分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第70話  鍛錬の成果

 この世界において、スキルほど反則的な力は存在しない。

 

 たしかに、魔力のあるこの世界では鍛えぬいた武芸や複数習得した魔法は強力な武器になりうる。しかしそれらは一朝一夕で身につくものではなく、長く地道な鍛錬が必要になる。

 

 一方でスキルにはそれがない。手にした瞬間から一定の能力を発揮することが可能だ。成長よりもどんなスキルを手に入れたかが重要になるが、そこは運だ。生まれながらに授けられていることがほとんどである以上、自分でどんなスキルを得るか選ぶことはできないのだから。

 

 だからこそ、強欲スキルは恐ろしいのだ。

 

 後天的に好きなスキルを手に入れることができる。

 一個のみならず、欲しいものを欲しいだけ手に入れて扱うことができるのだ。

 

 複数のスキルを好きなタイミングで交換して行使できるイライザは、間違いなくこれまで出会った敵の中でも最強格だろう。

 

 そして今、イライザが選んだスキルは雷光――システィー先輩の持っていた殺傷力の高いスキルだ。雷の力で身体能力を上げ、対外に放出することもできる。遠距離から近距離まで隙の無い強スキルだろう。

 

 弱点は使用に溜め込んだ電力を消費すること。長期戦は不利ということくらいだ。

 

 しかし鑑定スキルを持つイライザはそれをよく理解しているようで、俺たちと戦うまでほとんど雷光スキルを使わなかった。充電切れを期待するのは無理だろう。

 

 考えれば考えるほど、不利な状況だ。

 

 となれば、俺にできることは。

 

「なあ、あんた。イライザって言うんだよな?」

 

「ええ、そうよ。魔女や簒奪者なんて呼ばないでね、ボク」

 

「なら俺のことも名前で呼んでくれよ。ドライっていうんだ」

 

「そう、ドライ。いいわ。そう呼んであげる」

 

 にっこりとイライザは微笑みかけてくる。圧倒的に有利な状況だ。こちらの対話に耳を貸してくれるらしい。

 

「それでわたくしになにか用かしら? 命乞いの言葉なら、是非とも聞いてさしあげますが」

 

「それで見逃してくれるならいくらでもするけどな」

 

 きっと命乞いを聞いた上で、この女は容赦なく殺すのだろう。

 

「なあ、イライザ。なんでこんなことをするんだ? あんたと一緒にやってきた帝国の第一皇子は、もう国に帰るって言ってたが?」

 

「あら? あなた、ユーヴェインのことを知っているの?」

 

「一緒のテーブルでご飯を食べた仲だよ」

 

「そう。わたくしとは一緒に食べてはくれなかったのに。ずるいわ」

 

 仲間の名前を口にすると、イライザは少しだけ話題に興味を示したようだった。

 

「たしかに、わたくしはユーヴェインと一緒に行動していたわ。けれど、別に従っていたわけではないの。あの人が帝国に帰ったとしてもわたくしには関係ない。我が君の命令を遂行するだけよ」

 

「我が君の命令?」

 

「そう、わたくしの本当の主様。愛しい御方」

 

 熱い吐息をもらし、イライザは身をよじる。

 

「あの方のために、わたくしはこの地に潜む六聖、【輝ける槍】を手に入れなければならないの。あなたたちのスキルはそのついでよ」

 

「なら見逃してくれてもいいんじゃないか? そうしてくれるなら、俺のスキルをプレゼントさせてもらってもいいぜ?」

 

「本当に? あなた、自分のスキルが惜しくないの?」

 

「惜しいが、自分の命には代えられないだろ。イライザだってそうじゃないのか?」

 

「残念だけど、わたくしは自分の命よりもスキルの方が大事なの。一緒にしないで欲しいわね」

 

 その言葉は事実なのだろう。自分の命を大事にしているのなら、わざわざ帝国の皇族なんて狙わないはずだ。

 

「強奪スキルか。そのスキルのままに生きるのがあんたの人生なんだな」

 

「よく理解しているわね。そう、それがわたくしの人生。わたくし思うのよ。スキルはその人間の本質に根差した力なんじゃないかって」

 

「本質?」

 

