プロメテウスの火負い   作:かゆ、うま2世

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何度だって、わがままを聞かせて

「まず第一に、このセプターの運用にはあたしたち──オンパロスも関われる。セプターに関われるってことは、その中身であるメイアのことにも関われるってわけ。何言ったって逃がさないかんね!」

 

 

道理は通っている。いずれ暴走する可能性のある、貪慾の烙印を持つデータ。その処遇を決める権利を、オンパロスの命である皆は持っていると言える

 

 

「杞憂なのか、そうではないのか…未だ定かではありませんが、あなたの中にある貪慾が暴れ出すことを恐れている。そうですね?」

「だからその時が来たらセプターごと僕を殺す。説明はしたと思うけど」

「いーや。何度だって言うけど、あたしたちはメイアが死ぬなんて許容できない」

「……わがままで銀河を危険に晒すつもり?」

 

 

ふふん、と胸を張ったセファリア姉さんが、態度の通り自慢げに口をひらく

 

 

「だから考えてきた───やってたのはメイアだけど、忘れてない?ここにはずーっと、壊滅の使令が封印されてたんだよ?」

「─────」

 

 

カチリ、と何かがハマったような。皆が考えてきたという方法の正体を悟った。多分、合ってる。合ってるけど、それは、それは───

 

 

「プロメイア、あなたが暴走したのなら…私達がこのセプターを用いて一時的に封印を施します。その間に、あなたを貪慾から解放する方法を探し出します」

「これなら完璧でしょ!メイアが死ぬ事もない、メイアが誰かを殺す事もないってわけ!」

 

 

鉄墓を封じ続けたように、皆が僕をこのセプターに封じて──皆が僕を貪慾から取り戻してくれる──そういうこと、なんだ。でも

 

 

「……無茶だ。できる保証なんてない。それで皆が死ぬようなことがあれば、僕がやってきたことはどうなるの?」

 

 

死んで欲しくない。生きてて欲しい。助けたい。皆の歩みを無駄にしたくない。そんなことを思い続けて、僕はあの旅をやり遂げた

すぐそこに終わりがある。貪慾も壊滅も消えて、皆はそれぞれの人生を歩んでいける。そうなるはずだったのに、それを壊してしまうかもしれない

 

 

「プロメイア、決定事項だと言ったはずだが?」

「だからって、こんなこと認めるわけにはいきません。鉄墓の時とは状況が違う。もし……もし、僕がまた皆を殺すようなことがあれば、もう取り返しなんてつかない!」

「それでもだ。お前の身に危険が及ぶ事も、お前の身に死が訪れる事も、お前が生涯この狭い世界に閉じ込められている事も、僕たちには許容できない」

 

 

例え皆が新生を迎えたとしても、僕がここにいる限り皆は外には出ないつもりだ。救いようのない人間を救うことに躍起になって、この狭い世界に縛り続けられるのは皆の方だ

 

 

「皆が生きててくれれば、僕はそれでいいから。僕みたいなのの為に危ない橋を渡ろうとするのはやめて。もういいから、そこまでしてくれようとしただけで充分だから。本当に、いいんだよ」

「私達が新生を迎えようとも、そこにあなたがいなければ」

 

 

アグライアが一歩、踏み出した。見たくなくても、近づいてきた彼女の顔が視界に入る。それは普段のような穏やかな笑みではなく、泣き出してしまいそうな程に不安に包まれた表情だった

 

 

「銀河の全てを巡ろうと、そこにあなたがいなければ。いずれその時が訪れて、砕かれたこの地の欠片だけが、唯一残るあなたの痕跡になったとして」

 

 

伸ばされる手を拒めず、片手を強く握られる

 

 

「あなたのいない世界に、新生に、どれほどの価値が残るでしょう」

「………ね、メイア、気づいてる?」

 

 

握られた手に、セファリア姉さんの手が重なった

 

 

「あたしも、ライアも、皆も気づいてるよ───メイア、手が震えてる」

「え……あ……」

 

 

指摘されて、自分の手に意識を向ける。小刻みに、僅かな振動を帯びていた。何で、何が怖い?何が────ぁ

 

 

「……そんな当たり前の言葉まで、メイアから奪ったのはあたし達。だから…きっと今からでも、遅くないから。メイアの言葉で、聞かせて?」

 

 

