全てはホロメンのために   作:夜桜透

22 / 25
21話投稿です。



21話 信頼

 

1月下旬

ホロライブプロダクション

 

コツコツコツ

ホロライブプロダクション社内にて、社長である谷郷は、一人各部署の視察をしていた。エキスポ・フェスを控え、どの部署も忙しくしている。そして、S君が所属する部署にも足を運んだ。ちなみに、S君は運営部に所属している。だが谷郷は、今日S君がいないタイミングを狙って運営部の視察をしに来ている。理由は、以前葛山から聞いた話について、その後どうなっているのかを聞くためだ。

 

ガチャッ

 

谷郷「失礼します」

 

上司「谷郷社長。おつかれさまです」

 

谷郷は、S君の上司と最近の業務状況について話をする。運営部は、今最も忙しい部署であるが、エキスポ・フェスに向けての運営は問題なしという話があり、上司との話は終わった。そして、今度は葛山のもとへやってくる。

 

谷郷「葛山君。今少しいいかな?」

 

葛山「はい、大丈夫です」

 

2人はヒソヒソと話し、別室に移動した。

 

谷郷「突然すまないね、葛山君」

 

葛山「いえ、問題ありません。私に用があるというのは、桜木のことですよね?」

 

谷郷「話が早くて助かるよ。それで、桜木君はどうだい?」

 

葛山「っ…」

 

谷郷は前置きすることなく、ストレートに尋ねてくる。葛山は一瞬怯むも、ふーっと息を吐き、谷郷の質問に答え始めた。

 

葛山「桜木はいつもと変わりませんよ。相変わらず頑張っています」

 

葛山「それと、以前相談したことですが、桜木は信頼に足る人物です。今は全ては話せませんが、あいつは、いつでもタレント達のために頑張れる男です」

 

葛山は、S君から打ち明けられたことを思い出し、S君がどれだけ今まで必死に戦ってきたのかを思い浮かべ、自信を持って谷郷に話した。谷郷は、以前の葛山の心配する様子とは打って変わって、迷いなく自信に満ちた答えを聞き、一安心した。

 

谷郷「…そうか。なら今は、見守ることを続けていくということで大丈夫そうだね」

 

葛山「はい、それは私が保証します。ただ、あいつが何か行動を起こしたときにはサポートは必要です。詳しい事情が分からないのにサポートが必要というのはおかしいですが…。ですが、あいつの行動は、必ずタレントを守ること、会社を守ることにつながります」

 

谷郷「…そうか。なら葛山君、君の言葉を今は信じよう」

 

葛山「ありがとうございます!それと…報告が遅くなってしまって申し訳ありませんでした」

 

谷郷「いや、それは大丈夫だよ。でも、報告はできるだけ早めにしてくださいね」

 

葛山「はい、以後気をつけます」

 

谷郷に受け入れられたことに、深く感謝する葛山。これでS君が動きやすくなり、S君に何かあったときにサポートしやすくなる。

 

葛山「それと、谷郷社長。一つお願いがあるのですが、今後桜木が席を外す時に、私を含め、えーちゃんさんや春先さんがフォローに入ることを許可していただけないでしょうか?」

 

谷郷「それはさっき言っていたサポートのことだね。本来ならちゃんと事情を把握した上でのことだけど、葛山君を信じることにしたからね。あくまでも可能な範囲でのみ許可するよ」

 

葛山「ご配慮いただきありがとうございます。えーちゃんさんや春先さんには、私から話を通しておきます」

 

谷郷「よろしく頼むよ。じゃあ、また何かあったら話をしてね」

 

そこで2人は話を終え、解散する。葛山はそのまま自分のオフィスには戻らず、えーちゃんとのどかがいるオフィスへと向かった。そして、先程の谷郷とのやり取りを話す。

 

えーちゃん「桜木さんのフォローですね。分かりました。私のできる範囲でやらせていただきます」

 

えーちゃん「桜木さんには、いつも助けてもらってますから」

 

のどか「私も、できる時にはやらせてもらいます!先輩が動けないときは、私もホロメンさん達のサポートがしたいです!」

 

