分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね? 作:sasarax
「サイテー! ドラちゃんサイテー! サイテーだよ!」
「はい、おっしゃるとおりです」
涙目でぽかぽかと胸元を叩いてくるシスティー先輩を、俺は正座しつつされるがまま受け入れる。システィー先輩を悲しませるつもりはまったくなかったのに、やらかしてしまった。
冷静に考えて、命の危険があるアイテムをいきなり使ったら驚かれるよな。なぜそんな簡単な事実に思い当たらなかったのだろう。
「大丈夫なら最初からそう説明しておいて! なにも言わずにデスシードなんて使わないでよ!」
「返す言葉もありません」
「あと私の乙女心返して! あの状況と雰囲気なら、そういう展開になると思うじゃん!」
「いやそれはシスティー先輩がむっつりなだけだから。セリカに影響されてるよ」
「!?」
そんな驚きの顔されても。いきなり野外でおっぱじめるわけないだろ。なに考えてるんだ。
「この変態め」
「ち、違う! わ、私はその、ドラちゃんのもの……だし」
つんつんと恥ずかしそうな顔で指と指を突いて、
「もう一緒に暮らしてるんだから、そろそろ次の段階に進んでもいいかなって思っただけだし」
「だからって外はないだろ」
「家はリリエッタがいるから無理じゃん」
ぷいっと横を向くシスティー先輩。その膨らんだ頬を軽く突っついたあと、俺は立ち上がった。
「とにかく、俺は分身だからデスシードの呪いの影響はない。問題ないから、模擬戦に付き合ってくれ」
「いいの? 今の私すごく機嫌が悪いから、手加減なんてできないよ?」
「ああ。是非ともお願いしたいね」
俺がそう言うと、システィー先輩は好戦的な笑みを浮かべた。
腰の剣を引き抜く。紛れもない真剣だ。さらに刀身が雷光を帯びていく。
俺の方も剣を持ってきているが、加減がきかないのでさすがに使わない。システィー先輩に怪我させるわけにはいかないからな。
自然とお互いに距離をとり、向かい合う。
「行くよ、ドラちゃん。負けたら私のいうこと、なんでもひとつ聞いてもらうからね?」
「ならこっちも同じ条件だ。負けたらすごいことをしてもらうぜ」
「す、すごいこと……の、望むところ!」
システィー先輩が雷光と共に突っ込んでくる。それに対し、拳を構えて迎え撃つ。
スキルを使ったシスティー先輩の動きを、今までの俺は目で追えなかった。しかし今日は違う。強化された身体は、問題なくその動きを追えている。
システィー先輩の稲妻のような突きを、余裕をもって避ける。
それで彼女の顔つきも変わった。動きがさらに速くなり、フェイントも混ざった刃が死角から放たれる。
その攻撃を避けずに胴体で受け止める。
刃は甲冑に突き刺さるが、その下の肉にまでは届かない。
「雷光!」
ならばと刃を通じて雷を流し込まれる。軽い痛みとしびれ。だが身体が動かなくなるほどじゃない。
拳を振るう。
「うそっ!?」
これにはシスティー先輩も驚いたようだった。剣を抜いて、慌てて回避する。
距離をとったところで、雷槍を作り出して放って来た。強化された動きでも、稲妻の速度で迫ってくる一撃は避けきれない。一撃、二撃ともらってしまう。
だが――問題ない。
「ちょ、人間の防御力じゃないでしょそれ!?」
攻撃で甲冑に傷はつく。しかしそれは時間経過ですぐさま直ってしまう。
イライザとの戦いのときに黒騎士の力は見ていても、システィー先輩は実際には打ち合っていない。防御力に対する実感が足らなかったのだろう。
システィー先輩の雷光スキルは、本来なら人間に対して特攻とも言っていい殺傷力を持つが、黒騎士の防御能力はもはや人外の領域にある。雷のダメージはほとんどない。
「どうだ先輩? 俺の新しい力は?」
「ちょっとずるくない?」
「ずるくないよ?」
鍛えた力ではない。けれど、身体を張って手に入れた力だ。
「さぁて、次はこっちから行こうかな」
「生意気!」
システィー先輩はよりスキルの力をあげてくる。
俺は甲冑の下でにやりと笑いながら、それを真正面から粉砕していくのだった。
数分後。
雷光スキルの充電が切れたシスティー先輩にマウントポジションを取ったところで、模擬戦は終了した。
「はい、俺の勝ち。先輩の負け」
「ぐぬぬ……相性が、相性が悪すぎる」
俺に組み伏せられた状態で力なく倒れながら、システィー先輩は悔しそうな目を向けてくる。
「ねえねえ、先輩。ついに俺に負けてどんな気持ち? ねえ、今どんな気持ちなの?」
これまで散々煽られてきたお返しとして盛大にそう煽れば、悔しそうな顔から一転、システィー先輩は清々しい笑みを口元に浮かべた。
「あーあ、ついにドラちゃんに真正面から負けちゃったか。予定よりずっと早かったけど、うん、負けちゃったものはしょうがないね」
「おっと予想外の反応」
システィー先輩のことだから、負けたら盛大に悔しがると思ったのに。
「それで、ドラちゃん。負けたら私にすごいことするって言ってたけど、どんなことしちゃうの?」
素直に負けを認めた先輩は、身体から力を抜き、なんでも受け入れるような体勢をとった。
激しい戦いを続けたことでその顔は上気し、服装にも乱れがあった。
大人しく男に組み伏せられた様は、まるで寝所で初夜を受け入れるいたいけな乙女のようだった。
「負けちゃったからね。なんでもしていいよ? どんなことでも、受け入れてあげるから」
潤んだ瞳。切なげな吐息を漏らす唇。
一言でいうなら――そこはかとなく色気があった。
俺の先輩が、とてもえっちだった。
これは誘われている。男を野獣だと理解しながら、据え膳を差し出されている。
周囲を見回す。激しい戦いだったにもかかわらず、周囲に人影はない。
邪魔するものは誰もいない。
予定外ではある。だがしかし、ここで逃げるのはさすがに男としてダメだろう。と心の中で言い訳をしてしまうが、ぶっちゃけ我慢できないだけである。
率直にいってムラムラしている。俺、かつてないほどにムラムラしています!
