24話 空虚
ホロライブプロダクション社長室前
ガン!
ガン!!
ガン!!!
社長室前の廊下に何かを打ち付けるような音が響く。
ココ「クソ!クソ!クソ!クソ!クソォォォォォォォォォォォ!!!!」
ノエル「ココちゃん!もうやめて!」
いろは「手が壊れてしまうでござる!!」
かなた「ココちゃん!!」
廊下に響く音の正体は、ココが壁を殴りつけている音だった。全力で殴りつけていたため、皮膚が傷つき、血が流れていた。暴れるココを落ち着かせるため、これ以上怪我をさせないため、いろはとノエルはココを壁から離し、羽交い絞めにした。
ココ「うっ…でもよぉ!S君は、あたし達を助けてくれたんだぞ!あんなにボロボロになってまで!!死なないって言ったのに!あたし達にできることがあれば、なんでもするって言ったのに!」
ココ「あんなに優しかったのに!あんなに誰かのために一生懸命になれる人だったのに!!こんなのってねぇよ!!」
ノエル「ココちゃん…」
いろは「ココ先輩…」
かなた「ココちゃん…。いまは泣いていいよ…」
ココは涙を流しながら叫ぶ。ノエルといろはは、ココを抑え続けるも、気持ちはココと同じだったため、二人も声を押し殺しながら嗚咽を漏らしていた。そしてかなたは、ココの頭を優しく抱きしめた。嗚咽を堪えながら…
また、ほかのホロメンはというと、
みこ「なんで…S君…なんで…」ブツブツブツ…
ラプラス「まだholoXに入ってないだろっ。くっ…くぅぅぅぅぅぅぅ…」
ポルカ「ねぇ、フブさん…。S君ね、この前、自分は大丈夫だって言ってたんだよ…。未確認が出ても無事だった…。なのに、なのに!!」
フブキ「ポルカ…」
ラミィ「はあっ!はあっ!はあっ!っく!えすkっ…はあっ!はあっ!!」
ミオ「ラミィちゃん!しっかりして!ゆっくり息を吸って!!」
ココほどではないが、全員が相当なショックを受け、泣き崩れる者、無機質に呟く者、拳を握りしめる者、過呼吸に陥る者がおり、全員が落ち着くまで相当な時間を要した。
谷郷「タレントたちも今はひどいようだな…」
葛山「はい…。無理もありません…」
谷郷「そうだな…。私は桜木君について連絡しなければならない。タレント達を頼んでもいいかな?」
葛山「はい、わかりました」
谷郷「ありがとう」
葛山にホロメンのことを任せ、谷郷は静かに自分のデスクに座った。
そして通達文を考え打ち込み始めた。
しかし、指先が震え、いつものように打ち込むことができなかった。
谷郷(こんなに辛いものか…。社員が亡くなるというのは…)
その後、なんとか通達文を完成させた谷郷は、送信ボタンを押す。
数秒後、ホロメンや社員たちのスマホが一斉に鳴った。
『 ホロライブプロダクション職員及び所属タレントの皆様
突然の連絡をしてしまい、申し訳ありません。
本日、午後1時22分に、弊社所属の桜木宏斗が死亡したことをお知らせいたします。それに伴い、本日の業務は休業といたします。なお、故人の葬儀等については、追って連絡いたします。
社長 谷郷』
カシャン…
谷郷から送られてきた、S君の死亡通知を見て、枢の手からスマホが落ちる。
枢「おばあちゃん…S君…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!……」
バタン
笑虎「枢ちゃん?しっかりして!枢ちゃん!枢ちゃん!」
ヴィヴィ「やだ!枢ちゃん!!」
リオナ「いけない!救急車!!」
千速「枢ちゃん!しっかり!!」
事実を知って倒れる者
スバル「…は?」
あやめ「スバルちゃん、嘘だよね…?ねぇ!」
そら「そんな、S君が…」
すいせい「嘘だよ…。まだ恩を返せてない…」
マリン「そんな…。ねぇぺこら、これ、嘘だよね?何かの冗談だよね??」
ぺこら「マリン…ぺこらもそう思いたいぺこ…でも、こんなのが冗談なわけないよ…!!」
フレア「…」
社長からの通達でS君の死亡を知ったホロメン達は、深い悲しみに襲われることとなった。特に、S君と関りが深かった者はより顕著だった。
葛山「社長…。ありがとうございました。社長もお辛いでしょうに」
谷郷「いや、これは私がやるべきことだよ。それよりも、タレント達の様子はどうかな?」
葛山「はい、先ほどよりは落ち着きましたが、まだ動揺しています。完全に落ち着くまでは、まだまだかかりそうです」
谷郷「そうか…。しばらくはそっとしておこう」
◯◯病院 臨時遺体安置室
