分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね? 作:sasarax
システィー先輩が俺のアパートを訪ねてきたのは、話を通してから数日後のことだった。
「へえ、ここがドラちゃんの家か。私の宿舎より狭いね」
開口一番、部屋の狭さにつっこんでくるシスティー先輩。
元々そんなに広い部屋じゃないのに加え、発明品をたくさん保管してるので狭いのはしょうがないだろ。
興味深そうに先輩は俺の部屋と転がっている発明品を眺めていた。
その間に洗濯板を用意する。
「システィー先輩。これが領主様に献上する予定の洗濯板だ。確認してくれ」
「これが?」
「ああ。洗濯物をこすりつけて使うんだ。手揉みや足で踏んでやる従来の方法より、しつこい汚れが簡単に取れるから、きっと主婦の人たちが買ってくれると思う」
「こんな板切れがねえ。本当にそんな上手くいくの?」
「そういうと思って、洗濯物を用意してあるから実際に使ってるところを見せるよ」
「待って」
先輩は持ち込んだ荷物を広げ、中から洗濯物を取り出した。
「ドラちゃんが用意したやつが事前に細工されてるかもだし、ここは私が持ってきた洗濯物を使ってね」
「いいけど」
一抱えはある洗濯物。量的に自分でやるのが面倒だったのを押し付けただけだろこれ。
ていうか。
「下着も?」
「下着も。あ、もしかして気になっちゃう?」
パンツを手に持つ俺を見て、システィー先輩がにやぁと口の端を歪める。
「そうだよねぇ。ドラちゃんも年頃の男の子だし、女の子の下着は気になっちゃうよねぇ。恥ずかしいなら、下着だけは特別に勘弁してあげてもいいけどぉ?」
「いや別に」
むんずと下着をつかんで、洗濯板にこすりつける。
下着は他の服よりも素材が柔いので、洗うときは揉み洗いか、洗濯板を使うにしても優しくしてあげる必要があるのだ。この力加減は、一朝一夕では難しいだろうな。俺じゃなきゃ完璧には洗えないね。
「……なんかドラちゃん、女の子の下着を洗うの手慣れてない?」
「残念ながら、超慣れてる」
初期セリカに散々やらされたからな。
あと俺的にこの世界の下着は布面積が少ないし、リボンや刺繍などの飾りもないので、水着みたいにしか思えないのだ。率直にいって色気がない。身に着けてるのがシスティー先輩なのも合わされば、こんな布切れに興奮なんてまったくしない。
「なんかむかつく。もっと照れて可愛い反応すると思ったのにぃ。あ、もしかしてお兄さんだけじゃなくて、お姉さんもいたりするの?」
「いないけど、セリカ……あー、兄の仲間が偶に泊まったりするから」
「女の人がってこと? えっ? もしかして、恋人……とか?」
「う~ん」
セリカとの関係性はなんて言ったらいいんだろうね?
