ようこそ実力至上主義の教室へ〜完全無欠の君が送る高校生活〜   作:必殺仕事人Black

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第二章、革命の鳴動と先導者②

五月一日。

 

空気が変わる朝だった。

 

誰も口にはしない。

 

だが、一ヶ月前とは教室の雰囲気が違っていた。

 

私語は減った。

 

机に突っ伏して寝る者もいない。

 

授業中、スマートフォンを弄る生徒はほぼ消えた。

 

池や山内ですら、中学の頃よりは教師の話を聞いている。

 

完璧ではない。小さいミスも多かれ少なかれ、あった

 

けれど、“意識”が変わった。

 

原因は明白だった。

 

天道真希。

 

入学二日目。

 

教壇の前で語った、あの話。

 

最初は半信半疑だった。

 

だが、一ヶ月。

 

クラスは少しずつ気づき始めていた。

 

教師は本当に見ている。

 

態度。

 

提出物。

 

遅刻。

 

協調性。

 

生活態度。

 

居眠り、遅刻、欠席をしても、教師たちは注意もペナルティも下さない。

 

天道真希の言葉が、日に日に真実味を増していった。

 

自分たちの全部が、どこかで評価されている。

 

そして——今日。

 

答え合わせの日だった。

 

「うおっ」

 

最初に声を上げたのは池だった。

 

「来た!」

 

スマートフォンを見ながら立ち上がる。

 

周囲の生徒たちも、一斉に学生端末を確認し始めた。

 

教室にざわめきが走る。

 

「ポイント振り込まれてる……」

「マジだ」

 

だが。

 

数秒後。

 

空気が変わった。

 

「……え?」

 

「ちょっと待って」

 

「十万じゃない」

 

教室が静まり返る。

 

そこに表示されていた数字。

 

87,000。

 

91,000。

 

84,000。

 

個人差はある。

 

だが、誰一人として十万には届いていない。

 

そして。

 

それを見た瞬間。

 

クラス全員が、思い出していた。

 

“来月も同額とは限らない”

 

“学校は生徒を見ている”

 

“俺たちがDクラスなのには理由がある”

 

天道真希の言葉を。

 

山内が乾いた声を漏らす。

 

「……全部、当たってたじゃねえか」

 

池も珍しく黙っていた。

 

軽井沢たち女子グループも、もう笑っていない。

 

幸村は腕を組みながら小さく息を吐く。

 

「予想以上だな……」

 

平田は苦笑した。

 

「天道君、本当にすごいね」

 

だが。

 

その“天道真希”本人は、今朝から妙に忙しなかった。

 

朝早くに一度席を外し。

 

戻ってきたと思えば、誰かと連絡を取り。

 

またどこかへ行く。

 

いつもの余裕が薄い。

 

「なあ天道、お前なんか今日変じゃね?」

 

池が聞いたときも、

 

「ちょっと用事」

 

としか答えなかった。

 

堀北鈴音は、その様子を横目で見ていた。

 

(何をしているの)

 

綾小路も気づいている。

 

ただ、二人とも深くは聞かなかった。

 

真希が“今は言わない”と決めている顔だったからだ。

 

そして。

 

教室の扉が開く。

 

茶柱佐枝だった。

 

黒のスーツ。

 

相変わらず事務的などこか気怠げな表情。

 

だが今日は、どこか違った。

 

妙に歯切れが悪い。

 

「……着席しろ」

 

生徒たちが座る。

 

茶柱は教壇に立つ。

 

数秒、沈黙。

 

珍しかった。

 

この教師は、基本的に迷わない。

 

言葉を選ばない。

 

なのに今日は、わずかに間がある。

 

まるで、どう伝えるべきか考えているようだった。

 

「まず」

 

茶柱が口を開く。

 

「ポイントについてだが——」

 

教室が緊張する。

 

「君たちの査定評価は、この一ヶ月で大きく改善した」

 

ざわ、と空気が揺れる。

 

「特に、生活態度。授業態度。協調性」

 

茶柱の視線が、教室を静かに見渡す。

 

「事前評価のDクラスとは別物と言っていい」

 

池が小さく「マジかよ」と呟く。

 

山内も口を半開きにしている。

 

茶柱は続けた。

 

「そして——」

 

一瞬。

 

ほんのわずかに口元が緩んだ。

 

「おめでとう」

 

