プロメテウスの火負い   作:かゆ、うま2世

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選んだ道の最中

法の半神ケリュドラ、海洋の半神ヘレクトラ。2人はオクヘイマに戻ることはせずに、僕と共にある事を選んだ

 

 

「……………」

 

 

ただ……雰囲気それ自体は重苦しいなんて物じゃなかった。カイザーとヘレクトラは未だにギクシャクしたままで、僕らは適当な所で無言のまま焚き火を囲んで夜を明かしている

 

 

「……なぁ、ヘレク──」

「プロメイ───」

 

 

僕とヘレクトラの声が被って、沈黙

 

 

「………見てられんな、全く」

 

 

呆れたようなカイザーの声。実際その通りで、互いに思いをぶつけ合ったせいか、僕らの間には妙な気まずさがあった

 

 

「剣旗卿、左腕の調子は?」

「悪くは、ない。今すぐにでも剣を振るえるだろう」

「そうか」

 

 

……たまに、カイザーをエスパーなんじゃないかと思う時がある。今だって、1番聞きたかった事を聞いてくれた。僕とカイザーの聞きたい事がたまたま合ってたわけじゃなくて、明確に僕の言いたいことを汲んでくれてる……そんな気がしてる。今だけじゃなくて、常日頃から

 

 

「まさか繋がるとは思わなかった……感謝する、プロメイア」

「斬ったのは僕でしょ」

「それでもだ」

「………そう」

 

 

浪漫の糸で繋げて、火種の力で後押ししながら錬金術まで用いて治療を施した。その結果、腕が再生された……と言えば聞こえはいいけど、所詮は繋ぎ合わせただけで完治したわけではない。ヘレクトラはああ言ってたけど、元通りになるまではまだ時間がかかる筈

 

 

「………それで、その…2人は僕に着いてくるって事でいいの?」

「当たり前だろう」

「無論だ」

 

 

……即答された。そっか、ついてくんのか

 

 

「意味わかってる?その時が来れば火種の為に皆を殺しに行かなきゃいけない。アグライアも、トリスビアスも、セファリアも」

 

 

僕と共にあるとはそういう事だ。僕に手を貸すとはそういう事だ。加えて、僕がやる事の先にあるのが世界の破滅でないと証明する手段は何もない

 

 

「正直、何でそこまでしてくれるのかわからない」

 

 

世界を救う火追いに身を投じた2人が、それを投げ捨ててまで僕について来る理由がわからない。カイザーにもヘレクトラにも良くしてもらってたけど、だからってここまでできるものなのか

 

 

「僕は元よりこの遠征で死ぬつもりだった。死に損なった所でそれは変わらん。僕は最早カイザーではないが、お前の主ではある。ただお前に褒美をやる、それだけの事だ」

 

 

働きには報酬を。昔から変わらないカイザーの姿勢だ。海洋のタイタンを殺し、法のタイタンを殺し、何万という人を殺し戦争を終わらせた。その報酬に、彼女は自分自身を渡す。ただ、それだけの事だと

 

 

「ワタシは……正直なところ、キミの言っている事の半分も理解できていない。ワタシの中にあるのは、ずっと昔からただ一つ──あのスティコシアで、ワタシはキミに救われた」

「あれは……」

「覚えているさ。意味はないと、キミはそう言うんだろう。だがワタシにとっては違う。誰が何を言おうとも、あの日あの時キミが側に居てくれて、救われた事に変わりはない。だからワタシも……ただキミの側にいる。それがワタシが果たすべき忠義だ」

 

 

2人は……そんな風に言ってくれる。その言葉が信じられないとか疑わしいとかそういう話じゃない。ただ何だか、擽ったい感覚があって

 

 

「どの道、お前が敵に回るなら再創世など不可能だからな」

「身も蓋もないこと言わないでくださいよカイザー」

「もうカイザーではない。ケリュドラと呼べ」

 

 

意図的にか、カイザーは雰囲気を変える為に軽口を叩いた。それが意味を為したかどうかは……わからないけど。ただ、その心遣いを嬉しく思った

 

 

「……とんでもない裏切り者が3人もいたなんて、皆驚くでしょうね」

「違いない」

「ああ、全く」

 

 

