タヌゴン対フルゴン ~テイワット☆大☆爆☆発~ 作:もちもち・もふもふ・たぬたぬ
タヌキを人間サイズにしたら、ヒグマみたいで強そうだとは思いませんか?私は思います。
「博士」討伐の17年前、異界との境目
黒く染まった流星が、テイワットの方へ3つすり抜けた。作戦の失敗を認識した魔女会の老婆は伝える。
「いかん!入り込まれたぞコードA!当初の予定通り『来たるべき時』に叩く方針に切り替える!」
「分かったわコードB。それから、これは念のための確認なのだけれども、今回の件は例の旅人に――」
「ああ、伝えておくれ。うちの弟子が半端に気づいた情報で動かれるのが一番まずい。人の縁を抜きにしても、テイワットに有効的な『降臨者』は今回の事件を解決する鍵になりうる。」
「それじゃあ早速失礼するわ」
魔女たちは走る。全ては、理外の厄災を打ち払うため。
――――――――――
「博士」討伐の11か月前スネージナヤ・グラード近郊から南西方向のどこか。
走る。走る。凍った大地の上を、原神の世界に転生してしまった一人の馬鹿が走る。
「ドラゴン」のファーストネームを親からもらって、さる没落貴族の血筋に生まれた。
「……っ。ぐすっ」
走る。走る。「あたりまえ」以上に寒い世界を、誰よりも自由に孤独に走る。
魔法は特権で、自分はそこからあぶれた。今世の家族は貴族としての復権にしか興味がなかった。
「ひぐっ」
走る。走る。体の内には熱があった。右手には長槍があった。アタシが踏みしめているものは空気になった。
家族の手で外道の下に売り渡され、非道な実験の対象になった。命を差し出して、微妙な魔法を使えるようになった。
耐えられた。耐えられた。手に入らないと分かっていながら、愛を求めた。ただ肉親に微笑みかけてほしかった。そのためなら、手足が欠けたとしても耐えられた。その姿をあざ笑われようとも。
『杜撰だな。始めから期待していなかった連中の仕事とはいえ、徒に身体を切り刻んで終わりとは考えもしなかったよ』
『愚か者共の上司として謝罪しよう。お詫びと言っては何だが、君の身柄と君が参加している「研究」は私が引き取ろう』
成果が出ると分かっていたのも救いだった。「俺」の前に現れた仮面の男は、その国で最高峰の技術者にして科学者だった。彼はアタシに施された施術の問題点を一つ残らず適示した上で、「女皇陛下の配下としてケチのつかない存在にする」と約束してくれた。
『この邪眼は肌身離さず持っておきたまえ。姿かたちすら変わってしまいかねない実験だからな。目印程度の微弱なものとはいえ、自我と諸共に見失うよりはマシだろう』
そしてそれは事実となったのだろう。
ただし。それでも。
「……うわあああああぁん!」
「女の子にされた挙句、世界各国に対するハニトラ要因として働けだなんて、そんなのイヤだーっ!」
前世から変わらなかったものがある日突然変わってしまうのは、それなり以上のショックなのである。
―――――
「『スネージナヤ本国の脱走兵が空中を走ってフォンテーヌ方面へ逃走』だと?人はそんな長距離を走れない。スネージナヤを出ないうちに守備隊が捕まえるさ。……子供達も疲れているのか……『厳冬計画』開始の前に、まとまった休みを確保するべきか……」
―――――
「そろそろオルモス港に行く時間か。面倒だがヤツとの決着を……?…………何だ今の」
―――――
「凝光様。フォンテーヌ及びスメールから怪生物のもくげッ……今我々の目前を通過していったアレです」
「今の走り方だと……この先は稲妻ね。稲妻との連絡手段を持つ者に、『天権』凝光の名で今から言うことを伝えさせよ!内容は――」
―――――
「『長槍を持った少女が炎上しながら貴国に接近中。至急警戒されたし』……九条沙羅。ここに璃月の『天権』から預かった写真があります。これを見せて腕に覚えのある者を動員し、この国に接近する怪人を撃ち落とすように。生死は問いませんが、個人的に正体を知りたいのでなるべく生け捕りにするように」
「はっ!」
―――――
「んだよこんなに走れるようになるなら全然ヘボくねーじゃんこの邪眼!貸与物の検品くらいちゃんとしろよ貴重な実験体が早死にしても知らんぞザンディクゥ!」
邪眼のトンチキ効果にドン引きしながら、俺の肉体の施工管理者に悪態を吐き捨てる。そうでもしないとやってらんない。
えーっと、今どの辺?さっき
クッソ寒くて一部元素反応が強化されているらしいこと以外メリットほぼ皆無のスネージナヤを裸一貫抜け出し、薄着でも寒くないことすらメリットにならない公海上に繰り出しているのである。今足がつったら永遠の失踪者コースだなコレ?いや、これからはいつもそうかこの見た目を『ドラゴン』と結びつけるのは無理がある。
そんなこんなでスネージナヤから丸6日は走っているのだが、目的のランドマークは――おっ、ちゃんと有んじゃーん!稲 妻 城 天 守 閣!
だがまずは離島の港を目指す!女の子になっても、そういう手続きの類はやれる限りきっちりやるタチなのよこのドラゴン・ローレンスは!なーので大きく左折して……
ほおおおおぁああああああああ!?あいつら弓矢撃ってきやがった!正気かよ!?アタシがたまたま後ろ暗いところしかなかった元ファデュイ関係者だったから正しい判断だけど、なんの罪もない諸外国民だったらどうすんのよこれ国際問題になるぞ!?(※ヒント:人は空を走れない)
でも避ける!避けられる!空を走ることに関しては無駄に高性能なこの邪眼のおかげで、離島の港から沖合3キロメートルあたりから海面スレスレを走りなおせばまだ穏当に……アーッ!?
第2射で体が大きく煽られたァーッ!!しかも撃ったのは寄りにもよって九条沙羅!狙い撃ちの際に込められた彼女の雷元素と俺の邪眼の炎元素が接触して……
「UOOOOOOAHHHAAAAAAッ!!!」
『過負荷反応』だッ!爆発の衝撃でアタシの体がさらに傾くッ!これはもう姿勢が持たない!そして、そしてッ……
「さようなら、アタシの『合法的な』人生……」
アタシは、森の奥深くに墜落した……。
―――――
「ふやーん!たぬきは、なにものなのですか!なぜ、おなかがすいているのですか!こんなにせかいがひろいのは、どうしてですか!」
「にんげん!こたえてください!たぬきは、なにものなのですか!」
「お前が、アタシを助けてくれたのね……。大丈夫、全部後で教えてあげるから……。だから、まずはアナタに名前を……この世界に生まれ落ちた『心』に対する最初の祝福をあげるわ……」
「アナタは、アナタの名前は……。
タヌキの体に、ドラゴンの心構えを持つ者よ……」