【受賞・書籍化】分身スキルの最強戦術って自爆特攻じゃね?   作:sasarax

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第92話  パトリシアの覚悟(後編)

《別視点》

 

 調査を始めて二日目で、リリちゃんの行方を突き止めることができた。

 

 他のメイドが着ているものと同じ、フリルのたくさんついたエプロンドレス姿でメイドをさせられていた。怪我は見当たらなかったが、出てきたのがナターリアの部屋からだったのがいただけない。

 

 他のメイドに付き添われつつ、首元を押さえながら青白い顔でふらふらと廊下を歩いていく後ろ姿を見れば、彼女が昨夜のお母さんのように血を吸われたのは一目で理解できた。

 

 リリちゃんは三階の隅にある部屋まで連れて行かれた。

 

 入室の隙に中の様子を確認すれば、あたしが過ごしているのと同じ小さめの部屋であることがわかる。中に他の人の姿はない。リリちゃんの一人部屋のようだった。

 

 付き添っていたメイドは扉を閉めると、鍵をかけることなく去っていった。

 

 まるでそんなことをしなくても、逃げる心配などないかと言わんばかりに。

 

 ……やっぱり洗脳されてるようですね。

 

 ナターリアの血属スキルの支配下に置かれている。そう考えて間違いないだろう。

 

 力づくで連れ去ることは可能だが、その途中で叫ばれでもしたらお終いだ。今はまだそのときではない。内心でナターリアへの怒りを覚えつつも、この場はリリちゃんをスルーするしかなかった。

 

 

 

 

 

 そこからさらに二日ほど調査を続ける。

 

「帝都にいる仲間から連絡が来た。件の聖女が皇帝陛下を訪ねてきたらしい」

 

「本当か? 用件は?」

 

「帝国内で人の捜索をさせてもらえないかという内容だったそうだ。十中八九、フィアーとリリエッタを探しているのだろう」

 

「想定よりも動きが早いな。しかし、本人が直接乗り込んできてくれたのはありがたい」

 

「ああ。ナターリア様も同じ考えだ。ここに二人が滞在していることは、クインシア殿が手紙で知らせているらしい。待ち構えていれば、遠くないうちにこの街を訪ねて来るそうだ」

 

「いよいよというわけだな」

 

 見えない密偵がいるなんて想像もしていないらしく、平然と三階の住人たちは機密をばらしてくれた。ピンポイントで知りたい情報を口にしてくれるわけではないが、今のナターリア一派にとって最優先事項はフィアーさんのことらしく、多くの情報を落としてくれた。

 

 そこから得られた情報をまとめると、ナターリアの狙いは以下のようだ。

 

 最終的な狙いは六聖教会の癒しと黄金の聖女アルフィリアだった。彼女を血属スキルの支配下に置くことで、その権威をもって教会内を掌握し、自身の皇帝継承を絶対のものにするのが目的だ。

 

 皇位継承戦の真っ最中であるナターリアは、元々教会に目をつけていたらしい。

 

 皇子皇女らの中で第三位の勢力を誇る彼女であるが、上二人に比べればその権勢は大きく劣る。その差をひっくり返すためには生半可なものでは不可能。そこで帝国が距離を取っている教会を取り込もうと考えたらしい。

 

 血属スキルを持つ彼女ならそれが可能だ。お母さんを含む、帝国内の教会に近しい人間を秘密裏に洗脳し、その伝手をたどって少しずつ司祭や聖堂騎士を取り込んでいったようだ。

 

 その仕上げとして教会内の重要人物を狙っていたようで、そこへもたらされたのがお母さんからの情報だった。

 

 即ち、アルフィリア様から護衛依頼を受けたという情報だ。

 

 フィアーさんとリリちゃんの二人がアルフィリア様にとって大事な存在であると知り、ナターリアはお母さんに二人を確保するように指示と兵を出した。それがあの襲撃だったわけだ。

 

