分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね? 作:sasarax
衝撃の事実が発覚した一週間後。
俺の姿はゼルクトの街から離れた廃墟跡にあった。
結局、今後どうして行くかについてはまだお悩み中だ。
一応考えついたことはある。上手くいけば、ゼルクトの街から逃げずに済み、帝国に身を寄せなくてもなんとかなるかもしれない。
俺という存在を隠し通せないのなら、隠さなければいい。
その上で、誰がどう考えても、これ以上調べる必要がないと思わせればいいのだ。
まあ、まだ時間はある。もう少し考えさせてもらおう。
帝国の問題はいったん横に置いておいて、今日の目的に移る。
俺は装備を整え、単独でここまでやってきていた。といっても、周囲には二体の分身の俺が控えてもしもの事態に備えていた。
分身を消したり出したりしながら、ああでもない、こうでもない、と実験を繰り返す。
なんの実験かというと、分身スキルの実験だ。
こうして二体の分身を自由に出していられるのは初めてに近いので、これまで確認できなかったことを確認しているのだった。
アインとしてコルニ村にいた最後の方も分身含めて俺が三人いたが、フィーネの目があって好きに実験ができなかったのである。
とはいえ、やっていることは半ば確信していたことの再確認に近い。
たとえば、分身が消滅した際、もう一体の分身が出たままの場合はその記憶が共有されるのかどうか。
あくまでも分身が消えた際にその記憶が共有されるのは本体の俺だけで、出ている分身はそのままだった。つまり俺たちがゼルクトの街で一年間過ごしてきた記憶や情報は、聖都に行ったアインには一切共有されていないということになる。
そんな感じで、これまで疑問に感じたことを実際に確かめてみて解消していくが、今日の主目的はそれだけではない。
「じゃあ、そろそろ今日の本題に移ろうか」
俺は袋に入れておいたマジックアイテムを取り出した。
植物の種にも見える黒い小さな宝石。
死神の種、デスシードと呼ばれるマジックアイテムだ。
「使用することで持ち主に寄生し、黒騎士に変貌させる稀少なマジックアイテム。これの実験を行おうと思う」
俺の言葉に、二人の分身がごくりと唾を飲み込む。
「宿主の寿命を吸い取る代わりに力を与える、曰くつきのマジックアイテム」
「分身スキルを持ってる俺たちに、是非使ってくれといわんばかりのアイテムだな」
「そう、使えるならこれを使わない理由がない」
前々からの課題ではあったが、イライザとの戦いで改めて浮彫になった弱点。
「俺には筋肉が足りてない」
「フレデリック先生のところで鍛えてはいるけど、こればっかりはすぐどうこうなるもんじゃないからな」
「で、それを補うためのデスシードか」
デスシードで黒騎士化することで、身体能力を上昇させられる。
分身できる以外はただの子供であるという弱点を補うことができるのだ。
「長期間使い続けると理性を失って暴走する危険があるらしいけど、使ってすぐなら人格面に問題とかは出ないらしい」
「けどこれまでの黒騎士は全員、狂って暴れまわったのちに寿命を使い果たして死んでるみたいだからな。ちょい怖いぜ」
「けどそれは使用すると解除できないってデメリットの所為だろ」
「俺なら自爆で確実に死ねるから問題ないし、暴走することはないはず」
「やるか」
「やろう」
そういうことになった。
「とりあえず、実験の過程で壊れたりしたら困るし、分身で複製するか」
一体の分身を消し、デスシードを持った状態でスキルを使う。
「分身の術」
ぽんと現れた分身の俺は手のひらを広げ、あれという顔をする。
「デスシードが複製できてないぞ」
「本当だ」
もう一度試してみるが、やはりデスシードは複製されなかった。
分身時に複製されるのは、所持品判定がされているものにかぎる。たとえば、誰かを背負った状態で分身の術を使っても、背負った誰かまでは複製されない。デスシードもそういった除外品判定を喰らっているようだ。
「マジックアイテムは複製できないのか」
「たしかに、これまで試したことがなかったな」
「稀少なマジックアイテムだからじゃないか? 世界に一個だけしか存在しないって話だろ?」
マジックアイテムとは、主にダンジョンから発見される特殊な力を持った道具のことを指す。スキルと同じく、なぜそんな特殊な力を持っているのか、今の科学力では解明されていない代物の総称だ。
そもそもダンジョンからして、世界各地にある『
踏破することでどんな願いでも叶うなんていわれているが、誰が作ったのか、いつからあるのか、そもそも何階あるのかすらわかっていない。
