プロメテウスの火負い   作:かゆ、うま2世

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サクサク行きます




違う道筋、同じ結末

暗黒の潮の侵攻を受け、焼け野原になっていくエリュシオン──そこからキュレネだけを攫い、侵攻が落ち着いたタイミングで戻ってくる

慣れたものだ、これで3054回目。それだけの回数キュレネと話し、それだけの回数キュレネの死を見送った

 

 

「あなたは……この旅が終わったら、何かしたい事はある?」

「モーディス君にもそんなこと言われたよ」

 

 

僕が、旅の果てに望むもの。最初はそんなもの思いつかなかったけど……これだけの長く歩き続けていれば、多少なりとも考える事は増えてくる

 

 

「そうだな………帰りたい、かな。アグライアがいて、セファリア姉さんがいて…僕もいて、そこに…帰りたい」

「……きっと帰れるわ。今は夢みたいな未来かもしれないけど……必ず辿り着ける日が来る。そうでなきゃ…悲しすぎるもの」

「あとは…エリュシオンに行きたい。こうやって座って、気が済むまでキュレネと話がしたい」

「あら?ふふっ、嬉しいこと言ってくれるのね?」

 

 

焼け野原じゃない、豊かな麦畑の中で。暖かい風が吹いていて、小鳥が歌っているのが聞こえる、そんな景色の中で、キュレネと話していたい。そう思うようになった

 

 

「それとね……本当は、あなただけじゃないの。あたしも……この旅が終わったら、あなたと一緒にお話ししたいと思ってたから」

「いつか、そんな日が来ると良いな」

 

 

暗黒の潮も、鉄墓も、戦いもない、ただ平和なだけの日々を過ごせるような時が訪れたとして──その時はきっと、皆がそれぞれの目的のために動き出す。僕も例外じゃない、それが楽しみだったりする

けれども、その傍らで。この村で、あの木の下で、何も無い一日を過ごせたら、それはとても幸せな事だと思う

 

 

「ふふ……まるで愛の告白みたい」

「えっ……あ…そ、そういう意味じゃ、ちょっと、やめてよ、茶化すのは」

「あたし、嬉しかったのよ?あなたが未来の事を考えてくれてて……そういう事を考えてる時のあなたは、いつもより優しい顔をしてるもの」

「……そんなに優しい顔、してる?」

「えぇ、とっても」

 

 

そんな自覚は全然無かったけど──少なくともキュレネにとっては、僕はそう見えるらしい。悪意がないのはわかっているけれど、こういう反応をする度に、キュレネはくすくすと笑う

……からかわれるのは好きじゃないのに、どうしてもこのやり取りが楽しくて、僕は未だに彼女と話す時には緊張してしまう

 

 

「……あなたの旅は過酷だけど…疲れたら、あたしと話した事を思い出して頂戴ね。そしてまた頑張ってくれると嬉しいわ……あたしだけじゃなくて、皆……あなたの事が大好きなんだから」

「みんな……はは、恥ずかしいよ」

「もう、照れ屋さんね!」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

『……プロメイア…この瞬間、まで…お前が隣にいてくれて……良かった』

 

 

カイザーの死を、見送った

 

 

『ワタシは……いい刃に、なれたか…?ワタシの…ラブカ……』

 

 

ヘレクトラの死を、見送った

 

 

『プロメイア…必ず……成し遂げてくださいね…』

 

 

アグライアの死を、見送った

 

 

『メイちゃん…また……明日…』

 

 

トリビー先生たちの死を、見送った

 

 

『あはは……ごめん…兄さん……あたし…』

 

 

セファリア姉さんの死を、見送った

 

 

『……行きなさい、プロメイア。私の事など、気にする必要はありません』

 

 

アナイクス先生の死を、見送った

 

 

『プロメイア様……あなたなら…きっと……』

 

 

ヒアンシーさんの死を、見送った

 

 

『……あぁ…なんて……暖かい…』

 

 

キャストリスさんの死を、見送った

 

 

『行け……希望を…灯し、続けろ……プロメイア…』

 

 

モーディス君の死を、見送った

 

 

『行ってくれ……僕たちが愛した…世界の為に』

 

 

ファイノン君の死を、見送った

 

 

 

……上手く、できない

カイザー以外の皆が生きて、輪廻の瞬間を迎える事ができたのは最初だけ──それ以降の輪廻では、必ず誰かが欠けてしまう

どれだけ上手くやっても、一人──酷い時は全員。……この戦いの全てを、ヤツらは嘲笑っているのだろうか

 

 

「……皆、すごい人なんだ。個人的な幸福とか、あれこれ全部かなぐり捨てて…世界の為に旅に出た。僕はずっと二の足踏んで…そんで、後がなくなって、ようやく踏み出したのに」

「そうね。……皆、勇敢だった」

「つまり……その…思うのは……そんな人たちの戦いの果てってのは…望む物を得るだとか、笑っちゃうぐらい穏やかな平和であるべきであって……果てのない虚無なんかじゃ、ない筈なんだ」