 作戦は半分成功に終わり、半分失敗に終わった。

 

 邪魔だったカインズさんを排除し、リリちゃんを確保して支配下に置くことには成功した。一方でフィアーさんを手元に置くことはできているが、支配することができていない。

 

 原因はデスシードだ。黒騎士化したことで、ナターリアの血属スキルをフィアーさんには使うことができないらしい。

 

 厳密にいえば、外部の黒甲冑を破壊し、肉体部分を露出させればスキルを使えるそうなのだが、フィアーさんからの反撃があることも考慮すれば、下手に殺すよりも多大な労力と戦力を必要とするため諦めたそうだ。

 

 フィアーさんがデスシードを使ったことは絶対に肯定したくないが、今もって支配を免れているのはその効果ゆえにだった。

 

 ただ、それでもお母さんの誘導により、フィアーさんをナルマッシュの街に滞在させることには成功している。

 

 お母さんはアルフィリア様へと手紙を出していて、今自分たちがこの街に滞在していることを伝えているらしい。返信はすでに届いており、アルフィリア様は今こちらへと向かってきているのだそうだ。

 

 現在は帝都まで来ているのだという。皇帝陛下へのあいさつも終わっているため、三日もしないうちにこの街に到着するそうだ。

 

 ナターリアはやってくるアルフィリア様を支配下に置くために、手駒を招集している最中のようだった。この館以外にも、街のあちらこちらに息のかかった兵を配置しているようだ。

 

 パラディンであるアルフィリア様を生半可な戦力では拘束はできないとしても、リリちゃんという人質もいるのだ。油断しているところにスキルを撃ち込むことくらいは可能なはずだとナターリアは考えている。街中に兵を潜ませているのは、万が一不意打ちに失敗したときに、取り逃がさないようにするためだろう。

 

 下手を踏めば、戦争すら招きかねない作戦ではある。

 裏を返せば、ナターリアはそれだけ本気ということだろう。

 

 なにせ成功すれば、ほとんど皇帝の座が約束されるのだ。リスクを許容して、ナターリアは今回の作戦に臨んでいるようだった。

 

 そんなナターリアが今最も心配しているのは、フィアーさんの暴走のようだった。

 

 デスシードによる理性の崩壊。それに伴う暴走によって、アルフィリア様の来訪が頓挫することを恐れているのだ。

 

 だから出来るかぎりモンスター退治などをフィアーさんに割り振って、ストレスの発散をさせているようだった。

 

 しかし以前の面会時のやりとりから、フィアーさんが予想以上に消耗していることを知り、ナターリアは作戦が頓挫するくらいなら、いっそのことフィアーさんを排除しようかと考えているようだ。

 

 集めた戦力を使えば、黒騎士相手でも勝つことはできる。

 リリちゃんが手元にいるのだから、洗脳できない方は排除した方がいい。

 

 いざアルフィリア様を洗脳する際に障害になる可能性も考慮すれば、当然といえば当然の選択肢だろう。

 

 こちらのスキルで確認しているかぎりでも、フィアーさんの周囲にいる監視の目は多い。日中はもちろん、深夜であっても最低三名は近くに潜んでいる。

 

 そのため調べた情報をフィアーさんと共有するのはかなり難しかった。以前のようにモンスター討伐のどさくさに紛れて情報共有する機会も、この調子ではもうやってきそうにない。

 

 加えていうなら、フィアーさんの排除のときに邪魔にならないように、あたしを洗脳することも考えているようだった。

 

 ナターリアの血属スキルは月に何度も使えないようだったが、フィアーさんの洗脳を諦めたため、慎重を期すためあたしにお鉢が回って来たらしい。下手をしたら、明日にでもナターリアに呼び出されるかもしれない。

 

 情報集めは想像以上に上手くいったが、予想よりも残された時間が少ない。

 

 ……どうするべきか。

 

