分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第74話  よろしくドライ

 簒奪者イライザの死体が見つかったのは、ゼルクトの街からさほど離れていない山中のことだったという。

 

 追手がすぐ見つかるような場所に、綺麗に整えられた状態で安置されていた。まるで彼女は死んだので安心してくださいと、そう物語るような有様だったらしい。

 

 協力者のユーヴェインとレオンハルトは発見できなかった。

 

 ゼルクト伯爵は帝国に確認を取ると言っていたが、責任追及を行うのは難しいだろう。戦場では顔を隠していたし、街中で見つけたという証言も決め手になることはないはずだ。

 

 こればかりは仕方がない。相手は皇子なのだ。下手をしたら国同士の諍いにまで発展しかねないとなれば、目をつむるしかない部分はあった。

 

 とはいえ、簒奪者イライザは死んだ。

 戦いはゼルクト伯爵の勝利と言っても差し支えはないはずだ。

 

 被害も相手の力量を考えれば少ないと言っていいだろう。

 

 彼女が引き連れてきたモンスターによる襲撃は貴族街の中だけで収まっており、この場所で暮らす人間には自前の兵力がいるものだ。途中でイライザが手綱を手放したこともあり、速やかに討ち取られ、大きな被害は出なかった。

 

 被害が出たのはやはりイライザとの戦いに直接参加した者たちだ。俺もシスティー先輩も大きな怪我を負うことなく朝を迎えられたが、作戦に参加していた者の中には死者や大きな怪我を負った者もいた。ある程度の傷なら治癒魔法で治せるが、即死はもちろん、手や足などを失うほどの怪我を治すは難しい。

 

 ゼルクト伯爵本人こそ無事だったが、領主である彼女が背負った被害は大きなものになった。それでも相手が有名な犯罪者だったとのことで、国からの報酬や助成金などは問題なく引き出せると彼女は語っていた。

 

 元々の発端となってしまったシスティー先輩は、さすがに死者が出たことに気落ちしていたが、そこは同僚の騎士や兵士たちが諌めた。

 

 彼らは先輩のために戦ったのではない。ゼルクト伯爵と街への被害を喰い止めるために戦ったのだ。悪いのはイライザであり、そこは間違えてはいけない、と。

 

 それでもまったく気にしないでいるのは無理だったようで、システィー先輩は最後の最後まで走り回っては、手伝えることを手伝っていた。

 

 それを最後の奉公とし、彼女はゼルクト伯爵家を離れることになったのだった。

 

 

 

 

 

 二週間後、俺はシスティー先輩とリリエッタと一緒に、街に繰り出していた。

 

 目的は家探しだ。

 

 システィー先輩は昨日正式にゼルクト伯爵家を辞し、宿舎からも出て俺のアパートに転がり込んできている。

 

 奴隷なんだからベッドはドラちゃんと一緒でいいよと言っていたが、別にシスティー先輩は本当に奴隷というわけではない。

 

 伯爵家の騎士を辞めた時点で騎士階級ではなくなったが、平民としてゼルクトの街の市民権を取得している。あわせて俺もリリエッタを奴隷から解放し、市民登録を行った。

 

 一度与えられた家名なのだからそのまま使えばいいというゼルクト伯爵の許可もあったので、システィー先輩の登録はシスティー・レビュテッドのままだ。そして姉の希望もあり、本人も了承したので、リリエッタの登録もリリエッタ・レビュテッドとなった。

 

 なお、せっかくなんだからドラちゃんも使おうよと提案されたが、そこは丁重に辞退しておいた。リリエッタの寂しそうな視線が心に痛い。

 

 他にもゼルクト伯爵からの贈り物はあった。

 

 まず二百枚の金貨と十枚の銀貨。これは俺が一度預けたものをそのまま返却してくれた。分身を解除して、しっかりと金貨百枚と銀貨五枚が消えたのを確認している。使おうとした事実は消えないが、流通させることなく終えられたことにほっと胸を撫でおろす気分だ。

 

 さらに簒奪者を倒した褒美だと、ゼルクト伯爵は壊れたマジックアイテムの代わりにいくつかの宝物を授けてくれた。戦闘などでは使えないが、美術的な価値があるものだそうだ。

 