「わたくしは昔から、人の持っている物が欲しくてたまらなかった。それが大切なものであるなら尚更ね。あなたくらい小さなときからずっと、そうやって誰かからなにかを奪って生きてきた」

 

「強奪スキルを持ってたから、そうなったって言いたいのか?」

 

「わたくしはこのスキルを持っていなければ、きっとこんな風にはなっていなかった。あるいは、こういう人間だから、神様から強奪スキルを授かったのかもしれないわ」

 

 つまりイライザが言いたいのは、スキルと人格には密接な関係があるということか。

 

「じゃあ、システィー先輩の性格が悪いのは雷光スキルの影響だってことか? いまいち関連性が見つからないが?」

 

「ドラちゃん?」

 

 黙って後ろに控えてくれていたシスティー先輩が、剣呑な声で名前を呼ぶ。だってそうだろ? 雷光スキルと性格にどんな共通点があるっていうんだ?

 

「まあ、苛烈な性格は雷っぽさがあるといえばあるけどな。性格診断みたいなレベルの話だろ」

 

「たしかに、一見するとそう思うかもしれないわね。けれど、きっとわたくしたちの知らないところで人格形成に密接にかかわっているのよ」

 

 イライザの視線が俺に向けられる。今はあの妖しく輝いていた瞳を見せていない。やはりあれは鑑定スキルが働いている証であり、雷光スキルを使っている今は併用できないのだろう。

 

「あなたもそうではないの? 分身スキル、あまり聞いたことがないスキルだけれど、常人の神経で使えるとは思えないスキルだわ」

 

「分身スキル? それがドラちゃんのスキルなの?」

 

「あら? あなたも知らなかったのね」

 

 やはりばれていた俺のスキル。システィー先輩も興味を示すが、それがイライザにとっては痛快だったらしい。

 

「ふふふっ、仲がずいぶんとよろしいと思ったのに、実際はスキルのことも教えてもらえてなかったのね。所詮は見せかけだけの仲だったということかしら?」

 

「はあ? なに言ってるのおばさん? 私とドラちゃんは金貨二百一枚の仲ですけどぉ?」

 

「先輩、俺たちの関係をお金に換算しないでくれ」

 

 まるで俺と先輩がお金だけの関係みたいじゃないか。

 

「あとシスティー先輩に分身スキルのことを伝えてなかったのは、別に信頼してないとかじゃないよ。俺は基本的にスキルを人にばらさない主義なんだ」

 

「たしかに、あなたのスキルは黙っていれば黙っているほど有効活用できるものね。直接的な戦闘能力は乏しいけれど、手に入れておけば便利に扱えそう。それこそ持っているスキルも分身とで共有できるのであれば、一個ずつしかスキルを使えないというわたくしの弱点すら補えるようになる」

 

 イライザはぺろりと唇を舐める。

 

「初めて見たときから欲しかったのよ。だからね、ちょうだい。さっき言っていたとおり、わたくしにあなたのスキルをプレゼントして」

 

「見逃してくれるのか?」

 

「ダメよ。わたくし、スキルを奪ったあとは必ず殺すと決めているの」

 

「しかも奪ったスキルでだろ? もしかしてそれって、あんたのスキルの制約かなにかじゃないのか? たとえば、奪った相手を生かしておくと、スキルが元に戻ってしまう、とかさ」

 

「そうならないように持ち主を殺していると、あなたはそう思っているのね?」

 

「違うのか?」

 

「残念ながら、そんな制約は存在しないわ。時間を稼げばそっちの子にスキルが戻ってくるとか、そういうことはありえない。ええ、はっきりと明言しておいてあげる。わたくしの強奪スキルで一度奪ったスキルは、わたくしでも元に戻すことは不可能なのよ」

 

 その言葉に、システィー先輩は顔色を変えなかった。

 

 それに意外そうな顔をイライザは見せる。

 

「いつもなら、この事実を教えてあげると返してと泣き叫ぶものだけど。あなたは自分のスキルに未練がないのかしら?」

 

「未練がないわけじゃないけど、スキルが二度と戻ってこない代わりにあなたを殺せるっていうなら、私は喜んでそっちの道を選ぶけどね」

 