その言葉に、教室が静まる。

 

「君たちは、今日からCクラスに昇級だ」

 

数秒。

 

誰も理解できなかった。

 

空白。

 

音が消えたみたいな沈黙。

 

「……は?」

 

最初に反応したのは須藤だった。

 

「Cクラス?」

 

「え、待って」

「昇級ってなに?」

「クラス変わるの!?」

 

一気に教室が騒がしくなる。

 

軽井沢が立ち上がりそうになり、平田が慌ててなだめる。

 

綾小路は静かに目を細めた。

 

(クラス変動制)

 

予想はしていた。

 

だが、ここまで早いとは。

 

堀北も驚いていた。

 

ただ一人。

 

真希だけが、静かだった。

 

茶柱は咳払いする。

 

「落ち着け。説明は後でする」

 

そして。

 

さらに続けた。

 

「それと、もう一つ」

 

教室が再び静まる。

 

「今日付けで、このクラスに編入生が一名入る」

 

「編入?」

 

「この時期に?」

 

茶柱は扉の方を見る。

 

「入れ」

 

静かに。

 

教室の扉が開いた。

 

そして——。

 

銀色の長髪。

 

柔らかな雰囲気。

 

静かな知性を纏った少女が入ってくる。

 

椎名ひより。

 

教室の空気が、一瞬止まった。

 

綺麗だった。

 

派手ではない。

 

だが、目を引く。

 

本棚の静けさを、そのまま人間にしたみたいな少女。

 

真希の視線が、自然と柔らかくなる。

 

ひよりもまた、小さく目を細めた。

 

その瞬間だけで。

 

二人の間に流れる空気が、他と違うと分かってしまう。

 

茶柱が説明する。

 

「事情があり、元Cクラスから現Cクラスへ編入となった」

 

おかしな説明に誰も突っ込まないのは、まだみんなこの情報の洪水を上手く処理できなかったせいだろう。何なら、茶柱自身「(何を言ってるんだ私は?)」と内心思っている。

 

事情。

 

その言葉に、綾小路は真希を見る。

 

真希は視線を逸らした。

 

(なるほど)

 

忙しかった理由。

 

放課後、姿がなかった理由。

 

もう分かった。

 

ポイント。

 

権利購入。

 

クラス移籍。

 

全部繋がる。

 

(……やることが大胆すぎる)

 

綾小路ですら少し呆れた。

 

ひよりは教壇の前に立つ。

 

少し緊張している。

 

だが、声はしっかりしていた。

 

「椎名ひよりです」

 

静かな声。

 

なのに、よく通る。

 

「読書が好きです。よろしくお願いします」

 

柔らかな挨拶。

 

それだけでも、クラスの空気が少し和らぐ。

 

だが。

 

ひよりはそこで、一瞬だけ真希を見た。

 

そして。

 

少しだけ頬を赤くしながら、続ける。

 

「あと……」

 

教室中の視線が集まる。

 

「天道真希くんとは、中学のころからお付き合いしています」

 

沈黙。

 

完全な沈黙。

 

数秒後——

 

「はぁぁぁぁ!?」

 

池の叫びを皮切りに、教室が爆発した。

 

「え、付き合ってんの!?」

「中学から!?」

「いやいやいや待って!?」

「マジかよ天道!!」

 

山内が机を叩いたり、何人かの男子立ち上がりかける。

 

軽井沢たち女子グループも、一斉に真希とひよりを見比べていた。

 

「えっ、めちゃくちゃお似合いじゃない?」

「ていうか隠してなかったの!?」

 

佐藤麻耶が半分興奮気味に言う。

 

一方で、王名雨は妙に納得した顔をしていた。

 

「……確かに、天道くんなら、彼女がいても不思議ではないですけど」

 

「いや、それにしたって衝撃強すぎるでしょ!」

 

篠原が突っ込む。

 

須藤ですら「マジかよ……」と呟いていた。

 

ただ——。

 

不思議と、嫉妬めいた空気は少なかった。

 

天道真希という男の人柄を、この一ヶ月で皆ある程度理解していたからだ。

 

面倒見が良い。

 

話しやすい。

 

誰かを見下さない。

 

必要なら頭も下げる。

 

そのうえ、頭も切れる。

 

だから。

 

“彼女がいてもおかしくはないだろうな”とは、どこかで皆思っていた。

 

だが。

 

(いや、にしても急すぎるだろ)

(入学一ヶ月で彼女編入って何)

(しかも彼女から暴露)

 

情報量が多すぎる。

 

綾小路は静かにその様子を見ていた。

 

(普通の恋愛って、こんな感じなのか?)