 気前がよいのは美点かも知れないが、同時にこの人が貧乏貴族な理由が理解できてしまう。側近の人は今にも倒れそうな顔色をしていた。せめて献上した洗濯板の利権を使ってたくさん稼いでほしい。

 

 伯爵からは去り際に、力を貸して欲しいときがあれば、冒険者ギルドを通じて『冒険王』あてに依頼させてもらうと言われている。

 

 前々から誘われていたツヴァイだけが目当てではない。システィー先輩もまた、今後のために冒険者登録を行っていた。伯爵が推薦状を書いてくれたので、特例としてブロンズランクからのスタートだ。

 

 そのまま冒険王のパーティーに合流する形で、冒険者としても活動するそうだ。伯爵への恩返しのため、できるかぎり伯爵からの依頼は優先的に受けさせてもらいたいとお願いされている。ある意味大きなパイプができたといえるので問題ない。

 

 俺としてはそのことよりも、数日後に控えたシスティー先輩とセリカの初対面の方が心配だった。

 

 セリカにはシスティー先輩が走り回っているときにあからじめ相談しており、パーティーの仲間が増えることにかんしては問題なしと了承してもらえている。

 

 だが果たして二人の性格は合うのかどうか。

 不思議だな。い、今から震えが止まりませんよ。

 

 とはいえ、セリカと同じくシスティー先輩も毎日冒険者として活動するわけではない。

 

 イライザとの戦いのあと、分身スキルについては教えたので、冒険者ツヴァイが俺であることはしっかりと認識しているシスティー先輩だったが、やはりドライとして活動している俺の手伝いをしたい気持ちがあるのだそうだ。なので、メインは商人として活動する俺の手伝いをしたいと言っている。

 

 護衛以外はこれから学んでいくそうだが、少なくともこれで俺を武力で脅してくるような商会はなくなるだろう。ゼルクト伯爵の後ろ盾がある上に、元最強の騎士が物理的に控えているのだから、身の安全は保証されたも同然だ。

 

 また一度はすべての発明品を手放してしまった俺なのだが。

 

 商人ドライとして、再び活動を始めていた。

 

 あのとき手元にあった発明品はなくなってしまったが、アイデアのすべてを形にしていたわけではない。改めて商品化に成功した前世の道具を売り出していく予定だ。

 

 いくつかの商会にすでにアポイントをとっているのだが、どこからも色よい返事をもらっていた。なんだったら、即日で支配人が面会してくれるところもあった。

 

 伯爵の後ろ盾だけではなく、どうやらオークションの準備で発明品をばらまいたこともいい形で影響しているらしい。すでに一定の利益が出ているとのことで、また新しい発明品があるなら、委託という形でも引き受けたいと思ってくれたようだ。

 

 またオークション当日の暴走じみた金の積み上げ方も無駄ではなかったらしい。

 

 それだけの資産がある。さらには落札したシスティー先輩は、最強と言われたスキルを取り戻している。このふたつが、自分の商会も持っていない俺の名前を有名にしてくれたようだった。

 

 元ゼルクト伯爵家最強の騎士を飼っている、謎の発明王ドライ。可愛い見た目に騙されるな。やばい性癖の持ち主だぞ。そんな歓迎すべき噂から根も葉もない噂まで、商人たちの間では広まっているらしい。

 

 予定とは大きく異なったが、実績作りという意味では俺は大成功をしたようだ。

 

 そんなわけで、今後もお金を稼げる目途もある程度たったので、俺は戻ってきたお金を使って家を探すことにした。

 

 これから一緒に暮らしていくので、レビュテッド姉妹と共に街へ繰り出していたわけである。

 

 すでに何件か家を内見させてもらったところだ。次は不動産屋の人と現地集合ということになっていたので、そちらに向かっている最中である。

 

「次はこの先にあるみたいだな」

 

「ちょっと大通りからは外れてるね」

 

 街はずれに向かう道を歩いていると、楽しそうな足取りのシスティー先輩がそう感想を述べた。

 

 ずっと宿舎で暮らしていたシスティー先輩にとっても、自分の家というのは特別な感じがするらしい。あの狭いアパートでもいいよと出かける前は言っていたが、真剣な眼で案内された家を見ていたし、自分なりの条件や基準も持っているようだ。

 

「やっぱり繁華街に近い方が便利だよな」

 

「でも、こっちの方が静かだよ。私たちだけなら通りに近い方がいいかもだけど、今後を考えたらこういう場所の方がいいかも」

 