「まあ怖い。その前に殺さないといけないわね」

 

「ちょっと待ってくれ。じゃあ、イライザ。あんたはなんでわざわざ危険を犯してまで、奪った相手を殺すんだ? 意味がないんだろ?」

 

「意味? 意味はね、あると言えばあるわ」

 

「あると言えばある?」

 

「やる気が出ることを教えてあげましょうか、ドライ。さっきわたくしにもスキルは戻せないと言ったけど、それは本当だけど少しだけ真実とは違う。強奪スキルに奪われたスキルを取り戻す術は存在するわ。他でもない、わたくしが死ねば奪ったスキルは返還されるの」

 

「……じゃあなんだ。あんたがスキルの元の持ち主を殺しているのは」

 

「わたくしの死後、スキルが戻ってしまうのが許せないだけよ。せっかく奪ったのに、奪い返されてしまうなんて耐えられない。だから殺しておくの。そうすれば、万が一わたくしが死んでも、奪ったものは永遠に戻らないから」

 

 奪うため。永遠に奪い続けるため。それがすべての理由。

 

「殺すときに奪ったスキルを使うのは、それが一番いい死に顔を見せてくれるっていう理由よ。絶望に引きつった、最高の死に顔をね」

 

 続けて告げられた言葉に、どう足掻いても理解できない隔たりを感じずにはいられなかった。

 

 理屈ではない。損得勘定でもない。いうなれば、それは趣味嗜好の話。

 

「そうかい。絶望顔が最高っていうのは、俺の性癖にはちょっと合わないかな」

 

 やっぱり最高の表情は笑顔だろ。絶望顔はもうちょい順位が下だ。

 

「わかった。そういうことなら交渉決裂だな」

 

「ええ、戦いの時間よ」

 

 再び剣を構え、紫電をイライザは迸らせる。

 

 できればもう少し会話で時間を稼ぎたかったのだが。

 

「それで? 時間稼ぎに付き合ってあげたのだけれど、それでなにか奥の手でも用意できたのかしら?」

 

「そこまでばれたのか、よ!」

 

 俺は踏み込んで、イライザに戦いを挑んだ。

 

 真正面から攻撃を仕掛けた俺の剣を、イライザは自分の剣で弾いてみせる。

 

 合わせた剣から雷撃が伝って腕を焼いてくる。しびれて剣を取り落としそうになるが、ぐっと堪えて柄を握りしめた。

 

 そのまま一撃、二撃とイライザに剣を振るう。

 

 彼女はシスティー先輩がそうであったように、俺の剣がまるで止まっているかのような動きで、目で見てから軽々と避けてみせる。雷光スキルによる身体強化は神経系にも及ぶようだ。

 

 しばしそのままイライザは、攻撃をし続ける俺を訝し気に見ていた。時間稼ぎをしたのになにもしないのか、という顔だ。

 

 悪かったな。残念ながら、まだ日付が変わってないんだから仕方ないだろ。今の俺にできるのは、年齢にしてはそこそこいい感じの剣術を披露することくらいだ。

 

 剣を腰だめに構え、魔力を爆発させつつ勢いよく斬りこむ。

 

 シュクラ流、烈火の太刀。今の俺が放てる最高の一撃は、しかしイライザの剣によって軽く払われてしまった。

 

「っ!?」

 

 再び雷光が腕を焼く。くそっ、ずるいぞそのスキル。剣を打ち合うだけで相手をしびれさせるとか強すぎだろ。

 

 だが同時に思ったとおりではあった。

 

 イライザは俺を一思いに殺したりはしなかった。

 

 なぶりたいという気持ちはあるのだろうが、それ以上に今すぐ俺を殺すわけにはいかないのだ。

 

 先ほどの会話から読み取れたのは、イライザの趣味嗜好だけではない。奪ったあとに殺すということは、殺したあとに奪うことができないという意味でもあるのだ。

 

 イライザは俺のスキルを欲している。となれば、それを手に入れるまで殺すことができない。雷撃も明らかに手加減されている。

 

