分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第79話  ドッペルゲンガー

「話は戻るのですが」

 

 アルフィリアさんが脇に逸れかけた話を本筋に戻す。

 

「ドライさんが帝国へ行こうというのであれば、わたくしは止めません」

 

「じゃあ、保護を強く進めてきたのはどうしてなんですか?」

 

「これは確定事項ではありませんが」

 

 そう前置きをした上で、

 

「帝国にベルフェゴルの魔の手が伸ばされている可能性があります」

 

「ベルフェゴルの魔の手?」

 

「はい。先ほども申し上げたとおり、ここ数百年は人類とモンスターの境界線は一進一退を繰り返している状態です。治癒魔法とそこから生み出されたポーションなどの革新的なアイテムのお陰ですね」

 

 正直、この世界の治癒魔法とポーション技術はすごいと思う。

 

 簒奪者との戦いだって、ゼルクト伯爵家の用意した面々は全滅したのに、死者は数えられるほどしかおらず、今はほぼ全員が全快してバリバリ働いている。まだ二カ月くらいしか経っていないのにだ。

 

 プリーストの数が少ないだなんて言われている現状でこれなのだから、人類とモンスターの戦いの上で、治癒魔法がどれだけの転換となったのかは想像に容易い。

 

「すべてはベルフェゴルの失態です。あのままじわじわと我々をなぶり殺しにしていれば、おそらくは今頃大陸のほとんどが奪われていたでしょう。ですが奴は人類を恨むがあまり、あせり、致命的な失敗をおかした。いい気味です」

 

 ベルフェゴルは今のアルフィリアさんがモンスターに向けるのと等しいくらいの憎悪を人類に対して抱いているのだろう。だから失敗し、今なお計画を練っている。

 

「それ自体はよいのです。絶滅領域の拡大を防いでいることも喜ばしいことですから。ですが……拮抗した状態で五百年。よくも悪くも、人類は今の状況に慣れてしまいました」

 

 のど元過ぎれば熱さを忘れるという奴か。アルフィリアさんの話によると、五百年以上前はもっと各国は協力しあい、助け合っていたという。

 

「いつ頃からでしょうか。人類はモンスターの脅威を忘れ、同じ人類同士で争いを始めてしまいました。教会が調停しても止まることなく、多くの国が滅び、その度に防波堤が崩れ、再構築するまでにじわりじわりと境界線を押し戻されてしまった」

 

 境界線は拮抗しているが、少しずつ絶滅領域は拡がっていた。

 

「その様を見て、ネル様は聖都を訪ねてきた各国の要人との面会すらも断るようになってしまいました。わたくしも、最近まで積極的に外の世界と関わることを避けていたのが実情です」

 

 国同士の争いには不介入。そう決めて、六聖教会の指導者たちは静観を選んだ。

 

「それが教会内の腐敗にもつながってしまったことは、わたくしたちの不徳と致すところです。今は正している最中になりますが、その過程でベルフェゴルが人間社会に伸ばしていた毒の存在に気が付きました」

 

「毒?」

 

「ベルフェゴルは人類への憎悪を隠すことを覚えたようです。人の社会に手を伸ばし、密かに自分を支持する一派を作っている。いわゆる、邪教という形で」

 

「それが帝国内にいると?」

 

「未だ組織の名前もわからない者たちですが、今ある情報から推測すると、帝国に身を潜めている可能性は高い」

 

 改めて、アルフィリアさんは俺を見た。

 

「あなたは【永遠の騎士団】の新たな主。ベルフェゴルは【輝ける槍】の担い手と勘違いしていましたが、そう遠くないうちにフィーネさんの存在まで辿り着くでしょう。そうなれば、ベルフェゴルはズィーベンと名乗った人間は何者なのだと考えるはず」

 

「帝国にベルフェゴルの協力者がいた場合、そこから俺のスキルがばれて狙われるかもしれないってことですか」

 

「帝国で暮らすようになれば、あなたの命が狙われる恐れがあります。あの国は物理的にも精神的にも、教会との距離が遠い国ですから、我々が守るというわけにもいきません。わたくしとしては、そうなる前にあなたを教会で保護したいと考えています。どうでしょうか?」