ダメだ、言うわけにはいかない

それを恐れるだけならいい。それでも、

その言葉を口にしてしまうのだけはダメだ。選べなくなる。選びたくなくなる

 

 

「──命令だ、プロメイア。現実のことも、お前が抱えている物のことも、今はいい。子供じみた物でもいいだろう。お前の理想を、わがままを聞かせろ。叶えてやる」

 

 

わが、まま

──ダメだ、言ってはいけない。わかってはいるのに、カイザーの口から告げられた、命令という言葉がどうしようもなく思考の枷を解いてしまった。手を握られて、目線を合わせられると、嘘を吐くことができなくなってしまった。一度抑え込めなくなった想いは、堰を切ったように溢れ出しそうになって

 

 

「いいのよ」

 

 

逃げるように見つめたキュレネの顔は、いつものように微笑んでいて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………死にたく、ない」

 

 

一度出てしまった思いは、二度と取り繕える筈がなかった

 

 

「皆のところに、帰りたい。………でも、僕にそんな資格───ぁ」

 

 

ぱ、と、キュレネの手が離れた。何で、どうして、焦って、焦って、焦って────

 

 

「あぐ、らい…」

 

 

正面から、強く、強く抱きしめられる。背中に回された腕が、強く、強く力を込めてくる。痛くないように、苦しくないように、でも絶対に離れないように

 

暖かくて/記憶の中は冷たかった

この場所に帰りたかった/僕が壊した

この人達を守りたかった/僕が殺した

 

 

「──ごめん、なさ」

 

 

セファリア姉さんの指が、僕の唇に当てられた。目を細めて、静かに首を横に振る。そのまま目元に触れた彼女の親指が、何かを拭った

 

 

「おかえり、メイア」

 

 

それで、それだけでよかった

僕が欲しかったのは、戦ってでも勝ち取りたかったものは、ただそれだけだった

 

 

「ぅ、ぁ……──ぁあ」

 

 

貪慾より厄介なわがままが顔を出した

それじゃダメなのに

皆を危険に晒す事になるのに

 

 

「おかえりなさい、プロメイア」

 

 

それなら、仕方ないよね

わがままを聞いてくれた皆の気持ちを、裏切ることなんてできない

ここで頷かないと、帰ってこないといけない。帰ってきていい、らしいから。帰らなきゃいけない。これ以上皆を待たせるわけには、いかない

 

 

「………ただい、ま」

 

 

行ってくるよと旅に出て

ただいまと言って、帰る

 

それだけの事が、こんなにも遠かった

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「………その、確かに上手くいけば皆助かるけど…かなり難しい賭けにはなるし…いいの?」

「い、い、の!あたし達に任せときなって」

「お前の死を前提にするしかなかった道と、か細くとも全員が生きる道。選択肢は一つしかないだろう」

「どれほど過酷であろうとも、必ず成し遂げてみせましょう。今度は世界ではなく、あなたを救う為に」

 

 

皆の提案を受け入れる事に決めて…それでもやっぱり、不安は残る。それを見透かしてか、皆は僕を励ましてくれるけど……

 

 

「いずれ死ぬと決まっている人間、いずれ殺すと決めている人間、そんなものには頼れない──お前から、他者に頼るという選択肢を奪ったのは僕たちだ」

「そんなこと……」

「聞け。……見ての通りだ、プロメイア。他者の力を勘定に入れれば、こういうやり方もある」

 

 

僕一人では、自分ごとセプターを壊す選択しかなかった。皆がいたから、全員が生きる選択肢を拓くことができた

ずっと一人で旅をしてきた。だから頭から抜け落ちていた。誰かに頼るだなんて、当たり前のことを

 

 

「思い出したか?なら良い。それを覚えてさえいれば、お前の涙に気づける人間も増えるだろう」

 

 

──覚えててくれたんだ、あの時の会話を

初めて皆を殺して、失意の中で迎えた輪廻。あの言葉が無ければ、僕はどこかで投げ出していたかもしれない

 

 

「……すごい昔のことなのに、よく覚えてましたね」

「当然だ。お前の言葉を忘れるはずもない」

「あはは……やっぱりカイザーは頼もしいです」

 

 

ずっと僕を信じて、案じてくれていた、偉大なる僕の主、カイザーケリュドラ。彼女がそうだったように、僕もその言葉をよく覚えている

 

 

「んじゃ、早速色々準備しよっか!メイアが早く外出られるように頑張らないとね」

「……うん。ありがとう、サフェ──あ、えっと」

 

