頭文字D 峠の弾丸 外伝 ホワイト・ブレット 作:ペンギン太郎
カラン カラン
「いらっしゃいませ」
洋食屋の扉が開き。一人の女性が入ってきては、玲が接客しようと前に出る。
「すみません…。ボクはここで、ある人と待ち合わせをしているんですけど…」
「待ち合わせ、ですか?」
「あ、来た来た〜!もう遅いじゃない〜時雨。あなたが私のZを乗ってみたいっていうから、運転させてあげたのに。駐車するのにどれだけかかってるのよ…」
時雨の元へ向かったのは、先に店に入っていた奈美子だった。彼女は呆れた様子で時雨に近付き、車を停めるのに時間がかかり過ぎだと、ため息混じりに注意する。
だが、時雨は不無愛想な顔を見せながら、言い返した。
「だって…奈美子の車、工具やらタイヤがいっぱい積んでて、後ろが見難かったんだもん…。あんな車に乗り続けられる奈美子の方が普通じゃないよ」
「へぇ〜。人の車に乗っておきながら、よくそんなことが言えるわね。まあ、今となっては旧車を通り越して化石とも呼ぶに等しいかもしれないけど、あれでも一応、あなたの車をサポートするために、必要なのよ」
「…ボクの車をサポートしてくれるのはありがたいけど、それなら、普通にワンボックスかワゴンにすれば良かったのに…」
「ムカつく〜!!全く何て言い草なのよ!!数ヶ月前に箱根で記憶をなくして彷徨ってたあなたを、誰が拾ってあげたと思ってるの!?」
時雨が物怖じず奈美子にズケズケと言い放ち、奈美子も負けじと大きな口を叩いて言い返す。二人の声がどんどん大きくなっては、店内に響き渡り。玲が慌てた様子で二人の輪に割って入り、仲裁しようとする。
「あ、あの…奈美子さん…。ここは店の中ですので、お静かにしてもらえますか…?」
「玲は黙ってて…!!時雨、今度という今度は絶対に許さないんだから!!」
「そっちこそ、行方不明になった自分の兄を探してるみたいだけど…、そこまでして見つからないのなら。いっそのこと諦めてみたらどう?」
「何ですって!?」
時雨のひと言で、奈美子のボルテージが一気にヒートアップする。
「ちょっと時雨……!!あんた、人の傷口に塩塗るようなこと言ってんじゃないわよ!!
」
「……」
時雨は冷たい目で奈美子を睨み返し、口論はさらにヒートアップしていき。玲は完全に頭にきたか、二人に向かって言う。
「あ〜もう…!!二人共、喧嘩するなら他所でやってよ!!ここで他のお客さんに迷惑かけたら、ボクが後でオーナーに怒られるんだから!!」
玲は喧嘩を止めない二人に大声を出しては沈めていくも、この騒動は他のお客さんの目に触れてしまい。
店内が静まり返った後で、こっぴどく叱れてしまうのであった。
洋食屋 更衣室
「あ〜今日は色々と疲れた…。バイトをするのに、こんなにも体力を使うなんて思わなかったよ…」
アルバイトを終えた玲は、洋食屋の制服からいつもの格好に着替えていき。黒のレーシングジャケットを羽織り、ジーンズを穿き、キャップを深く被るや。鏡の前で軽く髪を直すと、満足気に小さく頷く。
「よし、今日のシフトも終わったことだし。今夜もヤビツに行っては走り込むとしますか…」
いつもの格好に戻った玲は、従業員専用の駐車場に停めてあるスイスポに乗り込み。エンジンを掛け、夜の峠道へと駆け上がってはヤビツ峠へと向かっていく。
ヤビツ峠
「お、今日も相変わらず賑わってるね…。これだけ大勢いるんだし。ちょっくらバトルさせてもらおうかなぁ…」
ヤビツ峠に着くと、すでに多くの走り屋が集まっており。
シルビア、180SX、ロードスターと多くのFR車が路肩を埋め、排気音とタイヤの焼ける臭いが夜の空気を濃くしている。
それらを見た玲はやる気に満ちた笑みを浮かべては、駐車場にいる走り屋達を見回していくが、その殆どが群馬にいた走り屋とは明らかにオーラが違っており。
他所者である玲の存在に気付いた走り屋達は、玲を睨みつける。
『なんだよ、あのガキ…?地元の奴じゃねえみたいだな…』
『ふん。どこの馬の骨だか知らねえが、ここは箱根に次いで聖地として名高いヤビツだし、相手するだけ時間の無駄だっての』
駐車場に集まった走り屋達は、玲をチラチラと見ながら嘲笑うように見ていくや、まだ走り出して間もない若者だと、完全に舐めきっている様子だった。
しかし、その内の一人が、仲間達に向かって声を張り上げた。
