右半身から変異し始めたから、一番最初にできなくなったのは二本足で歩く事だった
次に、喋ることができなくなった。身体中至る所についてる口は、食べることだけに特化している。僕が人に伝えられるのは、ただ聞くに堪えない呻き声だけになった
最後には、完全に肉塊へと成り果てた
………どうして、こんなことになったのだろう
こんな代価を払うことになると知っていれば、この地獄に足を踏み入れなかっただろうか?
ただただ徒労を繰り返し、かつての仲間を喰らい尽くし、守りたかった世界をぶち壊し続けた先に、本当に西風の吹く明日があるのか?
何度もそんなことを思い………桃色の髪をした少女の懇願が、迷いの全てを消し去る
この世界には、これしかないんだと───そう自分を騙して、僕はまた、アグライアを噛み潰した
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「………それで、その、結局この熱さは何なの…?」
「ファイちゃんとモスちゃんが高温ピュエロス対決したみたいなんだ!」
「あぁもう……」
トラックに轢かれたのを覚えている。そして──今いるこの世界が、何かしらのゲームだったことも
15歳だった僕はある日トラックに撥ねられ、どういうわけかこの世界──オンパロスで目覚めた
目覚めてすぐ死にかけたり、アグライアに拾われたりしながら、この世界に来てもう三年の月日が経った
「トリアン先生にはちょっときついでしょ?僕が行ってくるから、アグライアにもそう言っといて」
「わかった!よろしくな、メイちゃん!」
その身に背負った「門と道」の火種の影響で、トリアン先生にはこの熱気は充分害になり得る。アグライアの事だ、この事態ぐらいとっくに把握してるはずだろうから、僕は先に対応するだけ
「メイちゃん、ね……てかあっつ…」
名前……はアグライアに付けてもらったものだが、略して呼ぶとそうなってしまう。大して悪い気もしないから放っておくことにしている
「ファイノンくーん!モーディスくーん!無事ー?ヒアンシーさんが怖いよー!」
高温ピュエロス対決……まあ多分、サウナでどっちが先に出るかみたいな対決なんだけど、何でよりにもよって公共のとこでそれをやるんだろうか……
バルネアの中を、熱源を探りながら歩き回ればすぐに二人が見つかった
「……卑怯、だ。君の方が…服……着てないじゃないか…」
「HKS……負け惜しみはよせ、救世主」
「しかも着衣かよ……」
見覚えのあるポーズでぶっ倒れてるファイノン君に、座ってはいるがふらついてるモーディス君
温度設定を元に戻して、弱ってる二人の首根っこを掴んで外へ引きずっていけば、そこにはアグライアとヒアンシーさん、トリビー先生が待機していた
「………容疑者です」
「メイちゃんおかえりー!」
「お勤めご苦労様です、メイたん!」
「感謝します、プロメイア」
「はーい」
大人しく二人を引き渡すと、ヒアンシーさんが診始めた。モーディス君は最悪いいとしても、ファイノン君に何かあれば一大事だ。あれだけの温度だと、熱中症とかになっててもおかしくない……改めて考えても本当に何やってるんだ…?