 

 

燃え盛る神火は──いつまで経っても、僕の人間性を焼き尽くすには至らなかった。それが幸福な事なのか、不幸な事なのか……今の僕には判断がつかない。おそらく、生涯答えが出ることはないだろう

 

 

「あのライコスとかいうのも……いつまで経っても出てこない。……クソ、何がしたいんだあの機械野郎…鉄墓なんて化け物作って…皆の運命弄んで……クソ、クソ、あいつさえ…あいつさえぶっ殺せば…」

「プロメイア…?」

「ぁ……ごめん。こんな事……キュレネに言っても仕方ないのに」

「構わないわ。……ただ、あまり思い詰めすぎないでね?」

 

 

心配そうな眼差しで、キュレネは僕を見つめる。僕も一度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。……ダメだ、やっぱり腹が立つ

 

 

「そんなに怖い顔しないで?ね?」

「……はは、笑ってられたら…良かったんだけど」

 

 

これで丁度、150000回目………まだ発狂せずに済んでるのは、間違いなくキュレネのおかげだ。ここまで、幾度もこの子が僕の命綱を掴み直してくれた

 

 

「…ごめんなさい、無神経だったわね」

「大丈夫。キュレネのおかげで…まだ何とか戦えてる。ありがとう」

 

 

こうして話している内に、少しずつ苛立ちは消えていった。……代わりに訪れたのは、奇妙なまでの焦燥感

何か──何か、僕にとって、良くない事が起き始めている、ような

 

 

「……もう、時間だね。ごめん…次はもっと、楽しい話しよっか」

「えぇ……待ってるから」

 

 

そうして、また儀礼剣を手渡した

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり、いた。アグライア、夜中に…」

「っ!?」

「あ、ちょっと……はぁ」

 

 

いつかと同じように、夜中にオートミールをつまみ食いしてるアグライアを見かけた。そのいつかと違う事があるとすれば、僕の顔を見るなりすぐさま逃げ出したという所だろうか

 

 

「…振られてしまったな、ラブカ?」

「……ヘレクトラ」

「悪意がないのはわかっているが……キミは少し、幼子には近寄りがたい顔をしているからな」

 

 

顔、顔……キュレネにも、似たような事を言われた気がする。怖い、顔──僕には、よくわからない

残念ながら、今の僕にはそんな感傷的になっている暇はないのだ。目の前のヘレクトラだって、いつ死ぬかわからない──そうならない世界線ももちろんあるけど

 

力だ。皆を守れるだけの、力───それが欲しい。ただひたすらに、貪欲にそれを求めなければ

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

それから、また数百年後…街中でセファリア姉さんを見かけた。珍しい…毎回、この時期はオクヘイマ──というより、火追いの旅から離れている時期なのに

 

 

「セファリア?」

「?………あぁ、プロメイア。なんか用?」

「特に何って訳でもないけど……怪我してるぞ」

 

 

頬に、小さな擦り傷。オクヘイマの外を出歩いている訳だから…そりゃ怪我することもあるだろうけど

 

 

「あぁ…気にすることもないでしょこんぐらい。あんたの方が重傷じゃん」

「別に、重傷って訳じゃない」

 

 

紛争のタイタンとの戦いで、キャストリスさんを庇って頭に大きな攻撃を受けたばかりだった。対して痛くもなかったが、打撃の衝撃だけは妙に不快で…まだ、頭に包帯が巻き付いている

 

 

「……セファリア、怪我するぐらいなら、戻ってこいよ。アグライアのとこがダメなら…僕のとこでもいいからさ」

「…………はぁ、裁縫女のとこはイヤだけど、あんたのとこに行くなら外の方がマシ。そんだけだよ──あと、気安く名前呼ばないで」

 

 

コインを弾く音──と共に、セファリア姉さんは目の前から姿を消していた。詭術の権能……本当に、便利なものだ

……最近、どことなく距離を感じていたけど──ここ最近は、以前にも増して壁を作られている気がする。セファリア姉さんが、僕のことを名前で呼び始めたのは…いつのこと、だったか

 

 

「……プロメイア様?何故いらっしゃるのですか?」

「キャストリスさん…」

「まだ傷は癒えていないのですから…戻りましょう?」

 

 

どこからともなく現れたキャストリスさんに手を引かれ、引き返すことになった。傷はもう治っていたけど、元々そのつもりだった

でもやっぱり……何か、変だ。それが僕なのか、皆なのか………よく、わからないけど

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

444444回目の輪廻………そうして、ついに…その時はやってきてしまった

 

 

『再創世は偽りである……か。それを証明できるか?』

『えぇ、皆の神託を………神託、を…』

 

 

 

 

 

 

記憶、喪失だ。それもひどく局所的な。頭を殴られたせいか…皆の神託について、その一点のみの記憶が消えた──症状としては軽症でも、失った記憶の影響は絶大だ。この記憶が無ければ、誰も僕が輪廻していることを信じない

