1月下旬
ホロライブプロダクション
コツコツコツ
ホロライブプロダクション社内にて、社長である谷郷は、一人各部署の視察をしていた。エキスポ・フェスを控え、どの部署も忙しくしている。そして、S君が所属する部署にも足を運んだ。ちなみに、S君は運営部に所属している。だが谷郷は、今日S君がいないタイミングを狙って運営部の視察をしに来ている。理由は、以前葛山から聞いた話について、その後どうなっているのかを聞くためだ。
ガチャッ
谷郷「失礼します」
上司「谷郷社長。おつかれさまです」
谷郷は、S君の上司と最近の業務状況について話をする。運営部は、今最も忙しい部署であるが、エキスポ・フェスに向けての運営は問題なしという話があり、上司との話は終わった。そして、今度は葛山のもとへやってくる。
谷郷「葛山君。今少しいいかな?」
葛山「はい、大丈夫です」
2人はヒソヒソと話し、別室に移動した。
谷郷「突然すまないね、葛山君」
葛山「いえ、問題ありません。私に用があるというのは、桜木のことですよね?」
谷郷「話が早くて助かるよ。それで、桜木君はどうだい?」
葛山「っ…」
谷郷は前置きすることなく、ストレートに尋ねてくる。葛山は一瞬怯むも、ふーっと息を吐き、谷郷の質問に答え始めた。
葛山「桜木はいつもと変わりませんよ。相変わらず頑張っています」
葛山「それと、以前相談したことですが、桜木は信頼に足る人物です。今は全ては話せませんが、あいつは、いつでもタレント達のために頑張れる男です」
葛山は、S君から打ち明けられたことを思い出し、S君がどれだけ今まで必死に戦ってきたのかを思い浮かべ、自信を持って谷郷に話した。谷郷は、以前の葛山の心配する様子とは打って変わって、迷いなく自信に満ちた答えを聞き、一安心した。
谷郷「…そうか。なら今は、見守ることを続けていくということで大丈夫そうだね」
葛山「はい、それは私が保証します。ただ、あいつが何か行動を起こしたときにはサポートは必要です。詳しい事情が分からないのにサポートが必要というのはおかしいですが…。ですが、あいつの行動は、必ずタレントを守ること、会社を守ることにつながります」
谷郷「…そうか。なら葛山君、君の言葉を今は信じよう」
葛山「ありがとうございます!それと…報告が遅くなってしまって申し訳ありませんでした」
谷郷「いや、それは大丈夫だよ。でも、報告はできるだけ早めにしてくださいね」
葛山「はい、以後気をつけます」
谷郷に受け入れられたことに、深く感謝する葛山。これでS君が動きやすくなり、S君に何かあったときにサポートしやすくなる。
葛山「それと、谷郷社長。一つお願いがあるのですが、今後桜木が席を外す時に、私を含め、えーちゃんさんや春先さんがフォローに入ることを許可していただけないでしょうか?」
谷郷「それはさっき言っていたサポートのことだね。本来ならちゃんと事情を把握した上でのことだけど、葛山君を信じることにしたからね。あくまでも可能な範囲でのみ許可するよ」
葛山「ご配慮いただきありがとうございます。えーちゃんさんや春先さんには、私から話を通しておきます」
谷郷「よろしく頼むよ。じゃあ、また何かあったら話をしてね」
そこで2人は話を終え、解散する。葛山はそのまま自分のオフィスには戻らず、えーちゃんとのどかがいるオフィスへと向かった。そして、先程の谷郷とのやり取りを話す。
えーちゃん「桜木さんのフォローですね。分かりました。私のできる範囲でやらせていただきます」
えーちゃん「桜木さんには、いつも助けてもらってますから」
のどか「私も、できる時にはやらせてもらいます!先輩が動けないときは、私もホロメンさん達のサポートがしたいです!」
葛山「お二人とも、ありがとうございます」
えーちゃん「それにしても、桜木は大丈夫なんでしょうか。この前も未確認騒動に巻き込まれそうになりましたし…」
のどか「そうですよねぇ…。一歩間違えれば命を落としかねなかったですからね」
葛山「お二人の心配はもっともです…。ですが、あいつなら多分大丈夫です。あいつを信じましょう」
2人は心配は拭えないが、一先ずS君のフォローに入ることを了承してくれた。これで、限られてはいるが、社内でのS君のフォロー体制が出来上がった。
