プロメテウスの火負い   作:かゆ、うま2世

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あんまし長くないようにしたいね





棋を操る君主、波音を奏でる剣士

結論から言えば、僕たちは賭けに勝った

僕の身体は4800万の火種を受け入れ、その力を以て時を巻き戻す事にも成功した

胸の奥から湧き上がる熱──身体に異常があるとすればそれぐらい。あとはいつもと同じような感覚だ

 

 

「ファイノン君……じゃないや、カスライナ君か…の記憶が正しければ、ここは千年前か」

 

 

トリビー先生達が最初の半神として各地に神託を伝え、カイザーケリュドラが火追いの旅を強く押し進めた時代。ならばやるべき事はカイザーに会い、再創世を成してはならない事を伝える事だ

それと……かなり後の話だけど、カスライナ君の故郷──エリュシオンにいるという、彼の幼馴染であるキュレネという少女を儀礼剣で殺す。それをしなければ永劫回帰を続けられない

 

 

「北方の、ヒュペルボレイオス……」

 

 

カイザーはそこにいる。彼女の征途はそこから始まる。ならば、そこに行く必要があるのは必然だ

オクヘイマに残っていた文献と、アグライアから少し聞いたことがある。それはそれは暴君だったらしい。正直怖いが……

 

 

「行くしか……ないよな」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「お前の出自も目的もどうでもいい。火追いの為にその力を僕に捧げるのならな。火種が欲しいというのなら、まずは力を示してみせろ」

 

 

……カイザーケリュドラが、僕を迎え入れた。あまりにも呆気なく、この旅を共に歩めるようになった

いや……冷静に考えてみれば当然のことなのかもしれない。彼女にとって重要なのはただひたすらに火追いの成就だ。終わりは違えど、過程は同じ。目的が一致しているのならば、それを阻む理由がどこにあろうか

あとカイザーは小さかった。なんか、可愛いなっていう気持ちになってしまったけど、多分この気持ちでいるのはまずいのでやめる

 

 

「はぁ……火追いの号令を出して、真っ先に集まったのが再創世を否定する人間とはな…」

「全て本当の事です。再創世が成されればオンパロスは……」

「最終的に決めるのは僕だ。お前はただ、力を以て僕に示せばいい」

 

 

成し遂げたい事があるのなら、戦って勝ち取れ──簡単なことではないが、やるしかない

樹庭で学んだ歴史から考えれば───僕の初陣は黄金戦争。トリビー先生達がもたらした神託によって起こった戦争だ。信仰の鞍替えは難しい……今まで信仰していた神を殺し、火種を奪え、となれば尚のこと

 

 

「お前とは長い付き合いになりそうだ」

「そうある事を願ってますよ、カイザー」

 

 

そうして僕は、戦場を駆けた

持っている武器といえば、儀礼剣と拾った手斧ぐらいなものだ。だけど──僕には、カスライナ君から受け継いだ火種と400万回分の永劫回帰の記憶がある

武器を振るうのも、死地を駆けるのも初めてのことだった──それでも、不思議と恐怖は無かった

 

 

「お前、誰も殺していないな?」

「………はい」

 

 

ただ──それでも、人の命を奪う事はできなかった。確かに僕はカスライナ君の体に刃を突き立てた。あれは…殺した、と言えるかもしれない。僕の手はとっくに血に汚れているかもしれなくて…それでも……他の誰かにそうする事はできなかった

 

 

「気絶させ捕らえたか……本来ならやめさせるところだが、お前はそれを補って余りある戦果を挙げてみせた。そうある限り、不問とする」

 

 

良くも悪くも成果主義なのだろう──結果さえ伴えば過程は問わない。そして実際に僕がカイザーの求めた成果を挙げてしまっているのだから、誰にも文句は付けられないのだった

 

そうして時間は過ぎていく。カイザーの元で少なくない戦場を駆けた。多くの仲間も集ったが、カイザーは僕を側に置き続けてくれた

 

 

「…いいだろう、尊き王よ。これよりキミの「法」こそが、ワタシの生きる道……」

 

 

剣旗卿セイレンス──僕の知る歴史の中で、単騎で六万もの兵を葬り黄金戦争を終結させてみせた英雄にして、海洋の火種を継いだ半神だ

聞いていた通りの凄まじい強さだった。長かった黄金戦争も、彼女の登場によってようやく終わりを迎える事になる

 

 

(………帰ってきた、のか)

 

 