 

いや、多分違う。

 

これは普通じゃない。

 

少なくとも、入学一ヶ月でポイントを使ってクラス移籍権を購入する高校生は、普通の範囲から外れている。

 

堀北鈴音は、じっと真希を見ていた。

 

(……本当にやったのね)

 

大胆。

 

それでいて、妙に納得もできる。

 

天道真希という男は、やると決めたら迷わない。

 

そこへ——

 

パン、パン。

 

茶柱佐枝が手を叩いた。

 

一瞬で空気が締まる。

 

「騒ぐな」

 

低い声。

 

教師としての圧が乗っている。

 

「恋愛事情は各自好きにしろ。だが、今はそれより優先する話がある」

 

教室が徐々に静かになる。

 

茶柱はひよりを見る。

 

「椎名、お前の席はそこだ」

 

指差されたのは——

 

真希の隣。

 

ざわ、と再び空気が揺れる。

 

「隣!?」

「ガチじゃん!」

 

池が小声で叫ぶ。

 

ひよりは少しだけ恥ずかしそうに頷いた。

 

「はい」

 

そして歩く。

 

静かな足取り。

 

真希の隣へ。

 

席に座る瞬間、二人の視線が合う。

 

ひよりが小さく笑う。

 

真希も、ほんの少しだけ表情を和らげた。

 

その自然さが逆に破壊力を持っていた。

 

「なんかもう夫婦感あるんだけど……」

 

松下が呟き、佐藤が深く頷く。

 

茶柱は小さくため息を吐いた。

 

「……話を戻す」

 

そして教壇に立つ。

 

空気が切り替わる。

 

「先ほど話した“昇級”についてだが、ここからはこの学校の根幹——Sシステムについて説明する」

 

その単語に、教室が静まる。

 

茶柱は淡々と続けた。

 

「高度育成高等学校では、クラスごとに“クラスポイント”が設定されている。1年の場合は最初に全クラス平等に1000cpが付与される」

 

黒板へ向かう。

 

チョークが乾いた音を立てる。

 

4月 5月

A 1000cp→940cp

B 1000cp→650cp

C 1000cp→450cp

D 1000cp→455cp

 

「A、B、C、D。これには、ランクと格付けの意味がある。品方向性、学業成績が優秀なAクラスが最上位。その中でもそれらが最も低いのが最下位のDクラス。この学校では、教師含めてこう呼ばれているよ。Dクラスは不良品と問題児の集まりだとな」

 

クラス全員、言葉を失う。

 

「そして、毎月の君たちに振り込まれるプライベートポイント支給額は、このクラスポイントに比例する」

 

ざわめき。

 

「つまり」

 

幸村が口を開く。

 

「クラスポイント1000なら、個人へ十万ポイント支給される……?」

 

「その通りだ」

 

茶柱は頷く。

 

「クラスポイント1につき、生徒一人へ100ポイント支給される」

 

計算。

 

教室中が一斉に理解し始める。

 

「じゃあ今月の俺ら……」

「455ポイントだったから……」

 

「45,500ポイント……!」

 

池が叫ぶ。

 

「半分以下じゃねえか!」

 

「静かにしろ」

 

茶柱は冷たく言う。

 

「クラスポイントは増減する」

 

「授業態度」

「学業成績」

「生活態度」

「学校への貢献」

「協調性」

 

一つ一つの項目を口にし。「学校は、君たちを見て、測っている」

 

明確に区切って説明する。

 

「逆に、遅刻、私語、居眠り、暴力行為などは減点対象となる」

 

須藤が舌打ちした。

 

「なお」

 

茶柱の声が少し低くなる。

 

「クラスポイントの変動は、他クラスとの相対評価でもある」

 

「つまり?」

 

平田が尋ねる。

 

「お前たちが努力しても、他クラスがそれ以上なら差は縮まらない」

 

冷徹な現実。

 

「そしてクラスは固定ではない」

 

そこで。

 

茶柱は一枚の紙を取り出した。

 

黒板へ貼る。

 

教室中の視線が集中する。

 

そこに書かれていたのは——

 