葛山(桜木…みんなお前を支えてくれるぞ)
葛山(くれぐれも無茶するんじゃないぞ)
その頃、S君はというと…
ホロライブプロダクションスタジオ
今日はスタジオでホロメンたちは収録に励んでいた。
ホロメン達も、エキスポやフェスの準備があるが、生誕祭やカバー曲なども大切な仕事である。特に生誕祭は、ホロメン達にとって大きなイベントであり、ホロメン本人やリスナーはとても楽しみにしている。スタジオ内に響き渡る歌声、洗練されたダンス。どのホロメン達も収録に精を出し、熱が入っていた。
S君(始まって2時間ぐらいか、そろそろ疲れが見え始めるな)
そんなことを考えていると、収録スタッフから休憩が言い渡される。ホロメン達はバックダンサー達は、水分補給をしたり、汗を拭いたりするなどをして一息つき始めた。その間に、S君は収録スタッフと、収録状況について話し合う。
S君「収録はどうですか?」
収録スタッフ「う〜ん、まぁ概ね順調ですが、もう少し詰めてもよさそうなところがありますね」
S君「じゃあもう少し頑張ってもらう感じですね」
収録スタッフ「はい。この分だとあともう1時間半くらいはかかりますね」
S君「分かりました」
そしてホロメン達のところに行く。
近くに行くとわかるが、ホロメン達はかなり疲れていた。普段なら休憩中にホロメン同士で談笑しているのだが、今日に限っては誰も談笑することなく、壁にもたれかかって体力の温存に努めていた。
S君「皆さん、おつかれさまです。」
みこ「あ、S君…にゃっはろ〜…」
ラプラス「おぉ、S君…おつかれ…」
ロボ子「…」
はあと「…」
わため「…」
キアラ「…」
ニコ「…」
S君(あ〜これはだいぶキテるな)
声をかけたS君に返事をしてくれたのは、みことラプラスだけだった。他はみんなグッタリしている。この後、更に1時間半の収録はとても乗り切れそうには見えない。
S君(返す余裕がないなんて、相当だな)
S君「皆さんだいぶ疲れてますね」
ラプラス「そうだねぇ…」
S君(ヤバい、ラプラスさんでさえこんな感じだ…しかたない)
S君「皆さん何か欲しいものはありますか?食べたいものとか、飲みたいものとか!」
疲れきっているホロメン達に、何とか元気を出してもらおうと、欲しいものはないか聞く。
はあと「和菓子…特にお団子ほしい…」
ロボ子「ハンバーガー食べたい…」
わため「ポテチがいい」
ラプラス「抹茶アイス!」
みこ「たいやき!」
笑虎「ジンギスカン」
わため「笑虎ちゃ〜ん??それはないよ〜…」
S君(笑虎さん…)
笑虎「じゃあ、ニコたんもポテチで」
キアラ「ファ◯チキ…」
S君「分かりました!少し待っててくださいね!」
それぞれの欲しいものを聞き、準備をするS君。ほとんどのものは社内にあったため、すぐに出せるが、ロボ子、みこ、キアラのリクエストしたものはないため、コンビニに買いに行くことで調達する。
ロボ子「はぁ〜!生き返るぅ〜!」
みこ「やっぱりたいやきは美味しいにぇ〜!」
ラプラス「疲れたときの甘いものは美味いぞ!」
はあと「お団子美味しい〜!」
笑虎「はぁ〜めっちゃ食える!」
わため「そうだねぇ〜!でも、笑虎ちゃん、さっきのは忘れないよォ」
キアラ「ん〜!やっぱりファミ◯キ美味しい!日本のコンビニ凄い!」
各々、S君が用意した差し入れを食べ、表情が明るくなり、声に元気が戻る。
S君(うん、少しは元気が出たみたいだ)
笑虎「あ〜!ちょっとエネルギー出たァ!」
ロボ子「そうだねぇ〜!S君ありがとう!」
S君「いえいえ、このあとも収録続きますからね。皆さんには頑張ってほしいです」
ラプラス「いやぁ助かるよ!流石吾輩が見込んだ男だ!」
みこ「いやいや!S君はエリートなみこちゃんを推す35Pだからにぇ!これくらいのことはお茶の子さいさいなんだよ!」
わため「みこち〜、さらっと自画自賛してる笑」
キアラ「S君助かったよ。ありがとう」
はあと「ほんとだね!はぁちゃま、このあとも頑張れそう!」
S君「はい、あと少しですからね!頑張ってください!」
収録スタッフ「みなさん、休憩は終わりましたね。そろそろ再開しますよ!」