 このまま時間が過ぎるのを待った場合、アルフィリア様の来訪の前にあたしが洗脳されるか、フィアーさんが排除される可能性が高い。

 

 となれば、その前に動くしかなかった。

 

 見張りを蹴散らしてフィアーさんを自由にすることも、人質になっているリリちゃんを確保することも、ナターリアを暗殺することも、やろうと思えば今すぐにでも可能だ。

 

 しかし全部は叶わないだろう。どれか選ぶ必要がある。

 

 ナターリアの暗殺から動けば、混乱のどさくさに紛れて全部やり遂げられるかもしれないが、その場合でもリリちゃんが洗脳されていることがネックになる。

 

 元凶であるナターリアの暗殺は諦めるしかないだろう。

 

 今はひとまず、リリちゃんを確保して敵地であるこの館から脱出すべきだ。悔しいが、洗脳は後でどうにかするしかない。

 

 館から脱出したあとは、帝都を目指すべきだろう。なんとしても、ナターリアより先にアルフィリア様と合流する。そうすれば、少なくとも彼女がナターリアに洗脳されるという事態は防げるだろう。

 

 それに、もしかしたらアルフィリア様であれば血属スキルの洗脳を解除する方法も知っているかもしれない。そこに賭けて動くしかないように思える。

 

 お母さんのことは……今は諦めるしか、ない。

 

 そうと決まれば、決行は今夜しかない。

 

 下手をしたら、明日にでもナターリアの魔の手が伸びるかもしれない以上、動くのは早ければ早い方がいい。

 

 問題は、フィアーさんがあたしを信じてくれるかどうかなのだが……。

 

 

 

 

 

「フィアーさん。あたし、もう我慢できません」

 

 深夜。

 

 今日も今日とて訪れたフィアーさんの部屋で、あたしはベッドの上で彼にそう囁いた。

 

「あたしをあなたのものにしてください。他の誰の目にも、もう映らないように抱きつぶしてほしいんです」

 

「ぱ、パトリシア?」

 

 困惑するフィアーさんを誘うように、両手を伸ばして抱き寄せる。

 

 体勢を入れ替え、ちょうどフィアーさんに押し倒されるような体勢へ。あたしの身体が、大きなフィアーさんの身体に隠れて外からは見え辛くなる。そこで寝間着を脱ぎ、下着とあわせて見張りの兵たちに見えるよう枕元に放り投げる。

 

「ちょ、えっ、パトリシアさん? 前にも言ったけど、俺は今そういうことはできなくて」

 

「いいじゃないですか。その一歩手前まではできるでしょう?」

 

 きょろきょろと挙動不審に視線をあちらこちらへやりつつも、一糸まとわぬあたしの姿をちらちら見てくるフィアーさんの耳元で蠱惑的に囁く。幼い頃に学んだ男性を寝所へ誘う作法は、こんな感じでよかったはずだ。

 

 フィアーさんはあたしを押しつぶさないように、ベッドに手をついて隙間をあけてくれていた。その優しさは嬉しく思うが、これでは見ようと思えば周りから見えてしまう。

 

「ほら、フィアーさん。もっとくっついてください。あたしの裸、あなた以外の誰にも見せないで」

 

 それではダメだ。困ってしまう。

 あたしはもっと強い力で、フィアーさんを抱き寄せる。

 

「あたしを信じてくれませんか?」

 

 声はどこまでも女の色香を漂わせ。

 見上げる視線は、ただ真摯に訴える。

 

「……わかった」

 

 フィアーさんはそこであたしがなにかしようとしていることを理解したようだった。あたしに誘われるままに、その身体であたしの身体を覆い隠してくれる。

 

「ありがとうございます。そのまま、そのままで」

 

 あたしは両手で顔を覆い、聖句を唱える。

 

「世界に溶ける」

 

 瞬間、あたしの身体は透明になる。

 

 フィアーさんは声こそ出さなかったが、驚いたように身じろいだ。彼の身体と密着した胸が、軽くこすれてくすぐったい。

 