 

 アルフィリアさんの考えは理解できた。

 

 帝国。ただでさえ次期皇帝の選出で面倒なことになっているのに、さらにはベルフェゴルの魔の手まで伸びているかもしれないとは。まさに内憂外患だな。俺が思っていたよりも、帝国という国はガタガタなのかもしれない。

 

 そこに将来全部をかけるのは、やはり選択肢としてはなしだな。

 

 しかしながら、教会に全部を預けるのも避けたい。理由は前に考えたとおり、アルフィリアさんの最終的な目的がわからないからだ。

 

 いっそのこと聞いてみるか。いやでも、俺の隔意にも気づかれてしまう。

 

 この状況下で聞くべきではないか。

 

「教会で保護してもらえるのは助かります」

 

「では」

 

「だけど、それって逃げるってことじゃないですか」

 

 アルフィリアさんの話を聞いた上で、俺は自分の考えを述べた。

 

「前々から、自分の出生が厄介事になるのはわかってました。こんな大事になるとは思ってませんでしたし、こんなにも早く降りかかってくるとは思ってませんでしたが」

 

「そうですね。わたくしも、あなたにはもっと世界を知ってほしかったのですが」

 

「そうです。俺はもっとこの世界のことを知りたいんです」

 

 教皇ネルの献身についても俺は知らなかったし、防波堤の意味するところも知らなかった。

 

 この世界の今ある平和の儚さにも考えが及んでいなかったし、六聖教会の役割についてもあやふやだった。

 

 知らないことだらけだ。知りたいことだらけだ。

 

「帝国には行きません。でも、教会に逃げ込んで隠れ続けるのも嫌です」

 

「ではどうするおつもりなのですか?」

 

「賭けに出ます」

 

「賭け?」

 

「ええ。もしかしたら自分の首を絞めることになるかもしれませんが、上手くいけば全部を丸っと終わらせられる賭けに出ようと思います」

 

「それは一体?」

 

「簡単にいえば――皇帝たちの前に出頭した上で、死を偽装します」

 

 これが前々から考えていたひとつの選択肢だった。

 

「俺の行方がわからないから探されてる。俺の素性がわからないから探られてる。ならいっそのこと、こちらからすべてを明かしてしまえばいい。もちろん、分身スキルのことだけは隠して。その上で誰の目から見てもわかる形で死んだことにすればいい。そうすれば」

 

「それ以上は探られないで済む、ということですか」

 

「まだ俺の情報が伝わりきっていない今なら、こちらから勘違いさせることも可能だと思うんです」

 

 アルフィリアさんは俺の言葉に考え込む。

 

 もちろん、この計画は逆効果になる可能性はある。俺の素性を一度晒すのだ。顔などは覚えられてしまう。

 

 ただ俺は子供で成長期だ。五年もすれば大きくなり、顔つきだって変わるはず。

 

 死んだという前提があれば、たとえこの先どこかで顔を見られたとしてもばれずにいられるかもしれない。

 

「正直にいうと、これ以上帝国の問題に巻き込まれるのも迷惑なんです。なのでできれば、ここで一気に片をつけたい。そのための一芝居を打とうと思っています」

 

「帝国には鑑定スキルを持つ第三皇子もいますが?」

 

「だから最初から分身単体で乗り込もうと思います。アルフィリアさんも、分身の俺をスキルで確認したときは分身スキルのことがわからなかったじゃないですか」

 

「鑑定はわたくしの診察スキルよりも、スキルを見抜く能力は上です。もしかしたら、分身からでもスキルを追えるかも」

 

「いえ、鑑定スキルにも限界はあると思います。ぱっと見はスキルの有無と、あった場合は詳細しかわからないはず。簒奪者が使ってきましたが、俺のスキルのことをより知ろうとしたときは、血の涙まで流して全力行使をしていましたから。そこまでされなければばれないと思います」

 

「……かの皇子は帝国では重用されている。たしかにスキルがないと一度判断した相手を、命を削ってまで深く見ようとする可能性は低いと思います」

 

