別れて同じ街中で行動しているので、分身体を表に晒すことは仕方ないと割り切った。
「どうも。ブロンズランク冒険者のツヴァイ、兄です」
「で、俺が商業ギルドに登録する弟の」
書類にサインを記入して、提出しながら俺は名乗った。
「商人志望のドライです。よろしくお願いします」
商人生活の始まりである。
当たり前の話だが、登録したからといってすぐに商人として動けるわけではない。まず売るべき商品を用意しなければなにも始まらない。
商売の基本は安く仕入れをして、高く売ることだという。
だが今からそんな普通のことを始めても、どれだけ上手くいっても軌道に乗るのは五年十年先だろう。
そこまで時間をかけてはいられない。
なので商人になったからといって、俺がするべきは店を構えることではなく、店で売るべき新商品を開発し、そのアイデア自体を売る、あるいは委託してマージンを得ることになるだろう。
それこそ無理な話だって?
忘れてはいけない。
俺はたしかに分身スキル持ちで自爆魔法を使えるブロンズ冒険者だ。今となっては商人志望のドライを名乗っている。
だがその前に、俺は現代日本からの転生者なのである。
この際だ。
現代知識チートって奴をお見せしようじゃないか。
「くっくっく、発明王になってやるよ」
「なにを考えてるのかはわかるけど、本体。その笑い方は変な失敗をしてろくでもない死に方をする奴の笑い方だぜ?」
「なにを馬鹿な。俺のパク――リスペクトの精神を甘く見てもらっては困る」
湧き出るアイデアが止まらない。売れる。これは売れるぞ。
これだけは確信をもって言えるのだが、実際に売れる商品はいくらでも用意できるだろう。
問題は売り方をどうするかであり、もっと根本的な商人としてのルールになる。
自分で言うのもあれだが、俺はこの世界の社会情勢に疎いし、商人の世界のことなんてほとんど知らない。準備は入念にしなければならないだろう。
本格的に動き出すのは三か月後になるかな。
そうしたら、もう一体出せる分身の数が増える。いざというときの選択肢を増やせるからだ。
それまでは商品開発をメインにやって行こう。
売り込むにはアイデアだけじゃなくて、やっぱり現物も必要だろうしな。
あとは。
「セリカには説明しておかないとだよな」
「本来、冒険の片手間にやることじゃないし、話は通しておくのが筋だろうな」
大事な仲間には、ちゃんと話しておかないとならない。
比較的、俺の事情の多くを知るセリカだが、話を聞いて納得してくれるだろうか?
「ごめん! ツヴァイ! 遅くなったわ!」
夕刻。待ち合わせ場所で待っていると、セリカが慌てた様子でやってきた。
救護魔導院からそのままやってきたのだろう。白い学生服に、プリーストの証でもある白い帽子をかぶった姿だった。
聖職者としての勉強も必要なプリーストだからか、何度見ても清楚に見える格好である。セリカの赤い髪に、白い帽子もよく似合っていた。
こうして改めて見てみると、先日誕生日を迎えて十五歳になったセリカは、初めて会ったときよりもぐっと大人っぽくなった気がする。
「どうしたの? ツヴァイ。そんなに人の顔をマジマジと見て」
俺の眼差しに気づいたセリカが、ぽっと頬を赤らめる。
「あ、帽子がずれてたりする? まだあんまり綺麗に被るのに慣れてなくって」
「大丈夫。よく似合ってるよ。ただ、セリカも成長したなと思って」
「あたしよりも成長したツヴァイに言われてもね。残念ながら、身長とかはまったく変わってないわ」
「いや、雰囲気が大人っぽくなったよ。って、前にもこんな話したよな?」
「武器屋に一緒に行ったときね。なんだか、ずいぶんと昔みたいに感じるわ」
あの頃はまだ、俺たちは一緒の宿に泊まっていたけど仲間じゃなかった。
それから色々あって、今は別々に暮らしているが、俺たちは仲間になれた。
かけがえのない仲間に。
「それで、今日はどうしたの? 冒険でもない日に呼び出すなんて珍しいわよね? なにか大事な用事でもあるの?」
切り替えの早さに定評のあるセリカが質問してくる。
「大事な話ではある。さすがにここじゃあれだから、俺のアパートに来いよ」
「えっ? だ、大事な話って、もしかして二人の将来についてとか?」
「……まあ、間違ってはない」
セリカが口を両手でおさえ、耳まで真っ赤になる。
その瞳は期待にキラキラと輝いていた。
「悪いけど、そういう話ではないから」
「えー。ここまで期待させておいて、それは酷いんじゃないかしら?」
セリカが頬を膨らませる。
言い方が悪かったのは認めるが、なんでもかんでも色恋に結び付けないでくれ。
「簡単に言うと、これからの俺たちの冒険についてだ」
アパートに向かう道すがら、俺は簡単にセリカに説明した。
商売を始めようと思っていること。その準備をしていること。セリカとの冒険にも多少の影響が予想されること。