 

あの三年以来、僕が旅に出て以来、声に出して彼女をそう呼んだことはなかった

だから今、本当に、本当に久しぶりに、それを呼ぼうと思う

 

 

「………セファリア、姉さん」

 

 

それを聞いて、満面の笑みを浮かべたセファリア姉さんは、力強く僕の身体を抱き寄せてきた

 

 

「わ、ちょっと」

 

 

少し苦しいくらい、ぎゅうと僕を抱くセファリア姉さんの力強さが、とても心地よかった。何よりも大切な人が生きている温もりを感じて、自然と口角が上がってしまう

 

 

「…ごめんね、メイア。今からでも、遅くないなら…あたし、ちゃんと頼りになる姉さんになるから」

「頼りにならないなんて、思ったことなかったよ。あの時──手を引いてくれて、ありがとう」

「うん。……うん」

 

 

ぽん、と頭に手が乗せられた。柔らかく、暖かな、アグライアの手の平が優しく頭を撫でてくる。当の本人はじっと僕を見つめた後に、口を開いて

 

 

「………少し、背が伸びましたか?」

「え?」

「あ、それあたしも思った!なんか大人っぽくなった気がする」

 

 

2人に囲まれて、色んな方向からじろじろと眺められて、何だか気恥ずかしくなってくる。火種を取り込んだ時には肉体年齢は止まってたし、今の僕はその時のデータなんだから、背が伸びてるわけないのに

 

 

「……変わってないよ」

 

 

口ではそう言う──けど、2人がそう言うなら、何かが変わってたりもするのかも、なんて思う

 

 

「キュレネ」

 

 

一歩引いたところから、僕のことを見ていてくれた彼女の名前を呼んで、向き合う。いつものように、柔らかな微笑みを浮かべていて

 

 

「その、皆に…会ってこようと思う。1人で会って、話してくる。だから…その、行ってきます」

 

 

くす、と一度だけ小さく笑って

 

 

「晩御飯までには帰ってくるのよ?」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「ごめんね、メイちゃん…おかえりなさい」

「………泣きすぎですよ、トリスビアス先生…」

「キミも随分泣いたように見えるが」

 

 

最初に会いに行ったのは、ヘレクトラとトリスビアス先生。僕にとっての無二の戦友と、幼い姿の──今は幼くないが、頼れる先生

 

 

「せんせ、その、あんまり抱きしめられると…」

「私にこんなこと、言う資格なんて無いかもしれないけど……頑張ったね……辛かったよね……メイちゃん」

 

 

感極まった様子のトリスビアス先生に抱き締められる。正直、少々照れ臭い。こうやって真正面から褒められることは殆どなかったから

 

 

「受け入れてやれ、ラブカ。運命卿はキミを探して石を裏返していたんだ」

「えぇ……」

 

 

僕をアリか何かだと認識してるんだろうか、この人

 

 

「……誓いを果たせなかったことを、何度悔んだかわからない。キミに再び会えたなら、今度こそ…と思っていたのだが」

 

 

今日は随分、顔に触れられることが多いなとぼんやり考えながら、ヘレクトラのひんやりとした手の感触を感じた。労わるような、慈しむような、そんな手つき

 

 

「あぁ───やはりキミには、刃など必要ないような…そういう人生の方が、似合っているように思う」

 

 

それはきっと、笑ってしまうような平穏な日々

握るのは刃でなく、誰かの手

進むのは戦場ではなく、談笑の花咲く街角

迎えるのは死ではなく、微笑みと共にある明日

まだ僕に出来ることがあるのなら、そんな未来を掴みに行きたい──今はとにかく、そう思う

 

 

「無論、キミの頼みとあれば何であれ斬り伏せてみせるが……」

 

 

一度言葉を切って、ヘレクトラは僕を見つめた

 

 

「何かあれば、ワタシを頼ってくれ。刃でなく、キミを大切に想う者として……全てを賭けて、キミの力になろう」

「メイちゃん──これからは、さよならなんてしないから!」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「……よく、やり遂げましたね。プロメイア」

「──おかえり、なさい。メイたん!」

 

 

アナイクス先生と、ヒアンシーさん。どちらもずっと、僕にとっては友人で、先生で、それを忘れたことなんて、一回だってなかった。その2人と、改めて

 

 