聖都オクヘイマはカイザーの統治下に置かれた。ファイノン君と同じだ……僕にとって、ここは第二の故郷だった。長い戦いの果てに…帰ってきたんだ

 

 

「懐かしいのか、プロメイア」

「えぇ……三年、ここで過ごしました」

「……そうか」

 

 

人との戦いは、ひとまずこれで落ち着く。これから始まるのは神々との戦い、更なる苛烈な闘争だ

かつてのカスライナ君がそうしたように、僕も神託の内容を話す事でカイザーからの信を得た。再創世ではなく、永劫回帰の為に火追いを行うように

とは言え……まずは、帰ってきたことを喜ぼう

 

 

「ラブカ、行こう。戦勝の宴が待っている」

「だから、酒飲めないって……」

「ならば何か食べよう。好きなものを、好きなだけな」

「誰もがセイレンスみたく大食いじゃないんだって…」

 

 

ラブカ、だなんて変な呼び方をする戦友に引きずられて──再び、故郷に足を踏み入れた

 

 

──────────────────

 

 

 

オクヘイマに帰ってからしばらく経った。肉体年齢が18で止まったとか、まあ色々あったけど、やっぱり一番驚いたのは……

 

 

「もぐ……ふふ、やっぱり深夜のオートミールはやめられませんね…」

 

 

アグライアが子供だったことだ。いや、まあ考えればわかる事だった。僕がオンパロスにやって来た時には、彼女が火種を継いでおよそ千年経っていたようだし…この時期に子供なのも、まあ当然のことだろう

問題は…僕の知ってる彼女からは考えられないぐらいお転婆だってことだ

 

 

「……アグライア?」

「ん、ぐっ!?な、ぷ、プロメイア…!?何をしているのですかこんな夜更けに!!」

「それはこっちの台詞なんだけど……」

 

 

もう結構遅い時間だ。明日の事もあるし、もう寝ないと……と思ったから寝床に向かっていたのだけど、まさかそんなところで出会すとは思わなかった。と言うより、なんで起きているんだ

 

 

「お前ね……変な時間に食べると健康に良くないよ」

「わ、わかってはいますが……我慢出来なくて……」

「お腹空いたのはわかったけど………はぁ、補充してるの僕なんだからね?」

「……すいません、プロメイア。てっきり師匠かと…」

「まぁ、成長期だもんなぁ…」

 

 

腹が減るというのは、子供にとっては切り離せない問題だ。彼女もまた例に漏れず、という事だ

 

 

「……見逃してやるから、それ食べたら寝なさいよ」

「……!良いのですか!?」

「気が変わんないうちに食べちゃいな」

 

 

暗い部屋の中、隣に座ってその姿を見守る───皿の中身をスプーンで掬って、口の中に放り込む。小さな口で、何度も何度も

あぁ…なんか、ずっと見てられる気がする。そういえば、アグライアも何か食べてる僕をずっと見ていた事があったっけ

 

 

「……美味しい?」

「ん…はい」

「そっか」

「プロメイアも、一口要りますか?」

 

 

アグライアがスプーンを差し出してくる。……本当にいいのかな?こんな事をしても?…いや、食べないのも失礼だ。遠慮しない方がいいんだろう

 

 

「ありがとう……ん」

 

 

…なるほど、確かに美味しい。つまみ食いしたくなるのもわかるぐらいには。だからってそう何度も許していいわけじゃないが……

 

 

「確かに美味しいね」

「ふふ……これでプロメイアも共犯ですからね!」

「強かなヤツ…」

 

 

なるほど、いい為政者になる訳だ。あざとい。いや、アグライアは何をするにしても計算づくだ。あざとく見えるのも、きっと彼女の計算のうちなのだろう。恐ろしい子だ……

 

 

「………プロメイアという名前は…私が付けた、のですよね?」

「そうだけど、どうしたの急に」

 

 

皆には、僕が話せる限りの未来を話した。12の火種、その神権を継ぐのが誰なのかだとか……あとは、僕の身の上を語ったりだとか

当然ながら、アグライアに関してもそうした。この後、彼女は浪漫の火種を継ぎ、オクヘイマを統治する為政者となる──それまでの過程は多少違えど、結果は変わらない

 

 

「成長した私は……どんな人なのでしょうか」

「うーん……一言で言い表せる人じゃないな……」

 

 