システィー先輩が目をつむった。
誘われるように俺は顔を近づけていき、
「あいたっ」
こつん、と唇より先に先輩の額にヘルメットが接触した。
「ちょ、ドラちゃん。ここに来てそういうことする? そういうことしちゃうの?」
「あ、いや、今のは」
わざとではないんだけど、今ので冷静さを取り戻してしまった。
「ていうか、このヘルメット脱げないし」
「そうなの? じゃあ」
システィー先輩が俺の股間部分に向けられる。
「そこも?」
「……解除できませんねぇ」
システィー先輩が白けた顔をする。
「どいてもらっていい?」
「あ、はい」
素直に先輩の上からどく。
システィー先輩は何事もなかったかのように立ち上がると、自然とその場に正座していた俺を腕を組んで見下ろした。
「ドラちゃん。あんまり女の子に恥をかかせるようなことをしてたらね」
「はい」
「セリカと一緒に無理やり襲って搾り取るから」
「はい。肝に銘じます」
深々と頭を下げる。全面的に俺が悪い。
「うん。じゃあ、さっさとなにをして欲しいか言って」
「はい。今から自爆してこの甲冑を解除するので、デスシードを回収して持ち帰って欲しいです」
「ふ~ん。この状況でさらに自爆とかしちゃうんだ。それって別に今しなくてもよくない?」
「この姿は目立つので、できれば街中に戻る前に解除したいというか。あ、でも今の先輩を一人で放置っていうのはあれだから、街にもうちょっと近づいてからでも大丈夫です」
「それは別にいいよ。まだ私、全然戦えるから」
先輩は手からバチバチと雷光を迸らせる。
さすがは騎士をやっていただけはある。余力は残しているようだ。
「あの、はい。では自爆させていただきます」
「うん、見ててあげるね」
にっこりと微笑む先輩に見られながら、詠唱を口にする。
昨日の実験で破片をばらまかない最小規模の自爆でも問題なく死ねることがわかっていたので、俺は速やかに爆散した。
明らかにシスティー先輩は笑顔でカチ切れていたが、あとの対応は本体の俺に任せよう。
「いや任せるな」
分身からの記憶共有とともに、俺は思わずつぶやいてしまう。
システィー先輩の機嫌を損ねるだけ損ねてあとはお任せって、ああもう!