「あなたも随分長くあの中にいましたが……大丈夫でしたか?」
「身体丈夫なの知ってるでしょ?こんぐらい余裕だよ。……それより、まだ中に残ってる人引っ張り出してくる」
「良いのですか?」
「こんな時ぐらい役に立たせてよ。それじゃ!」
「あ…ふふ、相変わらずですね…」
「ライアちゃん、迎えの準備をしておきまちょう?」
会話は最低限に、踵を返してバルネアへと駆け込む。二人の対決に巻き込まれてしまった人がそれなりの数いる。この世界に来てから妙に強くなっていた身体の使い所というわけだ
一度に十人は運べる身体能力を活用して、次々と外へと連れ出す。十数分で全員終わりである
「金糸に反応はありません。これで最後です…よく頑張りましたね、プロメイア」
「こんぐらい大丈夫だよ。ヒアンシーさん、皆は?」
「皆さん大事なかったですよ!メイたんが早く運び出してくれたおかげです」
「メイちゃんお疲れ様!」
「はいどうも……ふぅ……」
僕は、戦うことを選ばなかった人間だ
この世を蝕む暗黒の潮──目覚めてすぐその造物に襲われた時、咄嗟にそれに拳を振るった
そのわずかな隙に逃げ出して、その果てにファイノン君に助けられた。……この身体は戦いに向いていると分かっていても、何かを殴る感触を好きにはなれなかった
こういう事態に対応したり、力仕事を請け負ったりはしているけど、敵と向き合う勇気はない
「流石のメイたんもお疲れですか?」
「ん……あぁまあ、流石にね」
「であれば、一緒にどうですか?」
「一緒に?何を?」
アグライアの提案に首を傾げていると、彼女はその指をバルネアへと向けていた
「不慮の事故ではありますが、現在バルネアには誰もいません。貸切、という訳です」
「行きませんけど」
「そこで師匠とヒアンシーを連れ………おや?」
「何でその三人に混ざれると思ったの?行かないからね?」
「メイたん……来ないんですか…?」
「来るよねメイちゃん?」
「上目遣いすれば僕が屈すると思ってるなら違うからね?ていうかトリビー先生も乗らないの」
何も裸を見せるわけではない。それ用の服も持ってるけど……なんか、こう、ダメだろう
「無理強いはできませんね……では我々だけで入りましょうか」
「気が変わったらいつでも来てくださいね!」
「待ってるわよ!」
「行かないよ?」
何で行くと思ったんだ。何でそっちの方が恥じらい無いんだ。三年で僕のことを受け入れてくれたってことだろうか
何て思いつつ、またバルネアへと突入していく三人を見送ったあと、僕は街中に出て行った
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生命の花園にある大きな木の下で眠るのが好きだ。柔らかな風に木漏れ日、そこらをうろつく小さなキメラ達。どれもが心地よい時間をくれる
「……あ、プロメイア様…その、お二人は一体何を…?」
「公共のバルネアで高温ピュエロス対決したから反省中」
「それは……その…」
こんな風に、色んな人に出会う事もある。今回はキャストリスさんに、正座で反省中のファイノン君モーディス君だった
「先程の騒ぎはその事だったのですね。バルネアを使用していた方々は……」
「全員無事。熱中症も居ない」
「それなら良かったです。プロメイア様も、大事ありませんか?」
「この通り」
「ふふ……そうですか」
問答無用で触れた者の命を奪う死の呪い──それがキャストリスさんに生まれながらにして掛けられている呪いだそうだ
だから誰にも触れられない。落ち込んでいても、悲しい時も、嬉しい時すらも一人……だと、トリビー先生は言っていた
「それで、プロメイア様は……今日も、お昼寝でしょうか?」
「当たり。今日は特にする事もないし、ずっとここに居ようと思う」
「素敵ですね。私も少しだけ、お邪魔しても?」
「もちろん。丁度昼寝の仲間が欲しいと思ってたところ」
「では、失礼します……」
軽く身体を伸ばして、僕は再び木の影に入る。するとゆっくりと、キャストリスさんが少し離れた隣へ腰掛けてきた
「……静かですね」
「静かなのが、いいところ」
「はい……」
呟くように口にする言葉を聞けば、彼女の寂しさが垣間見える。その身に刻まれた死の呪い──余人と隔絶された運命を持つ彼女の心情など、僕にわかるはずがない。それでも……こういう時間が、少しでも慰めになればいいと思う
「こうしてみると……平和だよなぁ」
「えぇ。ですが…一歩でもオクヘイマを出れば、そこは…」
多くの人が、暗黒の潮の侵攻によって故郷を失った。今やオンパロスで安全と言えるのはこのオクヘイマのみ。それも時間の問題ではあるけれど……
「……逃げた奴が、何言ってんだって感じだけど」