 すすす、と隣に近づいてきて、システィー先輩が囁くような声で言ってくる。

 

「自分の子供にはやっぱり、落ち着いたところで暮らして欲しいし。ねえ、ドラちゃん。子供は何人欲しい?」

 

「勘弁してくれ」

 

「えー、でもやっぱり家を買うんなら、そういうことも考えておかないとじゃない?」

 

「今の予算で買えるのは小さい家だよ。そういうのはほら、もっと先の話だから。そうなったときにまた家を買えばいいだろ」

 

「うわっ、すごい発言。家って普通、一回買ったら何世代もそこで暮らすものだよ?」

 

「そうかもしれないけど、先のことはまだ決めつけたくないからな。それにこれからたくさん稼ぐ予定だし。システィー先輩にも色々と手伝ってもらうからそのつもりで」

 

「任せて! ドラちゃんの邪魔をする奴は、私が全部片づけてあげるからね!」

 

 やだ物騒。フレデリック先生の脳筋ぶりが移ってないか。これからも道場に通い続けると言っていたが、止めた方がよかったかもしれない。

 

「じゃあ、今日の家はもっと趣味に寄せてもいいのかな。ねね、リリエッタ。リリエッタはどんな家に住みたい?」

 

「わたし?」

 

 終始楽しそうなシスティー先輩とは逆で、リリエッタは家探しにそこまで積極的ではなかった。

 

「特にはないけど」

 

「可愛い家とか、日当たりがいいとか、そういうのないの?」

 

「うん。住めれば別に」

 

「じゃあじゃあ、自分の部屋をどう飾り付けたいとかもない?」

 

「自分の部屋? わたしにももらえるの?」

 

「当たり前じゃん! ねえ、ドラちゃん?」

 

「もちろん。全員分の部屋があることは大前提だから」

 

 俺もね、男の子だからね、自分だけのパーソナルスペースは必須なんだよ。

 

「……自分の部屋、か」

 

 そこで初めてリリエッタは興味を示してくれたようだった。彼女にとっても、自分だけの部屋というのは初めての経験だろう。色々と想像し、妄想し、そうして自分だけの趣味嗜好を見つけてくれればいいとお兄様は思うわけである。

 

 実際、次の家を見るリリエッタの眼はこれまでとは違った。

 

 興味深そうにきょろきょろと家の内外を観察している。

 

 不動産屋の人が錆びかけたカギを使って開けてくれた家は、これまでの家に比べても特になにか特徴がある家というわけじゃなかった。ただ人が住んでいない期間が長かったのか、全体的にけっこう傷んでいる。ここに決めたとしても、ある程度の手直しは必要になるだろうな。

 

「リリエッタ。ここが気に入ったのか?」

 

「ううん、気に入ったわけじゃないよ。でも」

 

 リリエッタは部屋のひとつの扉を開けた。

 

 中は小さい部屋だった。前の住人の残したものか、小さな安楽椅子が残っていた。傷んでボロボロな、小さな椅子。

 

 それを見て、ぽろりとリリエッタが涙をこぼした。

 

「どうしたのリリエッタ!? お腹痛いの!?」

 

 心配性なお姉様が慌てて駆け寄る。

 それに対し、リリエッタは涙をぬぐい、首を横に振って答えた。

 

「違うの。この家ね、昔、お母様と一緒に暮らしていた家だったから」

 

「お母様って、リリエッタと先輩の?」

 

「うん。間違いないと思う。よくね、幼いわたしを抱きかかえて、お母様はその椅子でゆらゆらと揺られてたから」

 

「そう、なんだ……」

 

 システィー先輩は複雑そうな顔で安楽椅子を見つめる。

 

 よくも悪くも二人にとって思い出深いお母様。そうか、リリエッタはこの家で生まれたのか……。

 

「ん? あれ? ていうことは、リリエッタはこの街の出身なのか? 先輩も?」

 

「そうだよ? 私たちはゼルクトの街の生まれ。あれ、言ってなかったっけ?」

 

 あっけらかんとシスティー先輩が言う。

 

 続いて、リリエッタも頷いた。

 

「つまり二人とも、巡り巡って故郷に戻ってきて再会したのか。すごい偶然だな」

 

「そういうことになるね」

 