日が傾き始めた頃、社長室前にいたホロメン達も次々と病院へ駆けつけていた。 ホロメン達は徐々にではあるが落ち着きを取り戻していた。しかし、その瞳から光は失われていた。
臨時の遺体安置室には、S君の遺体のみ安置されていた。 目の前には、静かに横たわるS君。 呼吸はなく、身体はすでに冷たくなっている。 誰も言葉を発することはできず、ただ赤く腫れた目で、その姿を見つめることしかできなかった。
ガラッ
全員が何も言えないままS君を見ていると扉が開き、二人の女性が入ってきた。全員が扉のほうに目をやると、入り口には、ちょことおかゆが立っていた。ちょこが目を覚まし、おかゆも少し落ち着いたため、ようやくS君の遺体が安置されている部屋に来たようだ。二人ともかなりやつれた顔をしている。
みこ「おかゆん、ちょこせんせー…」
おかゆ「みこち…」
ちょことおかゆは、ホロメン達が来ているとは思わなかったのだろう。室内にたくさんのホロメンがいることに驚き、みこの言葉にうまく返せなかった。
少しの沈黙のあと、おかゆはやつれた顔をさらに歪め、頭を下げた。
おかゆ「みんな、ごめん!ぼくがモタモタしていたせいで、S君がぁ…」
ちょこ「おかゆんだけのせいじゃないよ!あたしも同じだから…本当にごめんなさい」
二人とも声を震わせながら話す。ギノガから逃げる最中、逃げ遅れた子どもを助け起こそうとしていたことを言っているのだろう。二人は責任を感じ、必死に謝っている。無論、二人が子どもを助けようとしたことは悪いことではない。子どもが逃げ遅れていれば、誰だって助けるはずである。まわりのホロメンも何かあったことは察しており、責めようとするものは一人もいなかった。
ノエル「おかゆん、ちょこせんせー、大丈夫だよ。二人のせいじゃないのはわかってるよ」
おかゆ「ノエちゃん…」
ちょこ「ごめん、ありがとう」
二人の様子を見て、ノエルが声をかける。おかゆとちょこは顔をあげ、ホロメン達を見る。そして涙をぬぐう。
ラミィ「ねぇ…」
ちょこ「っ、ラミィ…」
ラミィ「二人が悪くないのはわかってる。でも…あのとき何があったのか、教えて?」
ブルッ…
ラミィの頼みに二人は体が震える。S君がギノガに毒を吸わされたとき、二人は目の前で踠き苦しむS君を見てしまっている。苦悶に歪むS君の表情。そしてだんだんと意識をなくしていく様子を思い出すだけで、体が震えてしまうのである。
フブキ「大丈夫…」
ミオ「ゆっくりでいいよ」
震える二人を、傍で支えるフブキとミオ。そして、ちょことおかゆは、あのときのことをぽつりぽつりと話し始めた。
葛山「なるほどな…」
みこ「おかゆん、ちょこせんせー、話してくれてありがとう」
おかゆ「うん…、本当にごめん」
ココ「もう謝らないでください。二人は当然のことをしただけですよ」
話を聞いていたホロメン達は、ちょことおかゆを気遣い、自分を責めないように話す。二人がどれだけ責任を感じているのかがよくわかっているからだ。
ラミィ「二人の言うことはよくわかった。でも、まだ知りたいことがあるわ」
ラミィ「S君が変身して戦ったっていうのはどういうこと?」
ラプラス「っ、それは…」
みこ「その…」
ラミィ「何か知ってるんだね。ううん、何か隠してるんだね?」
ラミィの核心に迫る質問に、みことラプラスは言い淀んでしまう。その様子から、ラミィは何かを隠していることを確信する。
ポルカ「それ、ポルカも知りたい」
フブキ「私も」
ミオ「私にも教えて」
同じようにS君の秘密を知らないポルカたちも聞いてくる。
ラミィ「隠さないで全部教えてね」
ラミィから放たれる圧に、みこ達は顔を見合わせる。
葛山は静かに口を開いた。
葛山「……全部話そう」
そうして、S君の秘密が語られた。
S君が転生者で、グロンギと戦う戦士、クウガであること。
もう1年以上一人で戦い続けていること。
怪我が多かったのは、戦いで傷ついていたこと。
誰も代わりがいないこと。
ラミィ達は、S君が背負った、あまりにも過酷な使命を知り、絶句した。
今までS君は一人で耐えてきたこと。自分たちは、ずっと守られていたことを知り、何も言えなかった。S君にかける言葉が見つからなかった。
再び目に浮かぶ涙。
今度こそ止まりそうになかった。
ミオ「S君…今までずっと一人で…っっ!!」
フブキ「こんなのってないよ…。一人で背負いきれるものじゃないよ…」
