分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね? 作:sasarax
《別視点》
宿舎の部屋に戻ったところで、今まで堪えていたものを吐き出した。
何度も何度も、胃がひっくり返るくらいに吐き出しても、込み上げてくる吐き気はしばらくおさまらなかった。
ようやくリリエッタと再会できたというのに、胸には喜びよりも苦しさの方が大きかった。
まさかドラちゃんとリリエッタに血のつながりがあったなんて……。
それが意味するのはツヴァイとも血のつながりがあったということであり、自分が最愛の妹から大切な人になったかも知れない人を奪ってしまったという事実だった。
取り返しのつかない失敗。
その言葉が何度も頭の中で繰り返される。
なんで自分はあのときツヴァイのことを見捨てて逃げてしまったのか?
あのときにはすでに、リリエッタはドラちゃんのところにいたというのに。
そのことをもっと早く知っていれば。
伯爵様が護衛として私を連れまわしたりしなければ。
ううん、それよりもなにより。
あの日、奴隷商館で、私が勘違いしてドラちゃんに酷いことを吐かなければ、きっとこんなことにはならなかったのに……!
「ごめんなさい。ごめんなさい、ドラちゃん。ごめんなさい、リリエッタ」
後悔は尽きることなく。
本人に伝えることのできない罪悪感を、私は一人吐き出すことでしかできなかった。
汲んであった水で顔を洗い、最低限の体裁を整える。
少しは自分の顔を確認する癖をつけるがいいと、伯爵家にやって来た最初の頃に伯爵様からもらった手鏡を覗き込めば、目をはらしたブサイクな顔がそこにあった。
喜びの涙によるもの。そう言い切れればどれだけいいか。
ただでさえ最近は満足に眠れていなくて隈ができかかっていたというのに、今は憔悴が顔に出ていた。
この家でも私のことをよく思っていない奴らに、また陰口を叩かれるんだろうな。
正面からいう勇気のない弱虫の言葉なんて、いつもなら気にならないけど、今日は簡単に感情を爆発させてしまいそうだ。
私の悪癖。血が上りやすく、理性を失いやすい。
幼い頃からそうだった。
物心ついたとき、私は娼館の奴隷として下働きをさせられていた。
親はいなかった。娼館の楼主に教えてもらった話では、母親も娼婦だったらしく、父親は客の誰かということ以外わかっておらず、その母親も客に身請けされていなくなってしまったらしい。
要は捨てられたのだ。
他の娼婦たちに持ち回りで育てられていたが、彼女たちは私に優しくはしてくれなかった。楼主に命じられているからお世話はしてくれるが、似たような境遇の子供にしているように、抱き上げてあやしたりはしてくれなかった。
どうやら私に触れると静電気が起きるので、それで嫌だったらしい。今となってそれがスキルの影響だとわかるが、当時の私はそんなこと知る由もなかった。人のぬくもりを求めて手を伸ばし、その手を嫌な顔で避けられる、そんな毎日が幼い私の日常だった。
唯一まともに相手をしてくれる楼主といえば、将来はしっかりと稼ぐんだよといい、勉強だと娼婦が客の相手をしているところをこっそりと見せてくる始末。
行為の意味自体はよくわからなかったけど、その光景は今も目に焼き付いている。
股を開けと命令する客。大人しくそれを受け入れる娼婦。
気持ちが悪かった。
嫌がってるのを察しているだろうに、乱暴にする客も。
嫌がっているのを隠せていないのに、媚びた笑みを浮かべる女も。
私には気持ちが悪くてしょうがなかった。
こんな風にはなりたくない。それが私の抱いた感情であり、自分の力では逃れられない未来だった。
そんな日々が続けば、心が荒むのは当然だろう。
見るものすべてが憎かった。なにもかもを壊してやりたかった。
実際に癇癪を起こして暴れては、殴られて躾けられる日々だった。楼主もいつしか愛想をつかしたのか、娼婦にするのではなく奴隷として売り飛ばす算段を始めていたと思う。
そうならなかったのは、私を生んだ母親が娼館に戻ってきたからだった。