 システィー先輩はリリエッタと手をつなぐと、もう片方の手で俺の手を取った。

 

「ここで再会して、そして同じ人の下にこうして身を寄せている。すごい偶然で、すごい運命だよ」

 

 システィー先輩は俺の手に指を絡め、まっすぐ見つめてくる。

 その首には、首輪代わりにプレゼントしたチョーカーが巻かれていた。

 

「だからね、ドラちゃん。この手を離さないで。ずっとそばにいて。ね? リリエッタもそう思うでしょ?」

 

「うん、システィーお姉様。わたしもずっと、二人と一緒にいたい」

 

 再会した姉妹はここが自分の居場所だと言わんばかりに、微笑みを浮かべて。

 

「これからもよろしくね。ご主人様」

 

「よろしくお願いします。お兄様」

 

 そんな可愛らしい同居人たちとの、ゼルクトの街での新しい生活が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

「……はずだったんだけどなぁ」

 

 

 

 

 

 俺は馬車に揺られていた。

 

 ゼルクトの街から遠く離れた異国の地。

 御者席の隣には、手綱を握る細い目をした青年の姿がある。

 

「カインズさん。俺はね、今度こそのんびりとお金を稼いだりしながら、しばらくおもしろ楽しくゼルクトの街で暮らしていく予定だったんですよ」

 

「そうですか。きっとその目標は、ゼルクトの街に残ったドライさんが叶えてくれますよ」

 

「そうですね。システィー先輩も手伝ってくれるんなら、心配なんて要らないですよね」

 

「そうですそうです。なので我々は我々で、我々のなすべきことに邁進しようじゃありませんか」

 

 やけくそ気味に笑うカインズさん。この人もこの人でこんな任務を任されて、かなりハイテンションになっているようだった。

 

 巻き込む形になっているので、俺としてもこの人を恨むことはできない。

 けどあんな情報をもたらしたのはこの人なので、やっぱりちょっと恨んでいる。

 

 そう、こうなっているのはあの情報が原因なのだ。

 

 一連の事件の後片付けが終わってしばらく経った頃、事件の途中でふらりといなくなっていたカインズさんが新居に現れた。

 

 そして色々あって伝え忘れていた、例の情報をもたらしてくれたのだ。

 

『ドライさん。コルニ村の村長さんに聞きました。結論から申し上げれば、あなたの母親を孕ませたのは帝国の種馬皇帝ではありません』

 

 リリエッタの母親が語った四十歳のおじさんと、コルニ村に現れた騎士様はまったくの別人だったという。

 

 それを聞いて、俺は安心する気持ちが半分、リリエッタと兄妹ではない事実に残念な気持ちが半分だった。

 

 しかし続くカインズさんの言葉を聞いて、残念な気持ちが百パーセントを振り切った。

 

 ああ、そうだ。俺の父親が帝国の皇帝だったのなら問題なかったのだ。

 

 所詮は五十人もいる子供の一人。スキルの存在がばれさえしなければ、捨て置かれるような継承権の低い皇子。誰が次の皇帝になっても、結局のところ関係のない有象無象の一人でしかない。

 

 帝国の皇位継承争いの主役は、上位の二人。第一皇子ユーヴェインと第二皇子マクシミリアンだ。第三王女や第四皇子、第五皇子あたりが精々脇役といったところで、それ以下は端役に過ぎない。

 

 俺もそんなモブの一人でしかないはずだった。

 

 けれど……俺は今、ある目的をもって、こうして馬車で帝都を目指して進む羽目になっている。

 

 さて、ここで非常に唐突ではあるのだが、証の紋というマジックアイテムについて新しく知った事実も踏まえて、改めて情報を開示しようと思う。

 

 証の紋は親指大の水晶玉の形をしたマジックアイテムで、四十年ほど前にダンジョンから発掘された。

 

 発見したのは帝国で活動していた冒険者だった。

 同じものが大量に見つかり、オークションに出されたという。

 

 競り落としたのは当時の皇帝で、彼は家臣に褒美の一環としてそれを与えた。後に皇帝の座を引き継いだ息子によって有効活用されることになるが、それまでは物珍しいマジックアイテムくらいの認識でしかなかった。

 

 なにせ血のつながりを示すくらいの効果しかないのだ。どこかで家族と生き別れになっていなければ、使い道があるのは妻が不倫していなかったか確かめるくらいのものだろう。

 