このお転婆娘が…成長したらあのアグライアになるのだ。世が世なら聖女みたいな人に

どんな人……そう言われると、やっぱり優しい人、だろうか?うーん…何か具体的に言ってしまうのも良くない気もするし…

 

 

「………三年間ぐらい、僕のこと養ってくれた人だよ。成長したらよろしくね?」

「し、ま、せ、ん!」

 

 

ぷい、とそっぽを向かれてしまった。子供心はよくわからない

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「タレンタムは死んだ……プロメイア、次に狙うべきタイタンについて意見が聞きたい」

「天空、歳月、詭術、死、理性、世負いは適性者不在。浪漫も…アグライアはまだ幼いです。消去法で海洋になりますね」

「そうか……神権を継ぐのは?」

「セイレンス以外無いでしょう……あの、カイザー?答え合わせみたいに僕を使うのはやめませんか?どうせ決まってるんですから」

「多面的な視点は重要だ。僕とお前の意見が同じなら、それは必ず正しい道程と断定出来る」

「……そういうものですか」

 

 

門と道、法、大地に続く四つめの火種──海洋のタイタンは、かつて滅んだセイレンスの故郷であるスティコシアに眠っている

 

 

「…そういえば、火種はいいのか?」

「最終的に全ての火種が集まれば良いんです。それまで世界が保つ為にも、半神の誕生は必要な事ですから」

「そういうものか」

 

 

火追いはあくまで手段でしかなく、目的は天外からの助けが訪れるまで鉄墓を封印し続ける事だ。この身体も、無限に火種を取り込める訳ではないのだから、可能な限り一度の輪廻を長引かせるべきだ

 

 

「まぁいい。プロメイア、出征の準備をするぞ」

「……スティコシア近辺には、暗黒の潮によって変異したセイレーンが多くいる筈です。間違いなく囲まれる事になるでしょう」

「だが環境が良い。剣旗卿の独壇場だ。後方の敵は全て任せて良いだろう」

「であれば、僕は前方を受け持ちましょう。侵攻速度を極端に下げ、セイレンスを待つ方が楽に、犠牲も少なく済むでしょう」

「駄目だ、お前は剣旗卿と共に後方に行け」

「えぇ、わかり…………は?」

「言ったままの意味だ。疑義は認めない」

 

 

何を……考えてるんだ?愚策も愚策だ、セイレンス一人で事足りる後方に僕を行かせる意味がどこにある?自傷行為と言ってもいいぐらい馬鹿げた判断だ。ただ犠牲者を増やすだけ…

 

 

「……カイザー」

「何だ」

「法の試練って…どんな内容でしたか?」

「……何故言う必要がある?」

「答えてください」

 

 

カイザーらしからぬ愚策。それに理由があるとすれば、半神へと至る時に課される試練だ。アグライアは両眼の視力と人間性の喪失を代価に、トリビー先生達は文字通り千人に分かれる事

であれば───カイザーに課された試練は?

 

 

「……答え合わせのように僕を使うのはやめろ。わかっているのだろう?」

「…薄々、ですが」

「ならば、どうする?力づくで僕を止めるか?」

 

 

カスライナ君の記憶に頼らずとも、薄々推測はできていて──記憶が、推測の正しさを裏付けている。でも…‥ほんの僅かに、ただ…僕の勘違いである可能性も……

 

 

「………カスライナ君は、火種を得る過程でかつての仲間を殺めていました。セイレンスやアグライアだって例外じゃなかった…けど、あなただけ……彼がカイザーを殺めた事は一度もなかった」

 

 

その必要がなかったからだ。ならば、カイザーの命を奪う事になるのが誰か──?

 

 

「きっと、きっと……彼女はあなたを許さない」

「……だろうな」

 

 

カイザーは……文字通り、彼女にとっての光だった。それを…それをよりによって、彼女自身に…

 

 

「火を追う旅は喪失の道。その中では、命さえも些事となる………早いうちに慣れておけ。お前がその斧で、誰の命を奪う事になろうとも…躊躇うことのないように」

「…………カイザー」

「不本意だが、僕らはお前に縋るしかないんだ。……お前の闘争に、安らかな終わりがあることを願っている」

「…………………わかりました」

 

 

スティコシアへの出征において、カイザーケリュドラは後方に置いた僕とセイレンスを待たずに進軍し──黄金裔五百人もの命が潰えることとなった

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「カイザー、どういうことだ……!」

 

 