そう、あいつは戻って来た。その手にリリエッタを抱きかかえて。
初めて血のつながった母親を見た感想は、奴隷がいる、だった。
目の前にいるのは、これまでよく見てきた奴隷の女でしかなかった。未来に希望を持てず、現在を生き抜くすべを知らず、過去に縛られた、そういう自分ではなにも選択できない人間。
身請けされ、奴隷身分から解放されてなお、自立することができないでいる。
それでも、一丁前に子供を捨てたことに良心の呵責は抱えていたらしい。
彼女はリリエッタにそうするように、私の頭を撫でようとした。そして頭に触れる直前で、静電気に顔をしかめて手を引っ込める。
それを見て、私が思ったのはひとつだけ。ああ、この人は私を生んだのに、この体質のことすら知らないんだな。
それ以降は興味を失った。そもそも自分の母親として認識できなかった。
血のつながった他人。そう呼ぶのがふさわしい。
私の無感動な瞳を見て、彼女も私と親子になるのを諦めたようだった。
私と母の関係はそれで終わった。
終わらなかったのは、妹のリリエッタの方だった。
お姉様。お姉様。と、無邪気に彼女は笑いかけてくる。
どれだけにしても、次に見かけたときには、ほにゃりとした笑顔を浮かべ、ふわふわとした私と同じ色の髪を揺らして駆け寄ってくるのだ。
無知であるがゆえの、無条件の好意。
私に触れれば静電気が走って痛いはずなのに、それすら疑問のうちに忘れ去り、彼女は私にすり寄ってはなにくれとなく話しかけてきた。
お母様が。おばさまが。ああ、心底どうでもいい話。
私は母親に守られているあなたと違って仕事があるのだ。洗濯をしないといけない。掃除をしないといけない。忙しいのだ。
まとわりついてこないで。懐いてこないで。うっとうしい。腹立たしい。
……もういい。勝手にすればいい。
根負けしたわけじゃない。ただ、追い払う労力すらかけたくないだけだ。
お姉様。お姉様。そう呼ぶ彼女に絆されたわけじゃない。
私には、家族なんていないのだ。
その証明に……あの女は最後の最後まで、私を抱きしめてはくれなかった。
死にたくない。そいつはそう言って、息を引き取った。
わんわん、と泣きわめくリリエッタを横目に、私は思う。
結局、最後の最後まで自分の名前は彼女の口から出ることはなかった。こうして同じ部屋にいたのに、視界には入っていたはずなのに、どうしようもなくあの女にとって自分は血のつながった他人でしかなかった。
別にいい。わかっていたことだ。
病床の彼女を世話していたのだって、他の誰も病気が移るからとやりたがらなかったから、無理やりやらされていただけのこと。
奴隷商に私が今の今まで売り飛ばされなかったのは、目の前で亡くなったこいつがその分働いていたからだと知っていたから、その分くらいは最後に世話をしてやろうと思っただけだ。
「リリエッタ。それ、埋葬するから」
「いや! いやいや! お母様は死んでないもん! 死にたくないって言ってたもん!」
死体に縋り付いて、リリエッタが泣きわめく。
見ればわかるでしょ。死んでるよ。もう動かないししゃべらない。
「……そのままだと、病気が移る。あなたも死ぬよ?」
「いい! お母様と一緒にわたしも死ぬもん!」
「そう」
勝手にすればいい。今にそんなこと言えなくなる。
私と彼女の未来は、この女が死んだ時点で決まっている。
部屋を出れば、そこには静かすぎる廊下があった。
街でも評判の娼館は見る影もなく、香水の甘ったるい匂いで満ちていた女の世界は、今や拭いようのない死臭が立ち込めていた。
流行り病。罹っていないのは、子供の私たちくらいのもの。
楼主だけはその財産を使ってなんとか回復まで持って行けたようだが、それを他の娼婦や奴隷たちに望むことはできない。
ここは終わりだ。みんな、遅かれ早かれ死に至る。
数日後――予想通りに、私とリリエッタは奴隷商に売られることになった。
奴隷商での暮らしもこれまでと似たようなものだった。
お腹が空いた。それを訴えれば、うるさいと殴られ蹴られる。かといって大人しくしていても、気分が悪いと暴力を振るわれる。
