頭文字D 峠の弾丸 外伝 ホワイト・ブレット 作:ペンギン太郎
神奈川県秦野市 ヤビツ峠
神奈川県道70号秦野清川線に峠道であるヤビツ峠は、走り屋が集まる走りスポットとして知られており。
タイヤの焼ける臭いと、ガソリンの香り。そして、負け犬の悔しさが混じった空気。そんな臭いが充満するここで、ある二人の走り屋がここに来ては話をしていた。
「なぁ、聞いたか?最近、スイスポの走り屋が現れたらしいぞ」
「スイスポだぁ?はっ、そんな玩具で走り屋気取りかよ…。それがどうしたってんだ?」
ここヤビツをホームとする走り屋の端くれで、二人は路肩に停めたワンビアの横で煙草を吹かしていた。
シルビアのフロントを180にスワッピングした、奇妙なフォルムのその車。ワンビアのドライブシートに座る男は、地元でそこそこ名の知れた走り屋である。
「それがよ…そのスイスポは、三菱ブラザーズをヤビツでぶち抜いたって話なんだ…」
「はぁ?三菱ブラザーズって、GTOとFTOに乗るあの二人を、ここでぶち抜いたとでも言うのか?」
「ああ。パワーじゃ完全に負けてる筈なのに、タイトな区間でスイスポを完璧に捌いて、二台まとめてを抜いていったそうだ…。おかげで奴ら、地元じゃあ顔色が悪いそうだ…」
スイスポに負かされたとなれば、その実力に信憑性があるのではないかと、走り屋の一人がワンビアに乗る男に言うが。ワンビアに乗る走り屋は鼻で笑ってはこう返す。
「はっ、所詮GTOやFTOなんざ、ランエボに勝てねえから威張ってるだけの車だろ。それに続けるだけでもバカげてるというのに。負けてしまったからには、そろそろあの二人もランエボに乗り換えるべきじゃねえのか…」
「言えてる。峠を攻めるならシルビアや180、ロードスターみたいな軽い車が正解だっていうのに、今回の敗北となれば。もう潮時かもしれないな」
ワンビアに乗る男は、同じ神奈川の走り屋が負けたと言うにも関わらず、同乗を見せずに、煽るように罵倒し。相方もそれを肯定しては役目を終えたかのように言っては突き放す。
そう話していく中で、例のスイスポ乗りがこっちに来るのではと予想する二人だが、フンと鼻を鳴らしては語る。
「ま、そいつが俺達にバトルを仕掛けて来ても、鼻から受ける気はねえよ。何せ俺らは、あのチーム246についで速いと言われるくらいだからな」
「だな。246のエースである小早川と大宮には敵わねえが、ワンビアに乗るお前を相手に挑もうなんざ、頭が悪いとしか思えねえからな」
二人は高笑いしながら車に乗り込むと、早速ヤビツ峠を走り込み。
道幅が狭く、タイトなヘアピンが連続する峠を、ワンビアは軽快に駆け下りていく。
「よしっ!今日も俺らのタイム、更新させようじゃんかよ!!」
夜の冷たい風とタイヤの悲鳴が、二人をさらに興奮させでいくが、その次の瞬間、バックミラーに、強いヘッドライトが映り込む。
「ん?なんだあれは…?」
「す、スイスポじゃねえか…!!まさか、こいつが例の三菱ブラザーズを破ったっていうあれなのか!?」
「ど、どうする?いっその事ここらでバトルするか?」
「んなもん。相手するわけねえだろ。どこの誰だか知らねえが、俺に敵うわけが…なっ!?」
ワンビアのドライバーが眉をひそめたその直後、ZC31Sのスイスポはハザードランプをチカチカと点滅させ。道を譲るように合図を送ると、ワンビアのドライバーは上から目線で合図を送ってくる相手に、苛立ちを募らせる。