各々のエネルギーチャージが済み、再び収録が再開されようとしたとき、スタジオの内線が鳴る。
S君「はい、桜木です」
葛山「桜木か!今テレビを付けてたんだが、未確認が出たらしい!」
S君「なんですって!?」
葛山からの連絡は、グロンギが出たことを伝えるものだった。S君の驚いた声に、その場にいるもの達もいったい何があったのかと驚く。
葛山「近くではないが、どうやら本当みたいだ。…行くのか?」
S君「はい、行きます」
迷いなく答えるS君。
葛山「そうか…。なら行ってこい。そっちのことは、えーちゃんさん達にお願いする」
S君「すみません。ありがとうございます。」
そして受話器を置くS君。目を閉じ、深呼吸をする。
ロボ子「S君、どうしたの?」
ロボ子が尋ねる。だが、S君は答えない。目を閉じ、深呼吸をする。
そして覚悟を決め、目を開く。
S君「皆さん、すみません。一旦収録はストップです。葛山さんからの連絡ですが、未確認が出たようです。」
未確認が出たと聞き、全員が驚く。そして、一気に不安な表情になっていく。
S君「とりあえず皆さんはここにいてください。場合によっては避難をしてもらうかもしれません。私はちょっと行ってきます」
みこ「ちょっと行ってくるって、どこに行くの?」
S君「安全確保の確認ですよ。こういうとき、私が確認することになったんです。心配しないでください。俺の代わりにえーちゃんさんたちが来ますので、何かあったらえーちゃんさん達に言ってください」
ラプラス「あっ、おいS君!」
そういい、スタジオを出ていく。
みこ「S君…行っちゃったにぇ…」
みことラプラスは、S君が出ていった方を見る。
はあと「ねぇ、私たち大丈夫だよね?」
わため「うん…とりあえずじっとしてよう」
キアラ「最近、未確認多いよね。怖い…」
周りはそうにしている。
みこ(最近のS君は何かおかしい。特に、未確認が出たときに。絶対何かを隠してる。)
みこ(追いかければ何かわかるかも)
みこは、S君が出ていった扉を開け、走り出す。
ラプラス「あっ、みこさん!どこ行くんですか!?」
みこ「ちょっとトイレにぇ!」
ラプラス「こんな時にトイレェ!?」
後ろからラプラスの声が聞こえるが、構わず走るみこ。そのままS君を追いかけ始めた。
スタジオを出たS君は、外に向かって走っていた。途中、えーちゃん、のどかが正面から走ってくる。
S君「えーちゃんさん!のどかさん!向こうはお願いします!」
えーちゃん「わかりました!」
のどか「こちらは任せてください!」
S君「お願いします!」
すれ違いざまに、スタジオの方のことを2人に頼む。
そして、ようやく屋外に出た。屋外に出たあと、ビルの裏手に回るS君。
だが、その後ろに人影があった。
みこ(S君、こんな所に来てなにをするの?)
人影の正体は、S君を追いかけてきたみこだった。みこは物陰に隠れ、S君のことを見る。
ラプラス「みこさん!何やってるんですkっ、ムグ!」
みこ「シー!静かに!」
みこは自分を追いかけてきたラプラスの口を塞ぐ。そして、S君の方を指差し、ラプラスもS君を見つける。
ラプラス(S君?なんでこんな所に?)
2人がS君を見る。S君は、周りをキョロキョロと見渡し、周りに人がいないか確認している。しかし、みことラプラスには気づいていないようだ。
そして、誰もいないと思ったS君が、腰に手を翳す。そして、S君の腰にアークルが出現する。
ラプラス(えっ…)
みこ(なに…あれ?)
2人は、S君の腰に現れたアークルを見て驚く。
そして…
S君「変身!!」
S君がクウガに変身する。
みこ・ラプラス「!!」
S君がクウガに変身したことに、2人は声を上げずに驚愕する。そしてクウガとなったS君は、ビートチェイサーを出現させ、それに乗ってどこかに走り去っていった。
ラプラス「ねぇ、みこさん。あれって」
みこ「…」
ラプラスがみこに今見たことを聞こうと声をかけるが、みこは呆然としたままだった。
みこ(あれって、前にテレビでやってた未確認の新種…)
みこ(S君が新種だった?)
みこ(新種は人を助けてた…。もしかして人を助けながら、ずっと未確認と戦ってた?)
みこ(今までの怪我もそのせい?)