「落ち着けお前ら…。ここは俺達チーム246だけのコースじゃねえんだ。あいつに好きにやらせるってのはどうだ?」
「大宮さん…」
その声に、ざわついていた走り屋達が少し静かになった。
その男が玲を仲間外れにしないよう呼びかけた後、玲の近くまで歩み寄り、にやりと笑って声をかけた。
「よぉ、坊主。ここに来るのは初めてか?」
「いえ…、ヤビツ峠はほんの少し前から来てまして、それなりに走り込みをしてはいますけど…」
「そうか…。なら、俺がここの攻め方を教える必要もねえみたいだな…。俺は大宮智史っていって、ここをホームにしてるチーム246のリーダーをやってる。お前は何ていうんだ?」
「藤咲玲です。それと…、坊主っていうのはやめてもらえます?これでもボクは、れっきとした女ですから」
玲が少しムッとした顔で女だと言っていくと、大宮は目を丸くしては、笑い出す。
「ははっ、それは悪いことをしたな…。何せ、ここらじゃ…女っ気の少ないし。お前さんの見た目が男前だったから、勘違いしちまったよ」
大宮が許してくれるように平謝りするも、玲はムッと膨らませながら大宮に話を聞いていくのである。
「それはそうと、ここをホームにしてると大宮さんは言ってましたよね。このエリアではどれくらい速いのか、お話いただけます?」
「「「!!」」」
一瞬、駐車場全体が静まり返っては周りにいた走り屋たちの表情が一気に変わる。
他所者である玲が、246のリーダーである大宮に対して失礼極まりない質問をしたことに、明らかに憤りを露わにしていた。
しかし、当の大宮はというと、意外にも、余裕たっぷりの笑みを浮かべながら腕を組み、玲を真正面から見据えてはゆっくりと答える。
「ははっ、いきなり核心を突いてくれるじゃねえか…まあ、それについてはなんとも言えねえが。俺はここらじゃ一番速いってことだけは確かだ」
「そうですか…。なら、そんな大宮さんにお願いしたいですけど、ここでボクとバトルしてもらえますでしょうか?」
玲は大宮にバトルするよう直にお願いすると周囲は再びざわめつき、大宮は一瞬目を細め、玲をじっと見つめると、口の端を吊り上げては口を開く。
「その言葉、俺が元プロのレーサーであるのを分かった上での挑戦として捉えてもいいんだな?」
「ええ。こう見えてボク、小学生の頃からカートを始めて、イギリスにモータースポーツ留学してますから、腕に自信はありますよ」
「なるほどな、お前は俗にいう帰国子女って奴か…。で、何に乗って俺に挑むんだ?」
「決まってますよ。後ろに停めてある、このスイスポで、大宮さんに挑ませてもらいますよ。ボクのスイスポはそれなりに速いですからね」
玲が自分のスイスポを指差すと、それを見た大宮は表情を引き締める。
「スイスポか…、面白い。なら、さっさと車を並べてバトル開始といくか」
大宮は玲とスイスポを見ていっては只者でないと感じ取ったか。自分が乗るNBロードスターを取りに、その場を離れるのだった。
「いいんですか、大宮さん。そう簡単にバトルを引き受けて?あれじゃまるで、あの小娘に舐められてるみたいじゃないですか…?」
チーム246の陣地である駐車場にて、ヒルクライム担当の小早川が苦々しくしては苦言を呈するも、大宮は小さく笑って肩をすくめては言う。
「別に構わねえだろ。俺はついこの間、レース人生に幕を下ろしたところなんだ。偶にはああいう若い連中を相手に本気で挑まれるのも、悪くはねえと思ってはバトルを引き受けたからな」
大宮は余裕があるみたいに言うが、同時に闘争心に火がついては、玲を仕留めてやろうと決意する。
そこに、チームのメンバーである一人が来てはある事実を話し出すのである。
「大宮さん…。つい最近、ここを走り回ってたワンビアが他所者に抜かれたって話、聞いてますよね?」
「ん?ワンビアって、ヤビツで無駄にドリフトばっかしては、イキリ散らしてたっていうあれだろ?そいつがどうかしたのか?」
「それが…先日、他所者に完璧にブチ抜かれて負けてしまったみたいなんですよ…。その場にいた奴の話によると、ワンビアをぶち抜いた相手は、スイスポであったと…」
「そうか…。あいつは、地元じゃそれなりに速いって言われてたワンビアを負かして、ここに来たってことなんだな…」
メンバーから、地元の走り屋を相手に一度勝っていると報告を受けた大宮は、冷静に玲を観察しながらも、口の端をつり上げる。
