ようこそ実力至上主義の教室へ〜完全無欠の君が送る高校生活〜   作:必殺仕事人Black

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第二章、革命の鳴動と先導者―Another side A―

Sシステムの説明を受けた翌日。

 

一年Aクラス。

 

高度育成高等学校の最上位。

 

その教室には、他クラスとは違う種類の静けさがあった。

 

騒がしくない。

 

だからといって暗いわけでもない。

 

皆が皆、自分の立ち位置と価値を理解している空気。

 

無駄な自己主張を必要としない余裕。

 

その中心にいるのが——坂柳有栖だった。

 

窓際。

 

自席に腰掛けた小柄な少女は、細い指先でティーカップを持ち上げるような優雅さで、学生端末の画面を眺めていた。

 

教室の朝日が白い頬に差し込んでいる。

 

その横顔は穏やかだったが、瞳だけは静かに研ぎ澄まされていた。

 

「……ふふ」

 

小さく笑う。

 

それだけで、近くにいた生徒が何人か反応した。

 

坂柳が“面白い”と感じた時の笑い方だ。

 

つまり誰かが、何かをした。

 

「また始まった」

 

少し離れた席で、神室真澄が露骨に嫌そうな顔をする。

 

頬杖をつきながら、気怠げに視線を向けた。

 

「今度は何に興味持ったの」

 

「失礼ですね。私は常に知的好奇心を持っているだけですよ」

 

「それを世間じゃ厄介って言うんだけど」

 

神室は肩をすくめる。

 

坂柳は気分を害した様子もなく、学生端末を閉じた。

 

「Dクラス——いえ、元Dクラスのお話です」

 

その言葉で、教室の空気が少しだけ動いた。

 

元Dクラス。

 

つまり、昨日付けでCクラスへ昇格したクラス。

 

その件は既に学年中へ広がっていた。

 

異例中の異例。

 

入学一ヶ月での昇降格。

 

しかも。

 

“最底辺”だったDクラスが上がった。

 

興味を持たない方がおかしい。

 

教室後方で本を読んでいた生徒が顔を上げる。

 

葛城康平だった。

 

無機質なほど整った無毛の頭部。

 

高校生らしからぬ重厚な雰囲気。

 

彼は静かに口を開く。

 

「騒ぐほどのことか?」

 

低く、落ち着いた声。

 

「一時的な変動に過ぎない可能性もある」

 

坂柳は微笑む。

 

「保守的ですね、葛城くん」

 

「堅実と言ってほしいな」

 

葛城は腕を組んだ。

 

「クラスポイント五差。ほぼ誤差だ。来月には戻る可能性も高い」

 

現実的な意見だった。

 

実際、数字だけ見ればその通りだ。

 

455。

 

450。

 

紙一重。

 

転落も十分あり得る。

 

だが。

 

坂柳は小さく首を傾げる。

 

「問題は結果そのものではありません」

 

「……何だ?」

 

「“Dクラスが変化した”という事実ですよ」

 

その声は静かだった。

 

だが、妙に耳に残る。

 

「先生方の言葉通りなら通常、Dクラスというのは崩壊します。自己中心的で、短絡的で、協調性がない。だからDクラスへ落とされる」

 

坂柳は楽しそうに続ける。

 

「ですが今回は違った」

 

神室が面倒そうに聞く。

 

「たまたまじゃないの」

 

「いいえ」

 

坂柳は即答した。

 

「人間の集団は、一ヶ月程度で自然改善するほど単純ではありません」

 

その言葉に、葛城がわずかに眉を動かした。

 

「つまり、お前は“誰か”がいると言いたいのか」

 

「ええ」

 

坂柳は頷く。

 

「恐らく、起点になった人物が存在します」

 

教室の何人かが興味深そうに耳を傾ける。

 

Aクラスの生徒は基本的に優秀だ。

 

だからこそ、“異常”に敏感だった。

 

坂柳は続ける。

 

「監視社会のような学校システムを短期間で察知し、クラス全体へ共有し、さらに行動を変えさせた」

 

「それが事実なら、かなりの手腕だな」

 

葛城が淡々と言う。

 

「ええ。少なくとも凡人ではありません」

 

坂柳は笑った。

 

「実に興味深いです」

 

神室が深いため息を吐く。

 

「あーあ、また始まった」

 

「何がです?」

 

「その顔」

 

神室は指を差した。

 

「面白い玩具見つけた時の顔してる」

 

坂柳は否定しない。

 

ただ、穏やかに微笑むだけだった。

 

葛城は静かに考えていた。

 

彼は坂柳ほど“遊び”を好まない。

 

だが、それでも今回の件には違和感を覚えている。

 

Dクラス。

 

あの問題児集団。

 

そこが、一ヶ月で改善。

 

しかも、クラスポイント逆転。

 

偶然では説明しづらい。

 

「その人物に心当たりは?」

 

葛城が聞く。

 

坂柳は少し考える素振りを見せた。

 

「まだ断定はできません」

 

これは本音だった。

 

現時点で、坂柳有栖は綾小路清隆という存在を認知していない。

 

当然、“ホワイトルームの最高傑作”などという情報も持っていない。

 

だから今の彼女は、純粋に盤面だけを見ていた。

 

そのうえで。

 

一つの名前に興味を抱いていた。

 

「ですが」

 

坂柳の指先が、学生端末の画面を軽く撫でる。

 

そこには、昨日学年中に広まった噂が表示されていた。

 

“Cクラスへ編入してきた少女”

 

“その少女は、天道真希という男子生徒の恋人”

 

“彼氏がポイントで移籍権を購入したらしい”

 

神室が呆れた顔をする。

 

「……高校生のやることじゃないでしょ、それ」

 

「大胆ではありますね」

 

坂柳は小さく笑う。

 

「ですが同時に、とても人間的です」

 

「人間的?」

 

「ええ。合理だけでは説明しきれない行動ですから」

 

葛城が静かに口を開く。

 

「感情優先の判断とも取れる」

 

「かもしれません」

 

坂柳は否定しない。

 

「ですが、人は感情だけでは大金を動かしません。少なくとも私は、そういう人間を信用していない」

 

そこで一度言葉を切る。

 

そして。

 

「だからこそ興味があります」

 

柔らかく。

 

けれど確かな熱を宿した声だった。

 

「天道真希さん」

 

その名前を、初めて口にする。

 

「あなたは一体、どんな人間なのですか?」

 

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