合法の奴隷商ではなく、人さらいなどによって奴隷を確保していたような場所だった。奴隷の扱いは他に比べても悪く、似たような境遇の子供たちも、最初は泣いていたのにいつしか感情を表に出さなくなった。まるで人形のようで、それがどうしようもなく私には気持ち悪かった。
リリエッタも同じだった。
あの日のような笑顔はいつしか消えてなくなり、感情を表に出さなくなってしまった。
静かになった。いつか私が望んだように。
静寂は、しかし私の心を安らかにはしてくれなかった。
むしろ逆。彼女のその姿にも、腹が立ってしょうがなかった。
……気が付いていた。本当は、もっと前からわかっていたのだ。
私に無邪気に話しかけてくれたのは、笑いかけてくれたのは、抱きしめてくれたのは、リリエッタだけだった。人のぬくもりを、触れた手の感触を、私に教えてくれたのは彼女だけだったのだ。
それがどれだけ嬉しいことだったのか、失ってから私は気づかされた。
そう、いつだって私は失ってから気付くのだ。
後悔を胸に抱きつつ、人形になってしまった彼女を――たった一人の妹を、私は初めて自分から抱きしめた。
大丈夫だよ。お姉様がついてるから。
あの女の真似をして、笑いかけ、頭を撫でる。
そうするとリリエッタはほんの少しだけ、あの日のような笑顔を見せてくれた。
まだ消えていない。全部は失っていない。
この子は私が守る。
これまで彼女がそうしてくれた分まで、この手のぬくもりを守ってみせる。
私は姉だ。リリエッタのお姉様。
そうあろうと、私はなんでもないその日に誓ったのだった。
奴隷商での日々はそこから二年近く続いた。
奴隷として誰かに買われるのなら、リリエッタも一緒がいい。ううん、そうでなければ許容できない。
逆にいえば、それさえ飲み込んでくれるなら誰であっても良かった。リリエッタの代わりになんでもやる覚悟もあった。リリエッタの身の安全と幸せさえ守ってくれるなら、どんなことだって。
でも私たちを一緒に買おうとする人はいなかった。引き離そうとする奴ばかりで、私はいつだってその手に噛みついた。
そうこうしているうちに、私たちは売れ残って。
奴隷商たちも、もっと育ってから売るしかないかと諦めかけていたそのとき。
なんの運命か、私がスキルを持っていることが明らかになってしまった。
自分でも気が付いていなかった。
いつだって、私の中や周囲でバチバチと音を立てながら駆け巡っているもの。雷と呼べるそれを、私は他のみんなも感知できていると思い込んでいた。
リリエッタ以外とはまともにコミュニケーションが成立しなかったのが悪かったのだろう。普通なら育つ過程で気づくはずの自分の異常を、私は九歳になるまで気が付くことができなかったのだ。
しかし、見つけてしまった。見つかってしまった。
スキル持ちは高く売れる。私を見る奴隷商たちの眼が変わった。
殴られることがなくなって、蹴られることもなくなって、与えられるご飯も前よりも多くなった。
それを気味悪く思いながら、私は増えたご飯をリリエッタにあげた。彼女は手掴みで美味しそうに食べる。私がそうであるように、彼女もいつのまにか母親の拙い躾の言葉を、普通の人間として過ごしていた頃を忘れてしまったらしい。
私はその頭を優しく撫でてあげた。リリエッタは私が撫でれば撫でるほどぴょんぴょんと跳ねていく自分の髪を見て、くすぐったそうに笑った。私が最後に見た、大好きな彼女の笑顔だった。
どうやら食べ物に薬が盛られていたらしい。
夜中、抗えない眠気の中で、私はリリエッタから引き離された。
どこかのオークションに出されることに決まったらしい。私を運ぶ奴隷商たちが、いやらしい顔でそう話していた。
食べ物をリリエッタに分けたためだろう。完全には眠りに落ちなかった私はその途中で覚醒し、散々に暴れまわった。手あたり次第に殴り、蹴り、噛みつく。
リリエッタと一緒がいい。リリエッタと一緒じゃないと嫌だ。
戻して。返して。私から、これ以上なにも奪わないで!