マジックアイテムはそんなダンジョンになぜか設置されている宝箱、あるいはモンスターを倒すことで手に入れることができる。
上の階へ行けば行くほど発見されるマジックアイテムは稀少かつ強力なものになる傾向があり、デスシードもそうして発見され持ち帰られたマジックアイテムだ。
なお、一部のマジックアイテムは原理が解明されており、複製されて便利に使われていたりする。そういった複製、あるいは技師が新たに作り出したマジックアイテムは『魔道具』と呼ばれ、複製不可のマジックアイテムは『アーティファクト』と呼ばれて区分けされている。
ただし、魔導具も魔導具でエネルギー源となる電池代わりの『魔石』は、既存のマジックアイテムから抜き出して使ったり、ダンジョンのモンスターを倒したときに手に入るものに依存しているため、そういう意味ではまだ人類は一からマジックアイテムを作成することはできていないことになる。
「スキルで複製できないならしょうがない。これを使って試してみよう」
俺は分身の一人にデスシードを差し出す。
受け取った分身の俺は、うへっ、という顔をしてから、意を決して黒い宝石を飲み込んだ。
デスシードの使い方は簡単だ。飲み込んだあと、魔力を注ぐことで発芽させることができる。
「どうだ? 使えそうか?」
「あー、なんとなく自分の身体に異物があるのがわかるな。そこに意識を集中させて魔力を集めればいけそうだ」
この世界の人間はみんな魔力を持っているため、気合で発芽させることもできるみたいだが、ある程度魔力を知覚できる俺なら、意識を集中させるだけで問題なく使用できそうだった。
「じゃあ、やってみるか」
「了解」
念のため、もう一人の分身を消していつでも出せる状態で距離を取ってから、デスシードを取り込んだ分身の俺に合図を送る。
「行くぞ」
分身の俺は腰の横で拳をにぎり、はぁあああと気合を入れ始めた。
すると分身の俺の腹の部分が黒い輝きを放ち始める。それは木の根のように身体を覆っていく。
黒い光が全身を包み込んだかと思うと、ゴキゴキという骨が折れ、砕けるような音が鳴り響き始めた。同時に黒い光が膨らみ、先代の黒騎士のような巨躯なヒトガタを作り出す。
やがて光が消える。現れたのは、分厚い黒鋼によって全身を覆いつくされた黒騎士の姿だった。
「マジで変身なんだな」
黒騎士となった分身の俺は、自分の手や身体を興味深そうに確認する。
目元もバイザーで覆われており、紫色の瞳をしっかりと確認することもできないが、ちゃんと見えているらしい。
「おーい、大丈夫か?」
「フッ、問題ない。むしろ力があふれてくるぜ」
分身の俺はおもむろに拳でジャブを放ち、蹴りなどをしつつそう答えた。その声は声変わりしたように、俺よりもいくらか低くなっている。ただ身長が伸びたというよりは、そこまで無理やり成長したという感じのようだ。
身体能力も問題なく上がっているようだ。拳の鋭さや蹴りの威力が段違いに鋭くなっている。身体が一気に成長したことで手足も長くなっており、普通ならバランスを保つことも難しいはずなのだが、問題なく自分の手足として自由自在に操っている。これも黒騎士化の恩恵なのだろうか。
「暴走の予兆はあるか?」
「いや、大丈夫だ。ちゃんと自分が自分であることを自覚できてるし、本体のことも本体だと理解できている」
「そうか」
分身の俺に近づく。
間近で見上げる黒騎士は、分身だというのに俺ではないようだった。
「完全に大人の身体つきになってるな。変化するときすごい音がしてたが、痛みとかは?」
「なかった。腹の中の種がふくらんでいって、気が付いたらこうなってた感じだな。まさに変身って感じだ」
「身体能力は、確認するまでもないか」
「ああ。今の俺ならシスティー先輩でも倒せそうだ」
「ひととおり安全確認ができたら、一度模擬戦を挑んでみるか。先輩もたまにはスキル有りで戦ってみたいだろうし」
システィー先輩は奪われた自身のスキルを取り戻したことで、この街最強と呼ばれていた頃の戦闘能力を取り戻している。冒険者として依頼をこなしているが、ブロンズランクではそうそう全力で戦う機会があるはずもなく、少しフラストレーションがたまっているようだった。
ゼルクト伯爵家を辞したあとも、俺と同じくシュクラ流の道場に通い続けているし、強さに貪欲なのは変わりない。模擬戦の誘いにはきっと喜んでくれるだろう。
そのためにも、デスシードの安全性を確保したい。
「身体能力より先に、解除できるかどうかだな」
