プロメテウスの火負い   作:かゆ、うま2世

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決して、別れなどないように

「………その、一応、というか」

 

 

夢のような時に別れを告げて、僕はまた千年ほど時を戻して、再び輪廻に足を踏み入れた──筈なんだけど

 

 

「僕の見間違い……はないか。えっと…そっくりさんの可能性が、まだあると思うから…その」

 

 

僕と同じく驚きが顔に出てる黒髪の剣士と、してやったりと自信満々な笑みを浮かべている小さな皇帝を見つめて

 

 

「何でいるんですか?」

 

 

問い返した声は、我ながら情けないほど間の抜けた音をしていた

 

 

「カイザー!一体何が……」

 

 

すぐにヘレクトラも同じ事を聞いて、カイザーは悠然とした態度で答えた

 

 

「僕はオンパロスの法だぞ?ファイノン……はまだ火種を継いでいなかったな。つまりは半神の命が7、その数だけ僕はオンパロスにルールを書き加えられる」

 

 

語る内に、カイザーは一つ瞬きをした

 

 

「そのうち2つを使い、僕と剣旗卿がお前の輪廻に干渉できるよう道を通した。言っただろう?案外すぐに会えるかもしれない、と」

 

 

つまり、つまりそれは、これからの旅は3人で歩ける、って事で──

 

 

「完全に自由なものでもなかったから、これが限度だった。許せ」

「許せも何も……カイザー…!」

 

 

僕と同じ時を生きてくれるなんて、これ以上嬉しくて喜ばしいことが他にない。感極まって、気づけばカイザーの小さな身体を抱き締めていた

 

 

「おい!………はぁ。まぁ、よかろう」

 

 

呆れと諦めの混じった溜息。しかし引き剥がされるわけでもなく、そのままにしてもらえるところに、彼女なりの甘さを感じる

 

 

「プロメイア!ワタシも…まさかまたキミに会えるとは……!」

「ヘレクトラ…!」

 

 

僕ら2人を同時に、暑苦しいぐらいに抱きしめられて、こうして再び触れ合えるのが何より嬉しくて、本当に、もう何年かはこうしててもいいんじゃないかってくらいで

ひとまず感情の赴くままに、カイザーもヘレクトラも存分に抱擁し尽くし、名残惜しさは残るけれど離れた

 

 

「……そんな顔をするな、望むのなら後でまたいくらでもしてやる。その前に、だ」

 

 

カイザーは手を開いて、僕に見せた。……手のひら、というよりは指5本のことだろうか

 

 

「ルールの追加は残り5回だ。何を書き加える?」

「キュレネのデータの削除不可と……あと2つほど、僕に何かあった時の保険を掛けておきたいです。残りの2つで…ライコスの権限に制限をかけましょう」

「わかった」

 

 

あっさりと言い放つと、カイザーはすぐに行動に移した。……頼んでおいてあれだけど、判断が早すぎないだろうか。話が早いのは良い事だけど

 

 

「終わりだ、剣旗卿、プロメイア、行くぞ───僕に会いに、な」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「……………僕、だな」

「だからそう言っているだろう」

 

 

カイザーが2人いる。ほんと、いやすごい不思議な光景だ。今までと同じようにカイザーの軍門に降りに行って、それだけの話なのに2人とんでもない人を連れてるせいですごく混乱してる

 

 

「つまり……再創世は偽りで、その男に全ての火種を明け渡さなければオンパロスは滅びると?」

「そうだ」

「根拠は?」

「僕の記憶でも、存在そのものでも良い。証明する手段はいくらでもある。それと、その男ではなくプロメイアだ。我が忠実なる臣下の名を覚えておくことだな、僕」

 

 

同じ顔、同じ見た目、同じ雰囲気……まだ夢でも見てる気分だ

 

 

「………まぁ、いい。ひとまず…何か見分けのつくものはないのか」

 

 

初対面の方のカイザーが腕を組み、深く息を吐いた。確かにその通りで、今のままじゃ本当に見分けがつかない。これからの為にも、何かしらの目印は欲しいわけで

 

 

「ふむ」

 

 

僕の知るカイザーは小さく息を吐いて、頭に乗せていた王冠を取った

 

 

「いるか?」

「貰えませんよ!」

 

 

そのまま僕に渡そうとしてくるけど、当然貰えるはずもないので遠慮させてもらう。王冠っていうのは単なる飾りとか地位の象徴ではなく、カイザーの人生そのものと言ってもいいものなのだ。そんなものを簡単に貰えるわけもない

 

 

「そうか。欲しくなったら言え」

「言いませんよ!」

 

「…僕は何の罰で色ボケた自分を見せつけられているんだ……?」

「ワタシも何か目印をつけるべきだな…」

 

 

よく知る、見慣れたものだった僕らの初対面は、まるっきり知らないものへと姿を変えてしまっていて。それでもやっぱり、悪い気持ちなんかちっとも無くて

 

 

「それと……王冠取るのはやめてもらえませんか…なんか嫌で………」

「そうか?……なら、これにしておこう」

 

 

結局、カイザーは腰につけた花飾り、ヘレクトラは左耳につけたピアスを取ることで見分けをつけ、新たな火追いの旅が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして時は流れて、いつもと同じように仲間が集い、火種を集めた