気づけば最初の気まずさはどこかに消え失せていて、自然に言葉を交わせていた。ただそれが、酷く懐かしかった。何処か遠いところで置き去りにしてきた、大切な思い出たちが帰ってきたような、そんな感覚を覚えた

それだけで……何だか、満たされるような、安心するような、そんな気持ちになった

 

 

「……じゃ、考えましょう。これからのこと。と言っても…千年後に皆を殺して火種を奪おうってだけですけど」

 

 

皆が全ての火種を集めて、再創世の準備を完了させるのが大体そのぐらいの時期だ。ただ…今回は海洋と法はこちら側にあるわけだから、とりあえず時間を稼がれて無理矢理再創世を成功させられる…みたいな心配はしなくていい

 

 

「火種を欲するのなら、直接タイタンから奪うのは…」

「カイザー、手段と目的が滅茶苦茶になってますよ」

 

 

火追いはあくまで手段に過ぎず、その目的は天外からの助けが来るまで鉄墓を封じ続ける事。タイタン全てを潰して時を戻すのは簡単だが、それをやるわけにもいかない

 

 

「僕だって無限に火種を受け入れられる訳じゃないですし、半神が誕生しなければどの道世界は滅茶苦茶です。せっかく天外から来てくれる人に、そんな世界見せるわけにもいかないでしょう」

「……難儀なものだな」

「であれば…その時までは暇という事か?」

「基本はそう………ああでも、途中でエリュシオンってとこに行かないと…行って……キュレネを…」

 

 

また触れて、記憶を繋いで……僕がやった事も、全て知られる。そうなった時──あの子は、まだ僕に笑いかけてくれるだろうか?

思うことは色々あったけど、最終的な思いはひとつだけ

 

 

「………会いたいなぁ」

 

 

ぽろっと口からこぼれた思いは、当然2人にも聞こえていて

 

 

「わ」

 

 

ヘレクトラの右手が、丁寧に僕の頭を撫でた。それと同時、カイザーの左手が子どもをあやすように背を擦ってくれて

 

 

「………子供じゃないんですけど」

「関係ない。寂しいのなら、慰めよう」

 

 

優しく言葉をかけるヘレクトラに反論することは叶わず、カイザーも特に離す気はないらしく。諦めて身を預けたら、存外悪くはない気がした。……やっぱり、恥ずかしいけど

ただ…こうしていると、凄く……眠くなってくるような

 

 

「……寝ても、いいですか」

 

 

瞼が重くなる。カイザーの手が暖かい。ヘレクトラの鼓動が近い

 

 

「命令だ、休め」

「ワタシが守ろう。お休み、プロメイア」

 

 

その言葉を最後に、思考は途絶える。微睡に溺れるように、落ちていく。微かに覚えた不安を埋めるように、2人の体温を強く感じながら。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

そんな夜も、気づけば随分過去のこと

 

 

「もっと多く持てないのか?」

「無茶を言うな」

 

 

視線の先では、カイザーとヘレクトラが刈り取った麦を担いで運んでいる。飾り気のない服に着替えて、麦わら帽子を被っているのも妙に似合っていて、なんかほんと、未だに慣れない

 

 

「こーら!悪いおサボりさんがいるみたいね?」

「キュレネ」

 

 

何をするでもなく2人を眺めていたのがバレて、見覚えのある──それよりも幾分幼い、桃色の髪の少女に咎められた。幼い、幼いけれど確かに彼女はキュレネ

で間違いない

 

 

「サボりじゃなくて労働監督だよ」

「もう、またそんなこと言って」

 

 

ヘレクトラの提案でエリュシオンに移り住んでから、暫く経った。長い年月の中でカイザーとヘレクトラの関係性も改善され、今では多少ぶっきらぼうに感じるものの、穏やかなコミュニケーションを取れている

辺境の村であるここであれば僕らの姿を知る者はおらず、そもそもまともに活躍してたのはずっと前。素性を隠して生活する上で都合がいい上、今までとは比べ物にならないほど長くキュレネと過ごせる

 

 

「プロメイアさん?またサボっているのかい?」

「何だファイノン君。お前達のおやつを作ってるのが誰かは知ってるんだろうな」

「う……キュレネ!僕たちも働こうか!」

「ファイノン!……もう、しょうがないわね」

 

 

