ようこそ実力至上主義の教室へ〜完全無欠の君が送る高校生活〜   作:必殺仕事人Black

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インタールード

昼休み。

 

高度育成高等学校の廊下には、独特の空気が流れていた。

 

入学当初の浮ついた新入生特有の熱は、もうかなり薄れている。

 

Sシステム。クラスポイント。昇降格。

 

その現実を知ったことで、生徒たちは少しだけ“大人”にならざるを得なかった。

 

誰と関わるべきか。誰が有能か。どのクラスが脅威か。

 

そんな視線が、水面下で行き交っている。

 

そんな中でも、天道真希の周囲だけは妙に空気が柔らかかった。

 

廊下の窓際。

 

昼の光が差し込む場所で、真希は紙パックのコーヒー牛乳を片手に立っている。

 

その隣では、椎名ひよりが静かに本を読んでいた。

 

互いに無理に喋らない。けれど沈黙が不自然ではない。

 

そんな空気。

 

そこへ。

 

「やっと見つけた」

 

明るい声が飛んできた。

 

真希が振り向く。

 

そこに立っていたのは、一之瀬帆波だった。

 

ピンクブロンドの髪。人懐っこい笑顔。

 

その隣には、神崎隆二もいる。

 

対照的な二人だった。

 

片方は春の日差しみたいに柔らかく。

 

もう片方は静かなナイフみたいに鋭い。

 

「こんにちは」

 

一之瀬が軽く手を振る。

 

「少しいいかな?」

 

真希は穏やかに笑った。

 

「もちろん。Bクラスの一之瀬さんと神崎くん、だよな?」

 

「お、知ってくれてるんだ」

 

「有名人だからな」

 

その返しに、一之瀬が少しだけ照れたように笑う。

 

神崎は静かに真希を見ていた。

 

観察。

 

そんな言葉が近い視線だった。

 

敵意ではない。

 

だが、ただの雑談とも違う。

 

真希はそれを察している。

 

だからこそ、自然体を崩さない。

 

「立ち話もなんだし、そこのベンチ使うか?」

 

「あ、うん」

 

一之瀬が頷く。

 

四人は窓際近くのベンチへ移動した。

 

ひよりは会話の邪魔をしないよう少し距離を取ろうとしたが、真希が自然に隣を示す。

 

その仕草だけで、一之瀬は少しだけ目を丸くした。

 

——自然だ。

 

恋人同士特有の見せつける感じではない。

 

空気みたいに隣へいる。

 

それが逆に、本物っぽかった。

 

「それで?」

 

真希が笑う。

 

「俺に何か用でも?」

 

そこで神崎が口を開いた。

 

「単刀直入に言う」

 

真面目な声音。

 

「君に興味があった」

 

ひよりが静かに視線を上げる。

 

一之瀬は苦笑した。

 

「神崎くん、もうちょっと柔らかく言えない?」

 

「回りくどいのは苦手だ」

 

「そこは知ってるけどさぁ……」

 

そんな二人のやり取りに、真希は少し笑った。

 

「別に気にしてないよ。で、興味?」

 

神崎は頷く。

 

「元Dクラス——いや、現Cクラスの変化についてだ」

 

真希の表情は変わらない。

 

神崎は続ける。

 

「Sシステムを早期に察知し、クラス崩壊を防ぎ、さらに昇級まで導いた。少なくとも外部からはそう見える」

 

「しかも恋人を編入させたしね」

 

一之瀬が苦笑混じりに言った。

 

「かなり噂になってるよ」

 

「勘弁してくれ」

 

真希が額を押さえる。

 

「そんな大事になるとは思わなかった」

 

「普通なると思うけど……」

 

一之瀬は呆れ半分、感心半分だった。

 

だが、その瞳には嫌悪がない。

 

むしろ好意的だ。

 

真希はそういう空気を読むのが上手い。

 

「まあ、でも」

 

一之瀬は真っ直ぐ真希を見る。

 

「すごいと思うよ」

 

その声には飾りがなかった。

 