「行けると思いますか?」

 

 アルフィリアさんは首を縦に振った。

 

「分身スキルの存在は、さすがに想定していないと思います。なにせ千年近く使い手の現れなかった六聖ですからね」

 

 あ、そうなんだ。フィーネの槍は何度も歴史上に使い手が現れたみたいだけど。

 

「であれば、死ねばそこで終わりと考えるはず。唯一の懸念は、死んだときに死体が消えてしまうことですが」

 

「そこは上手いことタイミングを見計らって、自爆をする流れに持っていきますよ」

 

 なにも帝国に行ってはい自爆というわけじゃない。

 

 ユーヴェインが俺のことをどう考えているのかとか、そういうこともある程度把握してからじゃないと安心できないしな。しばらく帝国で過ごした上で死ぬ予定だ。黒騎士装備もあるし、偽装は上手くいくと思われる。

 

「スキルの情報を隠すのに協力してもらってるんです。ついでにできるかぎり、帝国に潜んでるかもしれないベルフェゴルの協力者のことも探ってきますよ」

 

「それはありがたい申し出ですが……もうすでに決意は固めているようですね」

 

「はい。実は仲間と何度も話をして、こうしようと決めていました」

 

「そうですか。少し残念ですね。わたくしは今日、あなたたを聖都に連れ帰るつもりで来たのですが」

 

 アルフィリアさんは困ったように微笑むが、俺の選択を否定はしなかった。

 

「わかりました。こちらもその作戦に協力しましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、いい作戦だと思います。まさに分身スキルの持ち主でしか考えつかない作戦ですね」

 

 たしかに。相談したセリカとシスティー先輩も、自爆前提の作戦にドン引きしてたしな。

 

 それでもみんなとの生活を守るためだと説得したら、身体をくねくねさせながら納得してくれた。

 

 問題は、一人だけ納得してくれなかったリリエッタなのだが。

 

 彼女の場合、俺がどうこうというよりも、帝国とこれで完全に縁が切れてしまうことに対して拒否感があるようだった。

 

 前にも一度話をしたのだが、リリエッタにとってはユーヴェインを初めとした皇族たちも自分の兄姉という意識があるのだ。俺にはよく理解できないのだが、会ったこともない相手を血のつながった兄弟、自分の家族であると認識している。

 

 今回の作戦は、リリエッタにも選択を迫る形になってしまうかもしれない。

 

 このまま俺たちと一緒に暮らすのか。

 あるいは、この機会に皇族として名乗り出るのか。

 

 その場合はどうしようか。リリエッタの意思は慎重したいが、ずっと一緒にいてあげることはできないだろう。できて彼女の立場が落ち着くまで、自爆するタイミングをずらす形になるだろうか。

 

 まあ、自爆するのはあくまでも今の結論であって、もしかしたら帝国に行ってみたら俺の考えも変わるかもしれないしな。

 

 もしかしたら居心地がいいかもしれないし、分身スキルへたどり着かないようにコントロールできるなら、一人くらいは帝国で皇族をやっている自分がいても悪くないかもしれない。皇子様扱いなんて、普通は望んでもできないわけだし。

 

 なんてな。

 

 まあ、そこはリリエッタ次第だ。もう一度、しっかりと話し合おう。

 

「じゃあ自爆した場合は、そのあとの動きの確認をカインズさんに任せる形で」

 

「そうですね。カインズが適任でしょう。あとは帝都まで送り届けるための護衛も必要ですね」

 

「護衛ですか。必要ならこっちで誰か冒険者を雇いますけど」

 

「事が事ですので、信用できる人間の方がよいでしょう。手の空いているパラディンは……いませんでしたね」

 

 パラディンって教会内に六人しかいない最上位騎士だったような。

 

「そんな目立つ人は連れていけませんよ」

 

「ですよね。例の組織も刺激しかねませんし……そうですね、帝国で主に活動しており、教会と懇意にしている冒険者がたしか近くに来ていたはずです。彼女に声をかけますので、出発はそれまで待ってもらえますでしょうか?」

 