ただ一つ決定的に違うのは、今なおカイザーが存命だということだ。何せすでに法と海洋の半神は存在するのだから、その為に試練を強行する必要はない。そうなればカイザーが殺されるようなこともない

 

 

「ラブカ!キミは天才だ!もぐもぐ…」

「やはりワタシであれば気にいると思っていた、もぐもぐ…」

「やらかした…………」

 

 

ピアスを外したヘレクトラ、つけたままのセイレンス。……同じ大食いセイレーンが、2人

1人でもあれなのに、2人

 

 

「兄さーん!おかわり!」

「セファリア、今のプロメイアに頼んでは……」

「がんばります…」

 

 

2人がいて、精神的にも多少安定しているからだろうか。以前のような状態ではなくなった。……まだ、上手く顔を見ることはできないが

 

 

「まったく……断っても良かっただろう」

「はは、手伝ってくれてありがとうございます」

 

 

それでもどうにかなっているのは、ひとえに調理担当に加わった僕のよく知るカイザー………ケリュドラのおかげと言えるだろうか

 

 

「……ふん」

 

 

忙しそうだし、口では文句も言うけれど、なんだかんだ言って手際良く動いてくれているあたり、本人も楽しそうだと……僕はそう思う

旅に出たばかりの頃を思い出す。大変なことも多かったけど、皆との仲は良好で、毎日笑って、それなりに上手くいってた

 

 

「お前は食べないのか」

「ケリュドラこそ」

 

 

もう1人のカイザーと分ける為にとうとう始めたケリュドラ呼びも、気づけばすっかり馴染んでしまった。当の本人はそう呼ばれる度にどこか嬉しそうにはにかんでいるけれど、多分気づいてないんだろう

 

 

「……終わった後でまた作りますよ。一緒に食べましょう」

「いいだろう」

 

 

海色の瞳を揺らし、それでも頷く姿は本当に、可愛らしい人だと思う。とてもそう言えるような相手ではないけれど

 

 

「なんか料理人してる気分です……」

「できるのだから仕方がないだろう、さっさと焼け」

「はーい……」

 

 

料理人。もうほんとその通りというか、暇さえあればセイレーン2人組が僕に料理をねだりに来る。レストランやってた頃よりも忙しいのはどういうことなんだろう

 

 

「……あー」

「どうした?」

「全部終わったら、もう一回レストランやるのもいいかなって」

「お前と店を営むのも悪くないだろうな」

「ナチュラルに一緒にやる想定なんですね?」

「嫌か?」

「大歓迎ですよ」

 

 

そんないつかの話をしながら、並んで2つの皿を持って歩いた

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

「ええっ、と」

 

 

また時は過ぎて、千年ぶりに僕らは巡り会った

 

 

「その、賑やかになったわね?」

「わかるよキュレネ、僕も思ったもん」

「久しいな、ウミウシ」

「賑やか、か……1人にさせるよりはずっと良い」

 

 

今度はエリュシオンに住まうことはなかったけど、また3人揃ってキュレネの元へ来て。いつの間にやら、騒がしく賑やかになっていたことを、キュレネは苦笑いで受け止めてくれた

 

 

「……でも、そうね。あたしも、あなたが1人じゃないなら安心できるわ」

 

 

やがて、それは憂いのない微笑みへと変わる。こうして3人で歩み始める前にその顔を見たのは、酷く──酷く、昔のことで、懐かしかった

 

 

「だって、前よりもずっと優しい顔をしてるもの」

「そう、かな」

「えぇ!あたしが保証するわ!」

 

 

千年ぶりの、楽しい話

ずっと、ずっと過ごしていたい夢のような時間の終わりも、着々と迫っている

 

 

「もう心配はいらないわね。だって…あなたたち3人と、あたしの応援があればできない事なんてないでしょう?」

「あぁ、プロメイアのことは任せろ、ウミウシ」

「無論だ」

 

 

キュレネを励ますように、2人の半神は力強く言い切った。あまりの堂々とした様子に、自然とキュレネの表情もほころんでいく

 

 

「キュレネ、ちゃんと言えてなかったけど……僕、最後まで戦うから」

 

 

キュレネの手を、強く握って

少しでも僕の思いが届くように、祈りを込めた

 

 

「だから、見てて」

 

 

ヘレクトラ、ケリュドラ。2人が、僕の運命を元に戻してくれた

だから───僕の命より、何よりずっと大事な2人を、何に替えても守りたいと思った

 

そのための、力を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貪慾に、求めた

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

北境の帝国、失われた王朝

2人の半神が、向かい合った

 

 

「──奴の身を、名も知らぬ神ごときに渡しはしない」

 

 

かつて断たれ、再び繋がれた海洋の半神の左腕───貪られたそれは、ただそこに垂れ下がっているだけで二度と機能を取り戻す事はない

2人の間にあるのは会話ではなく、言うなれば確認だった

 

 

「僕とお前なら、それができる」

 

 

歩くことすらできず、ただ床に伏せている、ここには居ないもう1人のため

 

 

「剣旗卿───ヘレクトラ、その命を、捧げられるか?」

 

 

皇帝は問い

臣下は応えた

 

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