ポルカ「ねぇ、もしかして…漁港に下見に行ったときも、S君は…」
葛山「そうだ…。未確認と戦った…」
ポルカ「っっ!」
かなた「ちょっと待って、下見のときがそうなら、もしかしてボクを探したときも?」
葛山「わからない…。だが、可能性は高いと思う…」
かなた「そんな…」
S君が下見のときに、グロンギと戦っていたと葛山から語られ、ポルカはさらに衝撃を受け、唇を強く噛み締め、俯いた。またかなたも、自分を探してくれたときも戦っていたのかもしれないと思い、さらにショックを受ける。
ラミィ「…」
おかゆ・ちょこ「…」
ラミィは何も言わない。いや、言えないのだ。
頭の処理が追い付かない。ただ、肩を震わせることしかできなかった。また、それはおかゆとちょこにとっても同じだった。むしろ二人は、今回のことの当事者であったため、ほかのホロメンよりもショックが大きい分、話す気力が湧かなかった。
みこ「隠しててごめん…。でも、これはなかなか言えるものじゃなかったから…」
フブキ「グズッ…大丈夫。わかってるから…」
ミオ「こんなの、言えないよね…」
フブキとミオはなんとか受け止めることができたようだった。
いろは「みんな、これからどうするでござるか?」
葛山「今俺たちにできることはない。あるとすれば、桜木を弔うことしか…」
ココ「くっ…!」
『S君を弔う』
その言葉を聞くと、S君が亡くなったことを改めて自覚してしまう。重かった空気が、さらに重く感じられる。再び沈黙が広がるが、しばらく黙った後、かなたが口を開く。
かなた「もう…、S君を休ませてあげよう」
ノエル「そうだね…。今までたくさん頑張ってきたんだもんね」
みこ「S君…。今までありがとうにぇ…」
ラプラス「ゆっくり眠ってくれ…。ありがとう」
かなたがS君を休ませたいと言い、ノエルが同意する。みこも心の中で同意し、S君の顔を撫で、ラプラスとともに感謝を伝える。
やがて他のホロメン達も一人ずつS君へ感謝を伝え始めた。特にラミィは、「おばあちゃん…、おばあちゃんの料理、美味しかったよ。今まで守ってくれてありがとう」と言い、S君の体をゆっくりと抱きしめた。
かなた「ボク、あとで天界に行ってくる。S君の魂を天国に送ってくる」
みこ「かなたん、よろしくね」
かなた「うん、しっかりやるよ」
かなたが天界でS君の魂を導くことになり、ホロメン達は、かなたにS君のことを託す。だが、ここでココが口を開き、別の話題を口にする。
ココ「なぁ、おかゆ先輩にちょこせんせー。S君をやった未確認はまだ生きてるんだよな?」
おかゆ「え?」
ココが、おかゆとちょこに、まだギノガが生きているかを尋ねてくる。その問いかけに、おかゆは一瞬呆気にとられたものの、すぐに答える。
おかゆ「うっ、うん。たぶん生きてると思う」
ちょこ「あの後、よろよろしてたけど逃げていったから…」
ココ「そうか…」
葛山「おい、なんでそんなことを聞く?桐生さん、まさか…」
葛山は、ココの意図に感づき、ココが言おうとしていることを言いかける。
ココ「未確認が生きてるんなら、そのうちまた出てくるよな。そしてまた犠牲者が出る」
ココ「S君は、そんなの許さないよな。S君なら絶対に倒しに行く。だから…」
ココ「あたしが倒す」
かなた「そんな!!ココちゃん、お願いだからやめて!!そんなことをしたら、今度はココちゃんが死んじゃうよ!!」
ココの言葉を聞き、かなたは慌てる。たとえココが人間ではなかったとしても、未確認相手に戦いを挑むのは自殺行為に等しい。S君が死んでしまっただけで、みんな心に深い悲しみを感じ、大きな傷として心に刻まれてしまっている。それが、今度はココまで同じになるかもしれないことに、かなたは強く拒否した。
ココ「かなたん、止めないでくれ。あたしは、S君がやろうとすることをやるだけだよ。それに…」
ココ「あたしは、S君を殺したやつが許せない!!」
ココは怒気を含ませながら言い放つ。
ココ「大丈夫だよ。やばくなったら逃げるから」
かなた「でも!」
ココ「それに、未確認を倒そうとしてるのは、あたしだけじゃなさそうだぜ?」
かなた「え?」
ココにそう言われ、後ろを振り向くかなた。視線の先には、覚悟を決めた目をしたラプラス、ノエル、いろはが立っていた。
かなた「そんな、三人まで!?」
ノエル「ごめんね、かなたん。でも、ココちゃんを一人で行かせるわけにはいかないんだ。それに、S君の意思を継ぎたいのは私も同じ。」