………この後ファイノン君にする仕打ちを考えれば、気分自体は重くなる。けれどオクヘイマにいた時ほどのものじゃない。だからどうしたと言う話でもないけれど

 

 

「ほらー、収穫頑張ってー」

「プロメイア……」

「む、命令だな。任せろ」

「おいヘレクトラ……はぁ」

 

 

やる気満々なヘレクトラと、呆れ気味なカイザー。僕に脅されたファイノン君と、やっぱり呆れ気味なキュレネ。皆頑張って、実った麦を刈り取っていく

皆の服を編んだり料理したりは僕がやってるんだし、年に一度しかない機会をゆっくり見ておく権利ぐらいはあるだろう

 

 

「………平和だなあ」

 

 

こういう仕事となると、やっぱりヘレクトラは大活躍だ。カイザーも身体のサイズの割にはかなり体力が有り余ってるので、やっぱり収穫ペースは早い。ファイノンキュレネの子供組はちょこまか走り回りながら忙しそうに手伝っている

………幾度となく戦場を駆け、血の海を作った。仲間を殺して、頭がおかしくなって───今は、平和に農業なんてやってる

 

 

「人生、わかんないもんだな」

 

 

この後の事を思えば、何も変わらないことを思えば、気分が沈んでしまうのは確かだ。けれど少なくとも、この瞬間だけは間違いなく幸せだった

 

 

「疲れたな………」

「疲れたわね…」

「僕も疲れたよ………」

「ワタシはまだいけるが」

 

 

かなりバテてる3人と、張り合うようにまだまだ元気なヘレクトラ。そして動いてないので当然元気な僕。元気に仕事をこなしたヘレクトラは誇らしげな顔をしている

 

 

「お疲れ。パン焼いたから、お昼にしよ」

 

 

僕だって何もせずサボってたわけじゃない。ずっと昔から変わらずヘレクトラは食い意地張ってて、今だって誰より早くパンを口に放り込んでる

 

 

「ゆっくり食べなよー」

「ふぉひほんふぁ」

「ファイノン君はこういうやつにならないようにね」

 

 

苦笑いを浮かべるファイノン君の隣では、キュレネが小さくパンをちぎって口に運んでいる。子供は口がちっちゃくて可愛いものだ

何だかんだ、ヘレクトラ以外の皆はよく食べたりよく飲んだりしない。比較的飲み食いが盛んなのはファイノン君くらいだ。それでもヘレクトラには勝てない

 

 

「おいヘレクトラ、お前1人で食い尽くすつもりか?」

「ふぉんふぁふほひふぁふぁい」

「何言ってんのかわかんないよ」

 

 

こうなることを見越して多めに焼いておいて良かった。皆に満足してもらえてるなら、これ以上に嬉しいことはない

 

 

「隠居した老人ってこんな気分なんだろうなぁ」

「?プロメイアさんはまだ若く見えるけど」

「人は見かけによらないんだよファイノン君。こう見えて4億歳ぐらいかもしれないだろ」

「はは、不老不死だったりするの?」

「かもね」

 

 

冗談だと思ってるファイノン君と、事情を知ってるキュレネで反応が目に見えて違うのが何とも面白い……のは僕だけか

 

 

「……あれ、服ちょっと破れてない?」

「え?」

「ほら、そこ」

 

 

柵か何かに引っ掛けたのか、ファイノン君の服の裾の部分が裂けていた。幸い痛んだ様子もなく、少しばかり手を入れれば簡単に直せる程度

 

 

「直しとく……あー…やめよう。やり方教えるから、自分でやってみな」

「…頑張ってみるよ」

「よし、その意気だ」

「ねぇ、あたしにも教えてくれない?」

「もちろん。それじゃ2人まとめて特訓といきますか」

 

 

……そういえば、教えられたことはあるけど教えたことは無かった。アグライアに裁縫の指南を受けてた記憶が蘇って、今になって自分がその立場になるとは、感慨深いものがある

 

 

「あぁでも、僕から教わったって言わないでくれよ」

「?どうしてだい?」

 

 

いつか、帰れる時が来るのだろうか。皆がいるあの街へ、楽しかったあの日々に

 

 

「………喧嘩しちゃった人達がいるんだ。ここにいるってバレたら、色々とね」

 

 

………僕はまた、行くのか

皆のいる、あの街へ

 

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