そんなことを叫んでいたと思う。
しかしやせ細った奴隷と大人では力の差は明らかで、結局、私はリリエッタから引き離されてしまった。薬入りの食べ物を分けてしまったことで、深い眠りの中にあった妹とは、別れの言葉すら交わせなかった。
そのあとは、身体を無理やり身綺麗にされ、競りに出された。
見たことのない綺麗な服を着た人たちの前に、手枷と足枷、そして猿轡をつけられた状態で差し出され、商品として値段をつけられる。
最悪の気分だった。私はそこに在るすべてに怒りながら、自分が買われるまで、ただひたすらに世界のすべてをにらみつづけていた。
私を購入したのは風変りな貴族だった。
代替わりしたばかりの、グランマリア・フォン・ゼルクト伯爵。
彼女は一目惚れしたのだと宣い、私をさっさと奴隷身分から解放すると、自分の騎士にすると宣言した。周囲からは当然反対されていたけれど、彼女はそれらを封殺して実行に移した。
当たり前のことだが、私は彼女に従ったりはしなかった。むしろ逆、リリエッタから引き離された怒りと憎しみを、私は彼女にぶつけた。
そんなことをすれば、彼女の周りにいる人間には怒られる。無礼だと殴られることもあった。
ここでも結局は同じ。いや、リリエッタがいない以上、奴隷だった頃よりも最悪の環境だ。
しかしゼルクト伯爵だけは私に真摯でいてくれた。
優しかったわけではない。噛みついたときに殴り飛ばす回数は彼女が一番多かったし、暴言を吐けば怒りをあらわにしてげんこつを落とされた。
けれど一緒にご飯を食べようと隣の席に座ってきたり、一緒にお風呂に入ろうと誘って洗ってくれたり、鍛錬という名の殴り合いに付き合ってくれたのは彼女だけだった。今思えば伯爵様だけは、最初から私のことを一人の人間として見ていてくれたのだろう。
そんな彼女がいつか言った。
『我慢することを覚えよ。それが貴公が人に戻るための第一歩である』
意味がわらなかった。
『考えよ。貴公が妹のことを真に思うのならば、自身が今やるべきことはなにかを考えるのだ』
伯爵様は答えは言わなかった。代わりに、私に考えさせた。
生まれて初めてのことだった。考える。感情よりも理性を優先し、答えを導き出すという行為。
『……私が、あなたの騎士になれば、妹とまた会わせてくれるの?』
考え抜いたその果てに、私が導き出した結論を受けて、ゼルクト伯爵はにっこりと笑った。
くしゃくしゃと、私の荒れ放題でボサボサだった髪を撫でて、
『ああ、可能なかぎり力を貸そう。――期待しているぞ、レビュテッド。我が騎士よ。周りを見返してやれ』
見返す――それが私の行動原理になった。
周りの評価を覆して、自分の価値を認めさせる。それをもって、最愛の妹にもう一度再会する。
そのためにがんばった。触れてこなかった勉強に励んで、意味の分からない礼節を覚えた。剣の腕を鍛え、自身のスキルと向き合った。
『雷光』スキル――軽い静電気を起こすことくらいしかできなかったそれが、その実、放出するのを我慢して電を溜め込むことで威力を増大させられると気付き、私の戦闘力は大幅に増大した。
充電が足らないと出力が落ちるため、継続力こそ低いものの、瞬間的な出力は他の攻撃系スキルよりも高い。最大充電まで五日ほどかかってしまうが、全力時の私に勝てる騎士は伯爵家にもいなかった。
スキルに依存こそしているものの、私は名実ともにゼルクト伯爵家最強の騎士になった。この家に来てから、わずか二年後のことだった。
もちろん、戦闘力以外ではあまり役に立てないのが実情だ。まだまだ学ぶことは多い。シュクラ流の道場に通い始めたのもそれが理由だった。対人戦闘は伯爵家の中でも学べたため、対モンスターの対処法を学ぶために、私は達人と名高いフレデリック先生の下で学ぶことになった。