葛山「お二人とも、ありがとうございます」

 

えーちゃん「それにしても、桜木は大丈夫なんでしょうか。この前も未確認騒動に巻き込まれそうになりましたし…」

 

のどか「そうですよねぇ…。一歩間違えれば命を落としかねなかったですからね」

 

葛山「お二人の心配はもっともです…。ですが、あいつなら多分大丈夫です。あいつを信じましょう」

 

2人は心配は拭えないが、一先ずS君のフォローに入ることを了承してくれた。これで、限られてはいるが、社内でのS君のフォロー体制が出来上がった。

 

葛山(桜木…みんなお前を支えてくれるぞ)

 

葛山(くれぐれも無茶するんじゃないぞ)

 

 

 

 

 

 

その頃、S君はというと…

 

 

 

 

 

ホロライブプロダクションスタジオ

今日はスタジオでホロメンたちは収録に励んでいた。

ホロメン達も、エキスポやフェスの準備があるが、生誕祭やカバー曲なども大切な仕事である。特に生誕祭は、ホロメン達にとって大きなイベントであり、ホロメン本人やリスナーはとても楽しみにしている。スタジオ内に響き渡る歌声、洗練されたダンス。どのホロメン達も収録に精を出し、熱が入っていた。

 

S君(始まって2時間ぐらいか、そろそろ疲れが見え始めるな)

 

そんなことを考えていると、収録スタッフから休憩が言い渡される。ホロメン達はバックダンサー達は、水分補給をしたり、汗を拭いたりするなどをして一息つき始めた。その間に、S君は収録スタッフと、収録状況について話し合う。

 

S君「収録はどうですか?」

 

収録スタッフ「う〜ん、まぁ概ね順調ですが、もう少し詰めてもよさそうなところがありますね」

 

S君「じゃあもう少し頑張ってもらう感じですね」

 

収録スタッフ「はい。この分だとあともう1時間半くらいはかかりますね」

 

S君「分かりました」

 

そしてホロメン達のところに行く。

近くに行くとわかるが、ホロメン達はかなり疲れていた。普段なら休憩中にホロメン同士で談笑しているのだが、今日に限っては誰も談笑することなく、壁にもたれかかって体力の温存に努めていた。

 

S君「皆さん、おつかれさまです。」

 

みこ「あ、S君…にゃっはろ〜…」

 

ラプラス「おぉ、S君…おつかれ…」

 

ロボ子「…」

 

はあと「…」

 

わため「…」

 

キアラ「…」

 

ニコ「…」

 

S君(あ〜これはだいぶキテるな)

 

声をかけたS君に返事をしてくれたのは、みことラプラスだけだった。他はみんなグッタリしている。この後、更に1時間半の収録はとても乗り切れそうには見えない。

 

S君(返す余裕がないなんて、相当だな)

 

S君「皆さんだいぶ疲れてますね」

 

ラプラス「そうだねぇ…」

 

S君(ヤバい、ラプラスさんでさえこんな感じだ…しかたない)

 

S君「皆さん何か欲しいものはありますか?食べたいものとか、飲みたいものとか!」

 

疲れきっているホロメン達に、何とか元気を出してもらおうと、欲しいものはないか聞く。

 

はあと「和菓子…特にお団子ほしい…」

 

ロボ子「ハンバーガー食べたい…」

 

わため「ポテチがいい」

 

ラプラス「抹茶アイス!」

 

みこ「たいやき!」

 

笑虎「ジンギスカン」

 

わため「笑虎ちゃ〜ん??それはないよ〜…」

 

S君(笑虎さん…)

 

笑虎「じゃあ、ニコたんもポテチで」

 

キアラ「ファ◯チキ…」

 

S君「分かりました!少し待っててくださいね!」

 

それぞれの欲しいものを聞き、準備をするS君。ほとんどのものは社内にあったため、すぐに出せるが、ロボ子、みこ、キアラのリクエストしたものはないため、コンビニに買いに行くことで調達する。

 

 

ロボ子「はぁ〜!生き返るぅ〜!」

 