「野郎…!俺達じゃ相手にならねえから道を譲れってか、舐めやがって…!!」
「ど、どうする?ああ言ってくるからには、大人しく引き下がった方がいいんじゃ…?」
「んなわけにいくかよ!!野郎…、俺を誰だと思ってあんな合図を送って来やがるんだ…!!」
ワンビアの男は、舐められてたまるかと合図を無視してアクセルをベタ踏みして距離を開けようとするが、後ろから来る車もハザードを解き、スピードを更に上げながらワンビアに近づいてはケツに張り付く。
「う、後ろに張り付かれたぞ!!あのスイスポに乗ってるドライバーはかなりのやり手かもしれねえぞ…」
「うるせえ…!!ヤビツ峠は俺の地元なんだ!!どこの誰だか知らねえが、ここでバトルをするからには、抜かれるわけにはいかねえんだよ!!」
ナビシートに座る相方が、ワンビアの男にどうする聞くと、ワンビアのドライバーは苛立ちを隠せずに、アクセルをぶつけては一気に飛ばすが。
スイスポはピッタリとくっついてはテール・トゥー・ノーズの要領でワンビアのリアに張り付く。
「な、なぁ…。後ろのスイスポは後ろにくっついてはスムーズに走ってるみてえだけど、これって、俗にいうスリップストリームって奴じゃねえのか…?」
「はぁ!?あのスイスポ、俺のワンビアを風除けの壁代わりにしてるってことか!!野郎、舐めやがって…!!」
自分の車を風除けの身変わりにされたことに、苛立ちが頂点に達したワンビアのドライバーは、後ろのスイスポを引き離そうとアクセルを床まで踏み抜き。その先の峠ヘアピンで曲がろうとする。
しかし、ワンビアがドアンダーを出しては空けてしまった僅かな隙間を、スイスポが鋭く突いては、そのままオーバーテイクする。
「な、なんだどォ…!!」
スイスポは、ワンビアのイン側を完全に奪い、減速することなくヘアピンを立ち上がっては、一気に前へ飛び出し。
軽快なエンジン音を響かせ、スイスポはあっという間に突き放してはワンビアよりも先へと突き進む。
「う、嘘だろ…。こんな道幅が狭い峠道で、こんな簡単に抜くことができたりするのか…」
ワンビアに乗っていた二人は、まさかのスイスポが自分達を抜かした事実に現実味を見出せずにいては言葉を失い。
スイスポのテールランプは、遠ざかっていっては夜の彼方へ消えていく。
「「……」」
ヤビツ峠で起きたこの夜の出来事は、すぐに神奈川エリアの走り屋達の間で広まり。チーム246のワンビアもまた、あっという間にスイスポを引き立て役として、噛ませ犬の一つになってしまうのだった。
ヤビツ峠 駐車場
「…ふう。あ〜今日も派手に飛ばしたなァ…」
ヤビツ峠の駐車場には、スイスポに乗っていた藤咲玲がエンジンを切るや。ドライブシートに座りながらドリンクホルダーのミネラルウォーターを一気に飲み干してはひと息つき。先程のバトルを振り返る。
「それにしても、さっきのワンビア…意外と呆気なかったぁ…。地元じゃあそこそこ速いっていうから、期待してたんだけど…」
意外にも、呆気なくワンビアを抜けたことに拍子抜けする玲だが、軽く肩を透かしては自分が乗ってきたスイスポのダッシュボードをポンと叩いては呟く。
「ま、群馬でタケル君には負けてしまったとはいえ、こいつはまだまだ走れるし。パパが新しいのをくれるまで、暫くこいつで我慢するとしますか…」
ピリリリリッ!