「クラスをまとめるのって、本当に難しいから」

 

「……」

 

「しかもDクラスって、先生たちから事前評価最悪だったんでしょ? それを一ヶ月で立て直したんだから」

 

真希は少し困ったように笑った。

 

「買い被りすぎだよ」

 

「謙遜か?」

 

神崎が聞く。

 

「いや、本気」

 

真希は即答した。

 

その迷いのなさに、二人が少し反応する。

 

「俺はリーダーじゃない」

 

「……違うのか?」

 

神崎の眉が僅かに動く。

 

真希は頷く。

 

「矢面に立っただけだ」

 

その言葉は静かだった。

 

けれど、軽くはない。

 

「俺が全部動かしたわけじゃない。平田みたいに人をまとめられるやつもいるし、堀北みたいに理屈で押し切れるやつもいる。櫛田みたいに空気を柔らかくできるやつもいる」

 

一之瀬が真希を見る。

 

その言葉に、“自分を大きく見せたい欲”が全く感じられなかった。

 

むしろ逆。

 

自然に、他人を評価している。

 

「Sシステムを説明した時だって、本当はクラス崩壊してもおかしくなかった」

 

真希は窓の外を見る。

 

「誰かを責め始める可能性もあったし、逆ギレするやつもいた。『お前のせいで空気悪くなった』って言われても不思議じゃなかった」

 

実際、ほんの少しズレればそうなっていた。

 

Dクラスは脆かった。

 

まとまりなど存在しなかった。

 

「だから、俺一人の力じゃないんだよ」

 

真希は笑う。

 

「皆がちゃんと聞いてくれたから、今がある」

 

その言葉に。

 

神崎隆二は、少しだけ沈黙した。

 

——なるほど。

 

そう思う。

 

この男は、“自分が中心だ”と思っていない。

 

だが同時に。

 

自分が前へ出るべき時を理解している。

 

だから矢面に立てた。

 

責任を負える。

 

それは、ただ頭がいいだけの人間には出来ない。

 

一之瀬も同じことを感じていた。

 

優しい。

 

でも、それだけじゃない。

 

ちゃんと現実を見ている。

 

そして。

 

自分の功績を誇らない。

 

それが、一之瀬には妙に印象的だった。

 

「……やっぱりすごいよ」

 

一之瀬がぽつりと言う。

 

「え?」

 

「普通、自分が頑張ったって言いたくなるもん」

 

真希は笑った。

 

「頑張ったのは事実だよ。でも、俺だけじゃないってだけ」

 

「それを自然に言える人、あんまりいない」

 

一之瀬の言葉は静かだった。

 

神崎も否定しなかった。

 

むしろ。

 

だからこそ、この男の周囲には人が集まるのだと理解していた。

 

真希は少し照れたように笑う。

 

「なんか今日、やたら褒められるな」

 

「実際結果出してるからな」

 

神崎が言う。

 

「しかも、クラスメイトからの信頼も厚い」

 

「そこまで分かるのか?」

 

「人を見るのは苦手じゃない」

 

短い言葉。

 

だが、評価は高かった。

 

真希は肩をすくめる。

 

「なら、お互い様だな」

 

「?」

 

「Bクラスの空気、かなりいい。あれ、一之瀬さんと神崎くんが頑張ってるだろ」

 

一之瀬が瞬きをする。

 

「え」

 

「クラスの空気って自然発生しないんだよ。ちゃんと誰かが気を配ってるから成立する」

 

真希は笑う。

 

「だから、すごいと思う」

 

一之瀬は一瞬、言葉を失った。

 

褒め返されたからじゃない。

 

“見抜かれた”からだ。

 

表面だけではなく。

 

自分たちがどれだけ気を遣ってクラス運営しているか。

 

それを、この短時間で察している。

 

神崎もまた、静かに真希を見ていた。

 

——厄介だ。

 

敵なら。

 

間違いなく。

 




天道真希「綾小路のフォローもあったことを語りたかったけど、なんか目立つのが駄目な雰囲気出してたしなぁ。胸のうちにしまっとこ」
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