みこ「やっぱりたいやきは美味しいにぇ〜!」

 

ラプラス「疲れたときの甘いものは美味いぞ!」

 

はあと「お団子美味しい〜!」

 

笑虎「はぁ〜めっちゃ食える!」

 

わため「そうだねぇ〜!でも、笑虎ちゃん、さっきのは忘れないよォ」

 

キアラ「ん〜!やっぱりファミ◯キ美味しい!日本のコンビニ凄い!」

 

各々、S君が用意した差し入れを食べ、表情が明るくなり、声に元気が戻る。

 

S君(うん、少しは元気が出たみたいだ)

 

笑虎「あ〜!ちょっとエネルギー出たァ!」

 

ロボ子「そうだねぇ〜!S君ありがとう!」

 

S君「いえいえ、このあとも収録続きますからね。皆さんには頑張ってほしいです」

 

ラプラス「いやぁ助かるよ!流石吾輩が見込んだ男だ!」

 

みこ「いやいや!S君はエリートなみこちゃんを推す35Pだからにぇ!これくらいのことはお茶の子さいさいなんだよ!」

 

わため「みこち〜、さらっと自画自賛してる笑」

 

キアラ「S君助かったよ。ありがとう」

 

はあと「ほんとだね!はぁちゃま、このあとも頑張れそう!」

 

S君「はい、あと少しですからね!頑張ってください!」

 

収録スタッフ「みなさん、休憩は終わりましたね。そろそろ再開しますよ!」

 

各々のエネルギーチャージが済み、再び収録が再開されようとしたとき、スタジオの内線が鳴る。

 

S君「はい、桜木です」

 

葛山「桜木か!今テレビを付けてたんだが、未確認が出たらしい!」

 

S君「なんですって!?」

 

葛山からの連絡は、グロンギが出たことを伝えるものだった。S君の驚いた声に、その場にいるもの達もいったい何があったのかと驚く。

 

葛山「近くではないが、どうやら本当みたいだ。…行くのか?」

 

S君「はい、行きます」

 

迷いなく答えるS君。

 

葛山「そうか…。なら行ってこい。そっちのことは、えーちゃんさん達にお願いする」

 

S君「すみません。ありがとうございます。」

 

そして受話器を置くS君。目を閉じ、深呼吸をする。

 

ロボ子「S君、どうしたの?」

 

ロボ子が尋ねる。だが、S君は答えない。目を閉じ、深呼吸をする。

そして覚悟を決め、目を開く。

 

S君「皆さん、すみません。一旦収録はストップです。葛山さんからの連絡ですが、未確認が出たようです。」

 

未確認が出たと聞き、全員が驚く。そして、一気に不安な表情になっていく。

 

S君「とりあえず皆さんはここにいてください。場合によっては避難をしてもらうかもしれません。私はちょっと行ってきます」

 

みこ「ちょっと行ってくるって、どこに行くの?」

 

S君「安全確保の確認ですよ。こういうとき、私が確認することになったんです。心配しないでください。俺の代わりにえーちゃんさんたちが来ますので、何かあったらえーちゃんさん達に言ってください」

 

ラプラス「あっ、おいS君!」

 

そういい、スタジオを出ていく。

 

みこ「S君…行っちゃったにぇ…」

 

みことラプラスは、S君が出ていった方を見る。

 

はあと「ねぇ、私たち大丈夫だよね?」

 

わため「うん…とりあえずじっとしてよう」

 

キアラ「最近、未確認多いよね。怖い…」

 

周りはそうにしている。

 

みこ(最近のS君は何かおかしい。特に、未確認が出たときに。絶対何かを隠してる。)

 

みこ(追いかければ何かわかるかも)

 

みこは、S君が出ていった扉を開け、走り出す。

 

ラプラス「あっ、みこさん!どこ行くんですか!?」

 

みこ「ちょっとトイレにぇ!」

 

ラプラス「こんな時にトイレェ!?」

 

後ろからラプラスの声が聞こえるが、構わず走るみこ。そのままS君を追いかけ始めた。

 

 

 

 

スタジオを出たS君は、外に向かって走っていた。途中、えーちゃん、のどかが正面から走ってくる。

 

S君「えーちゃんさん!のどかさん!向こうはお願いします!」

 

えーちゃん「わかりました!」

 

のどか「こちらは任せてください!」

 

S君「お願いします!」

 

すれ違いざまに、スタジオの方のことを2人に頼む。

そして、ようやく屋外に出た。屋外に出たあと、ビルの裏手に回るS君。

 

だが、その後ろに人影があった。

 

 

みこ(S君、こんな所に来てなにをするの?)