5月

Aクラス 940P

Bクラス 650P

Cクラス 450P

Dクラス 455P

 

数秒。

 

誰も理解できなかった。

 

だが、その下を見た瞬間。

 

全員の思考が止まる。

 

※Cクラス、Dクラスへ降格。

※Dクラス、Cクラスへ昇級。

 

「……は?」

 

軽井沢が呟く。

 

「待って」

 

堀北の目が細くなる。

 

綾小路も静かに黒板を見る。

 

つまり。

 

本来Dクラスだった彼らが。

 

一ヶ月で。

 

Cクラスを追い抜いた。

 

そして逆に。

 

元Cクラスが落ちた。

 

茶柱は教室全体を見渡した。

 

「理解したか?この学校は、クラスポイントの優劣でクラスが入れ替わる」

 

誰も、すぐには返事ができなかった。

 

数字。

 

順位。

 

昇降格。

 

それらが意味するもの。

 

この学校が、“本気”で競争をさせているという事実を。

 

今ようやく、全員が理解し始めていた。

 

「この学校は実力主義だ」

 

茶柱佐枝の声は平坦だった。

 

だが、その平坦さが逆に重かった。

 

感情ではなく、“事実”として告げている響きだったからだ。

 

教室は静まり返っている。

 

さっきまでの恋愛話の熱気など、もうどこにも残っていなかった。

 

黒板に貼られた数字。

 

Aクラス 940P

Bクラス 650P

Cクラス 450P

Dクラス 455P

 

たったそれだけの数字が、空気を変えてしまっていた。

 

「先ほども説明した通り、クラスポイントは毎月変動する」

 

茶柱は教壇に寄りかかる。

 

「そして、その数値はそのままクラスの価値を表す」

 

「価値……」

 

佐倉愛里が小さく呟く。

 

「例えば、Aクラス」

 

茶柱は黒板を指した。

 

「現在950cpポイント。つまり、一人当たり95,000ポイントが支給される」

 

「対して元Dクラス——」

 

わざとそう言った。

 

生徒たちが少しだけ反応する。

 

「現在455cpポイント。一人当たり45,500ポイント」

 

倍以上。

 

その現実が、じわじわと染み込んでいく。

 

「差がエグすぎるだろ……」

 

池が顔を引きつらせる。

 

「しかも毎月?」

 

山内も青ざめていた。

 

茶柱は頷く。

 

「年間で考えれば、数十万単位の差になる」

 

「さらに、この学校ではポイントでほぼ全てが買える」

 

そこへ真希が静かに視線を上げた。

 

“権利も可能”。

 

以前、自分が引き出した言葉。

 

今、その意味をクラス全員が理解し始めている。

 

「食事」

「生活用品」

「医療」

「娯楽用品、娯楽サービス」

 

茶柱は淡々と並べる。

 

「そして、ポイントで特別な権利も購入可能だ」

 

そこは詳しく語らない。

 

だが。

 

教室の何人かは、自然と椎名ひよりを見てしまった。

 

クラスの移籍、編入。

 

つまり。

 

実際に、“権利”は存在する。

 

真希は知らん顔をしていた。

 

ひよりは静かに前を向いている。

 

ただ、その耳だけ少し赤かった。

 

綾小路は内心で苦笑する。

 

(隠す気があるのかないのか分からないな)

 

「質問はあるか」

 

茶柱が言う。

 

すぐには誰も口を開かなかった。

 

情報量が多すぎる。

 

理解するだけで精一杯だ。

 

だが、幸村輝彦が手を挙げた。

 

「クラスポイントの増減基準は、全て公開されているんですか?」

 

「いい質問だ」

 

茶柱は頷く。

 

「答えはノーだ」

 

ざわ、と空気が揺れる。

 

「学校側は全てを開示しない。お前たちは観察し、考え、自分で結論を出す必要がある」

 

「……不透明ですね」

 

幸村が眉をひそめる。

 

「そういう学校だからな」

 

茶柱はあっさり返した。

 

「だが、最低限の傾向は存在する。そこから先をどう読むかは、お前たち次第だ」

 

平田が静かに考え込んでいた。

 

軽井沢たち女子も、今は誰も笑っていない。

 

クラスの空気が、一ヶ月前とは完全に違う。

 

“遊びの延長”ではなくなった。

 

この学校は、本当に競争をさせている。

 