 それでもあたしの無色化は解けなかった。悲しいほどに、今のフィアーさんは冷たい金属で覆われて、スキルの解除条件である生物に触れるという判定がされなかった。

 

 冷たいけれど、こんなにも温かいのに。

 

 ぎゅっと安心させるように、フィアーさんをもう一度抱きしめたあと、あたしはするりとベッドから抜け出る。

 

 そのままあえて開けたままにしておいた部屋の扉の横を通り抜け、すぐに三階のリリちゃんの元へ。

 

 リリちゃんの部屋に、できるかぎり音を立てないようにドアを開けて侵入する。

 

 彼女はベッドの上に座りこみ、ぼうっとなにかを考えているようだった。幸いにも、ドアを開いた音には気づいていないようだった。

 

 ごめんなさい。

 

 そう心の中で謝ったあと、背後に回ってリリちゃんの口を押さえ込む。

 

「っ!?」

 

 その時点で無色化が解ける。

 

 リリちゃんは突然の出来事に暴れるが、こちらに気付くと目を見開いて暴れるのをやめてくれた。

 

「ごめんなさい、リリちゃん。少しだけ大人しくしていてください」

 

 と言われても、洗脳されている彼女は従ってはくれないだろう。

 

「むぐっ」

 

 近くにあった布切れをまるめてリリちゃんの口に押し込み、その上から別の布で口を塞ぐ。さらに手早く、目元と両手両足を縛り上げて床に転がした。

 

 なんでこんな都合よく、カーテンかベッドシーツかなにかを割いたような長い布がたくさんベッド脇にあったのかは分からないが、非常に助かってしまった。

 

「世界に溶ける」

 

 再びスキルを使い、リリちゃんの部屋を出てフィアーさんの元へ戻る。

 

「パトリシア。口を押さえられて苦しいだろ。でもこれはお前が言い出したことなんだからな」

 

 フィアーさんは虚空に向かってそんなことを言っていた。なんとかあたしがいなくなったことをばれないように演技してくれているのだろう。ちょっぴり悪ぶった台詞がいい感じだ。是非とも今度は本当に口を塞いだ状態で、耳元で囁いてほしい。

 

 と、いけないいけない。

 

 リリちゃんの拘束はそう易々とは解けないようにしたが、時間が経てば経つほど見つかるリスクは上がっていく。

 

 あたしのスキルでは、三人別々の場所で控えている監視を一気に無効化することはできない。

 

 よって、ここからは強硬手段に出るしかない。

 

 フィアーさんとベッドのわずかな隙間を通り、最初と同じ位置へと戻る。フィアーさんが気付いて、空間を少しあけてくれた。

 

 そこでスキルを解除する。透明のままくっついていくこともできるが、後々を考えればあたしのスキルはフィアーさん以外にはばれない方がいいだろう。

 

「パトリシア。どうだ?」

 

 フィアーさんが尋ねてくる。

 

「最高でした」

 

 だから、あたしはそう答えた。

 

 それから枕元に手を伸ばし、先ほほ脱いだ寝間着を手に取って身に着ける。

 ベッドから抜け出して、今度はフィアーさんの背中へおもむろに飛びついた。

 

 フィアーさんが落とさないように抱えてくれる。

 

「フィアーさん。あたしを信じて、あたしのいうとおりに動いてください」

 

「もちろん」

 

 力強い肯定が返ってくる。

 

 この時点では監視の兵たちはなにもしてこなかった。きっと、男女のじゃれあいと勘違いしてくれているのだろう。

 

 だから簡潔に、あたしはフィアーさんの背中につかまりながら耳元で告げた。

 

「リリちゃんがいるのは三階の角の部屋です。今すぐ全速力で向かってください」

 

「わかった」

 

 フィアーさんがあたしを背負ったまま、一瞬で風になる。

 

「なっ!?」

 

 そこでようやく見張りの兵が声をあげる中、部屋を飛び出して階段へ。

 