 そうやって、アルフィリアさんと作戦を詰めていく。

 

 カインズさんにはまた骨を折ってもらうことになるが、事情を色々と知って協力してもらえそうなのは彼しかいないのでしょうがない。

 

「はい。これなら上手くいくとわたくしも思います」

 

 最終的に、アルフィリアさんも納得する形で話し合いは終わった。

 

「ただ、別の意味でドライさんの今後が心配になってきました」

 

「と言いますと?」

 

「自分の死を軽く扱ってるように見えることですよ。わたくしと以前した約束、覚えていらっしゃいますか?」

 

「あまり自爆魔法は使わないようにってあれですよね」

 

「はい。どうにも守っているようには見えなくて」

 

 そうですね。守ってないです。デスシードを調べるのに結構自爆したし。

 

「……あまり守れていないかもです」

 

「やっぱり。始祖様もそうだったと聞いています。分身なら死んでも問題ないからと、平然と自分自身を囮に使ったり、自分の命を蔑ろにする節があったと」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。分身スキルの弊害のようなものでしょう。自分の命の価値と一緒に、自分自身の価値も低く見積もってしまう」

 

「そんなことは……」

 

 ない、とは言い切れないかもしれない。

 

 この前のシスティー先輩の前でデスシードを平然と使ってしまったこともそうだし、その前の実験からしてそうだ。

 

 分身の自分とはいえ、最初に死んだときにはあれだけ衝撃を受けていたのに、今となってはなんの感慨も抱いていない。

 

 命というものの価値が、自分の中で小さくなっている。

 

 思えば、最初は自分がそうなっている自覚もあったのに、いつ頃からか、考えることすらなくなっていた。

 

「分身スキルを扱う以上、それは無理からぬことなのかもしれません。ですが、これだけは覚えておいてください。たとえ分身のあなたであろうと、あなたの死を悼み、傷ついている人はいるのですよ」

 

 アルフィリアさんの真摯な言葉に、胸をつかれる。

 

 いつだったか、セリカにも似たようなことを言われたな。ちゃんと自覚しなさい。そう叱られた覚えがある。

 

「……すみません。無自覚でした。治せるかどうかはわかりませんが、悪癖だと認識して自戒します」

 

「それがいいと思います。死に慣れ過ぎてしまっては、始祖様のように」

 

「勇者ハルルカンのように?」

 

「いえ、その」

 

 アルフィリアさんがそこで言葉を濁すように、冷めてしまった紅茶のカップを持ち上げる。

 

 俺は簒奪者の残した例の言葉を思い出した。

 

「ホムンクルスを出現させてしまう、ですか?」

 

 アルフィリアさんがその手からカップを落とした。

 

 床に落下し、カップが割れて破片が飛び散る。

 それには一切視線を向けず、アルフィリアさんは愕然とした表情で俺を見ていた。

 

「それを、それを一体どこで……!?」

 

「いやその」

 

 想像よりも遥かに本気の動揺を顔を出しているアルフィリアさんに、こちらもうろたえてしまう。こんなアルフィリアさんを見たのは初めてだった。

 

 彼女はテーブルの上に身を乗り出すと、両手で俺の頬に触れる。

 

「まさか、あなたもホムンクルスを出現させてしまったのですか!?」

 

「いえ、そういうわけじゃないです。ただ存在しない自分って奴を、簒奪者がホムンクルスって呼んでいたのを聞いて」

 

「簒奪者が?」

 

 アルフィリアさんが訝し気な顔をする。

 黙っているわけにもいかなかったので、イライザとの最後のやりとりを伝えた。

 

「そう、ですか。鑑定スキルで……過去を追想するほどスキルの根底を見透かすことができるとは、わたくしも知りませんでした。いえ、あるいは死に際だったからこそでしょうか」

 

 少しだけ落ち着きを取り戻したアルフィリアさんは、魔法でさっと破片を片付けると、椅子に座り直して考え込む。

 

「ホムンクルスって、そんなにやばい存在なんですか?」

 

 核心に迫る問いかけをすると、アルフィリアさんは迷う様子をみせた。

 