「予想してたけど、自力解除は無理だなこれ。デスシードの本体が心臓に移動して一体化している感覚はあるんだが、死ぬ以外で引きはがすのは無理そうだ」
「ちょっと待ってくれ。解除を試してみる」
分身の解除を試みるが、黒騎士となった分身は消えない。
視界を遮られたときと同様に、なにかに弾かれている感覚がある。
「ダメだな」
「ならここは」
「自爆魔法、の出番のようだな」
再び分身の俺から距離をとる。今度は先ほどよりも遠く離れた。
「じゃあ、分身さ~ん! いっちょお願いしま~す!」
「エル サルハ グラム ケルセルフ」
手を大きく挙げて、変化した声で分身の俺が詠唱を唱える。
「使えたかー!?」
「問題なーい!」
「じゃあよろしくー!」
「はーい! とりあえず、通常威力でいっきまーす!」
分身の俺が光り輝く。
いつもの目を灼くほどの光ではなく、黒甲冑のほんのわずかな継ぎ目からレーザーのように光を放ちながら、内側から爆ぜて分身の俺は自爆した。
「うぉっ!」
すぐ横をすさまじい勢いで通り抜けていった黒い金属片。黒騎士の甲冑だったものに恐れおののいたあと、ドキドキしながら分身がいた場所を見る。そこにはいつもよりも遥かに小さい破壊痕だけを残し、爆散した様子があった。
肉体を爆弾に変えるため、外から身を守るための黒甲冑が、逆に内側からの爆発を抑える役目を果たしたのだろう。
結果としては散弾銃のように破片をばらまくことになったのだ。
これはこれで破壊力はあるようだが、想定していなかったのでびびってしまった。
しかし実験は問題なく終わった。
自爆した分身の記憶はすでに共有されている。どういった感触で変身していったのかも理解できた。最後の分身魔法も、いつもと同じように発動できていた。
分身の俺がいた場所に近づくと、焦げた地面の上にデスシードが転がっていた。
表面がやや煤けていたが、傷や破損はない。超至近距離で自爆魔法が炸裂したというのに、大した頑丈さだ。黒甲冑も壊れる前に飛び散ったとはいえ、自爆魔法の破壊力を受けて原型を保っていたし、防御力はピカ一といえよう。
「とにかく、自爆魔法で黒騎士化の解除ができることがわかった。デスシードも無事で繰り返し使用可能。俺にとっては、まさに変身アイテムってわけだ」
いい拾い物をしてしまった。今は亡き簒奪者に感謝!
よし、じゃあ次は最小の威力の自爆魔法でもちゃんと解除できるかを試して、それで問題なかったら性能テストに移るとしよう。
ひととおり済んだら、システィー先輩に模擬戦を挑むか。
ふっふっふ。ついに実力であのメスガキをわからせてやる日が来たようだな。
というわけで、翌日。
伯爵からの依頼もなかったため、俺とシスティー先輩は人気のない場所まで二人でやってきていた。
「ドラちゃん、こんな街から離れた場所まで連れてきてどうしたの?」
二つ返事で付いてきてくれたシスティー先輩は、髪の先を指でいじりながら、ちらちらとどこか恥ずかしそうにこちらを見てくる。
「なに、先輩にちょっとお願いしたいことがあってさ」
「私にお願い? こんな人気のない場所で?」
システィー先輩は頬を赤らめる。
「えっ? もしかして、そういうこと? で、でも、初めてはさすがに屋内がいいというか。あ、でもドラちゃんの気持ちはわかるよ? 家だとリリエッタがいるし、セリカが訪ねてくる可能性もあるもんね。たしかに、ここなら誰に邪魔されることもないと思うけど」
なんか勘違いしているみたいだが、面白いから黙って見つめておく。
「い、嫌ってわけじゃないよ? けどほら、雰囲気ってあるじゃない? それとも、お前みたいな奴隷にはこんな場所がお似合いだってこと? そ、そういうことなら私としてもやぶさかじゃないけど」
「システィー先輩」
「ひゃ、ひゃい。……や、優しくしてください」
ぷるぷると身体を震わせ、耳まで真っ赤にして目をつむるシスティー先輩。
その前で、俺は無言で変身する。
アイアム分身。デスシード取り込み済み。準備オーケー。
「へ?」
ゴリゴリボキボキという変身音で目を開けたシスティー先輩は、黒い光と共に変化していく俺を見て呆然と目を見開く。
「え? ドラちゃん、なにやってるの? それ、デスシード……使ったら死んじゃう奴」
「システィー先輩。俺はね、男なんだ」
声変わりした声で俺は言った。
「一人の男として、先輩に勝たなきゃいけない。そのための力が欲しかったんだ」
ぱくぱくと口を開け閉めするシスティー先輩に、俺はくいくいと手でかかってこいと合図を送る。
「さあ、戦おう。今日こそは俺が勝ってみせる!」
寸止めされた怒りを力に変えてかかってこい。
今日の俺は一味違うぜ。
「行くぞ!」
滅茶苦茶泣かれました。