 

人影の正体は、S君を追いかけてきたみこだった。みこは物陰に隠れ、S君のことを見る。

 

ラプラス「みこさん!何やってるんですkっ、ムグ!」

 

みこ「シー!静かに!」

 

みこは自分を追いかけてきたラプラスの口を塞ぐ。そして、S君の方を指差し、ラプラスもS君を見つける。

 

ラプラス(S君?なんでこんな所に?)

 

2人がS君を見る。S君は、周りをキョロキョロと見渡し、周りに人がいないか確認している。しかし、みことラプラスには気づいていないようだ。

そして、誰もいないと思ったS君が、腰に手を翳す。そして、S君の腰にアークルが出現する。

 

ラプラス(えっ…)

 

みこ(なに…あれ?)

 

2人は、S君の腰に現れたアークルを見て驚く。

 

そして…

 

S君「変身!!」

 

S君がクウガに変身する。

 

みこ・ラプラス「!!」

 

S君がクウガに変身したことに、2人は声を上げずに驚愕する。そしてクウガとなったS君は、ビートチェイサーを出現させ、それに乗ってどこかに走り去っていった。

 

ラプラス「ねぇ、みこさん。あれって」

 

みこ「…」

 

ラプラスがみこに今見たことを聞こうと声をかけるが、みこは呆然としたままだった。

 

みこ(あれって、前にテレビでやってた未確認の新種…)

 

みこ(S君が新種だった?)

 

みこ(新種は人を助けてた…。もしかして人を助けながら、ずっと未確認と戦ってた?)

 

みこ(今までの怪我もそのせい?)

 

ラプラス「みこさん、みこさん!!」

 

みこ「あっ、ラプたん…」

 

S君の変身を見て、深く考え込んでいたところをラプラスに強く呼びかけられ、思考の渦から出てくるみこ。

 

ラプラス「みこさん。とりあえず今は戻りませんか?」

 

ラプラス「吾輩もS君が変わったことには驚きました。でも、今は未確認が出てます。だから…戻りましょう」

 

みこ「ラプたん…。うん、わかった。S君が戻ってきたら…さっきのこと聞いてみよう」

 

ラプラス「はい…」

 

みこ(S君、無事に帰ってくるにぇ)

 

ラプラスに諭され、社内に戻ることにしたみこ。S君がクウガになったことに、ショックが拭えることはない。S君が戻ってきたときに、いろいろ聞かなければと思い、まずは無事に帰ってくることを願った。

 

 

そしてS君がグロンギのもとへ向かって1時間ほど経ったころ。ホロライブプロダクション近くの路地裏にクウガが戻ってきた。無事、グロンギは倒せたようだ。周囲に人影がないか確認し、クウガは変身を解き、S君の姿にもどる。その顔には殴打痕があり、口の端からは出血していた。

 

S君「あ〜、イテテ。今回も怪我しちゃった…。しかも顔だし、どうやって誤魔化そう…」

 

出血したところを触り、葛山以外にどう誤魔化すか頭を抱える。

そして、上手い誤魔化し方を思いつかないまま、社内に入っていった。

 

社内に入ると、そこには二人のホロメンが待ち構えていた。

 

みこ「S君、どこいってたにぇ」

 

S君「うぇっ!みこさん!?」

 

ラプラス「吾輩もいるぞ」

 

S君「ラプラスさんも!?」

 

ラプラス「誤魔化さずに答えてもらうぞ」

 

みこ「それと、なんで怪我をしてるのかも話すにぇ」

 

戻った途端、二人に待ち構えられ、どこに行っていたのかを詰められる。

 