いろは「ござるも、S君に助けられた恩は返したい」
ラプラス「吾輩も、今回ばかりは行かせてもらう」
葛山「だが、いくらなんでも無茶だ!」
ラミィ「それ、私も連れていって」
葛山「雪花さん!…っ!?」
ラミィ「私もS君を殺した未確認が許せない」
ラミィ「何もしないなんて耐えられない」
ラミィ「絶対に未確認を倒して、S君の仇を取ってやる!!!」
葛山「雪花さん…」
葛山が見たラミィの目は、完全に光を失っていた。
その目に宿るのは、完全なる闇。
復讐にとらわれてしまった者の目だった。
ココ「大丈夫なのか?」
ラミィ「うん。迷惑はかけない」
ココ「そうか…」
そしてココは、四人の顔を見回した。
誰一人として視線を逸らさない。
全員が、本気だった。
ココ「…わかった。そうと決まれば、ヤツを倒す方法を考える。ヤツもすぐには動かないだろ。少しは時間があるはず」
ココがそう言い、五人は部屋を後にした。
だが、最後にラミィが出ていくときには、
ラミィ「……絶対に未確認を殺す」
静かに呟く声が聞こえた。
その声に怒鳴るような感情はない。
ただ、底の見えないほど冷たい憎悪だけが宿っていた。
その目にはもう涙は残っていなかった。
部屋に残った者たちは、呆然と眺めることしかできなかった。
フブキ「どうしよう…」
ミオ「どうしようって…止めるしかないでしょ!」
ポルカ「ポルカも行く!」
フブキ「あっ、わっ私も!」
迷うフブキに、ミオは止めるしかないといい、五人に続いて部屋を出ていく。ポルカとフブキもそれに続いて出ていった。
葛山「ああクソっ!なんでこうなるんだ!!」
ちょこ「葛山さん、どうするんですか?」
葛山「どうするもなにも、大神さん達と同じように、止めるしかないだろう!」
みこ「みこも行きます!」
おかゆ「ぼくも行く!また誰かが死ぬなんて嫌だ!」
葛山「天音さん、桜木のこと、頼むぞ」
かなた「はい、わかりました」
そして葛山達も部屋を出ていき、残ったのはかなただけになった。
かなた(どうしてこうなっちゃったんだろ…S君)
かなた(とりあえず、ボクはボクにできることをやろう)
そしてかなたは、自身の役目を果たすために、天界へと向かった。
博衣こより研究室
ラプラスは病院を後にし、holoXメンバーの博衣こよりが使う、研究室に来ていた。ここに訪れたのは、あることを頼むためであった。
ラプラス「こより、いるか?」
こより「あっ、ラプラス…。ねぇ、S君が…」
ラプラス「わかってる。吾輩も辛い。こより、お前は大丈夫か?」
こより「うん、なんとか…」
ラプラス(大丈夫、なわけないよな…)
こよりの目は赤く、涙を流した跡があった。先ほどまで泣いていたのだろう。こよりが悲しんでいたのはわかるが、今は慰めている余裕はなかった。ラプラスは、ここに来た目的をこよりに話し始める。
ラプラス「実はこよりに頼みがあって来たんだ。S君は、未確認の毒で死んだ。その毒を解析してほしい」
こより「えっ、毒の解析って、なんのために?」
ラプラス「S君を殺した未確認を倒すためだ。毒を解析すれば、未確認の弱点がわかるかもしれない」
こより「ちょっ、ちょっと待って!未確認を倒すってどういうこと!?そんなことできるわけない!!死んじゃうかもしれないよ!!」
ラプラス「ああ、普通に挑んだら必ず死ぬ。だから、少しでも勝機を見出せるようにしたいんだ。それに、S君の仇も取りたいし、これから犠牲になる人も減らしたい。それに、これはS君の意志を継ぐっていう意味もある」
こより「S君の意志を継ぐって、どういうこと…?」
ラプラス「それはな…」
そしてラプラスは、こよりにS君の秘密を伝えた。
こより「S君が…未確認の新種…。それで、おかゆ先輩とちょこ先輩を守るために戦って死んじゃった…」
ラプラス(S君…こより…すまない)
ラプラスから話を聞き、衝撃的な事実を知って、こよりはさらにショックを受けてしまう。
そして、ラプラスは勝手にS君の秘密をこよりにバラし、こよりにショックを与えたことを、心の中で謝罪する。しかし、ラプラスは今は引けなかった。
こより「それで、未確認を倒しに行くことに繋がるんだね…」
ラプラス「もちろん吾輩が一人で行くわけじゃないぞ。他にも未確認を倒そうとしている仲間はいる。だから頼む。みんなで生きて帰ってこれるように、協力してくれ!」
こより「…」
こよりはしばらく悩む。
協力したら、未確認が倒せる?