ラプラス「みこさん、みこさん!!」
みこ「あっ、ラプたん…」
S君の変身を見て、深く考え込んでいたところをラプラスに強く呼びかけられ、思考の渦から出てくるみこ。
ラプラス「みこさん。とりあえず今は戻りませんか?」
ラプラス「吾輩もS君が変わったことには驚きました。でも、今は未確認が出てます。だから…戻りましょう」
みこ「ラプたん…。うん、わかった。S君が戻ってきたら…さっきのこと聞いてみよう」
ラプラス「はい…」
みこ(S君、無事に帰ってくるにぇ)
ラプラスに諭され、社内に戻ることにしたみこ。S君がクウガになったことに、ショックが拭えることはない。S君が戻ってきたときに、いろいろ聞かなければと思い、まずは無事に帰ってくることを願った。
そしてS君がグロンギのもとへ向かって1時間ほど経ったころ。ホロライブプロダクション近くの路地裏にクウガが戻ってきた。無事、グロンギは倒せたようだ。周囲に人影がないか確認し、クウガは変身を解き、S君の姿にもどる。その顔には殴打痕があり、口の端からは出血していた。
S君「あ〜、イテテ。今回も怪我しちゃった…。しかも顔だし、どうやって誤魔化そう…」
出血したところを触り、葛山以外にどう誤魔化すか頭を抱える。
そして、上手い誤魔化し方を思いつかないまま、社内に入っていった。
社内に入ると、そこには二人のホロメンが待ち構えていた。
みこ「S君、どこいってたにぇ」
S君「うぇっ!みこさん!?」
ラプラス「吾輩もいるぞ」
S君「ラプラスさんも!?」
ラプラス「誤魔化さずに答えてもらうぞ」
みこ「それと、なんで怪我をしてるのかも話すにぇ」
戻った途端、二人に待ち構えられ、どこに行っていたのかを詰められる。
S君「えっえ〜と、安全確認をちょっと〜」
誤魔化そうとするS君に、みことラプラスは顔を見合わせる。
みこ「ちょっと場所を変えるにぇ」
ラプラス「着いてこい」
S君「はい…」
3人は、使われていない部屋に入る。
みこ「…」
ラプラス「…」
S君「…」
S君(空気が重い…どうしよう…)
三人は一言も言わず、時間だけが過ぎていった。S君は何とか誤魔化す方法を考えるが、この張り詰めた雰囲気と、先程の戦闘の疲れで、上手く思考が働かなかった。
やがて、話が進まないことにごうを煮やしたみこが話し始める。
みこ「S君」
S君「はい…」
みこ「さっきの、赤い姿はなに?」
ラプラス「腰に銀色のベルトみたいな物が出たあと、姿が変わったぞ」
S君「えっ!!」
S君(マズい、変身したところを見られたのか!)
みこ「あれって、最近警察が公表した未確認の新種だったにぇ」
みこ「S君が新種だったんだね?」
S君「…」
みこ「お願い。ちゃんと話して?」
ラプラス「たのむ」
2人の真摯な視線に、S君は思わず目を逸らした。
S君(どうする…)
S君(話すのか?)
S君(いや、ダメだ)
今まで誰にも話してこなかった。
葛山にさえ全てを話したわけではない。
なのに、ここで話してしまっていいのか。
S君「……言えません」
みこ「どうして?」
S君「話したら、みなさんを巻き込むことになるかもしれないからです」
ラプラス「それは今さらだろ」
S君「えっ?」
ラプラス「吾輩達はもう見てしまったんだ」
ラプラス「変身するところも」
ラプラス「戦いに向かうところも」
ラプラス「何も知らないままの方が、よっぽど怖い」
みこ「お願いだにぇ」
みこ「みこ達を信じてほしいにぇ」
S君「……」
しばらく沈黙が流れる。
やがてS君は観念したように小さく息を吐いた。
S君「……分かりました」
S君「全部話します」
そしてS君は、自分がクウガであり、転生者であること、グロンギのことを全て話した。
みこ「S君が転生者で、グロンギから世界を守るために来た…」
ラプラス「こんなことが、本当にあるなんて…」
しばらく誰も言葉を発せなかった。
あまりにも話の規模が大きすぎる。普通なら信じられない。
だが、自分達は確かに見た。S君が姿を変える瞬間を。
みこ「じゃあ……」
みこの声が震える。
みこ「今までの怪我も?」
S君「……はい」
みこ「最近疲れてたのも?」
S君「はい」
みこ「爆発事故の時も?」
S君「はい」
みこは俯いた。
小さく拳を握る。
みこ「なんで……」
S君「みこさん?」
みこ「なんで黙ってたの!!」
顔を上げたみこの目には涙が浮かんでいた。
みこ「こんなの辛すぎるにぇ!!」
みこ「一人で抱え込んで!」
みこ「いっぱい怪我して!」