「ま、今更負けた話を蒸し変えしたところで結果は変わらない。俺にバトルを申し込んだあいつが、どれ程の実力があるのか…、俺自信…確かめてやるしかないからな」
大宮はメンバーにそう言うと、愛車のロードスターに乗り込んでは、玲が待つスタートラインへと移動した。
玲のスイスポと大宮のロードスターが、夜のヤビツ峠に並び。エンジン音が低く唸り、緊張した空気が二人の間に張りつめる。
チーム246のリーダー、大宮智史と、スイスポ乗り、藤咲玲によるダウンヒルバトルが、今、始まろうとしていた。
「なんだクリス?こんな時間帯に電話してきやがって…」
マンションの一室でくつろいでいた陸の携帯に、クリスが電話をかけてきてはそれに出るも。陸はため息をつき、電話越しでクリスと話をする。
『それがね、あたしもついさっき知ったんだけど…。玲ちゃんがヤビツ峠に行って、バトルしようとしてるみたいなのよ…』
「玲がヤビツに向かっただ?あいつ、あれほどドリフトバカが集まる場所に行くんじゃねえと、忠告したばっかなのに…」
『まあまあ、いいじゃないの。それよりも陸ちゃん、ヤビツをドリフトバカが集まる場所っていうのはちょっと失礼なんじゃない?』
やんわりとクリスが陸に注意してくるが、陸はフンと鼻を鳴らし、ヤビツ峠についてクリスに説明する。
「お前も知ってるとは思うが、ヤビツ峠は昔からドリフト好きの走り屋が集まる場所として有名だからな。あいつの父親も、昔はよくヤビツを走ってたと、耳にタコができるくらい本人から聞かされたよ。ただ、最近はマナーの悪い連中や、マフラーを違法改造して空吹かししてるイキり野郎が目立っては、近隣住民に迷惑をかけてると耳にしてるし。そんな危ない場所に、あいつが一人で向かったとなれば、心配するのは当然だろ?」
『…そうね。あたしもその辺に関しては、ちょっと苦言を呈したいところね…』
「それにあいつは…ヤビツ峠でGTOやFTO、ワンビアに勝ったと噂に聞いているが、そいつらに勝ち続けられたのも、ヤビツ峠が、スイスポに有利なコースだったからこそ、運よく勝てただけだ」
『そうなの?あたしが聞く限り、玲ちゃんが相手をした車も結構速そうな部類に入ると思うんだけど…』
クリスは玲がバトルで勝ったという車種も、悪くはないと言うが。陸はそれを鼻で笑っては、玲がバトルした車について語り出す。
「そうとも言い切れねえよ。GTOは直線の加速はGT-R並だが、重い車体が仇になってる分、致命的に曲がりにくいからな。FTOはGTOより車重が軽く、FFでありながらもクーペボディの良さが出てるが、コーナーでの速さに関してはホンダのインテグラ・タイプRと比べたらまだまだだ。そして、最後にワンビアに関しだが…。あれは語るだけ無駄な鉄クズだから敢えて言わないでおく…」
『流石陸ちゃん…。ホンダ党とはいえ、他のメーカーの車のことをそこまで知ってるなんて、本当に凄いわ…』
「……」
クリスは陸の知識の豊富さを褒めちぎるも、陸はそこからあることを思い浮かべるやクリスに聞く。
「なあクリス…。話は変わるんだが、俺の知る限りじゃ、ヤビツで一番速い走り屋っていったら、あの人の顔を思い浮かべるんだが…。お前はどうなんだ?」
『あら、それってもしかして、チーム246の大宮智史さんのことを言ってるんじゃなくて?』
「御名答だ。あの人には、富士スピードウェイで走ってた時に色々と世話になったからな。今年でレース活動に一旦区切りをつけて峠に戻ると、直接本人から聞いているが。あいつに限って、大宮さんとバトルするなんて真似はしたりする筈はないよな?」
『う〜ん…。玲ちゃんは物怖じしない子だから、もし大宮さんと遭遇して、ヤビツで一番速い人って聞いたら、すぐにバトルを申し込みしそうな気もしなくはないと私は思うわ…』
「もし仮に、あいつが大宮さんとバトルすることになったとしても…、今の玲じゃ荷が重過ぎる。あの人はヤビツ峠のことを知り尽くしてるし、乗ってるNBロードスターはタイトな峠道に最適な車だからな。例え玲のスイスポが車重の軽さを活かしたとしても、元プロである大宮さんの走りに食いついていけるかどうかに関しては、かなり怪しいと見ていいだろうな…」
玲が大宮とバトルするとなれば、勝ち目はないと断言する陸であったが。玲は元プロのレーサーである大宮に、どんな走りを見せつけるだろうか…。
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