まだ子供の私を、最初門下生の人たちは馬鹿にしてきた。子供のくせに騎士なんてと、嫉妬の視線を向けてきたのだ。
最初は我慢していたけれど、ある日ついついやり返してしまった。
暴力は最低限に控えた。代わりに思いつくかぎりの罵倒を口にすれば、私を馬鹿にしてきた大人たちが顔を真っ赤にして屈辱に震える。しかし自分の強さに自信を持っているような男たちだ。負けた以上は伯爵家に訴えてきたりはしなかった。
つまり彼らに負けないかぎりは、私はストレスを発散させることができるということ。
伯爵様の考えろとはこういうことなのだろう。頭に血がのぼるままに暴れることが許されないのなら、代替手段を考えればいい。
私にはスキルがある。大人にも負けることはない。力があれば、煽り散らすことくらいは許されるのだと私は知った。
弱い。雑魚。情けない。
私は言う。
力がなければ生き残れない。弱肉強食がこの世の真理だ。昔の私は弱かったから、リリエッタを失う羽目になった。
煽りながら私は思う。悔しかったら強くなれ。殺したりなんてしないのだから、何度も何度も勝てるまで挑んで来ればいいのだ。
ドラちゃんのように。
ああ、そうだ。彼は諦めなかった。
どれだけ馬鹿にしても、どれほど痛めつけても、彼は決してあきらめなかった。力の差をわかっていないわけではないのに、いつだって気にした素振りはなく、何度だって挑んできた。
戦うたびに、彼が強くなっていくのがわかる。
剣の鋭さが上がっていく。間合いの測り方が上手くなっていく。フェイントが巧みになっていく。視線誘導を覚えていく。
日々、たくましくなっていく。
フレデリック先生が、私に彼を鍛えるように言った理由がわかった。そしてあの日のゼルクト伯爵が私に期待してくれた理由も。
誰かを育てる喜び。自分の期待に、全力をもって応えてくれようとする喜び。
それは誰かを力に任せて叩きのめすのとは違う喜びを、私に与えてくれた。
刹那的なものではなく、育んでいく幸せ。幼い頃、リリエッタとの間にあったものと同じ、居心地がいいという感覚だった。
ドラちゃん。ドラちゃん。ドラちゃん。
私の可愛い可愛い弟弟子。誰よりも生意気で、誰よりも強い眼差しをした男。
メスガキ? 意味はよくわからないけど、私のことを
なら、もっともっと強くなって。
いつか私の全力を、真正面から受け止められるくらいに。
私の理不尽な暴力を押しのけて、返り討ちにしてみせるくらいに。
そうしたらいいよ。仕方ないから、わからされてあげる。
どんな屈辱的な命令にも、媚びた笑顔で応えてあげるよ。
それが男と女なんでしょ? ドラちゃんってばやらしいんだから。
そんな風に思い、にひひと笑って。
私は彼のことを、憎からず想うようになっていたのだった。
だから――お願いします。許してください。
私を許して。嫌いにならないで。
ツヴァイになって、私を知らないふりなんてしないで。敬語なんて使わないで。
ドラちゃんって呼ばせて。
いつもみたいに軽口を叩いて。
メスガキって言ってもいいから。
言えるように、これからもそういう風にふるまうから。
またからかうかも知れない。酷いことも言っちゃうかも知れない。
けど本音じゃないの。本当はあなたのことすごいって思ってるの。強いって思ってるの。弱いなんて欠片も思ってないの。
生きてて恥ずかしいだなんて煽ってごめんなさい。恥ずかしいのは私の方です。雑魚なのは私の方。生き恥を晒しているのは私の方なんです。
リリエッタと再会する夢をあなたに叶えてもらったのに、あなたの大事な人を、リリエッタの大事になるはずだった人を、見捨てて逃げたのは私です。
反省しています。悔いています。
贖罪を求められればなんでもします。
本当です。なんでもしますから。
だから、お願いします。
どうか、私を許して――……。