今回は少ししんみりとした話になります。
12月も半ばになり、吹き付ける風はいっそう冷たくなっていた。
今は日も落ち、より寒さを強めていた。
そんな寒空の下、S君は1人、街を歩いていた。
「うぅ〜寒い…」
話すと同時に吐かれる息は白くなる。
「帰ってくるのは久しぶりだな」
「あいつらに会うのも1年ぶりかな」
今S君がいるのは東京ではなく、栃木県○○市。今日は地元の忘年会があり、運良く休みが取れたため、戻ってきたのだ。
寒さに震えながら歩いていると、忘年会の店に着き、入店する。
(えっと、席はどこだ?)
「お〜い桜木!こっちだ!こっち!」
店の奥の席からS君を呼ぶ声が聞こえる。奥の席には10人程が座って、飲み食いしていた。S君は席の間をすり抜けながら、自身を呼んだ声の方へ進んでいく。
田島「よぉ〜桜木!おつかれ!」
青川「おっ!来たか桜木!久しぶりだな」
S君「田島、久しぶり。それに青川も」
S君を呼んだのは田島ユウキ、そしてその隣に座っているのは青川悟。2人ともS君とは高校からの付き合いがある。
S君「ふぅ寒かったぁ。2人とも遅れて悪い」
田島「いや、大丈夫だ。大して遅れてない」
青川「とりあえず何飲む?生いっとくか?」
S君「いや、烏龍茶で。酒は控えてるんだ」
田島「はいよ、すいませ〜ん!」
酒を勧められるもそれを断りお茶にしておくS君。田島が店員を呼び、S君の飲み物を注文する。少し待つと、店員が烏龍茶を運んできて。改めて乾杯をする。
田島「しっかし、今年もよく来れたな。お前いつも忙しいんだろ?」
田島がS君に話す。
S君「まぁ運が良かっただけだよ。たまたま仕事が上手く片付いただけで、明日からまた激務だよ」
青川「ほ〜ん、ホロライブ程の事務所になると休む暇もないんだなぁ」
S君「年末なんかは特にだね。カウンドダウンライブや年末年始企画もあるしね。詳しいことは言えないけど」
各々飲み、食べ進めながらお互いのことを話していく。そこで、ふとS君が人数が少ないことに気づいた。
S君「そういえば、渋谷はどうした?いないようだけど今回は欠席か?」
S君がそういうと、田島と青川は一瞬黙り、表情を暗くさせ、青川が静かに口を開いた。
青川「渋谷は3ヶ月前に亡くなったよ」
S君「えっ!?」
S君は驚く。自分のところには、渋谷が亡くなったという連絡は入ってきておらず、今も元気にしているものだと思っていたからだ。
青川「渋谷の葬式は親族だけで行われたみたいで、俺達も先月知ったんだ。ご家族も忙しくて、お前のところまで連絡がいかなかったんだろう」
S君「そうだったのか…渋谷は何で亡くなったんだ?」
S君が渋谷の死因を尋ねると、田島が答えた。
田島「誰かに殺害されたらしい…」
S君「はぁ!?なんであいつが…」
S君は、渋谷がとてもいい人で、誰かから恨まれたり殺害されたりするような人ではないことを知っていた。だからこそ、殺害されたことに酷く驚いていた。
そして青川が続けて話す。
青川「お前もそう思うよな。俺達も信じられなかったけど、本当らしい。渋谷は東京に遊びに行ったときに、誰かに殺され、遺体も状態が酷かったそうだ。」
S君「それって…」
青川「あぁ、最近物騒な事件が多いだろ?もしかしたら、それに巻き込まれたんじゃないかってみんな言ってる。」
S君「そうか…」
2人の話を聞いて、S君はショックを隠せなかった。
亡くなった渋谷に思いを馳せ、やるせない気持ちになる。
そして田島がまた口を開く。
田島「もし今後余裕ができた時には、墓参りに行こう」
S君「そうだな」
S君が答える。亡くなった者はしっかりと弔ってやらねばならない。
高校時代の記憶がふと頭をよぎる。
文化祭の準備で夜遅くまで残ったこと。
進路に悩んでいた時、相談に乗ってくれたこと。
卒業式の日に、
渋谷『また来年の忘年会で会おうぜ』
そう笑っていた姿。
もう、その約束が果たされることはない。
青川「さて、湿っぽいのは一旦終わりにしよう。忘年会の続きをしよう」
青川がそう言い、S君も田島もそれに賛同し、再び飲み始めた。
少しの歯切れの悪さを感じながら…
そして忘年会が終わり、各々が帰路に着いた。
駅まで歩きながら、S君は渋谷の死についてまた考え始めた。
(俺の知らないところであんなことがあったなんてな…)
(また会えると思っていた…)
(届かなかったな)
夜空に手を伸ばしながら、そんなことを考える。
すると後ろから声をかけられる。
????「あれ?S君じゃないか!」
S君「えっ」
後ろを振り向くと、そこにいたのはラプラス・ダークネスだった。
S君「ラプラスさん、どうしてここに?」
ラプラス「帰省だ!故郷は別の星だが、この土地は、吾輩が最初に降り立ったところで、世話になった人もいるからな!吾輩にとって故郷の1つなのだ!それよりも、S君はなんでここにいるんだ?」
S君「俺も似たようなものですよ。さっきまで忘年会でした」
ラプラス「ふ〜んそうなのか。でも、なんだか寂しそうな顔をしているが、何かあったのか?」
S君「……いえ、何もないですよ」
そう答える。
本当は何もなくなんかない。
先ほど聞かされた渋谷の死が、まだ胸の奥に重く残っている。
だが、今ここで話してもラプラスを困らせるだけだ。
余計な気を遣わせたくなくて、S君は笑みを作った。
ラプラス「そうか、何かあったら吾輩がいつでも聞いてやるぞ!」
S君「あはは、ありがとうございます」
ラプラスの励ましに少し心が明るくなる。
S君「ラプラスさんはこれから東京にもどるんですか?」
ラプラス「ああ、そうだぞ。S君もか?」
S君「ええ、私もそうです。じゃあ一緒に帰りましょう」
ラプラス「おお、いいな!じゃあさ!みんなにお土産買ってこう!」
S君「はい」
2人は駅に向かい、歩き始める。
失った者は戻らない。
心に僅かな寂しさを抱え、S君は帰路に着いた。
全てはホロメンのために
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。