純粋な、怒りだった。セイレンスがカイザーに向ける感情の全ては、その一点に尽きた

共に戦場を駆け、酒を酌み交わした仲間──それは、最早一人たりとも残っていない。僕と、セイレンスの二人を除いて

 

 

「彼らは僕が「法」の神となる道を整えてくれたのだ」

「その為に…彼らを犠牲にしたと言うのか?彼らの忠誠心は、キミにとって何の価値もないものだったのか!?」

 

 

二人を、ただ見ていた。見てることしかできなかった。口を挟むことも、割って入ることも、今の僕には叶わない

 

 

「ラブカ!キミは……キミは怒りを抱いていないのか!?何故…何故何も───」

「──黙れ、セイレンス!」

 

 

カイザーが声を荒げ、僕への言葉を遮った。静寂がその場を包む中──必死に口を開く

 

 

「……行きましょう、ファジェイナはこの先です」

「待て、ラブカ…カイザー!まだ話は…」

 

 

背後から聞こえる声を無視して、カイザーを連れて歩き出す。……やがてセイレンスも合流し、僕らはファジェイナ討伐戦へと挑んだ

 

 

「……チッ」

 

 

僕の手斧が神の脳天を割り、その代償に砕けた。元々その辺に落ちてたものだったことを考えれば、大活躍だったと言えるだろう

そんな事よりも──もっと、目を向けるべき問題がある

 

 

「ラブカ………キミは…知っていたんじゃないのか?この戦いでカイザーが成そうとしていた事を」

「セイレンス、やめろ」

「だと言うのなら──何故、何故見逃した!?キミにとって、彼らはその程度の人間だったのか!?」

 

 

セイレンスは……カイザーの所業を止めなかった僕を咎めている。……旧法は砕かれた。オンパロスには新たな法の神が必要で、カイザーの行いはその為に必要な事で…

 

 

「………本当に、仲間だと思ってた…けど……すまない」

「っ─!ラブカ───プロメイア!」

「やめろ、セイレンス!」

 

 

二人の怒号が、連続して響いた。僕とカイザーを責めるセイレンスのそれと……僕を責めるそれを咎める、カイザーのもの

 

 

「プロメイアは何も知らなかった。これは全て僕の行いだ」

「今更そんな言い訳が通用するとでも───」

「───いい加減にしろ!僕を罵ろうと、心臓に刃を突き立てようが構わない……だが、プロメイアに余計なものを負わせるな!」

「っ……!?」

 

 

セイレンスの剣を持つ手が、小刻みに震え始めた。僕に向けられていた剣が、少しずつ下がっていく

 

 

 

「僕は黄金戦争の影を拭い去り、紛争期以来のあらゆる亀裂を修復した。そのうえ、オクヘイマの権威を再び確立し、黄金裔も平民も等しく議院の壇上に立てるようにした。それから、罪ある者には罰を与え、功ある者には必ず報いた」

 

「さらに僕はタレンタムによる枷を壊し、世界を一つに束ね、人々が自ら立ち上がれるよう導いた。火を追う時代を始めたのも、他ならぬこの僕だ。以上が、カイザーとしての僕の輝かしい生涯である」

 

 

カスライナ君の記憶が言っている。永劫回帰においては、既に運命は定まっていて……多少過程は違えど、やがて同じ結末に至る

セイレンスは怒りから、或いは命令によって───その手で、ケリュドラの命を奪う事になる

 

 

「プロメイア、法の火種を持っていけ。……成し遂げてみせろ」

「……はい、必ず」

 

 

カイザー、ケリュドラの最期の言葉だった。セイレンスの剣がカイザーの心臓を貫き、黄金の血を流した

最後の息を吐いて、その瞳を閉じて───遺志を継ぐべく、火種が僕の身体へと移動していく

火追いに身を投じた僕の事を、カイザーはずっと案じていた。この徒労のような旅が、いつか必ず報われるように……従わない人間を大勢殺した暴君──だとしても…なんて、なんて素晴らしい王なのだろう

 

 

「……ごめん、セイレンス」

「謝るのは…ワタシの方だ。キミは既に…多くのものを背負っているというのに」

 

 

カイザーの亡骸を拾って、踵を返す。オクヘイマでは…きちんと弔えない。弔ってもらえない

 

 

「キミの重荷を背負えると思うほど…思い上がってはいない。だが………」

 

 

言葉を一度切って、片手で僕の頬を撫でた

 

 

「今のワタシも、次のワタシも……キミの刃となって、最期の瞬間まで運命に抗うと…誓おう」

 

 

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