仲間ではある。将来を誓い合った間柄といっても間違いではない。けど恋人かと言われると、なんか微妙にノイズがある。
「……友達以上恋人未満、みたいな感じかな?」
「ふ、ふ~ん。ど、ドラちゃんも隅に置けないんだね」
「なんか先輩動揺してない?」
「はぁ? してないけど? ドラちゃんに恋人がいたとしても、私にはなんの関係もないんだけど!?」
「そんな大声出さなくても。変なこといって悪かったって。あとちゃんと汚れが落ちるところ見ててくれ」
「その下着、新品だから汚れなんてないけどね」
「なんで渡したし」
「ドラちゃんをからかうため!」
そのためだけに買ってきたのか。無駄にも程があるだろ。
俺は下着を横に置いて、他の服に手を付ける。
運動着らしき服はちゃんと土で汚れており、洗い甲斐がありそうだった。
それを洗っているところを見せると、むくれていたシスティー先輩も感心した様子を見せる。
「本当だ。けっこう取れるじゃん。これなら伯爵様に紹介しても問題ないかも」
「だろ?」
「ドラちゃん、こういうの作る才能があったんだね」
素直に褒めてくれるが、やはり得意気にはなれない。真似したものだからな。
それでも遠慮はしない。使える知識は使っていかないと、成り上がるなんて夢のまた夢だ。
「ねえねえ、ドラちゃんってこの部屋でお兄さんと二人で暮らしてるの?」
洗濯板の性能に満足したあと、システィー先輩は勝手に俺のベッドに寝転んで、世間話を振って来た。
「そうだけど」
「ふ~ん。ベッドがひとつしかないけど、一緒に寝てるんだ。仲いいんだね」
「仲はいい、のか?」
この前、セリカの対応を巡って散々喧嘩したけれど。
自分と自分で喧嘩するって、よく考えたらなにをやってるんだろうね俺は。
「こんなこと聞くのは失礼かもだけど、もしかしてドラちゃんって両親がいなかったりする?」
「ん? ああ、父親は最初からいなくて、母親は俺が生まれてすぐに亡くなってる」
「そっか。じゃあ、本当に兄弟二人で今日まで生きてきたんだね」
「そういうことになるかな」
「そっか。そっかぁ」
意味深につぶやくシスティー先輩。そのままベッドの上で何度か寝返りを打ったあと、起き上がって耳元に顔を寄せてきた。
「ドラちゃんにだけ教えてあげるね。実は私も妹がいるんだ」
「妹?」
「うん、私はお姉様なの。親がいなくて、ずっと姉妹だけで生きてきたのも一緒だよ。まあ、私の方がドラちゃんよりもずっとずっと大変だったけどね!」
俺も俺でけっこう大変な半生だったが、先輩もこれで苦労してきたらしい。
「ドラちゃん。お兄さんのこと大事にしなよ。たった二人だけの兄弟なんだから」
今までに見たことがないくらい真剣な、それでいて慈愛すらうかがわせる表情でシスティー先輩は忠告してくる。彼女にとって、たった一人の妹はそれだけ大切な存在なのだろう。
なんとなく気まずい。俺の場合は、本当に双子ってわけじゃないからな。
でもある意味ではそれ以上に大事な存在ではあるので、首を縦に振っておいた。
「よろしい。それじゃあ、そんな二人のために私もひと肌脱いであげる!」
ぴょんとベッドから飛び降りたシスティー先輩は、綺麗になった洗濯物を広げる俺に向かってウインクをひとつ。
「伯爵様に紹介してあげるから、いい感じのあいさつを考えておいてね!」
そんな約束から三日後、俺はゼルクト伯爵に謁見することが許された。
カインズさんに選んでもらったできるだけいい服を身に着け、彼と一緒にゼルクト伯爵邸を訪ねる。
まさかこんなにも早くアポイントが取れるとは。
礼儀作法はひととおり教えてもらったが、正直付け焼刃だ。この世界は普通に無礼討ちとかがあるので、気を付けないといけない。
「大丈夫ですよ、ドライさん。ゼルクト伯爵は名誉を重んじる方ですが、平民が多少のマナー違反を犯しても咎めたりする狭量な人ではないようです」
「だといいんですけど」
応接間に通されたあと、俺が前に出る形で跪く。
経験値でいえばカインズさんに任せる方がいいんだろうけど、あくまでも彼は手伝いであり、商売を始めるのは俺だ。今後のことも考えれば、俺が直接領主様とやり取りした方がいいという判断だった。
いざというときのフォローは任せてあるので、緊張はしても尻ごみはしなかった。