それを理解してしまった。

 

そのとき。

 

「先生」

 

堀北鈴音が口を開いた。

 

「クラスの昇降は、頻繁に起きるものなんですか?」

 

茶柱は少しだけ目を細める。

 

「通常なら、そう簡単には起きない」

 

その答えに、何人かが真希を見る。

 

「今回のお前たちのケースは、かなり異例だ」

 

茶柱は続ける。

 

「普通、Dクラスは“Dクラスらしく”沈む」

 

言い方は辛辣だった。

 

実際、学校側の事前評価のDクラスは問題行動を起こす可能性を高い確率で予期していた。

 

「だが、お前たちは早い段階で行動を修正した」

 

そこで。

 

茶柱の視線が、一瞬だけ真希へ向く。

 

ほんの一瞬。

 

だが、綾小路は見逃さなかった。

 

(やっぱり認識してるか)

 

このクラスが変わった起点。

 

それが誰なのかを。

 

「もっとも」

 

茶柱はすぐに視線を戻す。

 

「浮かれるな」

 

低い声だった。

 

「今のお前たちは、たった5ポイント差でCクラスにいるに過ぎない」

 

黒板の数字。

 

455。

 

450。

 

本当に紙一重だ。

 

「次の月で落ちる可能性も普通にある」

 

「うっ……」

 

池が呻く。

 

「だからこそ、これからが本番だ」

 

茶柱は教卓を軽く叩く。

 

「この学校は競争社会の縮図だ。

 

 努力だけでは足りない。

 能力だけでも足りない。

 協調だけでも足りない。

 

 勝つためには、全部必要になる」

 

教室が静まり返る。

 

「最後に、この学校の謳い文句である、進学率・就職率100%。

この恩恵を受けられるのは、この学校をAクラスで卒業した生徒だけだ」

 

生徒たちが再びざわめく。

 

「当然だろう。そんな甘い話、存在するわけないだろ。特権を勝ち取りたいなら、死ぬ気でAクラスに勝ち上がるしかない」

 

誰も軽口を叩かない。

 

茶柱はそんな生徒たちを見て、少しだけ息を吐いた。

 

「……今日はここまでだ」

 

そこで一旦、話を切った。

 

張り詰めていた空気が、わずかに緩む。

 

だが、生徒たちの表情はまだ固い。

 

現実を知ってしまった顔だった。

 

高度育成高等学校。

 

その本性を。

 

ほんの入り口だけ、理解してしまった顔だった。

 

茶柱佐枝は、教室の空気がある程度落ち着くのを待ってから、再び口を開いた。

 

「それと、もう一つ」

 

低く、乾いた声。

 

「今月中に中間試験を実施する」

 

その言葉に、何人かが反射的に顔をしかめる。

 

「うわ、もうかよ……」

「早くね?」

 

池が露骨に嫌そうな顔をした。

 

山内も机に突っ伏しそうになる。

 

「当然だが、成績も査定対象だ」

 

茶柱は続ける。

 

「個人評価だけではなく、クラス全体のクラスポイントにも反映される」

 

教室が再び静かになる。

 

幸村が眼鏡を押し上げた。

 

「つまり、平均点や順位によって増減がある可能性が高い、ということですか」

 

「可能性はある」

 

茶柱は否定しない。

 

だが、それ以上は説明しなかった。

 

「詳細な査定基準は開示されない。自分で考えろ」

 

冷たい言い方。

 

しかし、その冷たさの中に妙な“誘導”が混じっていた。

 

真希はそれに気づく。

 

(……わざとぼかしてるな)

 

教師として、完全な情報は与えない。

 

だが、“重要な方向性”だけは示している。

 

つまり。

 

勉学面の対策を怠るな。

 

そういうことだ。

 

「もっとも」

 

茶柱は少しだけ間を置いた。

 

「今のお前たちなら、必要以上に怯える必要はない」

 

その言葉に、何人かが顔を上げる。

 

「対策をしっかりやれば問題ない」

 

さらっとした言い方だった。

 

だが。

 

その一言には、妙な含みがあった。

 

綾小路は静かに考える。

 

(“対策をしっかりやれば”か)

 

つまり逆に言えば。

 

対策しなければ危険。

 

そして茶柱は、“対策の重要性”をわざわざ口にした。

 

完全な善意ではないだろう。

 

だが、最低限のヒントは出している。

 

堀北鈴音も同じことを考えていた。

 

(赤点対策……?)