「あとなんかすごくムラムラする!」
記憶が共有されたことで、分身が最後に感じていた感情もいくらか共有されてしまった。
激しい戦闘の結果もたらされた性欲。システィー先輩にぶつけようとしてぶつけられなかった肉欲が、そのままフィードバックされてしまった。
デスシードによる黒騎士化。
俺にとってはかなり便利で心強い強化だが、扱いは慎重を期した方がよさそうだ。明らかに戦闘に伴う感情の高ぶりがいつもと違う。
「これをこれまでの黒騎士も感じていたっていうんなら、おかしくなるのも無理はないな」
分身の俺が性欲を感じていたということは、歴代の黒騎士もそうだったということ。しかし、一度デスシードを発動した人間はその性欲を解消することができない。延々とムラムラし続けることしかできないわけだ。
性欲がこの調子なら、残る三大欲求の食欲と睡眠欲も似たようなものだろう。
口の部分が塞がっているので、食べ物を摂取することができない。それでいて、生命活動には支障がない。正確には命を吸い取ってそれで生命活動をし続けているのだろうが、とにかく食の悦びというものを味わえなくなるということだ。
睡眠も眠らなくても大丈夫というのはよく聞こえるかもしれないが、休めるときに休めないのは苦痛だろう。
その上で、欲望の衝動のすべてが消えるわけがなく、我慢し続けるしかないというのなら……それはある種の拷問に等しい。
これを死ぬまで強いられ続ける。味わえるのは戦いの愉悦のみ。
歴代の黒騎士が我を失い、戦場を追い求めるようになってしまったのも仕方がないだろう。
デスシード――まさに人を狂戦士に変える、呪いのマジックアイテムだ。
慎重に使おう。
それはそれとして、本気のシスティー先輩に対抗するには使わないと無理ゲーなのだが、その彼女に種が渡ってしまっている。どうしようか。
とりあえず、一人で相対するのは無理だ。特攻兵器を探してこよう。
俺は下半身に集まった血がおさまるのを待ったあと、リリエッタを探すために自分の部屋を後にするのだった。
そんなやり取りを交えつつデスシードの実験を進めていく。
モンスターと実際に戦って見たりもしたので、性能実験は十分に行えただろう。
複製できないので分身の一人しか使えないとはいえ、ついに俺は近接戦闘で大抵の相手を圧倒する力を手に入れたわけだ。
逆に問題点としては、黒騎士状態では自爆魔法の威力が大きく減衰されるため、決め技にならないことがあげられる。黒騎士状態では、解除以外の目的で自爆魔法は使えないと思った方がいい。
どちらにせよ役に立つのは間違いないけどな。
誰に持たせておくかは状況によって選ぶとして、とてもよい拾いものといえよう。
そんなデスシードさんだが。
実験を開始して一週間経った頃、当然の結果というかなんというか。
壊れてしまった。
今日も今日とてデスシードを取り込んで変身したところ、なんかいつもと違う感覚があった。
なんといえばいいか、いつもはがっしりと甲冑で覆い隠され、ある種の閉塞感を感じるのだが、今日はそれがない。
「ふむ」
発芽のときとは逆の感じで、心臓と一体化したデスシードに魔力を注ぐのをやめる感じで力をこめる。すると全身を包み込んでいた黒甲冑が光の粒子となって解けていくではないか。
あとに出てきたのは生身の身体だった。肉体も変身前と同じように縮んでいる。変化といえば、心臓の部分の肌が黒くなり、周囲に黒い葉脈のようなものが奔っていることくらいだろうか。
この状態ではデスシードを使ったときのような身体強化の恩恵はないようだった。肌をつねれば普通に痛いし、指を舐めてみればほのかに汗の味が感じられた。
もう一度心臓のデスシードに魔力を供給すれば、再び光が包み込んで黒騎士形態に変身する。シャットアウトすれば、再び解除できた。
つまり本来であれば解除できないはずのデスシードを、任意で解除できている状態というわけだ。
なぜこんなことになったのか?
デスシードは形からして、持ち主の命を吸い取って力に変える寄生植物のようなマジックアイテムだ。すべてを吸いつくすまでは解除を許さない。
なのに俺は自ら自爆して解除しまくっている。代償ありきの力なのに、これでは俺が一方的にデスシードの力だけを借り受けているようなものだ。本来の用途では想定されていない事態だろう。
さらに一度のみならず繰り返し実行したことで、エラーかなにかを引き起こしてしまったようだ。
もう無理。解除できるようにするから、もう自爆は勘弁して。
そんなデスシードさんの心の声が聞こえてくるかのようだった。
「これ以上、変に実験しない方がいいかもな」
現状では逆に使いやすくなったまであるが、これ以上自爆に巻き込むと本格的に機能停止してしまうかもしれない。そうなっては本末転倒だ。
デスシードさんは大事に大事に使っていこう。
「ちなみに、デスシードさんよ。種を輩出することはできないの?」
心臓のデスシード本体は反応しない。さすがにそれは無理か。
この状態でもわずかずつではあるがなにかを吸い取られていく感覚はあるし、本体の俺では使えないな。
やはりあくまでもデスシードは分身の俺の専用武器として、近距離戦闘なら黒騎士化、遠距離戦闘なら自爆特攻、そんな風に差別化して運用していくのがよさそうだ。
あるいは。
「……使ったら死ぬことで有名な、呪いのマジックアイテムか」
先代の黒騎士の死にざまを見るかぎり、デスシードを使った人間の死体は残らない。つまり自爆魔法と組み合わせることで、いつでもどこでも俺は自然死を装えるということだ。
まあ、死を偽装するだけなら自爆魔法だけで十分かもしれないが、自爆は自爆で割とシチュエーションを選ぶからな。いきなりはい自爆しましたでは、疑問をたっぷり残す懸念がある。
デスシードを手放す形になってしまうとしても、それでも差し迫っている問題を解決できるのなら、そういう使い方もありなのかもしれない。
デスシードの実験を経て、俺の中で帝国対策にひとつの答えが出ようとしていた。