「え───あぁ、ふふ、気にする事はありませんよ。あなたのような人を守る為に、私達は戦っているのですから」
あなたは、ただそこにいるだけで良いのだと。キャストリスさんは優しい笑顔と共にそう言った
キャストリスさんだけじゃない。きっと皆も、同じ事を言ってくれるだろう。何をするでもなく、ただそばに居てくれるだけで良いのだと
「なーに辛気臭い話してんの〜?」
「セファリア姉さん」
突然の声の方を向けば、そこに居たのは詭術の半神──セファリア姉さんだ
「帰ってくるなら連絡くれればよかったのに」
「またすぐ出るし、裁縫女に捕まるかもしれないでしょー?」
「アグライア、喜ぶと思うけど」
「おねーさんには色々あんの、あんたみたいな子供にはわかんないかもだけど」
「子供ね……」
それを言われると何も言えない。18歳とは言え、今の僕はアグライアに養われている子供に他ならないからだ
今日のように街のアレコレを手伝っているだけで、自分で生活費を稼いでいる訳でもない。その辺の諸々は全部アグライア持ちだった
「そんで──あの二人は何?」
「反省中のようです。色々ありまして……」
「ふーん……メイアと引きこもり姫もそういうことしなよ、あたしも協力したげるから」
「ええと…私は……」
「しないよ」
冗談なのか本気なのかわからない姉さんの態度を横目に、僕は小さく息を吐く
同じくアグライアに拾われた者同士だけど、セファリア姉さんは……恐らく何か事情があって、僕が来るよりずっと前にアグライアの元を離れた
それが何なのかは僕にはわからない──けど、きっと世界に必要な事なんだと思う
「………姉さんもキャストリスさんも、元気でいてね」
「え?何?どうしたの急に」
「プロメイア様?」
「二人だけじゃないや………アグライアも、トリビー先生達も、ファイノン君もモーディス君も、アナイクス先生も…他の人たちも。皆、みんな、ずっと元気で……笑っててね」
「…急にどうしたんだい?」
僕の言葉を聞きつけてか、反省中の二人もこっちにやって来た。まぁ、確かに、ちょっと変なこと言った自覚はあるけど
「腹でも空いたのか?何か作るが…」
「や、別に、そう大層な事じゃないんだけど」
「照れるぐらいなら言わなきゃいいのに」
「………照れてないし」
「そう言った内心を吐露するのは…大切な事、ではあると思いますが」
皆の心配するような眼差しが痛い。何と言うか……心地良さよりも、居た堪れなさがある
キャストリスさんの言う通り、胸に留めておくのも良くないだろうから言ったまでであって、別にほんとに何かがあったわけじゃない──いやあったと言えばあったのだが
「ちょっと、嫌な夢を。見ただけ」
……自分が自分じゃない気がして、それでも抗えなくて、取り返しのつかない事を繰り返して、狂ってしまいたいと思いつつも、それを許されなかった──そんな夢を見て、この世界の光景が普段以上に綺麗に見えてしまっただけで
「心配しなくても、皆元気でいるさ。ほら、モーディスなんて死なないだろ?」
「お前……」
「しょうがないにゃ〜…あたしも時々帰って様子見に来てあげるから」
「いつもと変わんないじゃん」
「たくさん来たげるって言ってんの!文句?」
「無いって。……嬉しいよ、ちゃんと」
「ふふ……」
たった三年──されど三年だ。もう何も知らない余所者ではいられない
遅くないのなら、僕も武器を取るべきだろうか。この腕を鍛えて、暗黒の潮との戦いに挑むべきなのだろうか。それとも、そうせずとも良いという皆の好意に甘えるべきなのだろうか
答えが出せないまま、時間は平等に過ぎていって───
──────────────────
「は」
地面にへたり込んだ僕。頬を伝う、温い血の感触──僕の血じゃない。それは、あの日と同じように僕を庇った彼のもので───
「っ────!」
手の届くところに落ちていた、誰のものとも知れない小さな手斧。僕は躊躇無くそれを取り、目の前の怪物に振り下ろした
怪物の脳天が砕け散る。即死だ。しかし、そんなものは最早どうでもいい。気にする余裕が一切ない。膝をついた彼の元へと駆け寄った
「ファイノン君!」
殺されそうになっていた僕を庇って、ファイノン君はその胸を貫かれた。何で、何で──どう考えたって僕なんかを庇うべきじゃないのに
「ぁ──無事、かい?」
「なんで、僕なんか──」
「はは……死んでほしく、なかったから」
溢れる血液は止まらない。血溜まりが広がっていく。彼の命が零れ落ちていく。胸の傷跡に手を当てても止まらない。治療──無理だ、完全に心臓を貫かれている。間に合わない
「ここ、は……僕にとって…第二の……故郷、で…」
「喋っちゃダメ、血が……」