そのまま待つこと数分。扉が勢いよく開いたかと思うと、ダンダンダンと力強い足音が近づいてきた。
ゼルクト伯爵であろう足音は、俺たちのすぐ目の前、用意してあった椅子の前で止まった。
「頭をあげよ」
凛とした声で許可が下りる。
カインズさんがゆっくりとした仕草で頭を上げるのを視界の端にとらえ、俺も彼に倣って頭を上げた。
完全に頭を上げることなく、軽く目礼しているような形でゼルクト伯爵と対面する。
椅子に堂々と足を組んで腰かけていたのは、二十代後半の女傑というにふさわしい装いの女性であった。
ドレス姿ではなく、男性貴族が身に着けるような服装で、腰には剣を佩いている。ゆるやかなウェーブのかかった琥珀色の髪を軽く流し、鋭い目で俺たちを見下ろしていた。
「直答を許す」
「はっ! お初にお目にかかります、伯爵閣下。私はドライ、こちらはカインズ。しがない商人でございます」
はきはきとした口調であいさつを述べ、頭をもう一度下げる。
「伯爵閣下におかれましてはご機嫌麗しく――」
「ああ、前置きはよい。商売の話だろう」
気が短いタチなのか、それとも忙しい合間を縫って時間を用意してくれたのか、ゼルクト伯爵は本題を急かしてくる。
「先んじて献上された洗濯板なる品は見させてもらった。なかなかよい代物だ。あれは売れるだろう。が、領内で流通させる許可が欲しいというだけなら、わざわざ私との面会など必要とすまい。なにが望みだ?」
「ご慧眼にございます。私共としましては、是非とも伯爵閣下と共にこちらの商品を売り出したいと考えております」
「我が家と共に?」
「はい。こちらの商品は、御覧になられてお分かりかと思いますが、模倣することが容易なものとなっております。そのため利益を得ようと考えるなら、現物を多く用意し、この街のみならず多くの場所で一気に売りだすことが肝要と考えております」
「たしかにな」
「ですが、我々にそのような伝手も販路もございません。どなたかの御力添えがなければ、細々と売ってお終いとなるでしょう」
「それで我が家を頼りたいと。たしかに我が領地は木材が豊富であるし、それらを加工して売ることで財を得ている。その販路を使えば、この商品を一気に売り出すことは可能だろうな」
「まさに。我々としても、伯爵閣下が売り出すと同時に販売を開始したいと考えております。そのことを許可いただければ幸いです」
「ほう?」
そこでゼルクト伯爵は、こちらがこの商品の利益を手放そうとしていることを察したようだった。本当の意味で、これは伯爵家への献上品なのだと。
「なるほどな。そういう魂胆だったか。にしては、なかなかの代物を用意してくれたものだな」
ゼルクト伯爵は気づいた上で興味深そうに話を聞いてくれていた。
カインズさんの言うとおり、お金になるものを欲しているという情報は正しかったらしい。
「しかし領内の商会ではなく、わざわざ我が家を頼った理由はなんだ?」
「それはこちらの商品のみならず、他にも多くの画期的な商品を用意しているからにほかなりません。洗濯板だけならばともかく、他にも金になるものがあると知れば、商会が利益を独占しようと動く可能性がありますので」
「そこまで言い切るとはな。少しその商品とやらに興味が湧いたぞ」
「いくつか試作品をお持ちしております。御覧になられますか?」
「許可しよう」
「それでは御覧ください。説明させていただきます」
カインズさんが俺の発明品を一個ずつ取り出してくれるので、それにあわせて伯爵に説明していく。
伯爵は時折横の側近と話をしつつ、商品を矯めつ眇めつ観察する。その眼差しは鋭く、商品を通して俺たちの思惑を推しはかろうとしているかのようだった。
「たしかに、これらの商品があれば、洗濯板を手放しても大きな財を得られような。ドライと申したか。こちらは貴様が発明したものか?」
「はい、すべて私の発明品となります」
「にわかには信じがたいが……本当なのだな?」
「始祖ハルルカンに誓って」
「そうか。つまり、貴様は他の商会に利益と自身の身柄を奪われないように、我が家に後ろ盾になって欲しいのだな?」
「伏してお願い申し上げます」
深々と頭を下げる。
伯爵は少し考えこんだあと、側近に声をかけた。
「どう思う?」
「よろしいのではないかと。調整がちと面倒ですが、断ってあの商品を他の商会に持ち込まれては、金銭以上の問題も生じましょう。領内の商会にこれ以上の力をつけられては困るというものです」