 そして俺のスキルを奪うという目的がある以上、どこかのタイミングで雷光スキルから強奪スキルに切り替えないといけないはずだ。ほんのわずか数秒のその瞬間のみ、イライザは相手のスキルを奪うという能力だけの女になる。

 

 強力なスキルで防備した魔女が、唯一無防備になる瞬間だった。

 

 システィー先輩にはそこを狙うように頼んでおいた。それまでは俺が前に出るから動かないでくれと。

 

 今も必殺の凶器を握りながら、必死に前に飛び出しそうになるのを堪えている。

 

 我慢だ。今はまだ我慢してくれ、先輩。

 

「――そういうことね」

 

 そのとき、こちらを注意深く観察していたイライザが、得心がいったようにそうつぶやいた。

 

 これまでの警戒する様子から一転、攻勢を強めてくる。

 

「スキルを奪われるまでは殺されないと踏んで、健気に盾役を買って出ていたのね! 素敵だわ! 小さいのに立派な男の子ね、ドライ!」

 

「気づかれたか!」

 

「ええ、あなたが分身スキルをこれ以上使えないこともね!」

 

 間合いの外からイライザが剣の切っ先を向けてくる。

 

「雷光!」

 

「ぐぁあああ!」

 

 その切っ先から稲妻の帯がのび、俺の身体を貫いた。

 

 今までとは桁が違う熱量と痛み。一瞬、意識が途切れるほどの衝撃だった。

 

「ドラちゃん!」

 

「ああよかった! 死ななかったのね! 手加減はしたけれど、まだ慣れてないから調節に失敗したらどうしようかと思ったわ!」

 

 イライザが高笑いしながら、地面に倒れ伏した俺に近づいてくる。

 

 こちらの作戦に気付き、俺が死なない程度に雷光スキルの威力を上げやがった。

 

 そりゃお姫様のように手厚く加減してくれるとは思っていなかったが、気付いた瞬間こうもあからさまに威力を上げてくるとは。先ほどの台詞も嘘ではないのだろう。最悪、俺が死んでも別にいいと思っているのだ。

 

 しかしそこからも読み取れることがあった。

 

 イライザは俺のスキルを欲しているが、是が非にでも手に入れたいとは思っていないということだ。

 

 これは明らかにおかしい。六聖のスキルを狙ってこの街までやってきたというのに、【輝ける槍】に比類する【永遠の騎士団】を捨てる選択肢なんて取れるはずがないのだ。

 

 愛しい御方というのが誰のことなのかはわからないが、そんなことは絶対に許さないはず。

 

 そこから導き出される答えは、イライザは分身スキルが六聖であることは知らないという事実に他ならない。

 

 アインがなにをどう調べたのかはわからないが、どうやら分身スキルが六聖であることはそこまで有名ではないらしい。実際に俺も軽く調べてみたが、【永遠の騎士団】の正体がどんなスキルなのかは不明だったしな。

 

 これで鑑定スキルで読み取った情報もある程度絞れた。

 

 アルフィリアさんの診察スキルで手に入れることができる情報量よりも上ではあるが、得られるのはあくまでもスキルや魔法といった力に限定されるのだろう。

 

 今出せる分身の数や、誕生日を迎えるごとに分身を出せる数が増やせるといったスキルの詳細までは把握できても、明日が俺の誕生日という事実まではわからないに違いない。

 

 やはり分身をもう一体出せるようになれば、隙をつける可能性は高い。

 

 時間だ。なんとしても、もっと時間を稼ぐのだ。

 

 しびれる身体に活を入れ、俺はなんとか立ち上がった。

 

「あら? まだ立ち上がれるのね?」

 

「この程度なら問題ない。システィー先輩もまだ下がっていてくれ」

 

「でもっ!」

 

「我慢だ。我慢してくれ、先輩」

 

 前に出ようとしていたシスティー先輩を押しとどめる。

 

 システィー先輩が前に出れば、イライザは容赦なく全力で雷光スキルを使ってくる。彼女にはもう、システィー先輩を殺さない理由がないのだ。

 

 俺がここで少しでもまとわりついていないと、広範囲攻撃で一気に仕留められかねない。

 

 まだまだ気張らないと。

 

「……綺麗なドレスを着て、男の子に守られて、まるでお姫様ね」

 