「それでは早速講義を再開しましょう、明日から樹庭に来るように。……せっかくです、もう1人呼んでも構いませんよ」

「先生!それも大事ですけど、もっと言うことがありますよね?……またあなたとこうして話せて、嬉しいです」

「その…ごめん、色々迷惑かけて……これからも、かける事になりそうなんだけど……」

「謝らないでください!」

「あなたが我々を救おうとしたように、我々もあなたを救いたいと思う。それだけの事です」

 

 

辛く当たったりもしたけれど、またこうして以前のように話せるのなら──うん、やっぱりそれに越した事は無いと思う

 

 

「……なら、助けてくれると嬉しいです。あぁ、それと…」

 

 

あと、言いたいことがあるとすれば

 

 

「試験は……そんなに難しくしないでくださいね?」

「特別扱いなどしませんが」

 

 

願いも虚しく、いつも通りの大変な試験になりそうだった

 

 

「大丈夫ですよ、メイたん。困ったらわたしに言ってください、助けてあげますから」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「抱いてみますか?」

 

 

次は、キャストリスさんモーディス君…だったんだけど、出会うなり一番にキメラを抱えたキャストリスさんから唐突にそう言われて困惑することになった

 

 

「あ、うん……」

「重くはないか?」

「僕のことなんだと思ってるの?」

 

 

小動物を抱えたところで重いわけない。精神的には、命の重みっていうのを感じたりもするけど

 

 

「飼ってるの?」

「最近飼い始めたのです。他の誰より先に、あなたに見せたいな、と」

 

 

あうあうと可愛らしく鳴くキメラが愛らしくて、思わず頭を撫でてしまう。擽ったそうにしているのが凄く可愛い

 

 

「死にたくない、助けてくれ、そんな当たり前の事をお前から引き出すのに──随分とかかった」

「ですが……やっと、あなたのわがままを聞くことができて嬉しいです」

「皆にも、わがままってあるの?」

 

 

2人は、静かに頷いて

 

 

「私は……そうですね、こうして気兼ねなく何かに触れられるようになったので…あなたと、花を育ててみたいです」

「俺は……そうだな、お前の話を聞きたいと思う。旅の最中で身につけた技、知った知識、どんな些細な事でも良い。お前が話したいと思った事を、聞かせろ」

 

 

2人の願いは、どれもありふれた日常の一部。今までがそんなこともできなかった、忙しい人生だったのだと思う──ならば今度こそ、そうあって欲しい

 

 

「……うん。たくさん話すし、色々育てよう。暇ができたら、皆で花畑を作ってもいいかもね」

 

 

そうしたいと思って、2人の手を握った

 

 

 

──────────────────

 

 

 

最後はファイノン君……だったんだけど

 

 

「仲直りできたみたいね?」

「あんたならできるって信じてたよ」

「アグライアから聞いてるよ。……うん、僕も君ならできるって信じてた」

 

 

ファイノン君だけじゃない。ミュレネと開拓者も一緒だった。つまりはオンパロス最強パーティー──なんて、あはは

 

 

「僕も……自分がやってきた事に、何も思わないわけじゃないんだ。それでも皆受け入れてくれるから、僕もそれに応えたいと思う」

「ごめん、遅くなっちゃったね」

「気にする事なんてないさ。すぐに消えるものではないけど……これからゆっくり時間をかけて、全部元通りにしていこう」

 

 

同じ道を辿って、同じ罪を持って、それでも僕らは同じじゃない。向き合い方も、感じ方も、僕とファイノン君じゃ違う

ただ、それが違っても、最終的な行き着く場所が同じなら──別に、同じじゃなくていいんだと思う

 

 

「……で、その、何で2人はいるの?」

「これよ」

 

 

ミュレネが僕に見せてきた、大きな、大きな一冊の本

 

 

「あんたのページがまだだから」

「今度こそ、聞かせてくれるわよね?」

「大丈夫、僕も手伝うよ」

「……うん。僕のページ…書かないとね」

 

 

オンパロスの、僕たちの旅を綴った叙事詩。紡がれた物語

これが自惚れじゃないなら、僕だって旅の一員だったんだから。僕のページが無ければ、最後の。が打てない

 

 

「……そうだなぁ、僕の言葉は───」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「あら、おかえりなさい」

「ただいま。晩御飯までには帰ってきたでしょ?」

「ふふ、えらいわね」

 

 