S君「えっえ〜と、安全確認をちょっと〜」

 

誤魔化そうとするS君に、みことラプラスは顔を見合わせる。

 

みこ「ちょっと場所を変えるにぇ」

 

ラプラス「着いてこい」

 

S君「はい…」

 

3人は、使われていない部屋に入る。

 

みこ「…」

 

ラプラス「…」

 

S君「…」

 

S君(空気が重い…どうしよう…)

 

三人は一言も言わず、時間だけが過ぎていった。S君は何とか誤魔化す方法を考えるが、この張り詰めた雰囲気と、先程の戦闘の疲れで、上手く思考が働かなかった。

やがて、話が進まないことにごうを煮やしたみこが話し始める。

 

みこ「S君」

 

S君「はい…」

 

みこ「さっきの、赤い姿はなに?」

 

ラプラス「腰に銀色のベルトみたいな物が出たあと、姿が変わったぞ」

 

S君「えっ!!」

 

S君(マズい、変身したところを見られたのか!)

 

みこ「あれって、最近警察が公表した未確認の新種だったにぇ」

 

みこ「S君が新種だったんだね?」

 

S君「…」

 

みこ「お願い。ちゃんと話して?」

 

ラプラス「たのむ」

 

2人の真摯な視線に、S君は思わず目を逸らした。

 

S君(どうする…)

 

S君(話すのか?)

 

S君(いや、ダメだ)

 

今まで誰にも話してこなかった。

 

葛山にさえ全てを話したわけではない。

 

なのに、ここで話してしまっていいのか。

 

S君「……言えません」

 

みこ「どうして?」

 

S君「話したら、みなさんを巻き込むことになるかもしれないからです」

 

ラプラス「それは今さらだろ」

 

S君「えっ?」

 

ラプラス「吾輩達はもう見てしまったんだ」

 

ラプラス「変身するところも」

 

ラプラス「戦いに向かうところも」

 

ラプラス「何も知らないままの方が、よっぽど怖い」

 

みこ「お願いだにぇ」

 

みこ「みこ達を信じてほしいにぇ」

 

S君「……」

 

しばらく沈黙が流れる。

 

やがてS君は観念したように小さく息を吐いた。

 

S君「……分かりました」

 

S君「全部話します」

 

そしてS君は、自分がクウガであり、転生者であること、グロンギのことを全て話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みこ「S君が転生者で、グロンギから世界を守るために来た…」

 

ラプラス「こんなことが、本当にあるなんて…」

 

しばらく誰も言葉を発せなかった。

あまりにも話の規模が大きすぎる。普通なら信じられない。

だが、自分達は確かに見た。S君が姿を変える瞬間を。

 

みこ「じゃあ……」

 

みこの声が震える。

 

みこ「今までの怪我も?」

 

S君「……はい」

 

みこ「最近疲れてたのも?」

 

S君「はい」

 

みこ「爆発事故の時も?」

 

S君「はい」

 

みこは俯いた。

 

小さく拳を握る。

 

みこ「なんで……」

 

S君「みこさん?」

 

みこ「なんで黙ってたの!!」

 

顔を上げたみこの目には涙が浮かんでいた。

 

みこ「こんなの辛すぎるにぇ!!」

 

みこ「一人で抱え込んで!」

 

みこ「いっぱい怪我して!」

 

みこ「死んじゃうかもしれないのに!!」

 

みこ「そんなの嫌だにぇ……」

 

ぽろぽろと涙が零れ落ちる。

S君は何も言えなかった。

 

S君(みこさん…すみません)

 

S君は、みこの涙を見て驚愕するのと同時に、酷い罪悪感に襲われた。自分がクウガで、グロンギと戦う存在であるとはばらす訳にはいかなかった。そもそも言えるはずがない。だが、いざ目の前で涙を見てしまうと、申し訳なさでいっぱいになってしまう。

 

S君「みこさん、ラプラスさん。今まで黙っててすみませんでした」

 

ラプラス「いや、いい。こんなこと自分からは言えないよ。言えるはずがない」

 