 そのとき、イライザが苛立った声をもらした。

 

 今までの余裕の笑みはどこかに消え、凍えるような視線をシスティー先輩に向けている。

 

「むかつくわ。スキルを失って奴隷になったと聞いていたのに、蓋を開けてみればこんなにも大事にされてるなんて……わかっているの? あなたたちが今も生きていられるのは、わたくしが遊んであげているからなのよ? わたくしがその気になれば、今すぐ殺して終わりにできるのよ?」

 

 なにかがイライザの逆鱗に触れたらしい。雷光の輝きが増していく。

 

 まずいな。イライザの言葉はどこまでも正しい。遊びを捨ててかかって来られたら、俺たちなんてすぐに殺されて終わりだ。

 

「なんだよ? ここに来て、自分のポリシーを捻じ曲げるのか?」

 

「そうね。あくまでも大事なのは我が君の命令ですもの。それに比べれば、わたくしの美学なんて捨てても構わないわ」

 

「ずいぶんとその我が君さんに惚れこんでるんだな。ぜひとも馴れ初めを教えてほしいものだね」

 

「馴れ初め? それはもう、素晴らしい出会い、で……」

 

 そこで不自然にイライザが言葉を切った。

 

「……そう、素晴らしい、出会い、だったはず……あれ? でも、どんな出会いだったかしら?」

 

「なんだ? 覚えてないのか?」

 

「いいえ、覚えてるわ。朝焼けの綺麗な海岸で、あの方は花束をもってわたくしに、わたくし、に……」

 

 言葉の途中で、イライザは顔をしかめて頭をおさえた。

 

「……そう、そうよ。素敵な、出会い、だった。だからわたくしは、すぐ好きになって……そして好きな人には、従うのが当たり前で」

 

 なんだ? 様子がおかしいぞ?

 

 頭をおさえたまま、ぶつぶつと自分に言い聞かせるようにつぶやいている。

 

「オズワルド様を愛し、命令、従う、それが血の、ナター、リア様が、だから」

 

 不意にイライザの身体から圧力のようなものが消え失せる。

 

「雷光スキルの身体強化を切った? なんで?」

 

 本来の持ち主であるシスティー先輩には、今の現象がどういう意味かわかったようだ。どうやらイライザは体内の雷による強化を消したらしい。

 

 剣には雷光が残っているから、スキルを切り替えたわけではないようだが。

 

「……雷光スキルの雷は、どうやら自分の身体にもある程度の影響があるようね」

 

 頭から手を離し、イライザは嫌な考えを振り払うように首を振った。

 

「幼い頃からスキルをずっと使い続けていれば、ある程度耐性ができるようだけれど、これはまあ仕方ないわね」

 

 どうやら他人のスキルを奪ったからこその悪影響が出ていたらしい。これ以上それを防ぐために、強化をやめたようだった。

 

「我が君への愛を壊そうとした罪は重いわ。あなた、楽には殺さなくてよ?」

 

「最初からそのつもりでしょ。べーだ」

 

「ええ。後悔させてあげる。そうよ、盛大に後悔させてあげるわ」

 

 イライザの剣がさらなる雷の輝きを帯びる。

 

 強力な稲妻。これまでの手加減されていた一撃とは、明らかに威力が違う。

 

「おいおい、もしかして俺を殺すつもりですか?」

 

「そうよ。あなたのスキルを奪うよりも、その女の前で惨たらしく殺してあげると決めたわ。恨むなら、その女を恨むことね」

 

「……どうやらマジのようだな」

 

「ドラちゃん。やっぱり私も」

 

「いや、先輩はまだステイだ」

 

 イライザは本気だろう。剣の切っ先をまっすぐ銃口のように向けられる。次の言葉を間違えれば、このまま雷に焼かれて死ぬ羽目になりそうだ。

 

 であれば、仕方がない。

 

 今まさに放たれようとする死神の輝きを前にして、俺はそう告げた。

 

「俺の分身スキルの正体は【永遠の騎士団】だ。あんたの愛しの我が君の追い求める六聖のスキルなわけだが、それでも俺を殺すっていうのか?」

 

 イライザから致命の攻撃が放たれることはなかった。

 