日が沈む前に、キュレネの家に帰宅──すると、玄関の近くで待っていてくれたらしいキュレネに迎えられた

ちょっと悪戯っぽく、笑いながら言ってくるから、ついこちらも負けじと返してしまった

 

 

「皆には会えた?」

「うん。ちゃんと話せたよ」

「そう」

 

 

相変わらず、微笑みを浮かべている。陽だまりのよう、と言うよりは、本当に──例えるなら、ここの麦畑のような、柔らかな笑みだった

これからのことを考えるなら…やっぱり、僕の中にある想いにも、目を向けなければいけないと思う

 

 

「まさか皆があんなこと考えてたなんて」

「あたしの思いは変わらないわ。手を尽くしてもどうしようもなくて、その時がやってくるのなら──あなたを1人にはしない。でも、あなたの事を諦めたわけじゃないもの」

「……うん、ごめん。二度とあんなこと言わない」

「本当に……?」

「うげ、疑われてる…」

 

 

これも自業自得、か。僕がこれまでしてきた事に対する報いだと思えば、素直に受け取ることもできる

……それと、やっぱりだ。キュレネの一挙手一投足から目が離せない。話すだけで嬉しくなって、笑いかけてくれたら心臓が跳ねる

 

 

「それと……書いたんでしょう?あなたのページ。何を言ったのか聞かせてちょうだい?」

「んー……一冊もらってくるから、今度2人で読もう。みっともないところも見せちゃうかもだけど」

「ふふ、楽しみに待っておくわ」

 

 

ただ──これがそういう感情なのか、それとも3000万の輪廻で積み上げられた執着なのか、僕自身よくわかっていない

それに…そう好かれるような人間じゃないし、下手に伝えて振られるような事があれば立ち直れない。かといって言わずに黙って、いずれキュレネに他のいい人、例えばファイノン君とか────

 

 

「あー!」

「きゃっ!?もう、どうしたの?」

「あ、いや、ごめん、なんでもない!」

「変な子ね、ほんとに……ふふっ」

 

 

脳内でキュレネとファイノン君が笑い合う情景が思い浮かんだ瞬間に、それをかき消すように叫ぶ。実際あり得ないわけじゃないと思うから、余計に嫌だった

だとすると、どうしよう。また一つ大きな悩みができた

 

 

「早速ご飯にしましょうか。それと──好きなものとか、味付けとかあったら教えてちょうだい?」

「作ってくれるの?」

「もちろん。……こうしてると、何だかお嫁さんみたいね?」

「およっ…!?」

「あら、びっくりさせちゃったかしら」

 

 

ドクンと一つ、心臓が高鳴る。彼女は何を考えて発言してるのか……真意が見えなくて、余計に戸惑いが増していくばかり

揶揄われてるだけ、そう思うけど、そう思いたくない自分もいて

 

 

「そう、せっかく言えるようになったんだし、今度あたしにもわがままを聞かせてね?」

「皆それに拘るんだから……僕が思うに、多分…ずっと前から言ってたよ」

 

 

わがまま、多分…僕は結構、わがままな人間だったと思う

 

『頼むよ──なんだっていい、僕にも…僕にも何か、させてくれ』

 

僕が旅を始めたのも、あれは──僕の最初のわがままで

それを押し通し続けた果てに、皆を、キュレネを救ってみせたなら

 

それはきっと──1人の人間ができる、最もわがままなこと

 

 

「行こう」

 

 

もう1人でも歩けるけれど、何度だってその手を握って、2人並んで歩いていく

悲観じゃなく、希望を夢見て。いつか胸の奥の想いにも、折り合いをつける事を考えて。とりあえず今は、この手の温もりを感じて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、言いたい事があったの。──好きよ、プロメイア」

 

 

────かんじ、て

 

 

「……真っ赤ね?」

「当たり前じゃん!」

 

 

僕の葛藤も何もかも、あまりに簡単に砕かれる事になって

 

 

「…………その、僕も──好き、だよ。キュレネ」

 

 

そうして、やっと、ちゃんと想いを伝え合った

 

何もかも終わったわけじゃない。問題は山積みで、辛い事だってあると思う。けど、誰かを信じて、頼っていけるなら……きっと乗り越えられる。そんな風に思うから

 

 

「ふふ、それじゃあ──よろしくね?」

 

 

希望溢れる明日を目指して、僕たちは手を取り合って、歩いていくんだ

 

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