「そっか。ツヴァイ、あたしと一緒に暮らしてたときから、よく変わったものを開発してたものね」
「セリカも手伝ってくれたことがあったよな。あれも売り出す予定だから、セリカにもその分は分け前をちゃんと用意するよ」
「そんなのいいわよ。でもそっか、ツヴァイが商人ねぇ」
セリカは少しだけ寂しそうな顔をする。
「なんとなく、言いたいことがわかっちゃった。あたしとの冒険、あんまり行けなくなっちゃう?」
「いや、それはない」
俺はそこは明確に否定しておいた。
ちょうどアパートに到着したので、鍵を開けてセリカを中に招く。
セリカが勝手知ったる我が家という感じで先に入ると、玄関前でこちらを振り向いて言った。
「ツヴァイ。おかえりなさい」
相部屋生活をしていたときのあいさつ。まだ三か月しか経っていないのに、ずいぶんと懐かしく感じてしまった。
「ああ、ただいま」
それでも返事は自然と口から出た。それを聞いて、セリカは満足そうに笑った。
「適当に座ってくれ」
「うん」
セリカは頷いて、ベッドに腰かける。
俺はその正面の床に座ると、先程の続きを話し始めた。
「さっきも言ったけど、セリカとの冒険が減ることはない。それは約束する」
「でも商人として活動するんでしょ? 時間は大丈夫なの?」
「それは大丈夫だ。セリカには前に説明したけど、俺には分身スキルがあるから」
俺は忍者の構えを取り、必要な言葉を口にする。
「分身の術」
俺の隣にもう一人の俺が、同じように床に座った状態で現れた。
「見るたびに毎回思うけど、本当にそっくりね」
「そっくりというか、どっちも同じ俺だからな」
「そうだ。本体と分身体という違いはあるけど、本物と偽物という違いはないのが俺たちだ」
「なるほど、そういうことか。前からちょくちょくそういうときはあったけど、あたしとの冒険は分身のツヴァイが担当するのね」
「そういうことになる。日々のお金を稼ぐためにも、冒険者としての活動を減らすつもりはないよ」
「分身の俺がこっちを担当するのは、危険なことも多々ある冒険者としての活動だからだな。いざというときに自爆魔法を使える分身の俺の方が色々とやりやすい」
「自爆することを前提にしないで欲しいんだけど」
セリカは不満をこぼすが、モンスタースタンピード以降、三回も自爆する羽目になっている身としては、この割り振りは譲れなかった。
「俺たちがもっと成長して強くなれば、きっと自爆魔法に頼らなくても冒険ができるようになる。それまでの間は、お守り代わりにさせてくれ」
「……使った日の夜は、ちゃんと慰めてね」
「前向きに善処します」
今のところ発情二回、ネガティブモードでべそべそに泣くセリカを慰めるのが一回だった。後者なら全然かまわないのだが、前者は、その、困る。
「でも、本体と分身ね」
セリカは改めて俺と分身の俺を見比べる。
「どっちもツヴァイだっていうのはわかったわ。あたしとの冒険を蔑ろにしたくないっていうツヴァイの気持ちも。その上で、あたしはこう答えるわ。冒険王のリーダーはあなたなんだから、あなたの思うとおりにすればいいのよ」
セリカはいつかのようにそう言って、にっこりと微笑んだ。
「ありがとな」
「お礼はいいわよ。それに分身のツヴァイだからって、なにか問題があるわけじゃないんでしょ?」
「デメリットか。メリットはさっき言ったとおりだけど」
強いてあげるとすれば、分身の俺では子供を作るのが果てしなく難しいだろうと予想されることだが。
「ないよ」
これは言わないでおこう。
言ったらたぶん、セリカのことだから本体の俺がいいって言い出すだろうからな。
「ツヴァイの用件はそれだけかしら?」
「ああ。わざわざ来てくれてありがとな。ちゃんとことを始める前に、話しておきたかったから」
「その気持ちがなにより嬉しいわ。……と、ところで、せっかくだからちょっとお願いがあるんだけれど」
いい話で終わりそうだったのだが、セリカはベッドから立ち上がると、俺たちを見て頬を赤く染め、息を荒くし始めた。
「一度でいいから、あたしを真ん中にしてツヴァイを両手に侍らせてくれないかしら?」
「セリカは本当に頭がピンク色だよな」
「どうしようもねぇ女だぜ」
「あ、あ、あ、そ、それいい。両側から冷たく責められるのゾクゾクしちゃうわ」
無敵かな?
「ちょっと待って! う、嘘!? 今気づいちゃったんだけど?!」
セリカはかつてない衝撃を受けた顔で、自分の身体を守るようにかき抱く。
「もしかしてあたし、将来は二人がかりでそういうこととかされちゃうの? あ、でもたしか前にツヴァイ、年齢と共に出せる分身の数が増やせるって…………ツ、ツヴァイ様の鬼畜! また人を壊す気なのね! もう! もう! だ、大しゅき!」
セリカは仲間だ。もう二度と遠慮も配慮もしないでおこう。
涎をぬぐう彼女を前に、そっと分身を消した俺は、きっと悪くないと思う。