「そこ、に…皆が、いて……いなくなって、欲しくなくて……」
「……ファイノン、君」
エリュシオンという、かつて滅んだ彼の故郷の話を聞いたことがある。彼にとってはそこと同じぐらいオクヘイマも大切で、そこに住む人もかけがえのないものだった
「…き…れ……ね…」
空へと伸ばした手が、力なく垂れ下がる。その瞳からは、完全に光が失われる。僅かな呼吸は次第に浅くなり、やがて終わる
「嘘」
本当に、本当に───死んだ
僕なんかが生き残って、ファイノン君が死んだ
「っ、あ、あぁ───」
頭が真っ白になる。指の一本も動かせなくなる。現実を受け止めきれずに、何もできない
助けられてばかりだ。僕から彼らに出来たことなんて何一つとして無い。彼らを助けるどころか、足を引っ張るだけだった
何で、何でこんな奴の為に、ファイノン君は────
「…………死んだ、のか?」
え、と口から声が漏れた
僕の知っているそれとは違い、かなり…低い、それでもよく知っている──ついさっきまで聞いていた声
「…は?」
「答えてくれ。ファイノンは死んだのか?」
「ぇ………あ、いや…死ん、だ。僕を庇って…」
信じられない──本当に信じられない事だが、ファイノン君がいる。二人存在している
「………何という、ことだ…」
もう一人のファイノン君は、頭を抑えて座り込んだ
「いや……その…」
「これでは火種を継げない………もう一度…この身体が保つとも思えない……だめだ、僕たちの旅は、本当にここで────」
「ファイノン君!」
「ッ!」
肩を強く揺さぶれば、ハッとした様子でこちらを見る。どこか──人間らしくない、今まで見たことのない彼の表情に思わず怯んだが、ここまで来て引くことはできない
「君は……?」
「プロメイアだよ!それに、こっちのセリフだよそれは!何でファイノン君が二人……」
「プロメイア……?」
「僕のことはいいから、とりあえず説明してくれ。何か…知ってることがあるなら」
捲し立てれば、ぽつりぽつりと彼は話し始めた。この世界───オンパロスの、信じ難い真実を
「つまり………この世界はデータでできた、鉄墓…とかいうのを育てるための実験場で……ファイノン君はそれを阻止する為に、何回も何回もこの世界を繰り返してる………ってことなの…?」
「そうだ………けど、もう終わりだ。僕の身体はもうじき壊れる。次のファイノンに火種を継がせる事も…できない」
荒唐無稽な話だった……けど、ファイノン君が二人いるのは真実で──目の前で起こっているそれを否定することはできない
「今は…何回目なの?」
「……400万1回目だ」
「400万……」
途方も無い数字。その全てで12の火種をその身に取り込み、鉄墓の誕生を阻止する為に抗い続けてきた。単純計算で取り込んだ火種の数は4800万
そして途方もない時間───ただずっと、天外からの助けを待っていたんだ
「──それ、僕ができないかな」
「…何を」
「僕は──天外から来た人間だ」
ファイノン君の目が大きく見開かれた
「僕には黄金の血もないけど、この世界の人間でもない。この身体は頑丈だし……試してみる価値は、あると思う。天外から来たけど…ごめん、外に知り合いは一人もいないんだ。だから…できるとすれば、これだけ」
「無茶だ。火種を受け入れきれない。……死ぬことになる」
「ここで何もしなくても同じだ。やって死ぬか、やらずに死ぬかだ。そうだろ?」
沈黙の中で、彼は葛藤していた。かつてのように、あるいは今のように。自分の行動ひとつで幾千万の命運が左右されるということは──果たしてどのような重圧をもたらすのだろうか?
彼の言葉が本当なら、再創世の果てにあるのはオンパロスを含めた全ての破滅だ───彼らの旅は、そんなことの為にあったわけじゃない
「頼むよ──なんだっていい、僕にも…僕にも何か、させてくれ」
何もかもが遅かった。取り返しがつかなくなってから後悔して、ようやく僕は決めた
戦って、この旅を続けさせる。例え何をしようとも、400万2回目以降の火を追う旅を続けさせてみせる
「……受け止めきれるかは、分からないぞ」
「けど、それも……確実に不可能だってわけじゃない」
「……分かった。僕も賭けに乗ろう」
二人、立ち上がり──受け取ったのは、三日月型の儀礼剣。これをファイノン君に突き刺すこと──それが、旅の始まりに必要なのだと、教えてもらう
柄を握り締めると、身体の内側が酷く冷えた。この先にあるのは、地獄だ──本能的に理解していても、僕の行動が変わることはない
「──行ってくるよ」
この火を灯し続けるために──僕は、眼前の少年へと刃を突き立てた
大きなおっぱいについての話なんですけど、評価って5人で色がつくんですよ。だからお願いするんですよね(強欲)