分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第6話  昔話を聞いてみる

 なんとか帰ることができた。

 

 消えた分身の記憶から、森の奥に住んでいる人の情報を共有したわけだが、結構まずい事態かもしれない。

 

 昼間、森で身を隠しているわけだが、それは誰も来ないと考えたからだ。

 

 村の方角さえ見張っていれば、村人が森に踏み入ってきても、最悪はさらに森の奥で身を潜めればいい、なんて考えもあった。

 

 けれど誰かが住んでいるとなると、逆方向からばったり遭遇する可能性もある。

 

 そうなったとき、相手はどんな手段に出るだろうか?

 

 いきなり殺されることはさすがにないだろうけど、俺の場合、村人に情報を共有されるだけでアウトだ。

 

 どこの誰なのか調べる必要がある。

 

 少なくとも、俺はあの森に他の誰かが住んでいることを知らなかった。となれば、聞くべきは物知りな相手だ。

 

 俺が直接話せる相手となると、同じ農奴になる。

 

 村人も用事があれば話しかけても対応してくれるが、基本的に俺への対応は腫物を扱うような感じだからな。

 

 あといつも話しかけてこない俺がわざわざ森のことを聞く、というだけでも警戒されるかもしれない。

 

 そうなっては本末転倒だ。

 

 となると、聞くべき相手はあの人だな。

 

 食後、俺は他の農奴よりも幾分か年をとった男の農奴に話しかける。

 

 世話役、と他の農奴から呼ばれているこの初老の男は、もう何十年とこの村で農奴をやっている人物だ。

 

「世話役。ちょっと聞きたいんだけど、あの森の奥ってだれか住んでるの?」

 

「灰色か。なんだ、突然」

 

「別にちょっとした世間話ですよ」

 

 普段話しかけてこない俺に、世話役はいぶかしげな顔をする。

 

 にらむような仕草だけで少し身体が震えた。この人には何度か、しつけでぶん殴られた経験があるからだ。正直言って、用がなければ話しかけたくない相手だった。

 

「森には誰も住んでない。知ってるだろ? あの森はモンスターが出て危ないからな」

 

 最近はある程度の手伝いを買って出ているのもあってか、世話役は無視することなく答えてくれた。

 

「それは知ってますけど、それは森の奥の話でしょ? 森の反対側とかには誰か住んでないの?」

 

「反対側?」

 

 世話役は腕を組んで悩みこむ。

 

「この村自体が森を切り拓いて作られた開拓村だからな。近くに他の村はないはずだぞ」

 

「へえ、初めて聞いた」

 

「なに? 村長様の話を聞いてなかったのか?」

 

「そんな話してましたっけ?」

 

「いや、そうか。……お前は前の村長様を知らないからな」

 

 どうやらそのあたりのことを農奴に聞かせていたのは、前の村長らしい。

 

「今の村長に比べれば、とても立派な人だった。あ、待て。別に今の村長が悪いとかじゃなくてな」

 

 口を滑らせた世話役は慌てて周囲を見回す。

 あたりには誰もおらず、聞いている人はいないようだった。

 

「わかってます。安心してよ。誰にも言ったりしないから」

 

「……お前は他のやつよりは口が堅いか」

 

 何気に俺の評価は世話役の中では少し高いらしい。

 

 いや、他の農奴の大人が低いとみるべきか。

 

 その名のとおり、他の農奴のお世話を村長にさせられているこの人と、他の大人たちとの間で口論があったのを、これまで何度か目にしている。

 

「前から疑問だったんだけど、なんか世話役さん以外の大人ってガラが悪くない?」

 

「子供にもそう思われてるのか。まあ、あの態度じゃ仕方ないか」

 

 実際は世話役も大概だけど。

 それを隠して聞いた俺の言葉に、疲れたように頷かれる。

 

「お前みたいにここで生まれた子供以外は、ほとんどが犯罪奴隷だからなぁ」

 

「犯罪奴隷?」

 

「悪いことして捕まった結果、奴隷になっちまったやつのことだ」

 

 重罪を犯した人間は、当たり前が縛り首だ。

 だけど軽犯罪程度の場合、奴隷身分に落とされて売られることもあるらしい。

 

 現在、村には33人の農奴がいる。

 

 内訳は大人が26人。子供は俺を含めて7人。

 

 大人の奴隷の過半数以上が、この犯罪奴隷とのことだった。

 

 なるほどな。

 農奴だから腐ってるのではなく、元からああいう性格なのか。

 

「他には戦争での捕虜がそのまま奴隷になった捕虜奴隷やら、儂みたく借金を返せなくなって奴隷になった借金奴隷ってのがいるが、労働力目的で買うには犯罪奴隷の方が安いんだと。だからか、今の村長はほとんど犯罪奴隷ばかり買ってきてな」

 

 日頃からうっぷんが溜まっているのだろう。世話役の愚痴が止まらない。

 