「ちっ…!こんな時に電話かよ…」
スイスポに乗り続けると言ったその直後、胸のポケットの携帯が激しく鳴る響き、玲は舌打ちしながらそれに出る。
「もしもし?陸か…。どうしたの、急に電話を掛けたりしてさ…」
『どうしたじゃないだろ…!!。お前、ついこの間神奈川に引っ越してきたばかりだと聞いてるのに、どこをほっつき歩いてんだよ!!』
電話をかけてきたは玲の兄貴分にあたる中嶋陸からで、陸は苛立った声を飛ばしながら聞いてきた為、玲は淡々と答える。
「どこって、ヤビツ峠を軽く流してただけだよ。別に大したことしてないって…」
『ヤビツ峠だ?…あんなドリフトバカばっかりが集まる峠で、何走ってんだよ…。まさか、そこにいる走り屋とバトルしては負けたんじゃないよな?』
「まさか…。バトルには至らなかったけど、偶々通りかかったワンビアに勝負を仕掛けて、あっさりブチ抜いちゃったんだよね。前に聞いた話じゃ、向こうはそれなりに走れる奴だって噂だったのに、意外と大したことなかったんだ…」
玲が先程のワンビアを軽くぶち抜いたと得意気に話すと、陸は電話の向こうでため息をつく。
『お前、ワンビアに勝ったと抜かしてるが、もしかして、奴がドアンダーを出した隙をついてオーバーテイクしたんじゃないだろうな?』
「え?相手がワンビアって聞いただけで、そこまでわかるの?」
『当然だ。ワンビアは車体のバランスが乱れては挙動が不安定な形をした車だから、ヘアピンやタイトなコーナーで無理に曲げようとすると、フロントに荷重が乗り過ぎてはアンダーを出すからな。挙動が乱れては、インを突きやすいことぐらい、知ってるよ。そもそも、そんなガラクタを相手に勝っただけで、いい気になるんじゃねえよ…』
「が、ガラクタ…?あの車のどこがガラクタだっていうのさ…?」
ワンビア自体元々が大した車でないと陸から聞かされるや、その理由が何なのか尋ねると。その詳細について語りだす。
『ワンビアは元々のベースとなるシルビアの車体に180のフロントを無理矢理移植したのはいいが、重心位置が狂ってる上に、車体剛性も中途半端。タイトな峠じゃ挙動が読めなくては、まともに走れないからな。本気で峠を速く走りに行くなら、ノーマルのシルビアを選ぶべきなのに。改造車であるワンビアに乗る時点で、そいつのセンスが終わってるんだよ』
「そうなんだ…。じゃあ、ワンビアに乗る人って…」
『決まってる。ああいう改造車に好き好んで乗る奴は、派手なドリフトしか頭にねえ、見た目重視の
「うわっ…。いつにもまして辛辣だね、陸は…」
陸が容赦なくワンビアの弱点を指摘するや、それに乗る時点でドライバーの質が知れてると口にし。玲は少し厳しすぎるのではと言い返そうとするが。陸は声を低くしては言い放つ。
『玲。遊び半分で乗るなら文句は言わねえけど。俺達がやってるモータースポーツは、遊び気分でやってはいけねえ真剣勝負そのものなんだ。ただでさえ莫大な費用と時間を掛けては車を走らせてるのに、いい加減な改造を施してた車で調子こいてる奴が、俺は一番嫌いなんだよ』
「そ、そうだよね…。陸は口が悪いけど、その分モータースポーツに対しての情熱は人一倍強いことは、ボクもよく知ってるよ…」
『そうと分かれば、これ以上は勝手な行動を慎め。峠で調子こいてるような奴に、いちいち構う必要なんてねえからな』
「わ、わかったよ…。次からはできる限り行動を控えるよ…」
陸はそう言い切ると、電話を切ろうとするが。少し間を置いて、切る直前にこう言い残す。
『玲…。お前がどうしても、峠にこだわると言うのならお前がやりたいように好きにしろ。ただし一つだけ忠告しておくが。神奈川の走り屋は、その殆どがプロに匹敵する程で、お前が前にいた群馬とは走りの質そのものが段違いだと言うことを覚えておくんだな』
陸はそう言い残すと、返事も待たずに電話を切り。玲は携帯を胸ポケットにしまうと、強く握り拳を固める。
「…陸、そこまで言わなくても。ここが群馬とは違うことくらい、ちゃんとわかってるよ。でも…ここで勝てないようじゃ、絶対にタケル君に勝てない。誰よりもそれを知ってるのは、このボクなんだからね!!」
群馬で自分を負かしたタケルを思い浮かべては、この手でリベンジを果たしてやると強い意志を見せつける玲は。
今のままではいけないことを自覚しつつ、強豪がひしめく神奈川で腕を上げない限り、タケルに勝つことはありえないと自分に言い聞かせ。それを成し遂げるのにこの場で勝ち続けていくと、強く誓うのであった。
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