 

 

「どう、しよう。どうすれば……」

「プロメイア…」

 

 

これでは火種を譲り受ける事ができない。全ての火種を集めることに失敗する──それだけは避けねばならないが、譲り受ける事ができない以上、その手段は……

 

 

「きっと……大丈夫よ。皆、あなたの事を信じて…」

「信じる訳ないだろ」

 

 

即答、してしまった。口が滑ったという表現では到底誤魔化せない程に、自然と言葉が出てしまっていた

焦燥感と自己嫌悪、怒りが混ざりあって、自分の言動を制御できなくなってしまっている──わかるのは、ただ一つ。これは、正しくないことだ

 

 

「っ……ごめん、今のは、その」

「…大丈夫よ。ちょっとだけびっくりしたけど……あたしの前でぐらい、本音を言っていいのよ?」

 

 

本音……なんて、沢山あったけど…それを、キュレネの前で出すのは嫌だった。例え本人が許容していても、僕は僕自身が許せないから

だけど──この状況を、どうする事もできない。僕にも、キュレネにも…きっと誰にも、どうしようもない

 

 

「……何も、ないよ。僕なら大丈夫…きっと、今回も火種を集めきってみせるから」

「そうは…見えないわ。お願い……あたしにできる事を、何か───」

「大丈夫だって!ほら…身体は元気だし、きっと上手くいく、信じてもらえるって…キュレネが言ったんだろ?……安心してよ、必ず…世界を救ってみせるから」

「っ…プロメイア……」

 

 

 

いつからか、僕はキュレネの眼を見れなくなってしまった。……強がったんだ。僕の中にある恐怖を見つめるのが怖くて、考える事を放棄した

きっと……きっとどこかで、わかってたはずなんだ。違う道筋を辿っても、やがて同じ結末に行き着くなら……カスライナ君の運命を引き継いだ僕の行く末は…

 

 

「英雄になるんだ──いつか、皆に胸を張れるような」

 

 

どうして…自分だけは違うなんて、思ってしまったんだろう

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「………今、なんて」

「ですから…火種を渡す事はできません。世負いの火種を回収次第、再創世を行います」

 

 

淡々と、アグライアは僕にそれを告げる。当たり前のように、当然の事だと言うように。アナイクス先生も、トリビー先生も……いや、皆。それはきっと皆の総意で、誰もがそれに賛同するだろう──誰もが、僕の話を信じない

 

 

「待って──待ってくれ、言ったはずだろう!?再創世を行えば、鉄墓が解き放たれる!そうなればオンパロスだけじゃない、他の世界もめちゃくちゃだ!」

「……それを、証明する手段は?」

「っ………き、金糸!僕は嘘をついてないはずだ!」

「もし金糸が嘘を見抜けない事があるとするなら……それは、言葉を発した本人が、その言葉を真実だと信じ込んでいる時でしょう」

「妄言だって言いたいのか!?」

 

 

腹は決まっているのだろう。一人の男が叫ぶ根拠のない言葉より、千に分かたれた聖女が授かった神託を信じる。……当然のことだ、当然のこと、だけど

 

 

「……あなたの火追いの旅への献身には、敬意を表します。ですが…どうか、わかっていただけますか。終末へ向かうオンパロスを救う手立てがあるとすれば…それは、再創世を置いて他に無いのです」

 

 

冷たい──けれど、強い意志のある声色で……アグライアは、僕に宣告した。そうして、踵を返して──僕から離れていく

 

 

「待って──アグライア!」

 

 

追いすがり、その肩を掴んで、思いつく限りの言葉を──とにかく、口を開いた

 

 

「本当、なんだ!世界を救う為なんだよ!もうこんなことを44万回も続けてるんだ!こんな、こんなところで終われない──僕は世界を救わない……と」

 

 

最後まで、言い切る事はできなかった。肩を掴んだ手を、弾かれたから

 

 

「アグライ、ア……?」

「……私が幼い頃から…あなたを見てきました。ですが…あなたの目に映るのはいつも……果てのない、悍ましいまでの憎しみだけ」

 

 

「私には…そのような目をした人間が、世界を救えるとは、到底思えないのです」

「────」

 

 

何も……言うことはできなかった。あの暖かい瞳に──冷たい氷のような感情を向けられて、何も。ただ呆然と立ち尽くして……それで、終わりだった

 

 

「……何で、そんなこと言うんだよ」

 

 

ようやく、出てきた言葉はそれだった。アグライアも目を伏せ、複雑な表情を浮かべて──また、背を向けて歩き出す

 

 

「僕は──帰りたい、だけなのに」

 

 

アグライアが、去っていく

 

 

 

『構いませんよ。あなたのことは……私が面倒を見ましょう』

 

 

 

 

 

 

………浪漫の半神が、去っていく

 

 

 

『それと、名前が無いのなら…私が名付けても良いでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

………浪漫の火種が、逃げる

 

 

 

『あなたの名前は────』

 

 

 

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