 

まだ詳細は分からない。

 

だが、注意しておくべきだ。

 

真希は茶柱を見ていた。

 

教師らしくない教師。

 

放任主義に見えて、意外と最低限は落とさない。

 

少なくとも。

 

“今のD——いやCクラス”を、完全に切り捨てるつもりではないらしい。

 

茶柱は最後に教室を見渡した。

 

「以上だ」

 

そして。

 

「せいぜい、落ちるなよ」

 

それだけ言い残して、教室を出ていった。

 

扉が閉まる。

 

静寂。

 

しばらく、誰も喋らなかった。

 

情報量が多すぎた。

 

Sシステム。

 

クラスポイント。

 

昇降格。

 

中間試験。

 

そして。

 

編入。

 

教室の空気は、妙な熱を帯びていた。

 

現実感が薄い。

 

だが、確実に何かが変わった。

 

池が最初に口を開く。

 

「……なあ」

 

ぽつりと。

 

「俺たち、本当にCクラスなんだよな?」

 

「みたいだなぁ……」

 

山内が天井を見上げる。

 

軽井沢もまだ半分呆然としていた。

 

「なんか急展開すぎるんだけど……」

 

「いやほんとに」

 

佐藤麻耶が頷く。

 

「昨日まで普通だったのに」

 

「普通ではなかったと思うけれど」

 

松下が冷静に突っ込む。

 

少しだけ笑いが起きる。

 

張り詰めていた空気が、ようやく緩み始めた。

 

そして——。

 

その視線が。

 

自然と、一箇所へ集まる。

 

天道真希。

 

そして、その隣。

 

椎名ひより。

 

数秒。

 

静寂。

 

次の瞬間——

 

「いや待てやっぱそこだろ!!」

 

池が叫んだ。

 

教室が一気に爆発する。

 

「そうだよ!」

「流すな流すな!」

「なんで彼女編入してんだよ!?」

「しかも中学から付き合ってるって何!?」

 

山内が机を叩きながら笑う。

 

須藤までニヤついていた。

 

「お前やること派手すぎんだろ」

 

「天道くん、隠す気なかったの?」

 

櫛田が楽しそうに笑う。

 

その笑顔には、今は純粋な興味が混じっていた。

 

軽井沢たち女子も完全に恋愛モードへ戻っている。

 

「どっちから告白したの!?」

「付き合ってどれくらい?」

「え、初デートどこ!?」

 

ひよりは少し顔を赤くしていた。

 

だが、嫌そうではない。

 

むしろ。

 

どこか嬉しそうだった。

 

真希は苦笑する。

 

「いや、一気に来るな」

 

「当たり前でしょ!」

 

篠原が即答する。

 

「こんなの気になるに決まってるじゃん!」

 

平田も困ったように笑っていた。

 

「さすがに僕も気になるかな……」

 

綾小路は静かにその様子を見る。

 

(クラスの空気が明るい)

 

驚きはある。

 

だが、悪意は薄い。

 

祝福。

 

好奇心。

 

そういう熱だ。

 

堀北だけは少し離れた位置から見ていた。

 

騒がしい。

 

だが、不思議と不快ではない。

 

真希という男が、自然と空気を柔らかくしている。

 

それは認めざるを得なかった。

 

「で!?」

 

池が身を乗り出す。

 

「どういう経緯なんだよ!」

 

「そうそう!」

 

「説明して!」

 

真希は小さく息を吐いた。

 

そして、隣を見る。

 

ひよりが静かに頷く。

 

“話していいですよ”

 

そういう目だった。

 

真希は苦笑した。

 

「……分かったよ」

 

教室中の視線が集まる。

 

真希は少しだけ頭を掻いて——

 

静かに、口を開いた。

 




とある日の放課後。
天道真希「なんとか1000万p集めたけど、限界見えてきたなぁ」
かっこいい苗字の女先輩「そんな君に500万pあげよう」ピロン!
天道真希「やったー!500万pゲットーー!」
かっこいい苗字の女先輩「よし、受け取ったな!なら今からわたしのお願いを聞いてもらおうか!ハッハッハ!」
天道真希「えっ(゚д゚)!」

次回、生徒会副会長とのPK勝負!

※中間テストの赤点即退学の説明がないのはワザとです。
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