今回は、S君はほとんど出てきません。
ホロライブプロダクションオフィス
室内では業務が淡々と進んでいた。
誰かが特別忙しいわけでもなく、全体は均等に回っている。
葛山薫は自席で書類を処理している。
(年末が近づいてきて忙しくなってきたな)
(これとこれは後にして、こっちは優先だな)
葛山は自分のタスク内で優先順位をつけながら効率的に仕事を捌いていく。
(っと、これは桜木に聞かないと分からないな)
「桜木〜、ちょっといいか?って」
S君に確認を取ろうと視線をS君のデスクに向けるが、姿がない。
「そうだ、今日あいつ外回りだったか」
(仕方ない、戻ってきてから聞くか)
先にできることをやろうとデスクに戻ろうとすると、
ガチャッ
オフィスのドアが開き、入ってきたのは谷郷社長だった。
谷郷「失礼します。みんなおはようございます。」
葛山「谷郷社長、おはようございます」
谷郷「おお、葛山くんおはよう。今日は各部署の様子を見て回ってるんだけど、ここはどうかな?年末でいろいろな準備や手配などで忙しいと思うんだが」
葛山「そうですね。やはり年末になると大型企画もあってなかなか忙しいですが、今のところ概ね順調です」
谷郷「そうか。年末で休みたいところなのにすまないね。いつもありがとう」
葛山「いえいえ、それが私達の仕事ですから。それに、企画を楽しみにしているタレントや視聴者もいますからね。いい年末を過ごしてもらいたいです」
谷郷「そう言ってもらえると助かるよ。落ち着いたら休暇を取るようにしてほしい。」
葛山「分かりました。その時にはゆっくり休ませてもらいます」
谷郷「そういえば、今日は桜木君はいないのかな?」
周りを見渡す谷郷社長。しかし、見つからなかった。
葛山「桜木は、今日は外回り業務で出ていますね」
谷郷「そうか。最近は以前よりもいろいろと動いてくれているようだからね。少し声をかけたかったんだけど、不在なら仕方ないね。最近の彼はどうだい?」
葛山「桜木はよく頑張っていますよ。この前の配信では、身体を張ってくれてましたし」
谷郷「それは私も観ていたよ。なかなか面白かったね笑」
葛山「労りだったのかは怪しいですが」
谷郷「まぁでも、少しは元気になったみたいだから、いいんじゃないのかな?」
葛山「えぇ、まぁ」
少し言葉を濁す。
葛山「…あの、社長」
谷郷「なんだい?」
葛山は歯切れ悪く声をかける。
葛山(話すべきか…)
葛山(いや、話しておくべきだな)
葛山「実は、桜木のことなんですが」
谷郷「桜木くんがどうかしたのかい?」
葛山「ええ、とりあえず場所を変えてお話しします」
谷郷「?、わかった」
2人は別室に移動する。
谷郷「それで、彼がどうかしたのかい?」
葛山「はい」
葛山は少し間を空け、語り始める。
葛山「桜木なんですが、あいつは何かを隠しているような気がするんです」
谷郷「…それは何か確証があってのことかな?」
葛山「最近のあいつは怪我をすることが多く、疲労が溜まってて調子も悪そうなんです。」
葛山「以前は右手首を痛めていましたし、この前は爆発事故で腕を怪我しました。」
葛山「それだけじゃありません。外回りから戻ってきた日は足を引きずるように歩いていることもありました。」
葛山「顔色が悪い日もあります。ですが、あいつは『大丈夫です』としか言わないんです。」
葛山「それに、危険に自ら飛び込むところもそうです。爆発事故のときも、ホロメンが巻き込まれたかもしれないと、現場の方にすぐに行ってしまいました。普通なら安全が確認されてから動きます。でも、何も分からないのに行った。躊躇が無さすぎます!」
葛山「明らかに普通の行動ではありません。何かを隠してる…そう思えて仕方ないんです」
谷郷社長は葛山の話を真剣に聞き、少し考え、口を開く。
谷郷「…そうか。確かにそう言われればそのように感じるね。現に私も、S君が怪我をしたというのは小耳に挟んだことがある」
谷郷「それで、君は彼についてどう思っているのかな?怪しいところが多く、ここで彼が働いていくことに不安を感じているのかな?」
葛山がS君に対し、不穏分子と見ているのかを聞く谷郷社長。
葛山「いえ、それはありません。今まであいつを見てきましたから。あいつが犯罪等に手を出さないことはよく分かっています」
葛山「私は、単にあいつが心配なんです。いつか潰れてしまうんじゃないか。そう思えてなりません」
S君を心配する葛山の表情は辛そうだった。入社当時からS君を見てきた葛山にとって、S君は弟分のような存在であり、大事な同僚だった。
谷郷「…君の気持ちはよくわかった。私も、彼が悪さをするような人ではないことはわかっているつもりだよ。我社のタレントに、あんなに一生懸命になれるんだ。そんな彼を疑うことはしないよ」
谷郷「彼が何も言わないというのは、言いたくない何かがあるのかもしれない。もし、彼が一人で抱えきれなくなるようだったら、そのときは私たちの出番だよ。だから、今は見守るのがいいのではないかな?何かあれば私も協力するよ。彼は我社の大事な社員の1人だからね」
葛山「社長…」
谷郷社長は、葛山の憂いを組み取り、S君を支えることを話す。葛山は、それを嬉しく思った。
葛山「谷郷社長、ありがとうございます」
谷郷「いや、私ができることは大したことではないよ。彼のことがよくわかるのは、近くにいる君やタレント達だと思う。困ったことがあったらいつでも話してくれていい」
葛山「はい、ありがとうございます」
谷郷「それじゃ、私は他の部署も顔を出してくるよ。今日は話してくれてありがとう」
葛山「いえ、こちらこそお時間をいただきありがとうございました」
そして二人はそれぞれの仕事に戻った。
葛山はデスクで仕事を再開しながら、先程の社長との話を思い返す。
葛山(今回、社長の協力が得られたのはデカい)
葛山(桜木は何か隠してる。それは間違いない)
葛山(本当に心配させる)
葛山(桜木、お前はいったい、何を隠しているんだ?)
その頃S君は、
S君「ぶえっくしゅん!!」
ズビッ
S君「風邪ひいたかなぁ?」
全てはホロメンのために
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