本当に?
うまくいかなくてみんな死んでしまうのでは?
様々な考えが頭を巡り、こよりは混乱し始める。
しかし、ラプラスが言っていた「S君の仇を取る」という言葉を思い出し、徐々に協力しようという思いが湧いてくる。
こよりも、大事な仲間が奪われたことに、少なからず許せない思いがあった。
そして、
こより「……怖い」
こより「でも、S君が命を懸けて守ろうとしたものを、何もしないまま見捨てるなんてもっと嫌」
こより「……わかった。協力する」
ラプラス「ありがとう。助かる」
こより「その代わり、絶対に死んじゃだめだよ?」
ラプラス「ああ、わかってるよ」
こより「うん。それじゃあ最初に、未確認の毒を持ってきて。毒は探せる?」
ラプラス「それについては大丈夫だ。現場はわかっているから探せるはずだ」
こより「わかった。くれぐれも気を付けてね?」
ラプラス「了解。じゃあ探してくるから、待っててくれ」
ラプラスはそう言って、研究室を後にした。
ラプラス(これで少しは勝つ可能性があがればいいが…)
ラプラス(未確認は、常識が通用しない。なんとか勝って、みんなが生き残れるようにしないと。そうじゃなきゃ…S君に顔向けできない)
ラプラスにも、S君の仇を討ちたい思いはあった。
だが、それ以上に強かったのは、「もう誰にも死んでほしくない」という願いだった。
S君は命を懸けて、自分たちを守り続けた。その想いを無駄にしたくない。守られた者として、今度は自分が皆を守りたい。その決意だけが、ラプラスを前へと歩かせていた。
天界
死者の世界。あたり一面が白く淡い光に包まれ、ところどころに建物や道が見える。そんな中を、かなたが猛スピードで飛んでいく。その顔には焦りが見え、大粒の汗が浮かんでいた。
かなた(ない!…ない!)
ビュン!!
風を切る音が聞こえる
かなた(S君の魂が、どこにもない!!)
かなた「はあ、はあ、はあ」
かなたは一度飛ぶのをやめ、近くの地面に着地する。息は激しく乱れていた。
かなた(ない……)
かなた(どこにもいない……)
何度探しても、S君の魂は見つからない。
天使である自分が見つけられないなど、本来あり得ない。
だからこそ。
かなたの胸に、最悪の考えが浮かぶ。
かなた「もしかして…。S君は、転生者だから、こっちに魂が来れない?」
かなた「それとも…死んじゃったら…魂も消えちゃう?」
かなたはそこまで考え、あまりの恐ろしい考えに、ガタガタと体が震えだす。
否定したい。しかしできない。
S君の魂に関しては、この世界の常識が通用しないかもしれない。
かなた「……そんな」
かなた「お願いだから……違うって言ってよ……S君……」
返事はなかった。
白く静まり返った天界には、かなたの震える声だけが虚しく響いていた。
全◼️◼️ホ◼️メ◼️◼️◼️め◼️
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
今回はかなり重い話になりました。
次回もお付き合いいただければ嬉しいです。
活動報告も更新しましたので、そちらも読んでいただければと思います。
よろしくお願いします。