 使用方法は簡単で、水晶玉に血を垂らすことで紋章が刻まれる。以後、紋章を刻んだ人間の血筋に反応して光を放つようになる。

 

 このときの光量は、どれだけ紋章を刻んだ持ち主に近しいかで変わってくる。

 

 どういう形で判別しているかは不明だが、一番強く輝くのは親子関係。次は兄弟姉妹。続いて、祖父母や孫といった関係値となる。そこからさらに離れると、光っているか判別しづらいレベルの光量になる。血のつながりを判別できるのは、ギリギリ三等親くらいまでになるだろう。

 

 また証の紋は紋章を刻んだ本人なら砕こうと思えば砕けるのに、他の人間では傷つけることすら難しいという不思議な性質を持っていた。加えて、破片は断面同士をくっつけることで自動的に修復し、再び球体に戻るらしい。

 

 なので下賜された帝国貴族の一部は、証の紋をいくつかの破片に砕くことで子供たち全員に分け与え、定期的に持ち寄ってひとつに戻すといった余興を行った。血のつながりを証明するというよりは、家族の絆を表すお守りのように扱ったのだ。

 

 それでもそういった使い方をしたのは少数派であり、大多数は倉庫の肥やしにしていた。本来の用途、といっていいかは微妙なところだが、血を証明する手段として使用したのは現皇帝だけ。

 

 現皇帝は自身のスキルとの兼ね合いもあり、このマジックアイテムを好んで子供たちに与えた。

 

 皇帝である。砕くなんて無粋な真似はしない。血の紋章を刻んだものをそのまま配った。

 

 それがファムファタールの子供たちの噂と共に、いつしか帝国の皇子皇女である証明のような形となっていき、前皇帝に下賜された帝国貴族たちはより本来の用途では使いにくくなった。かといって、下賜された品を売るわけにもいかない。

 

 そこで帝国貴族たちは、たくさんいる帝国の皇子たちのご機嫌取りに使うことにした。

 

 これこそが父である皇帝陛下が重用しているマジックアイテム。いつかあなたにも子供ができたときに、真似をしてみるのもよろしいかと存じます。半分に割れば、たとえ離れ離れになっても断面をあわせてば、いつでも親子の確認をすることが可能ですよ。などと宣って。

 

 それを真に受けた一人の馬鹿が、後に父親の真似を本当にするとも知らずに。

 

 そんなこんなで、証の紋というマジックアイテムは結局、ほとんどが皇族の手元に転がり込むことになった。

 

 輝き方、あるいは砕いた断面で、尊きを証明することができる血の紋章。

 

 さながら、童話に登場するガラスの靴のように――それはいつだって、ふさわしい瞬間に持ち主を見定めることができる魔法のアイテムなのだ。

 

 そんな証の紋の欠片を死んだ目で見つめながら、俺は王国の地を懐かしむようにつぶやく。

 

 「ドライ――友との穏やかな生活を願った、三番目の分身体(おれ)よ」

 

 俺はこれから盛大に死ぬ予定なので、そっちの俺はゼルクトの街に残ったみんなのことをよろしく頼む。お願いだからツヴァイが冒険でやりすぎないように手綱を握っていてくれ。

 

 この前みたいに、セリカとシスティー先輩がそろってる前で自爆するとかは絶対にやめてくれ。あれは馬鹿の極みだろ。

 

 でも仕方ないね。俺だからね。きっと父親の遺伝子が悪いんだ。

 

「はあ……カインズさん。本当に間違いないんですよね?」

 

「その質問何度目ですか? 何度聞いても間違いありませんよ」

 

「それでも確かめずにはいられないんですよ。本当に、本当に、俺の父親は当時四十歳くらいのおっさんじゃなくて――」

 

「金髪に紫色の瞳をした、当時十五歳くらいの少年だったそうです」

 

 あのときと同じ言葉を、カインズさんが口にする。

 

「諦めてください。調査の結果、あなたが帝国皇帝の孫なのは間違いありません」

 

 ついに明らかになった俺の父親の正体。

 それは種馬皇帝の息子であり、最悪な出会い方をしたあの露出狂のナルシスト。

 

「あなたの父親は、帝国の第一皇子ユーヴェインです」

 

 俺の母親を孕ませて放置した、人間のクズ皇子様であった。

 




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