 しばしの間、俺たちの間に静寂が下りる。

 

「…………はったりよ」

 

「いいや、事実だよ。なんなら教会の人間にでも確認を取ってくれ。【永遠の騎士団】の正体は分身スキルですか、ってな。ああ、我が君ってのが帝国の皇族だっていうんなら、そっちに聞いてもらってもいいかもな。さすがに皇族ならそれくらいは知ってそうだ」

 

「そんなことできるわけがないでしょう?」

 

「なんだ? 遠距離通話のスキルでも持ってるのかと思ったぜ。なら嘘だと思って俺を殺すか? あとになって我が君さんにこの事実を伝えて、愛想をつかされないといいけどな」

 

「愛想をつかされる? わたくしがあの方に?」

 

「それくらい、六聖ってのは重いだろ。現に後ろでシスティー先輩が女の子がしちゃいけないような顔で驚いてる」

 

「そりゃ驚くけど、み、見ないでよ!」

 

 俺は割と好きな表情でした。

 

 いやぁ、せっかくずっと隠していたことをばらしたんだから、それくらいは驚いてくれないとやるせないってもんだ。

 

「さて、どうする? 簒奪者イライザ。俺のスキル、本当に奪わなくていいのか?」

 

「……ちっ」

 

 イライザは無言で剣の切っ先を空に向け、そちらに向かって雷撃を放った。

 

 空中で雷撃が弾け、周囲に光の帯を残して建物を破壊する。倒壊に誰か巻き込まれてないといいけど。

 

「いいわ。それがもし本当だとしたら、たしかに殺すわけにはいかないもの。――あなたのスキル、全力で奪いに行ってあげる」

 

「そうこなくちゃな」

 

 話している間に身体のしびれもある程度消えた。剣を構え直す。

 

 イライザもまた剣を構え、俺を逃がさないように集中する。その切っ先に雷光はない。やはり殺傷力が高すぎると見て、別のスキルに切り替えるようだ。

 

 相手を殺さずに手加減もできるスキル。となれば、使い慣れたスキルを選ぶはずだ。

 

 俺はずっと彼女がゼルクトの騎士たちと戦うのを見ていた。どんなスキルをどういう風に使うのか、しっかりと観察していた。

 

 であれば、この場面で使うのはおそらく身体能力を強化することができるあの超人スキルのはず。それで接近戦を有利に進め、俺の身体を拘束してから強奪スキルでスキルを奪うはずだ。

 

 その選択はどこまでも正しい。雷光スキルの身体強化でも太刀打ちできなかったのに、それ以上となると俺の運動能力ではすぐさま押さえ込まれて終わりだ。

 

 約八カ月。それが俺がシュクラ流の道場で鍛えた時間だ。

 

 筋はいいと褒められた。けれど重ねてきた月日があまりにも足らない。

 

 それはイライザも同じ。彼女の剣の腕は大したことがなかった。あくまでもスキルの力に頼った戦い方だ。

 

 きっと、剣術も含めて戦い方なんて誰かに習ったことはないのだろう。スキルを切り替えるほんのわずかな隙が、戦いにおいてどれだけ大きな隙になるのか、本当の意味で理解していない。

 

 しかし――先輩は違う。

 

 俺の何倍もの時間を剣術の鍛錬に費やした。

 

 才能はあったのだろう。だがそれ以上に、努力を重ねていた。模擬戦ではスキルを使わずに、大の大人を軽々と倒して見せるほどに、真面目に剣の腕を鍛え続けていたのだ。

 

 そして、自分の持っていた雷光スキルが消える瞬間に彼女が気づけないはずがない。切り替わる一瞬の隙を突けないはずがなかった。

 

 地面の上を滑るように、システィー先輩は剣を横溜めに構えて駆けていた。

 

 踏み込みの足元と、剣の切っ先より魔力が燃える炎のように立ち上る。

 

 ゆえに、その一撃はこう呼ばれているのだ。

 

「烈火の太刀!」

 

 鮮血が舞う。まさに此処しかないという刹那のタイミングで放たれたシスティー先輩の一撃が、イライザの身体を斬り裂いたのだった。

 

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