みこ「死んじゃうかもしれないのに!!」
みこ「そんなの嫌だにぇ……」
ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
S君は何も言えなかった。
S君(みこさん…すみません)
S君は、みこの涙を見て驚愕するのと同時に、酷い罪悪感に襲われた。自分がクウガで、グロンギと戦う存在であるとはばらす訳にはいかなかった。そもそも言えるはずがない。だが、いざ目の前で涙を見てしまうと、申し訳なさでいっぱいになってしまう。
S君「みこさん、ラプラスさん。今まで黙っててすみませんでした」
ラプラス「いや、いい。こんなこと自分からは言えないよ。言えるはずがない」
S君「はい…ありがとうございます」
ラプラス「なぁS君。S君はこれからも続けるのか?」
みこ「そうだよ。こんなの辛すぎるよ」
S君「はい…。俺はやめるつもりはありません」
ラプラス「どうして?」
S君「これは、俺にしかできないからです。辛くても、他の人に代わってもらうことはできません」
S君「正直、この世界を守り切れる自信はないです。俺は大したことない人間ですから」
S君「でも、やらないといけないんです」
みこ「そんな…」
S君から語られる言葉は、あまりにも残酷だった。
自分の代わりはいない。
たった一人で戦わなければならない。
常に死と隣り合わせ。
まるで地獄のような話だ。とても一人の人間が背負えるものではない。それが、今目の前にいるS君の置かれた状況であり、みこにとって物凄く辛いものであった。
みこ「ねぇ、なんで戦えるの?死んじゃうかもしれないのになんで?」
S君「それは…」
S君「みなさんの笑顔を守りたいからですよ」
みこの問いかけに、S君は一瞬間を空け、答える。その表情は笑顔だった。
S君「皆さんには、いつでも笑って配信やライブなどをしてほしい。視聴者さん達と楽しく過ごしてほしい」
S君「俺が前に生きた世界にも、ホロライブがありました。そっちはVTuberという形でしたけど、ホロメンの皆さんには元気をもらっていたんです」
S君「だから、ホロメンの皆さんには笑顔でいてほしいんです。そのために、俺は戦います」
ラプラス「S君…」
みこ「うぅ…」
S君の思いを聞き、再びみこの目に涙が浮かび、ラプラスも涙を浮かび始めた。
S君「お二人とも、泣かないでください。俺はそうそう死ぬつもりはありません。だから笑顔でいてください」
みこ(あぁ、これが本当のS君なんだ)
ラプラス(底抜けに優しい)
みこ(これは何を言ってもやめないね)
ラプラス(なら、吾輩達がすることは…)
みこ「わかったにぇ。もう止めない」
ラプラス「あぁ、むしろS君は止まらないよね」
S君「ええ、すみません」
みこ「ならみこ達は、みこ達ができることをやるにぇ」
ラプラス「そうだ!吾輩達が笑っていなかったらS君が頑張る意味が無くなってしまう」
S君「お二人とも、ありがとうございます」
みこ「いいにぇ、それよりも、約束してほしいことがあるにぇ」
みこ「絶対に死なないでほしいにぇ」
ラプラス「それは吾輩も同意だ」
S君「はい。わかりました」
S君は笑顔で答える。みことラプラスも笑顔になった。
みこ「じゃあ、この話はこれで終わり!スタジオに戻るにぇ」
ラプラス「そうですね!でも、その前にS君は怪我の手当だぞ!」
その後、スタジオに戻る3人。S君が顔に怪我をしていることや、みことラプラスがいなかったことに、周囲からいろいろ聞かれるが、上手いこと誤魔化した。そして、未確認が撃破されたというニュースが流れたようで、収録も再開となった。
S君は、笑顔で収録に励むホロメン達を見て思う。
S君(皆さんにはやっぱり笑顔が似合う)
S君(どうか、この笑顔が続きますように)
全てはホロメンのために
おまけ 総帥の勘
ラプラス(不思議なもんだよな〜)
初めて会った時から、S君は妙に気になる存在だった。特別強そうに見えるわけでもない。目立つわけでもない。だが、なぜか放っておけなかった。holoXに勧誘したのも半分冗談で面白そうだったが、半分は本気だった。
ラプラス(なんとなく普通じゃない気がしていたんだよな)
ラプラス(まさか本当に普通じゃなかったとはね〜)
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
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