 一足飛びで駆け上ると、一気に三階へと向かう。

 

「見張りの兵がいますが無視してください! 左に出て一番奥の部屋へ!」

 

「了解!」

 

 フィアーさんはあたしの指示どおりに、階段上の兵士を無視して廊下を駆ける。 

 兵士はなにが起こったのかわからないといった顔で、こちらの背中を見送った。

 

「その先の部屋です! 床にリリちゃんが転がっているので、抱えて館を脱出してください!」

 

「行き先は!?」

 

「街を出て帝都の方角へ! あたしが方角は指示します! とにかく、全速力で走ってください!」

 

「クインシアさんは!?」

 

「置いて行ってください。……お母さんは、ダメです」

 

「そう、か」

 

 フィアーさんはその一言ですべてを察してくれたようだった。

 

「おい、黒騎士だ! 三階にいるぞ!」

 

 兵がそのときになってようやく叫び声をあげるが、もう遅い。フィアーさんはリリちゃんのいる部屋の扉を無理やり引きちぎっていた。

 

「リリエッタ!」

 

 床に転がるリリちゃんを見て、フィアーさんが喜びの声をあげる。

 

「フィアーさん。リリちゃんの拘束は解かないでください」

 

「……洗脳されてるのか?」

 

「はい。今はどうしようもありませんので」

 

「わかった」

 

 フィアーさんが大人しくしていたリリちゃんを、綿雪をすくい上げるように優しく抱き上げた。

 

「リリエッタ。お兄様だ。助けに来たよ。遅くなって悪いが、もうちょっとだけ大人しくしていてくれ」

 

 リリちゃんは、こくり、と小さく頷いた。

 

「よし。じゃあ行くぞ!」

 

 それぞれ胸元にリリちゃん、背中にあたしを抱えた状態で、フィアーさんは部屋の窓に近づく。

 

 カーテンがなく、月光の差し込むそこへとフィアーさんが足をかけたところで、部屋にネグリジェ姿のナターリアが現れた。

 

「フィアー? あなたなにを――」

 

 フィアーさんの姿とリリちゃんを見て、その眼が動揺をあらわにする。

 

「どうしてリリエッタの居場所を!? いえ、違うの。落ち着いて。あなたはきっと、なにか勘違いをしているの」

 

 こちらが全部把握しているとは思っていないのだろう。猫なで声で話しかけてくる。

 

 彼女に続いて、護衛の兵士が数名部屋へとやってくる。あの程度なら、フィアーさんなら蹴散らしてナターリアの首根っこをつかむことはできるだろう。いっそのこと、彼女もさらっていくべきか。

 

 いや、さすがにリスクが高すぎる。

 

「一度話し合いましょう。お願いよ。ほら、あたくしが頭を下げているのだから」

 

「フィアーさん、無視して行ってください!」

 

「ああ」

 

 フィアーさんが窓枠を蹴り、一気に夜空に身を躍らせる。

 

「待ちなさい! 早く、早く捕まえるのよ!」

 

 背後でナターリアの怒声があがる。

 それを聞き、館のあちらこちらから兵が顔をのぞかせる。

 

 その中に、見知った銀色の輝きがあった。

 

「お母さん」

 

 操銀スキルを発動させたお母さんが、こちらをじっと見つめていた。

 

 状況をすぐに理解して、それ以上はなにもしてこない。今からではどう足掻いても追いつけないことを理解しているのだろう。冷静に、冷徹に、ただ冷たい眼差しで、こちらを見ていた。

 

 その口が、小さく動いたのがわかった。

 

 だからあたしも、同じ言葉を返す。

 

「うん。さようなら、お母さん」

 

 決別はその瞬間に。涙はもう出なかった。

 

 娘を見下す視線も。

 母親を見上げる視線も。

 

 どちらも自分が倒すべき敵としてのみ、相手のことを認識していたのだった。

 

 

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