「人工の天使、みたいなニュアンスを含んでいたような気がするんですけど、分身スキルで勇者ハルルカンはそんなものを生み出してしまったんですか?」

 

「……本当に天使であればどれだけよかったか。その呼び名はある種の比喩表現にすぎません」

 

 核心部分には触れることなく、アルフィリアさんは説明してくれる。

 

「天の御使いとして、六聖教会の聖典よりも旧い神話に描かれた天使という存在は、神の使いであるがゆえに例外なくスキルを持っていたとされています。ホムンクルスもまた、生まれながらに普通の人間では持ちえないようなスキルを有しているため、そういう風に呼称されることもあったというだけです」

 

 天使だからスキルを持っているのではなく、スキルを持っているから天使と呼ばれているということか。

 

「そう、スキルとは神の恩寵に他なりません。なぜならば、生まれた瞬間に授かっているものだからです。スキルを与えているものがいるとすれば、それは神としか表現し得ないでしょう。人であれモンスターであれ、あるいはそれ以外のなんであれ、神は等しく気まぐれに、その生を祝福してスキルを与えるのです」

 

 アルフィリアさんのその言葉に、俺はピンときた。

 

 俺の分身スキルで出した分身を、その瞬間に産み落とされた新たな命と仮定するならば。

 

 死の先――すなわち、神の領域に足を踏み入れかけてしまったからこそ、授かってしまう恩寵があるとするならば。

 

「つまり、分身スキルが生み出しかねないホムンクルスってのは」

 

「本体とは異なるスキルを持って生まれてきてしまった個体のことです」

 

 ゆえに、人工の天使。

 

「ネームドモンスターが、通常の個体とは異なる怪物として扱われるように。そして人化スキルを持って生まれたベルフェゴルが、普通のモンスターとは異なる思想をもって人類を滅ぼそうとしているように。ホムンクルスは手にしたスキルの影響で、あなたとは別の意思、別の思想をもって行動するでしょう」

 

 かつて俺は確信したことがある。

 

 分身体(おれ)は決して本体(おれ)を裏切らない、と。

 

 存在しない自分、ホムンクルスとはつまりその例外に位置する分身体。本体である俺を本体だと認識しない俺のことだったのだ。

 

 だからこそ、かつてアルフィリアさんが語ったように、本体を死に追いやる行動すらもハルルカンのホムンクルスは取ったのだろう。

 

 ドッペルゲンガー。遭遇したら死んでしまう、もう一人の自分。

 

 前世の都市伝説を思い出し、俺は背筋が寒くなった。

 

「本来なら、ホムンクルスのことは話すつもりはありませんでした」

 

 アルフィリアさんが気まずい顔で告げる。

 

「分身スキルの強みとは、自分を作り出すこと。絶対的に信頼のおける存在を生み出すことです。ですがホムンクルスの情報は、そのノイズとなってしまう」

 

「ですね。ちょっとスキルを使うのが怖くなりました」

 

「もしかしたら、それくらいでちょうどいいのかもしれませんが……安心してください。前に話したとおり、ホムンクルスが誕生するのは極小の確率の話でしかありません。短時間で死に続けなければ、生まれることはありませんので。それに……」

 

「それに?」

 

「……いえ、なんでもありません」

 

 アルフィリアさんは迷ったのち、続きの言葉を引っ込めた。

 

 まだなにか、ホムンクルスについて隠している事実があるようだ。

 

 アルフィリアさんの口ぶりからして、間違いなく勇者ハルルカンにもホムンクルスがいたようだから、おそらくそいつとなにかあったのだろう。

 

 かの救世主を死に追いやり、モンスターを駆逐する一歩手前で聖戦を頓挫させた、人類にとっての裏切り者と呼べる存在。

 

 そんな者がいたとするのなら、果たして簡単に死ぬだろうか?

 もしかして今もなお、そいつは生きているんじゃないだろうか?

 

 もしも生きていたとしたら、それは今どこにいて、人類の状況を見て一体なにを考えているのだろうか?

 

 かつての勇者の影法師。その――恐るべき化け物(ドッペルゲンガー)は。

 

 

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