「やつら、なにかにつけてさぼるから、仕事的には借金奴隷の方が働くし、言うこともちゃんと聞くって何度も言ってるんだけどな。村長はそんなのは儂がどうにかしろって」

 

「大変そうだなぁ。ん? あれ? じゃあ俺は?」

 

「お前は」

 

 世話役は少しだけ可哀そうなものを見る目で俺を見た。

 

「お前も借金奴隷だな。お前の母さんがそうだったから。お前は血のつながった子供だから、あの人の借金分を働いて返さないといけない」

 

「……そういう仕組みなのか」

 

 今まで誰にも聞いたことがなかったし、これも初めて知ったことだった。

 

「働いて借金を返せば、奴隷から解放してもらえたりしないの?」

 

「借金奴隷はそうだ。そういう権利を持っている」

 

「じゃあ!」

 

「ああいや、残念だけどな。今の村長は儂らを奴隷から解放する気はないようだ」

 

 疲れ、諦めきった顔で世話役は否定する。

 

 長く働き続けてなお、農奴という立場にいる男が。

 

「こんな田舎の村だ。奴隷の最低限の権利だって存在しない。解放なんて夢を見るのは諦めた方がいい」

 

 役人などのいない田舎の村長は、ある種の王様みたいなものだ。

 きっと農奴というやつは、都市の奴隷よりもよほど待遇が悪いのだろう。

 

「前の村長は、そのあたりを明確にしてくれてたんだ。借金分をきちんと働いて返せば、そのあとは自由にしていいと言ってくれる人だった。実際に今いる村人の中にはな、元奴隷の人もいるんだ」

 

 昔を思い出すように世話役が語ったところによると、この村はその前の村長によって作られたそうだ。

 

 冒険者でひと財産を築きあげたその男は、引退後に開拓団のリーダーになった。

 

 彼は村人を集めるために借金奴隷に目を付けた。

 借金分を働けば必ず解放すると約束し、きつい開拓作業に参加させたのだ。

 

 そして実際に約束を守り、奴隷だった者たちを解放し、自分の村の村人として受け入れた。

 

 そうして生まれたのが、この村。

 

 偉大なる初代村長の名をとって、コルニ村という。

 

 一代にして村を切り拓いてみせた初代村長には、しかし最後の最後で運が味方をしなかった。

 

 後継者として鍛え上げていた息子をはやり病で亡くしてしまい、自身もまた同じ病に倒れた。

 

 残ったのは、まだろくに教育もされていない若い孫だけ。

 

 一代飛ばしで村長になった今の村長は、周りからおだてられる立場に増長した。これまで借金奴隷を用立てていた前村長とは違い、安い犯罪奴隷を村に連れてきて開拓させるようになった。

 

 まだ残っていた借金奴隷たちとの約束も守らなかった。

 働いたら解放するという約束を無視して、王様のように振舞い始めたのだ。

 

 それが今のコルニ村の現状とのことだった。

 

 道理で、村人よりも農奴の方が民度が低いわけだ。

 

 あとよく奴隷を買う金があるなと思っていたけど、先祖の遺産もあったってわけね。冒険者、成功すれば本当に夢はあるみたいだ。

 

 しかし……

 

 借金を返せば奴隷という身分から解放される。俺にはそういう権利がある。それがわかっただけでも十分な収穫だった。

 

 仕組みとしてあるのなら、あとはお金次第でなんとかなる。

 

 これで奴隷は死ぬまで奴隷だ。解放? それすなわち現世からの解放だぜヒャッハー、みたいな可能性も一応はあったからな。

 

 あとは魔法の契約かなにかで絶対服従とか。そういうのもないっぽい。

 

「約束を守ってもらえなかったからと、森に逃げた借金奴隷が前にいてな。そのとき森の中を村人と捜索させられたけど、村長からはなんの説明もなかったから、やっぱり森には誰も住んでないはずだぞ」

 

 そういや元々はそういう相談だった。

 

 質問の終わりとしてそう教えてくれたあと、世話役は疲れた身体を引きずるようにして家に帰っていった。

 

 農奴でも上の立場である世話役には、ボロいがきちんとした一軒家が用意されている。同じ農奴ではあるが、妻もいれば子供もいる。

 

 それでも去っていく背中には哀愁が漂っていた。

 実際の年齢以上に老け込んでおり、最近は咳こむことも多い。

 

 あの人が、農奴としての最大値だ。

 この村にいるかぎり、あれ以上の幸福は望めない。

 

 やっぱり村の外に出ないとな。

 

 それはそれとして。

 

 世話役の話がすべて事実なら、森には誰も住んでいないということになる。

 

 なら、俺が今日見かけた彼女は誰なのだろうか?

 

 少なくとも農奴たちには知られていない誰か。

 俺を農奴とは知らない可能性の高い、年齢の近い女の子。

 

「村の外のことを知るのに利用できそうだな」

 

 人のことをまったく笑えない。平然と幼い女の子を利用しようと考えてしまうくらいには、民度が低いのは俺も同じなのだった。

 

 

 

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