「我が家の財政も今は破綻寸前だしな」
「……閣下」
「隠しても仕方があるまい。この先、一緒に商売をしようというのなら尚更だ」
ひざ掛けにもたれかかるようなリラックスした姿勢に変えると、伯爵は声を弾ませる。
「珍しくレビュテッドが人を紹介してきたと思ったら、ずいぶんと面白い商談を持ちかけられたものだ。足元を見られたようで多少気に食わんところもあるが、我が家にとっても美味しい話ではある」
俺はなにも言わずに頭を下げ続ける。
伯爵はふふふと小さく笑い声をあげると、
「子供とは思えぬ堂々たる振舞いよな。いいだろう、ドライよ。我がフォン・ゼルクト伯爵家が後ろ盾になってやる。今後商品を売り出す際、必要ならば力も人も貸してやろう。その分、見返りはもらっていくがな」
「感謝申し上げます」
「ただし、ひとつだけ条件を出させてもらおうか」
「条件、ですか?」
内心で喜んだのも束の間、条件を突きつけられてしまった。
「洗濯板の件だがな。売り出すためには量産しなければならないが、材料となる木材が足らん。それの調達を任せたい。可能であれば、現物で納品してもらえるとなお助かるな」
「伯爵閣下。ご質問よろしいでしょうか?」
これまで黙っていたカインズさんが話に割り込んでくる。
「なんだ? 申してみよ」
「はっ! ゼルクト伯爵家には多くの木材が保管されていると聞き及んでおります。そちらを供出してもらうことは不可能なのでしょうか?」
「ああ。まだ内々の話だがな、ログレスの森に前線基地を作る計画がある。先のスタンピードで、改めて絶滅領域を警戒せねばと思い知らされてな。保管している木材はそちらに使われる予定だ」
「閣下!」
「黙っているわけにもいかぬだろう」
側近が声を荒げるが、伯爵は無視して笑ってみせた。
「そういうわけで、木材をそちら側で用意してもらいたい。我が家が動くと、領内の商会に洗濯板の存在を嗅ぎつきられかねんからな」
「期限はございますか?」
「そうだな」
俺の問いに、伯爵はしばし考え込んだあと。
「ひと月としよう。無論、できなかったからといって罰するつもりはない。そこは安心せよ。ただし、その場合は後ろ盾になる話は少し考えさせてもらおうか」
「かしこまりました。量はいかがいたしましょう?」
「洗濯板が五百は作れる量が欲しいな。それだけあれば、あとは我が家で生産と流通を請け負おう。可能か?」
そう言われてしまったら、こちらとしてはこう答えるしかない。
「可能です。必ずや、吉報をお届けいたしましょう」
「最後まで不敵な小僧よ」
伯爵は満足そうに頷いて立ち上がった。
「結果はレビュテッドを通して伝えよ。ではな、ドライよ。期待しているぞ」
次の用事があるのか、伯爵は忙しなく部屋を出ていった。
それを見送ったあと、側近の人から担当を選ぶから数日欲しいと伝えられる。それを承諾し、俺とカインズさんは伯爵家をあとにした。
敷地内から出たところで、深々と息を吐きだす。
「緊張しましたけど、思いのほか上手くいきましたね」
「ええ、噂どおりの御方でした。それに、ドライさんも立派な話しぶりでしたよ」
「ありがとうございます。先輩にちゃんとプレゼンするように言われてましたしね」
変なことを領主様に口走ったら、あとでシスティー先輩にどやされていたに違いない。そういう意味でも、無事に終わってほっとした。
ただ、問題もある。
「木材はこちらで用意しておくように言われてしまいましたね」
「そこは困りましたね」
カインズさんが目を細めて、謁見中はかぶっていなかった帽子を取り出す。
「まだ他の商会への根回しは済んでいないので、大量に木材を発注するのは難しいでしょう。そもそも、この街では木材はほとんど用途が決められています。例外は伯爵家が保管していたものだったのですが」
その伯爵から直々に余裕がないと言われてしまった。
「洗濯板五百枚分か。かなりの量ですね」
「いえ、微々たる量ですよ。この街の需要分すら満たしていませんから」
「えっ? じゃあ、逆にそれだけ用意しても意味ないんじゃあ」
「おそらくは交渉用に見本がいくらか欲しいのでしょう。実際に売り出すときは何千、いえ、一万近く生産するのではないでしょうか?」
「いちまっ」
そんなに!?