S君「はい…ありがとうございます」

 

ラプラス「なぁS君。S君はこれからも続けるのか?」

 

みこ「そうだよ。こんなの辛すぎるよ」

 

S君「はい…。俺はやめるつもりはありません」

 

ラプラス「どうして?」

 

S君「これは、俺にしかできないからです。辛くても、他の人に代わってもらうことはできません」

 

S君「正直、この世界を守り切れる自信はないです。俺は大したことない人間ですから」

 

S君「でも、やらないといけないんです」

 

みこ「そんな…」

 

S君から語られる言葉は、あまりにも残酷だった。

 

 

自分の代わりはいない。

 

 

たった一人で戦わなければならない。

 

 

常に死と隣り合わせ。

 

 

まるで地獄のような話だ。とても一人の人間が背負えるものではない。それが、今目の前にいるS君の置かれた状況であり、みこにとって物凄く辛いものであった。

 

みこ「ねぇ、なんで戦えるの?死んじゃうかもしれないのになんで?」

 

S君「それは…」

 

S君「みなさんの笑顔を守りたいからですよ」

 

みこの問いかけに、S君は一瞬間を空け、答える。その表情は笑顔だった。

 

S君「皆さんには、いつでも笑って配信やライブなどをしてほしい。視聴者さん達と楽しく過ごしてほしい」

 

S君「俺が前に生きた世界にも、ホロライブがありました。そっちはVTuberという形でしたけど、ホロメンの皆さんには元気をもらっていたんです」

 

S君「だから、ホロメンの皆さんには笑顔でいてほしいんです。そのために、俺は戦います」

 

ラプラス「S君…」

 

みこ「うぅ…」

 

S君の思いを聞き、再びみこの目に涙が浮かび、ラプラスも涙を浮かび始めた。

 

S君「お二人とも、泣かないでください。俺はそうそう死ぬつもりはありません。だから笑顔でいてください」

 

みこ(あぁ、これが本当のS君なんだ)

 

ラプラス(底抜けに優しい)

 

みこ(これは何を言ってもやめないね)

 

ラプラス(なら、吾輩達がすることは…)

 

みこ「わかったにぇ。もう止めない」

 

ラプラス「あぁ、むしろS君は止まらないよね」

 

S君「ええ、すみません」

 

みこ「ならみこ達は、みこ達ができることをやるにぇ」

 

ラプラス「そうだ!吾輩達が笑っていなかったらS君が頑張る意味が無くなってしまう」

 

S君「お二人とも、ありがとうございます」

 

みこ「いいにぇ、それよりも、約束してほしいことがあるにぇ」

 

みこ「絶対に死なないでほしいにぇ」

 

ラプラス「それは吾輩も同意だ」

 

S君「はい。わかりました」

 

S君は笑顔で答える。みことラプラスも笑顔になった。

 

みこ「じゃあ、この話はこれで終わり!スタジオに戻るにぇ」

 

ラプラス「そうですね!でも、その前にS君は怪我の手当だぞ!」

 

その後、スタジオに戻る3人。S君が顔に怪我をしていることや、みことラプラスがいなかったことに、周囲からいろいろ聞かれるが、上手いこと誤魔化した。そして、未確認が撃破されたというニュースが流れたようで、収録も再開となった。

 

 

S君は、笑顔で収録に励むホロメン達を見て思う。

 

S君(皆さんにはやっぱり笑顔が似合う)

 

S君(どうか、この笑顔が続きますように)

 

 

 

 

 

 

 

全てはホロメンのために

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ 総帥の勘

 

 

ラプラス(不思議なもんだよな〜)

 

初めて会った時から、S君は妙に気になる存在だった。特別強そうに見えるわけでもない。目立つわけでもない。だが、なぜか放っておけなかった。holoXに勧誘したのも半分冗談で面白そうだったが、半分は本気だった。

 

ラプラス(なんとなく普通じゃない気がしていたんだよな)

 

ラプラス(まさか本当に普通じゃなかったとはね〜)

 

 

 

 




ここまで読んでくれて、ありがとうございます。

よければ、感想や評価をいただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。