いやでも、ゼルクトの街でも千単位で家があるわけで、他の街でも売り出そうと思うならそれくらいは必要なのか。
初動でそれだけの数を用意するには、いくつかの商会、あるいは貴族に声をかける必要があるだろう。それ自体はゼルクト伯爵がやると言っていたから、なるほど、カインズさんのいうとおり、俺たちが命じられたのはわずかな見本の確保というわけだ。
「もしかしてこれって、後ろ盾になるのにふさわしいかのテストみたいなものだったりします?」
「お、よく気づきましたね。ゼルクト伯爵はああ言っていましたが、お金になるとわかっているものの材料調達に資金投資を惜しむはずがありません。ドライさん。これは純粋に、あなたの力量を見たいがためだけに出された課題ですよ」
「そして俺は、それに気づかずにやってみせると宣言してしまったと」
あのときカインズさんが口を挟んできたのは、これに気付かせようとしたからか。抜かったな。もうちょっと考えて発言するべきだった。
「ゼルクト伯爵には後ろ盾になってもいいと言ってもらえただけですからね。本当になってくれるのか、なってくれたとしてどれだけ大事にされるかは、ここからのドライさんの行動次第で変わってきます。なので、ゼルクト伯爵の期待を裏切らないようにがんばらないといけませんよ」
「はい、責任をとってがんばります」
交渉ひとつとっても、色々と考えないといけないんだな。
勉強になりました。
「木材の調達。可能なら、現物への加工もか。街の商会を頼れないとなると、どこかの村に足を運んで発注するしかないかな」
「そちらは私も把握してないのですが、村なら木材を保管しているのですか?」
「おそらくは」
このあたりは木々が豊富なので、大体の村が林業に手を出している。俺が暮らしていたコルニ村でも、開拓ついでに木々を伐採して木材に変えていた。村で乾かしてから細かい建材などにし、ゼルクトの街に運んでいたはずだ。
村長がぼやいていたので覚えているのだが、量も質も曖昧のため、どこかと専属契約しているわけではなく、都度売り先を探していたようだった。小さすぎて建材にできず、売れずに村で薪代わりにしていた木材も多くあったはずだ。
他の村も一緒なら、ある程度は溜め込んでいても不思議ではない。
「洗濯板なら小さな端材でも作れますしね。聞いてみるのは無駄ではないかと」
「では手分けして交渉してみますか。ああでも、ドライさんは領主様からの使いがくるかもしれませんので、街で待機していないといけませんね」
「じゃあ、知り合いの冒険者に声をかけてみます。結構近くの村から冒険者になりに来たって人が多いので、木材の備蓄状況くらいはわかるかと」
「そちらもお願いしたいですが、今後のことを考えると、ここは先に人手を集めるべきでは? 誰かに頼んで洗濯板を作ってもらうにしても、見本の数はそれなりに必要ですし、正直手が足りていません」
「人手って、給料を払って誰かを雇うんですか? それとも冒険者にクエストを出すとか?」
「どちらもあまりオススメできませんね。情報をもらさないとは言い切れませんから。領主様に話を通してしまった以上、私たちの側から情報をもらすわけには絶対にいきません。一応言っておきますが、私がドライさんに協力しているのは個人的な意思なので、こちらでも信用できる人手は用意できませんよ?」
「信用できる人手か……」
俺が思いつくのはほんの数人。セリカやドミニクさんたち銀の盾くらいだ。
セリカは頼めば快く協力してくれるだろうが、シルバーランク冒険者の銀の盾を雇おうとなると恐ろしい金額が必要となる。
他には同期の冒険者パーティー、伝説英雄組のロランとかにも頼めそうだけど、リーダーである彼はともかく、他のパーティーメンバーが口を滑らせそうなんだよな。
「……すみません。頼れそうな相手はほとんどいなさそうです」
「となると、あれですかね」
「あれ?」
「はい。ある意味では最も信用できる人材雇用方法です」
カインズさんは何食わぬ顔で、その方法を教えてくれた。
「奴隷を買いましょうか」
ああ、この人は本当にアルフィリアさんから俺の情報をもらってないんだな――そう確信させるには、それは十分すぎる提案であった。